人が亡くなった場合には、その亡くなった方(被相続人)が有していた財産は、相続人に承継されます(民法第896条)。
この相続に関する手続きは、いろいろと複雑な部分があり、被相続人や相続人の戸籍謄本等を取得する必要が生じる場合があります。
そこで、この記事では、これらの戸籍謄本を取得する方法について見ていきます。
戸籍謄本等が必要となる理由
1-1. ①基礎控除額の算定のため
相続が生じた場合、相続財産の額が法律の定めた方法で計算した基礎控除額を超える場合には、相続税が課税されることになります。
そして、この際の基礎控除額がいくらかは以下の算式で計算されることになります。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
つまり、法定相続人が何人いるかによって基礎控除額が決まるのです。
そこで、法定相続人として誰がいるのか、その人数は何人であるかを確認するためには、被相続人が出生したときから亡くなるまでの間の親族関係を確認する必要があり、そのために、被相続人の出生から亡くなるまでの全ての戸籍関係を証明する書類として、被相続人の戸籍謄本等を取得する必要があります。
1-2. ②遺産分割を行うため
相続が開始された場合、被相続人が有していた具体的な財産については、最終的に相続人全員によって遺産分割協議を行い、それぞれの財産について、誰がどの財産を承継するかを決定することになります。
この遺産分割協議には、全ての相続人が関与する必要があり、一部の相続人が除外されてなされた場合には、その遺産分割協議自体が無効となります。
そこで、遺産分割を行う際には、あらかじめ、相続人が誰かを確認する必要があります。
こう言うと、相続人の範囲なんてわざわざ調べなくても分かると考えるかもしれませんが、たとえば、被相続人が過去に婚姻していて、その前妻との間に子供がいたとか、隠し子を認知していたとか、という事例も現実に有り得ます。
ですから、自分たちが知っている他に、本当に相続権を有する人がいないかをしっかり戸籍等で確認する必要があります。
戸籍謄本等の種類
戸籍謄本を取得する際に、謄本と抄本はなにが違うのか、また、除籍謄本、改製原戸籍というものが何なのか、なじみのない言葉がでてくる場合があります。
まず、これらについて確認しておきましょう。
2-1. 謄本と抄本
謄本とは、原本等の全部を書き写したものをいいます。
これに対して、抄本とは、原本のなかの必要な部分のみを抜粋して書き写したものをいいます。
これを戸籍の場合に当てはめると、戸籍謄本とは、当該戸籍に記載された者全員についての情報が記載された書類となります。
これに対して、戸籍抄本とは、指定された個人についての情報のみが記載された書類となります。
ですから、相続手続きにおいては、抄本が必要とされることは基本的になく、全て「謄本」と覚えておいてください。
ところで、従来は戸籍も登記も、手書きで作成されており、それを写したものとして「謄本」「抄本」という表現が用いられていました。
ただ、現在ではこれらの情報は全てコンピューター管理されていることから、戸籍の場合は従来の戸籍謄本のことを「全部事項証明書」、戸籍抄本のことを「個人事項証明書」というのが正式名称となっています。
ただ、現実には、未だに役所を含めて「謄本」「抄本」という表現を用いてもなにも問題ありません。
本記事では、従来の用語例に従って、「戸籍謄本」という表現を用います。
2-2. 除籍謄本
現在の戸籍は、夫婦とその子供という家族を単位として一つの戸籍が編纂されています。
そして、夫婦が離婚した場合には、筆頭者以外の配偶者は当該戸籍から除籍されて、新たな戸籍が編纂されます。
また、子供が結婚すると、その子供についても新たな戸籍が編纂され、もとの戸籍からは除籍されることになります。
また、この戸籍に記載されている人が亡くなった場合も、その方についての記載は除籍により抹消されることになります。
このようにして、一つの家族について編纂されていた戸籍から順次人が除籍されていって、最終的に当該戸籍に記載されている人が誰もいなくなると、その戸籍は閉鎖され、戸籍簿から削除されることになります。
このように、戸籍に誰も記載されないこととなって、閉鎖された戸籍の写しを「除籍謄本」といいます。
2-3. 改製原戸籍
除籍謄本と紛らわしいものとして「改製原戸籍」というものがあります。
通常、戸籍が新たに編纂されるのは、子供が婚姻した場合や、夫婦が離婚したことによって従来筆頭者ではなかった者について新たな戸籍を作成する場合です。
ところが、法律の改正等によって、戸籍の様式や記載事項などが変更された場合に、一斉に戸籍が新たに作り直される場合があります。
これを「改製」といいます。
そして、このような改製がなされた場合に、作り直される前の戸籍のことを改製原戸籍といいます。
戸籍が改製された場合、それ以前に抹消された事項は全て消されてしまいますし、また、改製前に認知したり養子にしたりした人の情報も、改製後の戸籍には引き継がれません。
そのため、現在の戸籍謄本を確認しただけでは、改製前の親族関係等は分からないのです。
被相続人の正確な親族関係を調べるためには、改製原戸籍も含めて調べる必要があることになります。
以上をまとめると図のようになります。
戸籍謄本等の取得方法
3-1. 請求先
戸籍謄本は、その対象となる人の本籍地である市区町村役場に対して請求することになります。
出生から亡くなるまでの間、同じ市区町村に住み続け、本籍地を動かしていなければ、その市区町村で戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍の全てを請求することが可能となります。
ところが、出生後に婚姻した際に、本籍地を他の市区町村に移していたり、それ以外の場合でも、引っ越しや家の新築等の際などに本籍地を変更していた場合には、それぞれの本籍地の市区町村に対して、戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍を請求する必要があります。
3-2. 請求できる人
戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍等には、個人情報が詰まっています。
ですから誰でも自由に他人の戸籍謄本等を請求できるわけではなく、戸籍謄本等を請求できる人は限定されています。
◼︎①当該戸籍に記載された人
当該戸籍に記載されている人(本人)は当然に、自己の情報ですので、戸籍謄本等を請求することができます。
◼︎②戸籍に記載された人の配偶者、直系尊属(父母・祖父母等)、直系卑属(子供・孫等)
親族として、戸籍謄本等を請求することができます。
ただし、本人との親族関係を証明する書類等の呈示が必要とされています。
◼︎③上記①②の人の代理人
この場合には、①または②の方からの委任状が必要となります。
③自己の権利の行使・義務の履行のために必要な人
ただし、現在、この要件は非常に厳格に適用されていて、具体的な必要性等についての説明が必要とされています。
たとえば、兄弟が亡くなったが、その被相続人である兄弟には子供がいなくて、兄弟である自らが相続人となるため、被相続人の戸籍等を取得する場合等です。
この場合、兄弟は①②の何れにも該当しませんが、相続人として権利を行使等するために被相続人の戸籍等を取得する必要があるため、その取得が認められます。
◼︎④職務上請求権を有する人
弁護士、司法書士、税理士、行政書士、土地家屋調査士、社会保険労務士、弁理士等については、その受任している業務を遂行するために必要な場合に限り、戸籍謄本等を請求する権利が認められています。
3-3. 請求方法
戸籍謄本等を請求する場合、一般的には、請求先である市区町村役場の戸籍や住民票を取り扱っている部署の窓口に出頭して申請することになります。
部署や窓口の名称は、各市区町村役場によって異なっていますが、一般的には市民課とか戸籍課といった部署名となっていると思われます。
ただ、郵送で請求することも可能です。
これについては、後述します。
3-4. 費用
戸籍謄本等を請求するには、以下の手数料を納める必要があります。
戸籍謄本 | 1通当たり450円 |
除籍謄本 | 1通当たり750円 |
改製原戸籍 | 1通当たり750円 |
郵送による取得
戸籍謄本等は、対象となる方の本籍地の市区町村役場に請求することになることは上述のとおりです。
ただ、対象となる方が本籍地を移している場合などには、それぞれの市区町村役場に赴いて、窓口で請求をすることは現実的に非常に手間です。
また、本籍地が請求する方の居住地から離れている場合、わざわざ地方まで行くことは困難です。
そこで、戸籍謄本等については、郵送で取得することも認められています。
以下では、戸籍謄本等を郵送で取得する場合の手続きについて見ていきます。
4-1. 交付申請書
郵送で登記簿謄本等の交付申請を行う場合には、その申請書に必要事項を記入して、郵送で送る必要があります。
現在、各市区町村はそれぞれのホームページで交付申請書のフォームを掲載していますので、それをプリントアウトして、必要事項を記入する形になります。
各市区町村によって記載する事項は多少の違いはありますが、基本的には以下の事項を記載することになります。
◼︎①請求者の住所・氏名
免許証やパスポートなどの本人確認書類の添付が必要とされるのが一般的です。
◼︎②対象となる方との関係
これについては、上述の「請求できる人」と同様、その関係を証明する書類が必要となる場合があります。
◼︎③必要とされる戸籍の対象者に関する情報
・本籍地
・筆頭者
◼︎④必要な証明書と必要部数
戸籍謄本、抄本、除籍謄本、改製原戸籍等のなにを何通必要かを記載します。
◼︎⑤戸籍等の取得目的
これらの他に、付随情報等として、以下の情報にレ点を記載する欄が設けられている場合もあります。
「出生から死亡までのすべて」
「●●市にある戸籍全て」
一般的には、戸籍謄本を請求する場合、直近の戸籍謄本を請求し、そこから順次遡って請求していくことになります。
ただ、現実には、同じ市区町村に本籍がある間に改製がなされていたり、結婚によって新たな戸籍が作られていたりするなどして、複数の戸籍が保管されている場合があり、それらについては一般に請求時にはわからないことが多いと思われます。
そこで、そのような場合には、当該被相続人について当該市区町村に保管されている全ての戸籍が必要である旨を明記しておくことによって、担当者に請求者の意図を正しく伝え、必要な戸籍を効率的に取得することが可能となります。
4-2. 手数料
手数料は、定額小為替を同封することによって納めます。
定額小為替は郵便局で購入します。
定額小為替は、発行1枚につき手数料が100円かかります。
戸籍謄本等の場合、基本的には1通450円(戸籍謄本)か750円(除籍謄本、改製原戸籍)ですので、それぞれ、450円の定額小為替、750円の定額小為替を必要通数分同封して送ることになります。
なお、上記(1)⑤のところで述べたように、当該市区町村で保管されている戸籍謄本等全てを申請するケースなどで、金額が不足する場合があります。
このような場合には、当該市区町村からどうするかの連絡がある場合があります。
その場合、たとえば追加で不足分の定額小為替を送付するなどして対応することになります。
4-3. 添付書類
戸籍謄本等を請求できる人は限定されているため、郵送で請求する場合には、自らが戸籍謄本等を請求できる者であることを証明するための資料を添付する必要があります。
また、本人や親族等の委任を受けて代理人が請求する場合には、委任状も必要となります。
申請者本人であることの確認のために、免許証やパスポート等の写しの添付を求められる場合もあります。
これらについては、各市区町村のホームページ等で必要書類が明記されていますので、必ず事前に確認する必要があります。
4-4. 返信用封筒
郵送で戸籍謄本を申請する場合には、返信用封筒(申請者の住所・氏名を記入した者)に必要な切手を貼付して同封する必要があります。
この際、注意が必要なのは、戸籍謄本等が複数部数送られてくる可能性があることを想定して、大きめの封筒を準備し、また、重さが超過する可能性を想定しておくことです。
出来れば、A4サイズが入る定形外の封筒を準備して、これに100グラムの料金(140円)か150グラムの料金(210円)の切手を貼っておくことをおすすめします。
まとめ
以上、相続に関連して、戸籍謄本等が必要となる理由を確認したうえで、それらの取得手続きについて見てきました。
戸籍謄本の取得は、意外と手間がかかる仕事です。
また、実際に届いた戸籍謄本等についても、見慣れないと、何が何だか分からないということもあります。
特に、改製原戸籍で「戸主」の表示があるものなどが出てきた場合には、何が何だか意味不明となってしまう場合もあるかもしれません。
それをそのままにしておくと、最終的に、戸籍謄本の一部が不足していたといった大惨事になりかねません。
もし戸籍謄本の見方が分からなかったり、なにをどう請求していいかわからないといった場合には、できるだけ早く、弁護士、司法書士、税理士、行政書士等の専門家に相談してみるといいでしょう。
(提供:相続サポートセンター)