経営分析
(画像=everything possible/Shutterstock.com)

軌道に乗せたビジネスをさらに成長させるには経営分析が欠かせない。ときには従来の方法で経営しても事業が立ち行かなくなるケースもある。今回は、経営分析の方法を基礎指標とツールに触れながら解説していく。将来の経営を安定させるためにも今一度おさらいしてほしい。

目次

  1. 経営分析の目的は?
  2. 経営分析の方法を6つの指標とともに解説
    1. 経営分析の指標1.収益性
    2. 経営分析の指標2.安全性
    3. 経営分析の指標3.活動性
    4. 経営分析の指標4.生産性
    5. 経営分析の指標5.成長性
    6. 経営分析の指標6.損益分岐点
  3. 経営分析の基本ツール

経営分析の目的は?

中小企業の場合、経営をオーナーに任せているケースは稀ではない。経営を託されたオーナーの中には、これまでの経験や自分の直感を信じて経営する方もいるだろう。

経営スキルを闇雲に否定すべきではないが、さまざまな情報ツールやプラットフォームが発展した現在では、データにもとづいた経営分析も主流になりつつある。

経営分析にはさまざまな指標が用いられる。一見とっつきにくい数値の羅列も会社の現状把握には不可欠である。

現状を把握できれば、経費の増大や利益率の低迷など、さまざまな課題が浮かび上がってくる。オーナーとしては一瞬目を背けたくなるデータでもきちんと直視しなければならない。

その課題の分析と対策に取り組むことで事業を成長させられるからだ。事業がうまくいっているオーナーも油断せずに、経営分析でビジネスを盤石にしてほしい。

経営分析の方法を6つの指標とともに解説

経営分析にはさまざまな指標があるが、特に重要な6つの項目をピックアップした。ここからは、経営分析の方法を各指標の役割とともに解説していく。

経営分析の指標1.収益性

収益性はどれだけ儲かっているかを見極める指標である。利益を上げられなければ、企業活動は立ち行かなくなる。

収益性の分析に用いられるのは主に売上高営業利益率だ。この売上高営業利益率を求めるには、まずは売上総利益を計算する。売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いたもので、粗利ともいわれる。

売上総利益が高いほど、その企業は付加価値の高い商品の販売に成功していると予想できる。売上総利益から販売費と一般管理費を差し引いたものが営業利益だ。最終的に売上高営業利益率は下記のとおり計算される。

売上高営業利益率 = 営業利益÷売上高×100

業種によってこの利益率の割合は異なる。例えば、製造業では5.5%、卸売業では1.9%、小売業では2.8%が平均値だ。

経営分析の指標2.安全性

企業の債務返済能力を測ることが安全性の分析となる。経営者としてはついつい目先の収益に目が行きがちだが、財務上の支払い能力にも目を光らせることが重要である。

安全性を示すデータの1つが自己資本比率だ。自己資本比率は、総資本のうち返済しなくてよい純資産の割合を示す。この割合が高いほど、安定した経営ができるとされている。

東京商工リサーチの調査によると、2018年に倒産した企業の自己資本比率はマイナス11.3%であった。マイナスは債務超過の状態に陥っていたことを意味する。

一方、経営を継続できた企業の平均自己資本比率は39.3%であった。また、自己資本比率が30%以上ある企業のうち、54.9%は企業活動を継続できたのに対し、倒産した企業は7.1%にとどまった。

企業のオーナーは、経営を安定させるために「自己資本比率は約4割」と頭に叩き込んでおくのがよさそうだ。

経営分析の指標3.活動性

活動性は、企業活動の活発さをチェックする項目である。企業として保有する資本を効率的に使用しながら、大きな売り上げを記録しているほど活動性が高いといえる。

活動性を図るバロメーターとして総資本回転率がある。会社で事業展開するには、融資などで資金を調達し、設備を購入する。そして、商品を製造・販売すると売上高として記録される。

総資本回転率では、売り上げに対する資本の回転率をチェックする。回転率の高さは、少ない資本にも関わらず大きな売り上げを達成していることを示す。

総資本回転率の計算は単純だ。売上高を総資本で割るだけで良い。この数値を確認することで、企業が抱える無駄な資本を手放す必要性について判断できる。

中小企業庁の2018年中小企業実態基本調査速報によると、中小企業の総資本回転率の平均は1.12回であった。ただし、業界ごとにばらつきがあり、情報通信業や小売業の数値は1.9回、卸売業の数値は1.8回、不動産業界の数値は0.2回である。

巨額の設備投資が必要な業種は総資産の割合が高まるため、総資本回転率が抑えられる傾向がある。回転率が高いのが理想だが、1回を超えていれば効率的に資本を運営できているといえる。

経営分析の指標4.生産性

経営分析で求められる生産性とは、投入量(従業員・設備・原材料など)と産出量(生産量・生産額・売上高など)の比率をあらわす。

特に売上高を従業員数で割った数値である労働生産性が広く認知されている。労働生産性が低い場合、オーナーは事業の進捗状況を見極めつつ従業員数を整理する必要に迫られることもあろう。

中小企業白書(2019年)によれば、中小企業の非製造業では従業員1人あたりの労働生産性は563万円、製造業は556万円となっている。

しかし、労働生産性は業種別にばらつきがあり、1,000万円を超える金融・保険業から、300万ほどの飲食サービス業まで幅がみられる。

経営分析の指標5.成長性

オーナーが最も気になるのはビジネスの成長だろう。成長性をチェックするのに最も簡単な方法は売上高を前年と比較することである。

売上高を比較して、前年よりも増加していれば安堵するかもしれない。しかし、売上高は伸びていても、それにかかる経費がかさんでいれば最終的な利益を圧迫してしまう。

そこで着目すべき指標が売上総利益である。前年と比較すれば一歩踏み込んで成長性をチェックできる。さらに最終的な損益で純利益を確保し、その割合が伸びていれば成長しているといえる。

経営分析の指標6.損益分岐点

事業を継続するのに重要なのが黒字を確保することだ。そのために、赤字と黒字を分ける損益分岐点の理解がオーナーには求められるだろう。

損益分岐点とは、売上高と費用の一致による損益がないときの売上高だ。損益分岐点を把握すれば、赤字回避に必要な売上高が一目瞭然となる。

損益分岐点は、固定費を限界利益率で割って計算できる。限界利益とは、売上高から原材料費などの変動費を差し引いて得られる利益で、粗利と似ている。売上高に占める限界利益の割合が限界利益率だ。

売り上げが伸びても、変動費が比例して伸びていれば利益は増えない。さらに、事業では変動費に加え賃料や光熱費などの固定費もかかることも忘れてはならない。

例えば、売り上げ1億円、変動費6,000万円、固定費3,000万円、利益1,000万円の企業における損益分岐点を計算してみよう。

損益分岐点=3,000万円=7,500万円
((1億円-6,000万円)÷1憶円)

つまり、7,500万円以上の売り上げがあれば利益を確保できる反面、それを下回ると赤字となる。

経営分析の基本ツール

経営分析に不可欠な6つの指標をそろえる基本ツールとして、損益計算書や貸借対照表などが挙げられるだろう。

損益計算書には、売上高や売上原価、販売費および一般管理費、当期純利益などの情報が含まれている。各データで収益性や成長性を計算できる。また、貸借対照表では、純資産や固定資産の情報が含まれており、安全性や活動性の分析に役立てられる。

中小企業のオーナーであれば、事業に対して問題意識を日頃持ち合わせているに違いない。自社に潜む問題を解決するために、分析すべき指標を定めることが重要であろう。

経営分析には、上述した項目以外にも数多くの指標が存在し、すべての指標を分析するには相応の時間を要する。そのため、すべてをチェックするのではなく、自社の事業にあった分析手法の選定が望ましい。

いずれにせよ、正確な損益計算書や貸借対照表といった財務諸表の準備が必要となる。

また、中小企業の規模は会社によって幅があり、業種も多岐にわたる。複数の事業を組み合わせている場合もある。したがって、経営分析の結果を単純に他社と比較すればよいわけではない。

他社との比較は参考程度までとし、オーナー自らが適切に目標を設定することが大切だ。目標達成にむけた経営分析が事業を安定・成長させるための鍵となる。

文・志方拓雄(ビジネスライター)

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