売却
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「会社を売却した場合、従業員はどうなるのか? 雇用は守られるのか?」と考える経営者は多いだろう。特に、事業承継を目的として会社を売却する場合は、従業員の雇用維持は必須だ。会社を売却すれば、基本的に従業員の雇用は守ることができる。ただし、そのためには経営者が注意すべきこともある。この記事では、会社売却で従業員の雇用が守られる理由や、雇用を守るための注意点について詳しく解説していく。

目次

  1. 会社を売却すると従業員の雇用を守ることができる
    1. 1. 会社売却では労働契約がそのまま引き継がれるから
    2. 2. 経営者が会社売却の条件として提示するから
    3. 3. 売却先企業は人材確保を目的として買収を行うことが多いから
  2. 会社売却の際に従業員の雇用を守るための注意点
    1. 1. 従業員の雇用維持を条件として交渉・契約を進める
    2. 2. 売却先企業の経営方針まで確認する
    3. 3. 組織文化を考慮して相性を考える
    4. 4. 従業員が動揺して退職しないための方策を講じる
  3. 会社の売却は従業員の雇用を守るための方法の1つ
  4. 監修者紹介

会社を売却すると従業員の雇用を守ることができる

一般的に会社を売却すると、従業員の雇用を守ることができる。その理由は、以下の3つだ。

  1. 会社売却では労働契約がそのまま引き継がれるから
  2. 経営者が会社売却の条件として提示するから
  3. 売却先企業は人材確保を目的として買収を行うことが多いから

1. 会社売却では労働契約がそのまま引き継がれるから

会社を売却して従業員の雇用が維持される理由の1つ目は、会社売却において多く用いられる「株式譲渡」を行う際に、労働契約がそのまま引き継がれることだ。

株式譲渡は、株式を譲渡することによって、売却先企業が会社の経営権を握ることだ。譲渡されるのは株式だけなので、変わるのは「所有者」だけで、その他は何も変わらない。従業員との間で締結されている労働契約も、そのまま引き継がれる。

現在の日本では、労働契約を締結している労働者を簡単に解雇することができないよう、労働基準法をはじめとする労働法が整備されている。客観的合理性と社会的相当性がない限り、解雇は違法とされる。したがって、会社を売却した後も、売却先企業は従業員を簡単には解雇できないのだ。

ただし、これは会社の売却を株式譲渡によって行った場合にのみ言えることだ。会社の一部の事業を売却する「事業譲渡」においては、譲渡前に締結されていた労働契約は原則として引き継がれない。

事業譲渡においては、事業に属するそれぞれの資産や契約などを引き継ぐかどうかを、売却先企業が個別に決められるからだ。したがって事業譲渡を行う際は、従業員の譲渡後の雇用について細心の注意を払わなければならない。

2. 経営者が会社売却の条件として提示するから

会社を売却すると従業員の雇用を守ることができる理由の2つ目は、会社売却の交渉や契約において、売却先企業に「従業員の雇用維持」を条件として提示できることだ。

会社を売却する際の交渉は、お互いが条件を提示し合って行われる。従業員の雇用維持を売却の条件として売却先企業を探して交渉を行うこともでき、それが契約書に盛り込まれれば、従業員の雇用は守られる。実際に、多くの企業がそのようにして会社売却を行い、従業員の雇用維持に成功している。

参照:中小企業白書2019

会社の売却は、事業承継の手段の1つとして捉えることもできる。従業員の雇用や培ってきた技術・ノウハウを維持することを目的に会社売却を行えば、それらは売却後も維持される。

3. 売却先企業は人材確保を目的として買収を行うことが多いから

会社を売却すると従業員の雇用を守ることができる理由の3つ目は、売却先の企業も、人材確保を目的として会社の買収を行うケースが多いことだ。

企業が会社を買収する目的は、多くの場合、新規事業に進出するにあたって自社で一から始めると時間も労力もかかるため、実績のある会社を買収して手っ取り早く行うことである。それは、売却先企業が会社を買収する際に、買収する会社の人材や保有する技術・ノウハウを評価していることを意味する。

会社を運営して利益を生み出すのは、そこで働く従業員だ。売却先企業もそれをよくわかっているから、従業員の士気を低下させるようなリストラは行われないケースが多い。

会社売却の際に従業員の雇用を守るための注意点

売却
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会社売却の際に従業員の雇用を守るためには、経営者が注意すべき点がある。それは、以下の4点だ。

  1. 従業員の雇用維持を条件として交渉・契約を進める
  2. 売却先企業の経営方針まで確認する
  3. 組織文化を考慮して相性を考える
  4. 従業員が動揺して退職しないための方策を講じる

1. 従業員の雇用維持を条件として交渉・契約を進める

従業員の雇用を守るためにまず注意すべきことは、前述のとおり従業員の雇用を維持することを条件として、会社売却の交渉や契約を進めることだ。

従業員の雇用を守ることを会社売却の条件とすることは、決して無理なことではない。多くの企業が、それを条件として会社売却の相手を探し、交渉・契約を行っている。特に近年では、中小企業経営者の高齢化が進み、事業承継が火急の課題となっている。事業承継を目的として会社を売却するケースも多い。会社売却による事業承継においては、従業員の雇用維持は必須となる。

従業員の雇用を守ることを前提に会社を売却するのであれば、売却先企業を探す段階から、従業員の雇用維持を条件として提示することが重要だ。すべての企業が、従業員の雇用維持を前提として会社を買収するわけではないからだ。

2. 売却先企業の経営方針まで確認する

従業員の雇用を維持するためには、売却先候補の経営方針をしっかり確認することが重要だ。売却先候補が漠然と「雇用は維持したい」と思ってはいても、具体的な経営方針が伴わず事業が立ち行かなくなった場合は、リストラせざるを得なくなるケースもあるからだ。

売却先候補の経営方針は、数字を交えて確認しよう。具体的には、以下のポイントをチェックしたい。

・どの程度の人件費を見込んでいるか
・どの程度の利益を見込んでいるか
・買収資金を何年で回収しようと思っているか

買収にメリットがあると考えている企業なら、これらについて具体的に考えているはずである。

これらの問いに数値を含めた具体的な返答がなく、漠然とした事業計画しか出てこない場合は、売却には慎重になったほうがいいだろう。会社を買収する企業の中には、「雇用は維持する」と口先では言いながら、買収後に事実上のリストラを行うこともあるからだ。

売却先候補の事業計画を確認するにあたっては、自社の情報開示をしっかりと行っておくこともポイントになる。ネガティブな情報も含めて開示しておく必要があるだろう。自社の情報開示がなされなければ、売却先候補は事業計画を立てられないからである。

3. 組織文化を考慮して相性を考える

会社を売却した後に従業員の雇用を維持するためには、売却先候補企業の組織文化を考慮することも大切だ。会社の売却は「結婚」に例えられることもあるほど、「相性」が重要なポイントになる。会社同士の相性が合わないと、売却後に従業員が組織文化や人間関係に煩わされ、退職してしまうこともあるからだ。

売却先候補の組織文化を知るためには、まずは経営者同士の話し合いを十分に行う必要がある。経営者の人格は、組織文化に大きな影響を与えるからだ。経営者の人格は言葉遣いや身だしなみなどに表れやすいので、じっくり観察しよう。経営者がブログなどを書いていたり、雑誌などのインタビューに答えていたりする場合は、それらも読んでおきたい。

次に、ネットの転職サイトなどを検索し、売却先候補企業の求人内容や口コミなども見てみよう。求人内容から、その企業がどのような人材を求めているかがわかる。退職者の口コミなども参考になることが多い。

売却先候補の企業が店舗を運営していれば、その店舗にも足を運んでみよう。店員はイキイキと働いているか、店内の清掃は行き届いているか、雰囲気はどうかなど、見るべきポイントは多い。「この店に自分や自社の従業員が行きたいと思うか」が判断基準になるだろう。

4. 従業員が動揺して退職しないための方策を講じる

会社を売却するとなると、従業員が動揺し、不信感から退職してしまうこともあり得る。したがって、従業員が退職しないための方策を講じることが必要になる。具体的には、従業員への情報開示を慎重に行うことだ。

まずは、売却が決まるまでは従業員の誰にも絶対に言わないことだ。特に中小企業の場合は、社長が代わり、別会社の傘下となることついて、従業員が拒否反応を示すことが多い。経営者は、「売却を誰かに相談したい」と思うこともあるだろう。しかし、従業員には絶対に相談してはならない。

従業員に発表する際は、「一斉に発表すること」も重要なポイントだ。会社売却の噂は、一瞬にして広まっていくものだ。重要な話を従業員が間接的に耳にするような状況は、絶対に避けなければならない。

ただし、幹部クラスの従業員などに対しては、事前に伝えておかないと感情を害することもあるだろう。その場合は厳重に口止めした上で、一般従業員に発表する1日前などに伝えるようにしよう。

会社の売却は従業員の雇用を守るための方法の1つ

会社を売却することにより、従業員の雇用を守ることができる。会社が倒産したり、廃業せざるを得なくなったりすれば、従業員は職を失うことになる。したがって会社の売却は、従業員の雇用を守るための方法の1つと言える。

ただし、経営者は売却先と慎重に交渉・契約し、従業員への情報開示も慎重に進めていくことが重要だ。経営者の最後の仕事として、しっかり行っていただきたい。

文・THE OWNER 編集部

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。
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