
2024年10月、第3回となる牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下、まきチャレ2024)が開催されました。2022年に始まった本事業は、静岡県牧之原市の「産業資源」と「観光資源」を活用し、自らの事業を地域と共に発展させる画期的なアイデアを全世界のスタートアップ企業から募集し、評価するビジネスコンテストです。
今年の静岡銀行賞を受賞した合同会社MIHは、空き家リノベーション/賃貸モデルを通して静岡県吉田町を拠点に地域創生事業を行っています。
今回のインタビューでは、合同会社MIHの代表名波氏に、同社の設立背景や事業にかける想いや地域資源の有効活用と地域経済の活性化における同社の理念、まきチャレでの提案内容についてお話を伺いました。
※本記事は、株式会社CFスタートアップパートナーズが運営する「CVC投資戦略研究所」のマンスリーレポート4月号に掲載された内容を、当メディアにて転載しております。また、当メディア向けに一部編集を行っております。
起業の背景とNeuropilotの概要
― 本日はお時間をいただきありがとうございます。お会いできてうれしいです。
名波氏:よろしくお願いします。
― まず、名波様のご経歴についてお聞かせください。
名波氏:私は牧之原市の隣町にある静岡県吉田町出身です。家族(曽祖父母)が牧之原市で農家を営んでおり、私自身学校も牧之原市に通っていたので、元々馴染みのある地域でした。一度関東で就職しましたが、転職を機に静岡に戻り、現在は静岡を拠点に働いています。
― 合同会社MIHの設立背景について教えてください。
名波氏:もともと馴染みのあった静岡を拠点に、個人で空き家再生事業を行っていました。規模が大きくなるにつれ、関わる人達に個人で空き家再生をしていると伝えると、良い反応だけでなく、少し怪しげな印象を持たれている感触がありました。金融機関に資金調達の相談に行った際も、空き家再生で個人への融資は厳しい雰囲気がありました。その中で社会的な信用性や金融機関からの資金調達が必要だと思いました。事業を行う中で、名義や契約面でも法人化した方がよいと判断し、会社を設立したという背景です。
― 事業の概要について教えてください。
名波氏:弊社の事業は、空き家を再生し、その賃貸料を収益とするビジネスです。一般的な不動産投資とは異なり、誰も手をつけていない空き家に着目し、価値の低下した財産を資産へと転換することを目的としています。
― 会社名「MIH」の由来を教えてください。
名波氏:「まきのはら(Makinohara)」「家(Ie)」「ホーム(Home)」の頭文字をとり、MIHと名付けました。牧之原市のお家が帰ってくる場所、お家のことで困っている皆様が安心して帰ることのできる実家のような存在になりたいという想いが込められています。
地方創生への想い
― 地方創生事業(空き家リノベーション&賃貸モデル)において、大切にしている価値観や理念はありますか?
名波氏:弊社の事業は不動産投資に近い部分がありますが、不動産取引はしばしば片方が得をし、もう片方が損をするという構図になりがちです。しかし私は「関わるすべての人に利益が生まれる」ビジネスを目指しています。空き家は放置されると資産価値が下がり、所有者にとっては心理的な負担にもなります。このビジネスでは、売る側は心の負担を手放すことができ、買う側は投資として活用できる。お互いにとってウィンウィンの関係を築けるよう心がけています。
― 実際に顧客として対応している方々にはどのような方が多いですか?
名波氏:空き家を売りたい方の中に多くみられるのは、親族から相続で受け継いだものの、使い道がないから仕方なく放置している、というケースです。特に県外在住の方で、老朽化が進んでいる物件の修復が難しいケースが多く見受けられます。
一方で、そういった空き家を買い取りたいという方の中には、自然豊かな場所で一軒家に住みたい方や、一般の不動産業者から断られてしまうようなペット可の物件を探している方の需要も増えています。
― 貴社の事業が、地域資源の有効活用や地域経済の活性化にどのように貢献しているかを教えてください。
名波氏:空き家リノベーションを通じて、放置されていた財産を活用可能な資産に変え、地域の宿泊施設不足などの課題解決にも寄与しています。また、空き家を活用することで、都市部から離れた地域に新たな人の流れを生み出し、経済活性化につなげることができます。人手不足から外国人人材の積極的雇用が進んでおり、そういった方々の住まいの受け皿にもなっております。
事業の課題と今後の展望
― 事業を進める上での課題についてお聞かせください。
名波氏:一番は売買市場に出てこない空き家を発掘するのが難しい点です。相続で引き継がれたまま放置されているケースが多く、所有者との接点をどう作るかが課題です。現状では司法書士や不動産業者からの紹介や、引っ越し時の片付けを手伝いながら、直接声をかけて空き家の活用を提案することで空き家保持者の方と繋がりを作っています。また、資金調達も大きなハードルです。特に事業を始めたばかりの頃は金融機関の信用を得るのが難しく、最初の融資を受けるために5〜6件の金融機関を回りました。現在は実績が積み上がり、融資を受けやすくなってきましたが、最初の壁は非常に大きかったです。
まきチャレ2024への挑戦
― まきチャレでご提案されたビジネスプランについて教えてください。
名波氏:現状として空き家率が全国の平均を上回ってしまっている牧之原市ですが、そんな牧之原市を「日本一空き家率の低い町」にすることを目指し、空き家を積極的に活用する町づくりを提案しました。空き家を手放したい人と、活用したい業者がつながる架け橋を作ることが目標です。
― まきチャレへの参加で得られたものはありますか?
名波氏:今まで個人で続けてきた事業がこのような賞をいただけたことで、これまでの努力が間違っていなかったのだと自信につながりました。また、「まきチャレ」を通じて得られたご縁も非常に大きなものです。「まきチャレ」をきっかけに知ってくださった銀行や役所の方々から資金調達の面でお声がけいただくようになり、これは会社として大きな前進だと感じています。さらに、「まきチャレ」に参加された他の企業の方々と協賛などを通じてつながりが生まれ、事業面でも協力し合えるようになりました。
― 今後の展望を教えてください。
名波氏:空き家リノベーションの教室や講座を開催し、広く一般市民の皆様に空き家活用の知識を広めていきたいです。まきチャレを通じて集まってくれたアルバイトのチームには、その講師のような役割を担って頂くことも考えています。現在はお客様と不動産業者を通してのやり取りをしていますが、今後は不動産業としての事業展開も資金調達という面で視野に入れており、宅建業の免許取得を目指しています。また、空き家活用が当たり前になって、所有する空き家の活用プランやデザインを市民の皆様が相談しあったり、「空き家活用って楽しい、かっこいい」という価値観を普及することも目標です。
― 最後に、今後まきチャレにエントリーする方へメッセージをお願いします。
名波氏:まきチャレに参加されている企業は大きなことをしなければならないと構えず、まずは挑戦してみてください。新たな視点や人脈を得られる貴重な機会になります。
ー地域創生を目指す合同会社MIHの挑戦とその可能性を感じることができた取材になりました。地域資源を活用し、社会的課題に取り組む姿勢は、地域の持続可能な発展に寄与し、未来を築くための重要な一歩になるでしょう。同社の挑戦が多くの人々にインスピレーションを与え、地域社会全体に良い影響を与えることを願っています!
ー改めて、今回はインタビューの機会をいただきありがとうございました!
〈企業概要〉
【会社名】合同会社MIH
【URL】https://www.instagram.com/goudou.mih/?locale=de
【代表者】名波
【所在地】静岡県吉田町