
アイシンは、5月12日から5月18日までの間、原宿スクエア内東急プラザ原宿「ハラカド」において、「世界に字幕を添える展」を開催する。これは、聴覚障がい者や訪日外国人観光客など、日常生活においてコミュニケーションにハードルを感じる人が“意思疎通の壁”を越えるための社会実験として実施するもの。初日の12日には、オープニングイベントと店舗メディアツアーを実施した。

アイシン 先進開発部 YYSystem開発者 中村正樹氏が、「世界に字幕を添える展」の開催背景や音声認識システム「YYSystem(ワイワイシステム)」について説明した。「WHOによると、世界の聴覚障がい者の数は2050年頃に20億人に達し、4人に1人が聴覚障がいを持つようになるといわれている」と社会課題について一石を投じる。「当社が開発した音声認識システム『YYSystem(ワイワイシステム)』は、発話や環境音を可視化する独自アルゴリズムをコアとして意思疎通支援を行うアプリケーション。個人利用を中心に口コミだけで利用ユーザーが拡大し、様々なシーンで活用が広がっている」と、140万ダウンロードを突破した。「ワイワイシステムは、スマートウォッチやミラー型ディスプレイ、スマートグラスなどの機器との連携が可能で、いろいろな場所で使うことができる」と、活用が広がっている理由について明かす。「ワイワイシステムでは、無償利用できるサービスを用意。そのサービスを利用するユーザーの声をフィードバックしてシステムのさらなる改良を図っていきながら、企業や団体、自治体、学校などからの有償利用につなげていく」と、ワイワイシステムによる共創エコシステムについて説明した。

「『世界に字幕を添える展』では、原宿スクエア内東急プラザ原宿『ハラカド』協力のもと、意思疎通の壁を越える社会実験として、5月12日から5月18日までの期間開催する」と、字幕を添えるをテーマにイベントを開催すると意気込む。「今回のイベントでは、ワイワイシステムの機能や活用法を広く伝えていくということよりも、意思疎通の課題や問題点を拾い集めることで、聴覚障がい者などとのコミュニケーションをより円滑にしていくためのヒントを得たいと考えている」と、イベント開催期間を通じて、日常生活においてコミュニケーションにハードルを感じる人が“意思疎通の壁”を越えるためにどんなことが必要なのかを浮き彫りにしていきたいと訴えた。

東急プラザ原宿「ハラカド」総支配人の小柴るみ氏が、「世界に字幕を添える展」の開催期間に館内で展示される内容について発表した。「『ハラカド』は昨年にオープン。インバウンドを中心に、様々な国籍の人々に来場される施設であるが、外国人の人々とのコミュニケーションに苦戦中。今回のイベントを通じて、来場者と意思疎通を上手く図るには、どうすれば良いのかということを考えるきっかけにしたいと思っている」と、イベントに賛同した主旨について語る。「イベントでは、音声認識システム『ワイワイシステム』を『ハラカド』館内の飲食店や洋服店、美容院などの店舗に導入。耳の不自由な人に向けたリアルタイム文字起こしや、言葉以外の雰囲気や環境音などオノマトペの表現、外国からの訪問者に向けたリアルタイム多言語翻訳等の機能によって、様々な場所やシーンで起きるコミュニケーションを可視化する」と、館内の21店舗がイベントに参加すると教えてくれた。

今回のイベントを通じて、誰もが円滑にコミュニケーションをとることができるインクルージョンな世界の体験を提供するとともに、参加者の声を集めながら「YYSystem」の有用性や課題を見つけ出し、より社会に受け入れられるサービス・仕組みの検討につなげていくべく、ろうインフルエンサーの吉田まり氏をアンバサダーに迎え、様々な意見を募る考え。事前に「世界に字幕を添える展」を体験した感想を問われた吉田氏は、「各店舗でのやりとりに際し、文字起こしなどで、スマートフォンを利用する機会が多い。そのため、バッテリーの残量がどうしても気になってしまう。館内に充電スポットを設置してもらえると、バッテリーを気にせずスマートフォンを活用できるのではないか」と、充電スポットの充実が必要であると提言。「また、洋服店での試着の際、店員とのコミュニケーションに苦労した」とのこと。こうした問題提起に対し、中村氏は「充電スポットを各フロアに設置したり、試着室にはインターフォンアプリを導入するなどして改善を図りたい」と、トライアンドエラーを繰り返しながら、「世界に字幕を添える展」を進化させていきたいと話していた。

そして、俳優の忍足亜希子さんと東京2025デフリンピック デフ卓球日本代表 亀澤理穂選手が登場。中村氏、小柴氏と共にトークショーを展開した。「デフリンピックはろう者のためのオリンピックで、4年に1回開催され、今年東京で開催される」と亀澤選手。「補聴器を着けて試合を行うことができないため、音に頼ることができない」と、聴覚を遮断された状態で競技を行う必要があるとのこと。「デフ卓球では、ボールが卓球台をバウンドする音を捉えることができないため、卓球のような反応が難しい。それでも目で見て身体で反応しながらボールを追う姿をぜひ、東京2025デフリンピックで見てほしい」と、デフリンピックを通じて多くの人にデフ卓球の素晴らしさを知ってもらいたいとアピールした。

忍足さんは、「子どものころから映画を見ることが大好きだったが、耳が聞こえないので、字幕がある洋画を見ることがほとんどだった」と、耳が聞こえないため、邦画は内容を把握することが困難だったという。「最近は、朝早い時間で、字幕付き邦画を上映してくれている映画館もある」と、聴覚障がい者にも楽しめる映画上映も増えつつあるとのこと。「俳優として活躍する際には、監督やスタッフたちと意思疎通がしっかり図れているのか不安になることがある」と、細かい演技の指示がある場面などでは、戸惑いもあるのだという。「ただし、現場では他の出演者やスタッフたちとコミュニケーションをとるべく、手話で積極的に挨拶するようにしている。手話を使うと興味を持ってもらったり、手話を覚えようとしてくれるので、コミュニケーションが広がっていく」と、自ら意思疎通を図るようにしていると教えてくれた。

「世界に字幕を添える展」について、忍足さんは「まず、大きなポスターに目が行ってしまった。聞こえる人も聞こえない人も大きな文字を見て、字幕を付けてくれるイベントだということが伝わると感じた」と、字幕を付けることの意義が伝わるポスターであると関心している様子。亀澤選手は「原宿は、老若男女幅広い人が訪れる街であるだけに、ろう者に対する理解や、字幕ツールの存在などを知ってもらうのに適していると感じている。このイベントをきっかけに、デフリンピックにも興味を持ってもらえるとうれしい」と述べていた。小柴氏も「『ハラカド』で行うことに意味があると感じている。様々な背景のある人に楽しんでもらいたいと思うと同時に、ろう者への理解が深まるイベントになればと思っている」とコメントしていた。中村氏は「イベントを通じて、要望や改善点などを聞かせてほしい。ワイワイシステムはただのツールではなく、このシステムをハブにしていろいろなきっかけにつながるような存在にしていきたい」と、ワイワイシステムを通じで、聴覚障がい者や訪日外国人観光客が日常的に抱える意思疎通の課題の理解につながってほしいと訴えた。
「世界に字幕を添える展」は、聴覚障がい者や訪日外国人観光客が日常的に抱えている意思疎通の課題に気づき、解消するきっかけを創出するためのイベントであり、実証実験とのこと。期間中は、主に聴覚に関する意思疎通をトータルに支援するアプリシリーズ「ワイワイシステム」をハラカド内の店舗に導入。指差しボードや筆談セットなども備える。聴覚障がい者には気軽に施設内を楽しんでもらうこと、訪日外国人観光客にも言語の垣根を越えて買い物や食事を楽しんでもらうこと、ハラカドを訪れる人には意思疎通を阻む課題の存在を知ってもらい、それを解消するために同イベントに協力してもらう人々と具体的な行動につなげていくことを目的にしている。

音声認識システム「ワイワイシステム」は、リアルタイムに音声を認識し、人工知能(AI)を活用して文字化し、透明ディスプレイに表示するシステム。駅構内のような騒音環境の中での高い音声認識性能をもち、聴覚障がいのある人が安心して便利に意思疎通することに貢献する。また、31言語のリアルタイム翻訳機能によって、外国人とのコミュニケーション支援にも役立つ。

美容院・カフェ・居酒屋・雑貨店・アパレル・イベントスペースなど、ハラカド内の様々な場所がワイワイシステム等のサービスによって、いつもよりコミュニケーションしやすい場所になる。参加テナントの目印は吹き出しマークとのこと。

騒音も多く、様々な国の人たちが集う5Fの飲食エリア。「居酒屋スタンドジャンプ」の一部に「字幕相席シート」を設置し、違う言語の人同士や、聴覚障がいのある人でも会話を楽しみながら食事を楽しむことができるエリアを設ける。騒音の中で注文することの難しさや、言語が通じないことによる難しさを体験できる他、「ワイワイシステム」でコミュニケーションが字幕化された世界を体験できる。

展示全体のインフォメーションカウンターと併設する、3Fの「BABY the coffee brew Club」のカフェに「ワイワイシステム」を設置。展示の体験者や、日頃訪れるインバウンドの消費者を中心に、注文時のコミュニケーションをサポートする。聞こえない状態での注文の難しさや言語の壁による意思疎通の難しさを体験できる他、「ワイワイシステム」導入によるコミュニケーションの取りやすさを体験できる。

3Fの「ALL GOOD FLOWERS」では、ワイワイシステムで花選びの会話を可視化。耳が聞こえない人や言語に不安のある人でも、用途や気持ちを字幕で伝え合える接客体験を提供する。消費者が花を購入する様子を通じ、字幕による温かな対話を体験できる。

B1Fの美容院「PEEK-A-BOO」内の座席に「ワイワイシステム」を導入。スタッフの声や周囲の会話がタブレット・スマートフォンに表示され、安心して会話を楽しむことができる。髪型のオーダーや日常の雑談が字幕化される様子を体験できる。
[開催概要]
イベント公式サイト=https://yysystem.com/jimaku2025
日時:5月12日(月)~5月18日(日)11:00~21:00(コンテンツによって一部異なる)
会場:東京都渋谷区神宮前6-31-21 原宿スクエア内 東急プラザ原宿「ハラカド」
イベント内容:常設パネル、来場者参加型コンテンツ、トークショーなど
参加方法:参加費無料(一部事前申し込みあり)
主催:アイシン
協力:東急プラザ原宿「ハラカド」、東京都聴覚障害者連盟
アイシン=https://www.aisin.com/jp
東急プラザ原宿「ハラカド」=https://tokyu-plaza.com/harakado