改正建築物省エネ法はどこが変化した?基本情報やそれぞれの年の変化を解説

目次

  1. 改正建築物省エネ法の基本情報
  2. 2023年4月施行の建築物省エネ法改正内容
  3. 2024年4月施行の建築物省エネ法改正内容
  4. 2025年4月施行予定の建築物省エネ法改正内容
  5. 建築物省エネ法の今後の見通し
  6. まとめ

建築物省エネ法(正式名称:建築物エネルギー消費性能向上法)は段階的な改正が進められており、正確に理解できていないケースも多くみられます。この記事では、建築物省エネ法の改正について、基本情報から改正された経緯、改正内容、今後の見通しなどを解説します。知識を身につけ、自社での活動に参考にしてください。

改正建築物省エネ法の基本情報

はじめに、改正建築物省エネ法の内容やできた経緯、改正された背景について解説します。

建築物省エネ法の内容

建築物省エネ法(正式名称:建築物エネルギー消費性能向上法)とは、それぞれの建築物のエネルギー消費性能の向上を目的として、エネルギー消費性能基準に対する適合義務や届出義務を課す法律です。建築物のエネルギー消費量が著しく増加しているため、エネルギー消費性能の向上を目指して制定されました。

2022年改正までの建築物省エネ法では、中規模以降の建築物・住宅については新築時に省エネの基準を満たすべく、建築物には適合義務、住宅には届出義務を建築士に課し、小規模の建築物・住宅には、建築主への省エネ基準適合状況の説明義務を課していました。

住宅:建築物省エネ法のページ│国土交通省

建築物省エネ法ができた経緯

建築物省エネ法は、2015年に制定されたものです。もとは石油危機をきっかけとして、1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」から、住宅・建築物の省エネ規制を引き継ぎ強化したものです。

なお、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」は現在では2022年の改正により、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」へと名称が変わっています。

建築物省エネ法が改正された背景

現在、2030年の温室効果ガス排出削減目標の実現や、2050年のカーボンニュートラル実現が求められています。日本のエネルギー消費量のうち、約3割を建築物分野が占めています。

温室効果ガス排出削減目標を実現するためには、中小工務店の省エネ住宅建築に係る体制や能力、消費者側の省エネ性能向上に係る費用や認知度が課題とされてきました。これを受け、建築物省エネ法の規制措置を強化することになり、改正となりました。

住宅:令和4年度改正建築物省エネ法の概要│国土交通省

改正建築物省エネ法の概要

脱炭素社会の実現に向け、2022年6月17日に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が改正されました。この法律は「建築物省エネ法」とも呼ばれ、2023年から2025年にかけ段階的に施行されています。改正されているこの法律を、改正建築物省エネ法と呼びます。

2023年4月施行の建築物省エネ法改正内容

2023年4月1日には、建築物省エネ法のうち「住宅トップランナー制度」における、拡充部分が施行されました。住宅トップランナー制度や、拡充した部分について解説します。

「住宅トップランナー制度」とは

住宅トップランナー制度とは、1年間に一定戸数以上の住宅を供給する「トップランナー事業者」に対し、省エネ基準よりも上の基準を目標として定めものです。

トップランナー事業者が新たに供給する住宅は、平均的に目標基準を満たすように努力義務を課しています。努力義務には、勧告・公表・命令を伴います。命令に違反すると罰金を科すことが可能なため、事実上強制となる制度といえるでしょう。

「住宅トップランナー制度」の拡充

住宅トップランナー制度の拡充により、対象範囲が広がりました。拡充前は建売戸建住宅・注文戸建住宅・賃貸アパートが対象でしたが、分譲マンションも対象に含まれるようになりました。

なお、対象となるトップランナー事業者は、年間の供給戸数が建売戸建住宅で150戸以上、注文住宅で300戸以上、賃貸アパートと分譲マンションで1,000戸以上であることが条件です。

住宅トップランナー制度における建売戸建・注文戸建・賃貸アパート・分譲マンションの報告について│国土交通省

2024年4月施行の建築物省エネ法改正内容

2024年4月1日には、目的規定及び基本方針規定に、「建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進」を図るという内容が追加されました。

また、建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度が創設されるほか、建築物を販売したり賃貸したりする事業者に、省エネ性能表示の努力義務が強化されました。以下で、改正前と改正後の省エネ性能表示義務について解説します。

改正前の省エネ性能表示義務とは

省エネ性能表示制度は、消費者の建築物の省エネ性能への関心を高め、省エネ性能の高い建築物が選択されやすい市場環境を整えることが目的の制度です。改正前は「事業者はエネルギー消費性能を表示するよう努めなければならない」と定められていました。ただし、具体的な基準や勧告・命令・罰金などの規定は存在しませんでした。

改正後の省エネ性能表示義務とは

2024年4月1日の改正後は、建築物の省エネ性能に関して、販売・賃貸事業者が順守すべき事項を国土交通大臣が定め、告示しました。告示の内容は、当該建築物における省エネ性能を表示する努力義務です。

また、2024年4月1日以降に確認申請を実施した新築建築物の販売・賃貸の際には、広告に所定のラベルを表示する必要があります。既存建築物についても、省エネ性能が判明している場合は表示を推奨しています。

建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表⽰制度|国土交通省

2025年4月施行予定の建築物省エネ法改正内容

2025年4月1日には、省エネ基準への適合義務における対象が拡大される予定となっています。以下で、省エネ基準適合義務の内容は改正前と改正後で、どのように違いがあるのか解説します。

改正前の省エネ基準適合義務とは

改正前の省エネ基準適合義務では、中・大規模の非住宅の新築または増改築に対し、適合義務が課されていました。増改築は300m2以上が義務があり、増改築部分を含む建築物全体が適合する必要があります。

また、中・大規模の住宅の新築を実施する建築主に対しては、建築物のエネルギー消費性能確保のための構造・設備計画を、所管行政庁に届け出る義務が課されていました。

増改築時の省エネ基準への適合性評価について│国土交通省

改正後の省エネ基準適合義務とは

2025年4月1日の改正後は、省エネ基準適合義務の対象が、小規模の非住宅・住宅にも拡大され、すべての新築住宅・新築非住宅となります。なお、10m2以下のもの、歴史的建造物、仮設建築物などは、エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないとして対象外です。増改築する場合は、増改築する部分を、省エネ基準に適合させる必要があります。

また、建築士には建築物の向上について建築主に説明する「説明努力義務」が、建築主には建築物の省エネ性能の一層の向上を図る「努力義務」が課せられています。

住宅:【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について│国土交通省

建築物省エネ法の今後の見通し

建築物省エネ法は、2030年の温室効果ガス排出削減目標の実現や、2050年のカーボンニュートラル実現のために改正されており、今後も段階的に強化される見通しです。遅くとも2030年までに、ZEH・ZEB水準まで省エネ基準が引き上げられる予定です。そのため、事業者は規制の変化を確認し、対応しなければなりません。

まとめ

建築物省エネ法とは、建築物のエネルギー消費性能向上を目的とした法律です。建築物分野は日本のエネルギー消費量のうち約3割を占めており、温室効果ガス排出削減目標の実現や、カーボンニュートラル実現のためには規制強化が欠かせないため、改正となりました。

法改正の背景を理解し、今後の規制強化を見据えながら、自社の省エネ対策を進めることが重要です。

改正建築物省エネ法はどこが変化した?基本情報やそれぞれの年の変化を解説
記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 ( リコージャパン株式会社運営
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。