矢野経済研究所
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ZEHの国内市場規模は2035年度に約17兆円を予測

~住宅市場は人口減少の影響で縮小も、再エネの導入拡大に向けてZEHへのシフトが進む~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内のZEH(Net Zero Energy House)市場に関する調査を実施し、ZEHの普及状況や住宅供給サイドの動向、将来展望を明らかにした。

国内ZEH市場の推移・予測

国内ZEH市場の推移・予測
(画像=矢野経済研究所)

1.市場概況

2023年度のZEHの市場規模(建築物の工事費ベース)は、6兆5,712億円(前年度比61.4%増)で、このうちZEHとして建設された戸建住宅(戸建ZEH)は約4割、同集合住宅(集合ZEH)は約6割を占める※1。

過去3年間(2021~2023年度)の平均成長率(CAGR)は、戸建ZEHが19.1%増、集合ZEHが163.5%増と、大きな開きがある。集合ZEHが急成長している背景には、大手を中心にマンションデベロッパーがZEHの標準化を推進していることにある。

日本のエネルギー政策の方向性をまとめた「エネルギー基本計画」では、2030年度までに家庭部門に求められる取り組みとして「省エネ基準のZEH水準への引き上げ」が掲げられている。これに対応すべく、各デベロッパーは2020年代前半~半ば以降に設計・着工・販売する住宅を原則ZEH Oriented※2以上としている。このことが、集合ZEH市場の大幅な拡大につながっている。

※1. 集合住宅におけるZEHのカウント方法は、「①住棟単位(ZEH-M)」、「②住戸単位(ZEH)」の2通りがある。ここでは集合住宅におけるZEHを住戸単位(ZEH)でカウントし、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)公開データ、国土交通省「建築着工統計」を基に、金額ベースの市場規模を矢野経済研究所が独自に算出している。なお、「戸建住宅におけるZEH」と「集合住宅の住戸におけるZEH」を区別するため、前者を「戸建ZEH」、後者を「集合ZEH」としている。
※2. 集合住宅におけるZEH Oriented:一次エネルギー消費量削減率20%以上を達成した住宅。再生可能エネルギー(再エネ)の導入は不問。

2.注目トピック

補助金支援の拡充がZEH化を後押し、執行期間の短さや地域差の考慮が課題

ZEHの普及拡大に向けて、国はZEH補助金や子育てエコホーム支援事業(2025年度からは子育てグリーン住宅支援事業)、給湯省エネ事業などの支援策を拡充させている。ハウスメーカーやマンションデベロッパーもこれら制度を積極的に活用し、ZEHの普及実績を伸ばしている。

ただ、これら補助金は単年度執行のものが多く、活用しきれないことがあるとの指摘がある。執行期間に工事を終わらせるとなると、着工が年度前半に集中してしまい、繁閑の調整がつきにくくなるなどの制約が生じる。

また、一般的に寒冷地など気候条件が厳しい地域は、中間地よりも断熱仕様を強化する必要があるなどZEH化の技術的ハードルが高く、建築コストにも差異が生じる。一方、ZEH補助金の補助額は全国一律であり、寒冷地などは相対的にコスト負担が重くなる点が課題である。

3.将来展望

ZEHの市場規模(建築物の工事費ベース)は、2023年度から2030年度までの年平均成長率(CAGR)が11.4%増で推移し、2030年度に14兆円を予測する。省エネ基準のZEH水準化に向けて、ハウスメーカーやマンションデベロッパーでは商品開発・販売の両面においてZEHの標準化が進むことで、戸建ZEH・集合ZEHの両市場とも拡大を見込む。

2035年度の市場規模は17兆2,700億円、2030年度から2035年度のCAGRは4.3%増と予測する。人口減少や住宅余りなどの影響で、新設住宅着工戸数は戸建・集合のいずれにおいても長期的には減少が避けられない情勢である。他方、第7次エネルギー基本計画では「2050年には設置が合理的なすべての建築物に太陽光発電システム(PV)が導入されていることを目指す」との目標が示されている。これにともない、戸建住宅では再エネ導入が必須とはされていないZEH水準※3から、『ZEH』、Nearly ZEHへの移行が進む。

また、集合住宅においてもPVの導入拡大は不可避であり、ZEH Orientedから『ZEH』、Nearly ZEH、ZEH Readyへの移行を進める必要がある。これにはより高断熱な建材や省エネ性能の高い設備を採用する必要があることから、建築コストは今以上に増大する見込みである。以上を踏まえ、ZEHの市場規模は2030年度以降も拡大すると予測する。

※3. 戸建住宅におけるZEH水準:一次エネルギー消費量削減率はZEH基準(20%以上)を満たすものの、再エネ未導入あるいは再エネを含めた一次エネルギー消費量削減率が75%に満たない住宅。

調査要綱

1.調査期間: 2025年1月~3月
2.調査対象: ZEH(戸建住宅・集合住宅)の設計・施工に関わるハウスメーカー、不動産事業者、ゼネコン
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)および文献調査併用
<ZEH(Net Zero Energy House)とは>
経済産業省資源エネルギー庁によると、ZEH(Net Zero Energy House)とは、高断熱化と設備機器の高効率化により省エネルギー化を行うとともに、太陽光発電システム(PV)などの導入によりエネルギーを自ら創り出す(創エネ)ことで、年間で消費されるエネルギー量を正味ゼロとすることを目指した戸建住宅(注文・分譲)、集合住宅のことを指す。

ZEHは、主に「①外皮平均熱貫流率(UA値)が一定以上であること」、「②一次エネルギー消費量が一定以上削減されていること」を評価指標として判定される。①は建物の断熱性能を示すもので、クリアすべきUA値は地域(省エネ基準地域区分1~8)によって異なる。②にある一次エネルギー消費量とは、建物内で使われる設備機器の消費エネルギーを熱量に換算した値で、設備機器の省エネ性能を示すものである。ZEHは①②の数値によって、『ZEH』(再生可能エネルギー導入は必須要件)、Nearly ZEH(同左)、ZEH Ready(集合住宅のみ、同左)、ZEH Oriented(再生可能エネルギー導入は不問)に区分されている。本調査におけるZEH市場規模(建築物の工事費ベース)は、これら4つのいずれかに該当する住宅すべてを対象として算出した。なお、市場規模は一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)公開データ、国土交通省「建築着工統計」を基に、矢野経済研究所が独自に推計している。
<市場に含まれる商品・サービス>
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)

出典資料について

資料名2025年版 住宅の省エネ・脱炭素化の動向と展望
発刊日2025年03月28日
体裁A4 147ページ
価格(税込) 198,000円 (本体価格 180,000円)

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