総合マーケティングビジネスの富士経済は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の5類移行を受けて大幅に回復した昨年に引き続き、今年に入っても訪日外国人の増加によるインバウンド需要の拡大でプラスの動きがみられる、一般用医薬品の国内市場を調査した。その結果を「一般用医薬品データブック 2024-2025」にまとめた。2024年市場見込(2023年比)では、コロナ禍からの本格回復が続き、インバウンド需要の急増も拡大に貢献している一般用医薬品が7105億円(1.9%増)を見込む。また、八味地黄丸や防風通聖散に加え、麦門冬湯、小青竜湯が好調な漢方処方エキス製剤は262億円(8.3%増)と予測。二日酔い対策から疲労対策へ需要シフトが進み堅調な拡大が続く強肝解毒栄養剤は54億円(12.5%増)を見込んでいる。
この調査では、17カテゴリー74品目の一般用医薬品の市場の現状を捉え、将来を予想するとともに、スイッチOTCの動向、インバウンド需要が与える市場への影響、プロモーション動向、製品トレンド状況などをまとめた。また、指定医薬部外品の市場動向や類似した訴求を行っている健康・機能食品との競合状況などについても整理した。
一般用医薬品において、市場規模が大きいのは感冒関連用薬や外皮用薬、ビタミン剤、胃腸・消化器官用薬などである。コロナ禍で、感冒関連用薬はマスク着用や衛生意識向上にともなう風邪罹患の減少によって総合感冒薬や鎮咳去痰剤などが大幅縮小、胃腸・消化器官用薬は外食機会の減少で総合胃腸薬や健胃・消化薬などの需要が減少した。また、ビタミン剤は一部の品目がインバウンド需要消失の影響を大きく受けた。そのため、一般用医薬品の市場は2020年に大きく落ち込み、2022年まで回復は鈍かった。
2023年は新型コロナの5類移行にともなう人流増加、また、外食機会の増加やインバウンド需要の回復により、多くの品目が伸びたため、市場は前年比7.7%増となった。2024年も前年同様の傾向で好調であるものの、市場の伸びはやや鈍化するとみられる。
カテゴリー別では、外出機会の増加やインバウンド需要の回復などにより2023年から好調が継続しているビタミン剤や漢方処方エキス製剤、生活習慣病関連用薬、外皮用薬、毛髪用薬などが伸びている。
漢方処方エキス製剤は、従来、漢方専門薬局を中心としたカウンセリング販売が大部分を占めていた。近年は葛根湯や防風通聖散などがドラッグストアチェーンのセルフ販売を軸に展開され、また、アレルギー対策や疲労対策、女性向けなどに注力した製品が好調で市場は拡大している。防風通聖散や葛根湯、八味丸・八味地黄丸などの市場規模が大きい。
2023年は八味丸・八味地黄丸や防風通聖散の伸びに加え、他の医薬品の原材料不足やインフルエンザなどの季節外れの流行を背景に、感冒関連の麦門冬湯や小青竜湯、葛根湯などが好調だったことから市場は拡大した。2024年の市場は前年と比べると需要が落ち着いているものの、堅調な拡大が期待される。
コロナ禍以降、セルフメディケーションの観点から漢方薬への注目度が高まっており、ドラッグストアチェーンでは棚割りを増やすなど取り扱いの広がりがみられる。40代女性層が主要な使用者であるが、若年層の需要も高まっており、参入企業はSNSやチャットボットなどデジタルツールを活用した販促に注力している。
強肝解毒栄養剤は、ヘパリーゼプラスII(ゼリア新薬工業)やコンクレバン(健創製薬)、レバウルソ(佐藤製薬)など、肝臓への働きかけによって肉体疲労や虚弱体質改善などを訴求する製品を対象とする。従来は二日酔い対策需要を取り込んでいたが、コロナ禍で外食でのアルコール飲用機会が減少したことにより市場は一時的に縮小した。しかし、二日酔い対策から疲労対策へ需要シフトが進んだことから、市場は堅調に拡大している。
2023年は上位企業の製品が疲労対策の訴求により幅広い需要を獲得するとともに、インバウンド需要が好調だったことから、市場は二ケタの拡大となった。2024年も前年同様の好調が続いている。
肝機能改善を訴求する健康・機能食品は、コロナ禍を経て外食でのアルコール消費量の減少から苦戦しているが、強肝解毒栄養剤は疲労対策の訴求が奏功し、また、一般用医薬品としての効果の高さが訴求できているため、今後も堅調な市場拡大が予想される。
総合感冒薬市場は、コロナ禍で外出機会の減少やマスク着用が常態化したことで風邪罹患率が下がったことによって、一時市場は縮小した。2022年後半にコロナ禍が収束に向かいインバウンド需要が急増したことなどから、2022年の市場は前年比24.1%増と大幅に増加した。
2023年はインバウンド需要がさらに増えたことや、 医療用医薬品のせき止め薬不足にともなう代替需要を取り込んだことから、市場は前年の伸びを上回った。2024年は前年に急成長した反動はあるものの、効き目や症状別で個人に合わせた製品(パーソナル対応製品)の需要が増加しているため、市場は前年比4.1%増が見込まれる。
現状、常備薬と高機能・パーソナル対応製品の二極化がみられる。コロナ禍以前よりも総合感冒薬の需要は高まっており、シェア上位企業を中心に主力カテゴリーとして注力度の高い状況が続くことから、当面は市場拡大が予想される。
ニキビ用薬は、思春期のニキビだけでなく大人ニキビにも利用が広がり、少子高齢化が進む中でも新たな需要を獲得している。2020年はインバウンド需要が消滅したため大幅に市場は縮小したが、その後はマスク着用にともなう肌荒れから国内需要が高まった。また、2021年には第一三共ヘルスケアが「マキロンアクネージュ」シリーズ発売によって新規参入、TVCMなどのプロモーション展開も寄与し、市場は拡大に転じた。
2023年はコロナ禍の収束によるマスク着用率の低下で国内需要は減少したが、インバウンド需要が徐々に回復したことから、市場は二ケタ増で着地した。2024年はインバウンド需要が本格的に回復し、「ペアアクネクリームW」(ライオン)などが好調で、市場は前年比9.8%増が予想される。短期的にはインバウンド需要の増加によって好調が続くと期待される。
[調査方法]富士経済専門調査員による参入企業および関連企業・団体などへのヒアリングおよび関連文献調査、社内データベースを併用
[調査期間]8月~11月
[小売価格]
書籍版:25万3000円
書籍/PDF版セット:28万6000円
書籍/PDF+データ版セット(全体編):30万8000円
ネットワークパッケージ版:50万6000円
(すべて税込)