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モノが売れない。サービスが売れない――大量生産・大量消費の時代が過ぎ、モノやサービスが飽和した現代。「買ってもらう」ことは簡単ではない。だが、モノが売れない時代だからこそ「高い価格で売る」ことが重要であり、その「値決め」こそが経営者の役割だ、と自身も約40年にわたり輸入ビジネスに携わってきた大須賀祐氏は説く。なぜ、「価格」が大事なのか。その理由を著書「価格はアナタが決めなさい。」から読み解こう。
収益性を高めるなら「価格」が重要
経済産業省の発表(※)による企業のROE(自己資本利益率)の国際比較では、米国の22.6%、欧州15.0%に対して、日本はわずか5.3%。国際的にみても、日本企業の収益性が低いことがわかるだろう。
出典:経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書」(2014年8月)
多様なモノやサービスがあふれている今の時代に、「いいモノを作れば売れる」「使ってみればわかる」という昔ながらのやりかたを踏襲し、利益の薄い低価格競争を繰り広げて疲弊している。これが、日本企業の低い収益性の正体だ。
収益、すなわち手元に残る現金を決定づけるものは、「売上」でなく「粗利」だ。あなたが稼ぎたい、ビジネスを成功させたいと考えるなら、十分な利益を見込み、高い粗利率を確保できるだけの価格設定こそが重要なのだ。
なぜ、高い値段を付けられないのか
「適正な価格を付けるべき」と頭ではわかっている。でもなかなか踏み切れない……そう嘆く経営者は多いだろう。大須賀氏は、高い価格に踏み切れない原因として、以下の5点を挙げている。どれかひとつでも、思い当たるものがあるのではないだろうか。
適正な価格設定に踏み切れない5つの原因
1.商品力が十分でない | 商品やサービスがお客様に満足してもらえるクオリティに達していないなら、まず高める努力を |
2.原価にとらわれている | 顧客に提供する価値が高いのであれば製造(仕入れ)原価に関係なく、価値に合った価格を付けるべし |
3.相場主義 | 競合他社やネットでの相場を参考に価格を決めるとレッドオーシャンな価格競争に巻き込まれてしまい、中小零細企業には不利。相場とは異なる独自の価格で勝負すべし |
4.高値を付ける自信が持てない | 提供する商品やサービスに自信があるなら、価格に見合う価値があるという覚悟をもって、もっと高い価格を提示すべし |
5.儲けるのは「悪」とする文化的な壁 | 適正な利益を得ることで会社も税金を納めることができ、従業員の暮らしも安定する。稼ぐことは「悪」ではなく社会福祉 |
「価格を自分で決められるビジネス」に共通する3つのポイント
利益を確保できる価格を自分で決められるビジネスには、共通する3つのポイントがある、と大須賀氏は言う。
一つめのポイントは「メーカーである」こと。メーカーとは、ここではその商品やサービスを「最終的な形にする立場」のことを指す。
ユニクロは、もともとは山口県にある小さな衣料品量販店だった。それが、SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel=生産機能を持ったアパレル専門店)という概念を自社に取り入れ、自社開発の商品・ブランドを店頭で展開し始めた。その後、世界的なアパレルブランドに変貌を遂げたのは周知のとおりだ。
「メーカー」といっても、必ずしも企業とは限らない。街の小さなケーキ屋も「ケーキメーカー」、キャベツを生産している農家も「キャベツメーカー」。だれもが「メーカー」になれる可能性を持っているのだ。
「差別的優位性」があれば、選ばれる
二つめのポイントは「差別的優位性」。提供するモノやサービスに、他と比べて差別的優位性があれば、ライバルより高値であってもお客様に選ばれる。大須賀氏は、差別的優位性のパターンを1.オンリーワン型と2.トップランナー型に区分している。
1.オンリーワン型…自社しか持っていない独自の機能やノウハウを持っている
2.トップランナー型…これまで世の中になかったものを最初に創り出し、提供する
オンリーワン型は、さらに2つのパターンに区分される。
ひとつは「付加価値を高める」パターン。商品なら形やデザイン、機能。そのほかにも商品の提供方法、アフターサービスの充実など、付加価値を高めるアプローチはいくらでもある。
もうひとつは「ニッチを狙ってオンリーワンになる」パターン。大企業の主戦場である大きなマーケットでなく、ターゲットの限られた小さなマーケットなら、競争相手が少ないため差別的優位性を出すことが可能だ。
機能ではなく「価値」を伝えるスキル
三つ目のポイントは、「価値」を伝えるスキルだ。差別的優位性を持っていても、お客様にその価値が伝わっていなければ、それは存在していないのと同じである。
価値を伝える基本は、「ベネフィット」を伝えること。その商品を使うことで、どんな不便や不満を解消することができるのか。どんな欲求を充足させられるのか。つまり、商品を購入した先の「未来」を想像させることが重要だ。
エスキモーに冷蔵庫を売るのに「製氷機能がナンバーワンで氷が短時間でできます」と言っても響かない。ところが、「これでアザラシの肉を保管すると凍らないのです」と伝えれば、冷蔵庫の必要性に気づかせることができるだろう。
「値決め」こそが経営である
京セラの創業者である稲盛和夫氏は、「値決めは経営である」と言っている。まさにそのとおりで、値決めによって、稼げるかどうか、会社を持続的に成長させることができるかが決まるのだ。
繰り返すが、価格を決めるうえでは原価や市場の相場、清貧を美徳とする文化など、さまざまなバイアスがかかる。特に、現場の従業員はそのバイアスにとらわれてしまいがちだ。それを取り払い、自信を持って適正な価格を決めることこそ、まさに経営者の役割といえるだろう。
文・堀尾大吾