1. 相続改正民法が成立「配偶者居住権」を創設
平成30年7月改正民法が成立し、昭和55年以来続く相続法制が大きく見直されることとなりました。
この中で、特に大きな動きとして「配偶者居住権」の創設をあげることができます。
被相続人が亡くなった後も、残された配偶者が引き続き自宅に住み続けるという新たな権利が規定されました。
2. 「配偶者居住権」とは?
この権利は、高齢化が進む中で残された配偶者を保護するために設けられたものです。
従来であれば、残された配偶者が将来にわたり安心して引き続き自宅に住み続けるためには、基本的には所有権を取得する必要がありました。
これについて、配偶者居住権を取得することによって、亡くなるまでの間賃料を支払うことなく住み続けることができるようになります。
また、配偶者居住権は限定された権利です。
したがって、対象となった不動産そのものを相続するよりも評価額が低くなる傾向にあります。
相続税の税負担が軽減されることにより、残された配偶者をさらに保護できる制度であるといえます。
配偶者居住権は、遺言または遺産分割協議にて取得することができます。
予見されるトラブルを避けるために、遺言書保管法も合わせて成立しました。
3. 創設から見える検討しておきたい事項とは?
配偶者居住権については、公布の日から起算して2年以内に施行されることとなっています。
通常の法律であれば原則的に公布後1年以内に施行されることを考えると、いかに影響が大きい改正であるかがわかります。
今回の改正に対してしっかりと事前に検討する必要があります。
3-1. ①不動産の担保権者とのトラブル
生前に設定された不動産の担保権者との間で問題が生じるリスクがあります。
配偶者居住権自体が必ず発生するとは限らない権利だからです。
配偶者居住権は、基本的に相続開始後に遺産分割協議などで決めることができます。
この協議の内容については、当然担保設定時には確定していません。
また、遺言書による遺贈によっても取得できるとされてはいるものの、遺言書はいつでも書き換えることが可能です。
一番新しいものが有効であるため、こちらについても担保設定権者がリスクを負うことになります。
この点については、新しく成立した遺言書保管法による法務局への遺言を預けることにより一部対策をとることができます。
担保設定契約を締結するときに、配偶者居住権を取得させない条項を盛り込むことも考えられますが、その取得を確実に止めることはできません。
3-2. ②不動産の評価の問題
配偶者居住権自体は非常に限定された権利です。
配偶者の死亡により消滅してしまいますし、それ自体を売買することもできません。
ただし、配偶者居住権が設定された不動産については、その利用価値が減少するため評価額も低くなります。
法制審議会においては、賃料相当額をベースとした評価方法や、固定資産税評価額をベースとした評価方法が示されています。
いずれにせよ、いままでになかった権利の設定された不動産の評価方法については、しばらく動向を見守る必要があります。
3-3. ③相続対策の再検討
これまで立てていた相続対策について、配偶者居住権が設定されたことにより見直しが必要になる場合があります。
残された配偶者が引き続き住宅に住み続けるために、住宅の所有権を相続することを予定していた場合に、配偶者居住権と住宅そのものの所有権を分けて考えることができるようになりました。
例えば、配偶者居住権を配偶者が取得し所有権をその子が取得することも可能です。
配偶者居住権を設定した場合、全体の相続財産の構成が大きく変わるために、再度相続対策について考え直す必要がありそうです。
場合によっては、この制度を利用することにより有利に相続を行うことができます。
4. いつまでに検討する必要があるの?
「配偶者居住権」については、交付日から2年以内の政令で定める日 からの施行見込みです。
それまでに検討をしておくとよいでしょう。
(提供:相続サポートセンター)