企業が資金を調達する上ではさまざまな方法がある。銀行からの借入れ以外にも、株式発行による資金調達という方法もある。ここでは、企業が選択できる資金調達法の基本的な種類を紹介した上で、株式による資金調達手法である「エクイティファイナンス」の詳細について紹介する。
目次
資金調達には3種類ある!資金調達の方法
企業が資金を調達するには、さまざまな方法がある。ここでは、資金調達の基本的な方法として知られている、「アセットファイナンス」「エクイティファイナンス」「デットファイナンス」の3つについて紹介する。
アセットファイナンスによる資金調達
アセットファイナンスとは、企業が所持している不動産や株式といった「資産(Asset)」の担保価値によって、資金調達をする方法である。会社が保有する流動性の乏しい資産を、貸借対照表から外してオフバランス化(簿外取引)することにより、資金の調達や財務体質の改善、節税などのメリットを得ることを目的とした資金調達方法である。
アセットファイナンスに該当する具体的な例として、売掛債権流動化、不動産ファイナンス、航空機ファイナンスなどがある。
・売掛債権流動化
売掛債権流動化とは、得意先に対する売掛債権等を金融機関が関与する特別目的会社へ譲渡することによって、売掛債権の回収サイトよりも早期に資金を調達する方法である。
売掛債権流動化の仕組みについて説明すると、資金調達をする会社は、売掛債権を特別目的会社へ売却することで資金を調達する。特別目的会社は、投資家に対してコマーシャルペーパー(短期の約束手形)を発行して資金を集め、銀行は特別目的会社の信用補完をする関係にある。
売掛債権等に該当するものは、売上債権、貸付債権、完成工事未収入金、診療報酬債権などである。
特別目的会社とは、不動産を保有する事のみを目的とするなど、特定の事業に特化した運営を行う事を会社であり、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(いわゆるSPC法)の規定に基づいた会社である。
・不動産ファイナンス
不動産ファイナンスとは、会社が保有する不動産(ビル、住宅など)について、その不動産の将来キャッシュフローを元手に資金調達を行う方法である。
不動産ファイナンスでは、資金調達を目的とした会社は、不動産を信託銀行に信託したことによって得られる「信託受益権」を、特別目的会社に売却することによって売却代金を得る事ができる。そして、特別目的会社は、投資家に証券を発行する事で資金を調達するのだ。
不動産ファイナンスの特徴として、以下のような事が挙げられる。
- 不動産に流動性を持たせて資金を調達できる。
- 不動産を貸借対照表からオフバランスすることで、財務指標を改善できる。
- 特別目的会社等の仕組みが煩雑である。
- 価値のある不動産でないと流動化できない。
・航空機ファイナンス
航空機ファイナンスは、航空会社が航空機を調達するための資金調達方法である。
航空機ファイナンスでは、特別目的会社が銀行借入等によって調達した資金で航空機を購入し、航空機を航空会社へリースする。航空会社は、高額な航空機を直接購入する事なくリース代のみで運用できるため、多額なキャッシュアウトを避けることができるのだ。
エクイティファイナンスによる資金調達
エクイティファイナンスとは、新株の発行により市場から資金を調達する方法である。
3つ目の基本的な資金調達方法である「デットファイナンス」と対比されやすいが、調達した資金に対する返済期限の定めがなく、会社のキャッシュフローを潤沢にできるといった効果がある。
エクイティ・ファイナンスは、スタートアップ企業が多額の資金調達をする際に用いる手法であり、株式の発行の方法としては「公募増資」「第三者割当増資」「新株予約権付社債」がある。それぞれについて説明する。
・公募増資
公募増資とは、企業などに限らず、一般層も含めた幅広い不特定の投資家に対して、新株の取得を促す増資方法である。
公募増資は、設備や研究開発費といった多額な投資が必要となる資金を、幅広い一般の投資家から集めることを主目的としている。また、企業以外の一般層まで株式を発行することで、発行範囲を拡げることで、株式の流通量を増加させるといった狙いもある。
公募増資の事例として、スタートアップ企業である株式会社マネーフォワードは、新株式発行に関するお知らせとして公募増資により46億5千万円を運転資金、M&Aや財務基盤の強化のために資金調達することを、2020年1月22日にIRとして発表している。
大きく事業展開をする際には、範囲を絞り過ぎずに広範囲に新株を発行することによって、巨額の資金調達を比較的短期間で行うことができる。
・第三者割当増資
第三者割当増資は、新株発行に際して、資金調達会社側が株主などの条件を抜きにして指定した第三者に対して、発行した新株を引き受けさえる増資方法である
指定する第三者としては、自社の取引先や取引金融機関、または自社に所属している役員といった比較的縁が近い者を選ぶことが多く、第三者割当増資は縁故募集と言われることもある。
縁故募集とあるように、これから協力していく関係のある会社へ株式を割当てることにより、資金面、技術面と協力関係を早期に構築する方法である。第三者による増資チェックが入りにくいという問題もあるので、実施の際には注意が必要だ。
第三者割当増資の例として、バイオ分野のスタートアップ企業であるオンコリスバイオファーマ株式会社が、中外製薬株式会社へ資本業務提携のために第三者割当による新株式の発行をして、79憶9千万円を臨床試験などの費用に充てるために資金調達をしている。
・新株予約権付社債
新株予約権付社債は転換社債(CB:Convertible Bond)とも呼ばれており、その名の通り、資金調達を行いたい会社などが、決められた行使期間中において株式に転換することができる社債のことです。
社債なので、償還日まで保有すれば、利息(普通社債より低い)を受け取りながら最終的に額面金額が払い戻されるのはもちろん、株式に転換して売却益を得ることもできる。
デットファイナンスによる資金調達
スタートアップ時に最初に検討することが多いであろう、金融機関などを利用した資金調達であるデットファイナンスについて説明する。
デットファイナンスという名前の「デット」は借金や負債といった意味があり、自社株式発行による資金調達であるエクイティファイナンスとは違って、銀行などから資金の直接借入れはもちろん、社債やコマーシャルペーパー発行などによって資金調達を行う方法である。
つまり、一般的な金融機関における銀行借入れと同義であるため、当然だが調達資金に対しては期限内の返済義務を負うこととなる。
エクイティ・ファイナンスによる資金調達のメリット・デメリット
企業が資金調達する方法である、「アセットファイナンス」「エクイティファイナンス」「デットファイナンス」の3種類について説明してきた。ここでは、調達資金の返済期限の定めがない「エクイティファイナンス」について、メリットやデメリットについて詳しく紹介する。
公募増資のメリットとデメリット
公募増資のメリットは、資金調達を行いたい企業は、広く公募することによって多額の投資に必要な資金を早期に調達できることであり、投資を行う側は市場価格より安く株式を購入できるという点である。
公募増資による最大のデメリットは株価の下落による、キャピタルゲインの減少である。また、公募増資に伴って新たに株式を発行することになるため、株式の希薄化を伴ってしまうことである。
第三者割当増資のメリットとデメリット
第三者割当増資のメリットは、調達資金を使用した内容によっては企業価値自体を評価してもられるのはもちろん、割当先の企業などとの相乗効果も期待してもらうこともできる。
ただし、増資による株式の希薄化に伴って投資家の期待を失うこととなり、株価の下落に繋がる可能性がある点はデメリットである。
株主割当増資のメリットとデメリット
株主割当増資の場合は、株主の構成と株主の持ち株比率に変更がない点はメリットであるが、持ち株比率の変動がないにも関わらず、株主が出資する必要がある点はデメリットである。
また、株主割当増資を行うにあたって、株主総会決議や登記変更手続きなどを行わなければならない。
増資に伴う税務の注意点
株式の第三者割当増資の有利発行をする場合には、その割当先によって発生する税務関係が変わってくるので注意が必要である。課税関係として、発行法人は資本等取引に該当することから、課税関係は生じない。株式の割当先である法人や個人においては、それぞれに課税関係が異なる。
具体例として、以下のような条件で計算してみよう。
発行済株式数10,000株の1株あたりの時価3,000円
有利発行10,000株を1株あたり1,400円
有利発行後の1株当たりの株価
(10,000株×3,000円+10,000株×1,400円)÷(10,000株+10,000株)=2,200円
したがって、新株主は2,200円になる株式を1,400円で取得することができるため、税務の考え方として、既存株主の株式価値が新株主へ移転したと考えて課税関係が生じる。
新株主が法人ならば、受贈益に対して「法人税」が課税される。
新株主が株式発行会社の事業者と同族関係に個人ならば、新株主の所得とみなされるため「所得税」が課税される。同族関係のある親族である個人ならば、既存株主から新株主への贈与とみなされるため「贈与税」が課税される。
株式で資金調達する方法を学べば手段が増える
会社が資金調達を行う上での選択肢の一つである「エクイティファイナンス」では、資金調達のために株式を発行することになる。株式発行による資金調達では、公募増資や第三者割当増資などの仕組みを理解した上で、株式発行において注意すべき課税関係も考慮いただきたい。
文・関伸也(税理士)