登記とは、ある物、あることの権利関係や事実状態を社会的に公示するために行政が取り扱う制度のことです。
さらに、相続登記とは亡くなった人名義の不動産を相続人の名義に変更することをいいます。
この相続登記を怠っているとどのようなリスクがあり、また自分でできるのか、する場合どのようにしたらよいのか解説していきます。
1. 相続登記をしないと発生が予想されるリスク
現在、相続登記を怠っていても罰則規定があるわけではありません。
ですから何年たっても相続登記をすることは可能です。
ただし、あまり長期間ほうっておくと現実的な問題が生じてきます。
ここではそういった問題をいくつかご紹介いたします。
1-1. 時間の経過と共に権利関係が複雑化していきます。
相続登記をせずに放っておくと長い時間が流れていく中でどんどん相続が発生し、たくさんの相続人が登場してくることになります。
相続登記をするにはみんなで話し合いをする必要があるのですが、そうなってからでは行方が分からない人や疎遠になって連絡が取れない人もでてきます。
1-2. 不動産の活用に支障が生じます。
相続した不動産を売却したい、あるいは担保にしてお金を借りたいという時、亡くなった人名義のままではこれらの行為はできません。
1-3. 予期せぬ共有者が表れることにもなりかねません。
相続開始時、不動産は相続人みんなの共有の状態にあります。
もし、共同相続人の中に借金がある人がいて、返済が滞り、債権者に差し押さえられてしまったら、その後の手続きによっては競売されて予期しない所有者と共有することになってしまいます。
そうなると共有部分を買い取るにも多くの費用がかかることになってしまいます。
1-4. 次回に相続のときに倍の費用がかかるおそれがあります。
今、相続が発生した場合、何もせずにほうっておくなら当面の経費はかからないかもしれません。
ところが、次回の相続のときに登記をすることになった場合、相続登記を二回しなければならず、倍の経費がかかることになってしまいます。
以上のような理由からできるだけ早めに相続登記をすることをお勧めいたします。
2. 相続登記は自分でできるのか?
そもそも行政手続きは自分ですることが予定されています。
ただ、なかには多くの知識や技術が必要になる手続きもあるので、代理で手続きをすることを業とした各種士業が存在するのです。
相続登記も行政手続きの一つですので国家資格がなくとも、ご自身で登記することはもちろん可能です。
必要な書類を作成、収集して、申請書を書いて法務局の窓口に持参、あるいは郵送します。
最近ではインターネットも利用できます。
ただ、書類を集める前に相続人調査など、確認や判断が必要なことがあります。
単純な相続であれば簡単に済みますが、亡くなった人が再婚で前妻との間に子供がいたり、認知している子がいたりするなど、相続関係が複雑になりそうなときは相続登記の専門家である司法書士に相談したほうがよいかもしれません。
3. 相続の開始
ここからは実際に相続手続きをどのようにしていくかご説明いたします。
相続は人が死亡することによって開始します。
「死亡」には自然死亡、失踪宣告および認定死があります。
自然死亡は老衰による死亡や病死、事故死などいわゆる通常考えられる死亡です。
失踪宣告には普通失踪と特別失踪があり、普通失踪は7年間生死が明らかでない場合、利害関係人が裁判所に申立てて失踪宣告をしてもらい、7年間が満了したときに死亡したものとみなされます。
特別失踪は死因となる危難が去ったあと一年間生死が明らかでないときに、利害関係人が家庭裁判所に申立てて失踪宣告してもらい、危難が去った時に死亡したものとみなされます。
死亡が確定したら申立人は市区町村役場に届出に行きます。
3-1. 不動産の確認
相続登記の手続きを始める準備として、不動産の確認をしましょう。
市区町村役場に行って名寄台帳をみるといままで存在を知らなかった不動産の存在が明らかになることがあります。
そして、存在が明らかになった不動産の登記事項証明書を入手します。
登記事項証明書は全国どこの法務局で誰でも交付請求できますし、窓口に行かなくても郵送、インターネットによる請求もできます。
登記事項証明書を確認すると、実は登記していなかった不動産が判明することや、名義が変更していなかった不動産がでてくることがあります。
登記していなかった不動産が見つかった場合には土地家屋調査士に依頼して別途表題登記していくことになります。
名義変更が済んでいなかった不動産についても司法書士に相談することをおすすめします。
3-2. 戸籍謄本の入手と相続人の確定
戸籍事務は市区町村役場で行っているので、戸籍謄抄本が必要な人の本籍地を管轄する市町村役場で入手できます。
本籍が分からない場合は、本籍の記載のある住民票を見ればわかります。
これらの書類を請求する際に本人確認をされるので運転免許証などを持参します。
戸籍謄本を請求できるのは、戸籍に記載されている人、その配偶者、直系尊属(直系の父母、祖父母等)もしくは直系卑属(直系の子や孫等)と限定されているので注意が必要です。
相続登記に必要な戸籍謄本や除籍謄本は相続人によって異なります。
一般的な場合では亡くなった人に相続人以外に子がいないかどうか証明するために、出生から死亡までの戸籍謄本あるいは除籍謄本が必要です。
ただし、相続人が兄弟姉妹の場合は、亡くなった人の両親の出生から死亡までの戸籍謄本も必要になります。
これは相続人の他に兄弟姉妹がいないか証明するためです。
戸籍謄本を入手したら、誰が相続人になるか判断していきます。
遺言書があれば、そこで指定された人が相続人になりますが、ここでは民法で定められている相続人、いわゆる法定相続人についてご説明いたします。
相続人になれるのは血族と配偶者です。
血族とは血縁関係のある人たち、例えば子、父母、兄弟姉妹などです。
ここでいう子には養子も含まれます。
法定相続人には優先順位があって、該当する人がいたらその人のところに相続されて、後順位の人には財産は相続されません。
配偶者がいたらどのようなケースでも共通して相続人となります。
まず、第一順位として子です。
配偶者がいたら、配偶者と子に相続されることになります。
第二順位は直系尊属です。
直系尊属とは父母や祖父母などがあたります。
配偶者がいたら、配偶者と直系尊属に相続されます。
第三順位は兄弟姉妹と代襲者です。
代襲者とは、本来相続されるべき相続人がすでに亡くなっている場合にその人に代わって相続できる人、例えば子のことです。
配偶者がいたら、配偶者と兄弟姉妹と代襲者に相続されます。
まれなケースではありますが、法定相続人から除外される場合もあります。
それが相続欠格と廃除です。
相続に関し、不正をはたらいた人は相続人になれず、相続欠格者といいます。
被相続人や先順位、同順位の相続人を殺してしまったり、自分に有利になるよう詐欺や脅迫をしてしまったりすると相続欠格者になります。
これには裁判所の手続きは必要ありません。
廃除とは、被相続人から見て、相続させたくなくなるような虐待や侮辱などの非行があった相続人に対して、裁判所に請求して相続できなくしてしまうことです。
4. 遺言書による相続
ここからは遺言書がある場合、相続登記手続きはどのようにするかご説明いたします。
世間一般で遺言書というと亡くなった人の願いや思いそのものが残されたものというイメージが強いと思われますが、ここでは法的な効果のある遺言書のことを指します。
法律で定められた様式がそなわっていて、誰にどんな財産を相続させるかなど、具体的なことが書かれているものです。
まず、遺言書には種類があり、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言があります。
公正証書遺言は生前、公証役場で作成した遺言書であり、公的に保証された遺言書です。
公的に保証されていますから、それ以上の手続きは必要ではなく、そのまま相続登記やそのほかの相続手続きに利用できます。
自筆証書遺言は生前、被相続人が自書した遺言書で、この場合、家庭裁判所で検認という手続きが必要になります。
検認が終わると証明書がもらえるので遺言書と共に相続登記などの手続きに利用します。
秘密証書遺言は、公証人や証人の立会いのもと、封印した遺言書を提示するもので、遺言書の存在は明らかにしておくが、内容は秘密にしておくというものです。
ただし、検認の手続きは必要になりますので、相続人から見たら自筆証書遺言とあまり変わりありません。
以上のようにして作成された3種類の遺言書は相続登記の申請をする際の添付書面となります。
次に、これらの遺言書に基づいて相続登記をする場合の申請方法についてご説明します。
5. 登記申請書の作成
登記申請をするには登記申請書を作成し、法務局に提出します。
登記申請書には必要な情報を記載しなければなりません。
それらのことを以下、箇条書きにしていきます。
なお、様式はA4サイズのものを縦に置き、横書きで記していくのが一般的です。
他に法務局のホームページでひな形をダウンロードできますし、窓口でもひな形を印刷した用紙をもらえます。
ここではまず、遺言書がある場合を例示いたします。
① 「登記申請書」当たり前のことかもしれませんが、何をしたいがための書類なのか冒頭に書く必要があります。
② 「登記の目的 所有権移転」不動産の所有権を移転させる目的で申請書を作成し、提出します。
③ 「原因 令和〇年〇月〇日相続」いつ、どのようなことが原因となって申請するのか記載します。ここでは故人が亡くなった日付を記載します。
④ 「相続人 (被相続人〇〇〇〇)〇市〇町〇番地〇 相続人氏名 印 連絡先電話番号」誰に関する相続であるかカッコ内に被相続人氏名を記載するとともに、相続人の住所・氏名を記載し、本人が申請する場合は押印します。
⑤ 「添付書面 相続を証する情報 登記原因証明情報 住所証明書」ここでは遺言書、自筆証書遺言の場合は検認証明書、亡くなった人の戸籍謄本や除籍謄本、住民票の除票、相続人の戸籍謄本や住民票、当該不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明のことを指します。これらの書類は相続登記だけでなく、銀行口座の相続手続きなど、各種相続手続きにも使用するので原本還付してもらいます。原本は一緒に原本をコピーしたものを提出することで還付してもらえます。コピーした書面の一部に「この写しは原本と相違ありません」と記載し、署名押印します。
⑥ 「令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局○○出張所」申請する日付と場所を記載します。
⑦ 「課税価格 金〇〇万○,000円」固定資産課税台帳に登録されている不動産価額で、1,000円未満を切り捨てて記載します。
⑧ 「登録免許税 金〇,〇00円」課税価格の1000分の4が登録免許税になり、100円未満を切り捨てた金額を記載します。
⑨ 「不動産の表示 不動産番号 ○○○○○○ ○市〇町〇番〇の土地」登記事項証明書に記載されている通りに記載します。
6. 遺産分割による相続
遺言書がなかった場合、相続人みんなで話し合って誰がどんな財産を相続するか決めていきます。
これを遺産分割協議といい、書類にしたものが遺産分割協議書です。
遺産分割による相続登記の手続きには遺産分割協議書が必要になります。
遺産分割協議の方法は相続人全員が一堂に会する必要はなく、個別に電話や郵便での話し合いでもかまいません。
また、分割の割合についても法定相続分どおりにする必要はなく、自由に決めてかまいません。
遺産分割協議書は原則として相続人全員で作成して各自署名または記名押印します。
押印は実印でし、印鑑証明書を付します。
印鑑証明書に期限はなく、3ヵ月以内のものである必要はありません。
登記申請書の書き方は遺言の場合とほぼ同じです。
ただし、共有で相続する場合、その不動産を相続する人達みんなが相続人となりますので全員分の住所氏名と、それぞれの持ち分を記載します。
添付書面が遺言書に代わり、遺産分割協議書が加わり、相続人が複数であるが、そのうちの一人が申請人となる場合、委任状も必要になります(全員が申請人になるときは不要です。
その場合は相続人の箇所に()書きで申請人と併記します)。
また、不動産ごとに相続人が異なる場合には、その分の申請書を作成、提出することになります。
7. 法定相続
遺言書もなく遺産分割協議もしていない場合には、法定相続分によって相続登記をします。
各相続人の立場に応じた相続分が割り当てられ、その持ち分を相続登記します。
相続分は相続人によって異なります。
配偶者がいない場合は先述した優先順位のとおりになります。
① 配偶者と子の場合、配偶者が2分の1、残りの2分の1を子の人数で割った分ずつになります。
② 配偶者と直系尊属の場合、配偶者が3分の2、残りを直系尊属が相続します。
③ 配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が4分の3、残りを兄弟姉妹が相続します。
法定相続により不動産を相続するということは不動産を共有するということです。
したがって登記申請書も先述の遺産分割協議書のように相続人氏名と住所を併記します。
当然ですが、法定相続の場合は遺言書も遺産分割協議書も添付書面にはなりません。
それ以外の記載事項や添付書面は他の相続登記と同様です。
8. 遺贈
遺贈とは、一言でいえば遺言による贈与のことです。
遺贈の相手方は法律で予定された相続人である必要はなく、まったくの他人でも法人でもよいということになります。
ただし、法律で定められた相続人には一定の最低限保証された遺留分があるので、自身の遺留分が侵害されていて権利を主張したいのであれば、遺留分減殺請求することになります。
本来、相続による登記の申請人は相続人なのですが、遺贈は贈与契約としてみることができるため、贈与した人(被相続人は死んでいるので正確には法律上の相続人)と贈与を受けた人が共同で申請します。
原因の箇所を「遺贈」と記載します。
また、ここまで「相続人」としてきたところを、贈与を受ける人を「権利者」、被相続人を「義務者 亡○○○○」と追記します。
法律上の相続人のうちの一人か、それ以外で皆の信用を得られる者を遺言執行者に定め、その旨とその者の住所氏名を記載します。
遺言執行者を定めた場合は委任状とその者の印鑑証明(3ヵ月以内に発行されたもの)が必要です。
他に、添付書面として登記識別情報(従前の権利証)が必要になりますが、受贈者の戸籍謄本は必要ありません。
それ以外は遺言による場合と同様です。
9. 申請方法と費用
不動産登記は登記する不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。
申請方法には、書面による申請とインターネットによるオンライン申請があります。
申請人はいずれかを選んで申請します。
書面申請の場合、法務局の窓口に持参する方法と郵送によってする方法があります。
郵送で申請するときは書留などの配達の記録が確認できるものを利用し、封筒に不動産登記申請書が在中する旨を記載します。
また、原本還付や登記識別情報を送付してもらう場合は返信用封筒に切手を貼り同封します。
インターネットによる申請には申請情報(コンピューター上の申請書に該当するもの)と添付情報(コンピューター上の添付書面に該当するもの)を送信する方法と、申請情報はオンラインで申請するが、添付情報は法務局に持参あるいは郵送する方法があります。
詳しくは法務局のホームページをご覧ください。
登記にかかる費用は自分で申請する場合は登記簿謄本などの書類の収集と登録免許税が実費でかかります。
加えて法務局や市区町村役場への交通費や郵便代などの諸経費もかかりますが、すべて含めても1万円もかからないのではないでしょうか。
登録免許税は不動産価格の固定資産税評価額の0.4%ですので、不動産価格によって変動します。
登記は司法書士が専門に仕事をしています。
ご自身でなさらず司法書士に依頼する場合、不動産一つにつき平均10万円程度かかります。
したがいまして、相続登記をする不動産がたくさんあるほど報酬は大きくなっていきます。
9-1. 登記完了までの流れ
登記の申請後、法務局では申請の受付、申請書類の調査、登記記録への記録(記入)、校合という流れで処理されていきます。
そして、登記完了予定日までには登記は完了するのですが、もしも申請書類に不備があった場合、申請人または代理人に連絡が来て補正するよう促されます。
申請してから完了まで3日から一週間かかります。
登記が完了すると、登記識別情報(従前の権利証のようなもの)、登記完了証が通知されます。
また、還付を希望していればそれらの書面も還付されます。
これらの書面は、法務局の窓口で受領できますし、郵送で受領することもできます。
窓口で受領する場合は、申請人または代理人が行くことになりますが、その際、申請書に押印した印鑑と身分証明書が必要です。
10. まとめ
相続登記を自分でするにはたくさんの書類を集め、多くの確認や判断をし、申請書などの書類を作成していくことになります。
そのため、やみくもに進めていくと混乱してしまうかもしれませんし、途中で挫折してしまうかもしれません。
そこで、以上に記述してきたことを順序だてて整理して進めることをおすすめいたします。
(提供:相続サポートセンター)