多くの人の心を救った“歌う講演家”が伝える幸せの正体「そこにある幸せを感じてほしい」
“歌う講演家”として、日本全国で「幸せの見つけ方」を伝え続ける古市佳央(ふるいちよしお)さん。ご自身の大事故から復帰した経験を乗り越え、多くの人に生きる勇気を与えています。講演と歌を始めるようになったきっかけや、古市さんが考える幸せ、今後の展望までたっぷりと伺いました。

人前に出るのが嫌だったところから講演家になるまで

多くの人の心を救った“歌う講演家”が伝える幸せの正体「そこにある幸せを感じてほしい」

私は“歌う講演家”として活動し、講演家でありながら歌手として講演会で歌を披露しています。そのきっかけは、『リハビリメイク』で有名なかづきれいこ先生との出会いです。火傷や傷跡をメイクでカバーし、人々の社会復帰を支援する活動をされているかづき先生に2000年、私は車関連会社の代表として出会いました。

ある時、かづき先生が私に「古市君、講演してみない?」と声をかけてくださったんです。正直、講演なんて聞いたこともやったこともありません。私は16歳のときバイク事故で全身に大火傷を負い、33回の手術を経て奇跡的に復活しましたが、体の傷や障がいにより、自分の人生を諦め、幸せを感じることもないと思い込んでいました。

人前に立つことなど考えられなかったので、かづき先生から講演のお話をいただいた時も最初はお断りしました。それでも、かづき先生から「さらけ出す勇気を持ちなさい」と背中を押され、一度だけ挑戦することにしたのです。

初めての講演では、ただ自分の体験談を語っただけです。ところが、講演を聴いてくださった方が「勇気をもらった」「人生が変わった」と、良い感想をいただきました。

ある講演では「自殺しようと思っていたけど、古市さんの話を聴いて止めました」と言ってくださる方もいました。自分が話すことで誰かの命を救えたということは嬉しかったですし、何かを感じてくれる人がいるなら講演を続けていこうと決意しました。

講演を始めて1年後、初の著書『這い上がり:ある「顔」の喪失と再生の半生記』を出版。読者からは「生きる価値を見出せた」「死にたい気持ちが消えた」といった感謝の手紙が何百通も届きました。私が元気に生きている姿を発信することが、誰かの命を救えると実感した瞬間でした。

講演活動を続けるなかで、小学校や中学校、さらには少年院など、さまざまな場で多くの方と出会いました。ある講演で、小学生から「タイムマシーンがあったら事故の前に戻りたいですか?」と尋ねられたことがあります。答えに詰まった私はしばらく考えた末、こう答えました。「タイムマシーンがあっても、私は事故の前には戻りません」

確かに、こんな辛いことを背負って行く人生ではなく、怪我がなく健康だったらどんなに幸せだろうとずっと思っていました。それでも今とても幸せで、私の周りには素敵な人たちがたくさんいます。それらを捨てて過去に戻りたいとは思いません。自分は幸せなんだと気付くことができて、幸せな人生になっていったんですよね。

自分にしか歌えない歌を歌う

多くの人の心を救った“歌う講演家”が伝える幸せの正体「そこにある幸せを感じてほしい」

講演を始めたばかりの頃は、ものすごく緊張していましたね。最初の舞台はかづきれいこ先生の生徒さんの女性100人の前で話をしました。話し方もわからなかったので、とにかくがむしゃらに話していた記憶しかありません。観客との距離が近くて、最前列の方の呼吸がわかるほど近くてさらに緊張しました。

それでも講演を大変だと思ったことはありません。私にとって人前で話すことは嬉しいことなんです。なぜかというと私の理解者が増えて行くからです。講演を続けていくなかで徐々に自分のメッセージを伝えたいと思うようになっていきますが、最初は心のどこかで自分が人から認められないだろうと思いながら話していました。

私の障がいは手や顔の見た目です。皮一枚を剥いでしまえば中身は普通の人間なのにその外側だけで近寄りがたいと判断されてしまいがちです。きちんと話せば見た目は違えど同じ人間なんだと理解してもらえる可能性が増えるのです。講演は自分のことを知ってもらう最大のチャンスの場で本当にありがたかったです。

講演活動を続けるなかで、多くのミュージシャンと出会いました。歌を通じて相手の心を変えていく彼らの姿を見て、歌の力は本当にすごいと感じました。そして2016年、歌手の方々とのコラボをきっかけに「自分でも曲を作り、歌ってみよう」と挑戦しました。こうして“歌う講演家”としての新たな道が始まりました。

私が歌うのは、オリジナル曲です。講演で語る内容を歌詞にし、1つの物語を語りと歌で表現している感覚です。語りだけでも歌だけでも伝えられる内容ですが、両方をミックスさせることで、より深く心に響くメッセージが届けられます。

実際に、歌を聴いて涙を流したり感動してくださる方が多いのです。「これまでたくさんの歌を聴いてきたけれど、こんなに心に刺さる歌は初めて」と言われることもありました。私の歌唱力はプロの歌手ほどではありませんが、そこに乗せるメッセージがあるからこそ、私にしか歌えない特別な歌になるのです。

今すでにある幸せに気付いて欲しい

多くの人の心を救った“歌う講演家”が伝える幸せの正体「そこにある幸せを感じてほしい」

これまで1,450回以上の講演を行い、毎回テーマを聞いてくださる層に合わせて決めています。ただ実のところ、テーマ自体は何でもいいと思っています。テーマに縛られると話が偏りそうなので、私はその場で、今一番伝えたいことを話しています。

講演後、多くの方から「生き方が変わった」と感想をいただくたび、このメッセージをもっと多くの人に届ける使命を感じます。幸せとは物質的なものだけではありません。仲間や家族がいて、そして「今ここに生きている」ことそのものが幸せなのです。

多くの人が幸せを「お金」「地位」といった高い目標に結びつけがちですが、そこに到達しなければ幸せではないと考えるのはもったいないことです。もっとシンプルに幸せとは何かを追求して、「今、幸せだよね」と気付いて欲しいです。

しかし、人間関係や健康などを失って初めて気付く幸せが多いのも事実です。だからこそ、今ある幸せに目を向け、「ここがスタートなんだ」と感じてほしいと思います。

現代では、生きづらさを抱えたり命を絶とうと考える人も少なくありません。講演を通じて多くの方と接するなかで、人々が抱える多くの悩みが「人間関係」に根ざしていることを感じました。親子関係、夫婦関係、職場の人間関係、これらは多くの人が直面する課題です。

私自身も、人間関係を良くするためにどうしたらいいのか、相手の立場に合わせて伝えるようにしています。これからも多くの方を幸せに導いていくために、講演、歌、塾という形で伝え続けていきます。