贈与税の税率はどのような仕組みでかけられることになるのでしょうか。
贈与税は贈与の仕方によって、異なる税率をかけて算出されることになります。
本記事では、贈与税はどのような税率の仕組みに基づいて計算されるかについて、具体例を用いながら分かりやすく解説していきます。
また、贈与税を少しでも抑えるために、節税対策についても言及しています。
贈与税は可能であれば納めたくないものではありますが、全体像を理解し少しでも安く済ませる方法をご理解頂けますと幸いです。
1. 贈与税の対象となる贈与とは?
贈与税は、「贈与する」という行為に対して掛けられる税金のことを言います。
それでは、そもそも税務上贈与するというのはどのようなことを指すのでしょうか。
贈与の意義について考えることで、贈与税の仕組みを整理していきます。
1-1. 贈与が適法に成立するために
「贈与する」という行為は、ある者が別のある者に対して、金銭等の価値のある財産を無償で譲り渡すという行為を指します。
贈与は、法律上「双務契約」とされており、片方がもう片方に対してした意思表示が合致している必要があります。
つまり、贈与者が贈与の認識があっても贈与を受ける者が贈与の認識がなければ贈与は成立しないことになります。
よって、無断に行われた譲渡は、正式な譲渡と考えられない可能性が高いということを覚えておきましょう。
贈与は当事者間の口頭でのやり取りでも成立しますが、口頭のみでは本当に贈与の行為を行ったのかどうか後から疑われてしまうリスクがあります。
このため、贈与をした場合には適切に贈与契約書を作成して、書面上で贈与の内容を記録しておくのが無難であるといえます。
1-2. 一般贈与財産と特例贈与財産
贈与は、贈与の当事者によって、大きく「一般贈与財産」と「特例贈与財産」とに分けることが出来ます。
一般贈与財産とは、特例贈与財産以外の財産のことを言います。
ここで、特例贈与財産について確認しますと、直系尊属と呼ばれる両親や祖父母より成人した子供・孫が贈与を受けた財産のことを言います。
特例贈与財産は、一般贈与財産よりも贈与税が安くなっていますので、家族で贈与税の税率を安く抑えるために、誰に贈与すべきか考えながら行うのがポイントとなります。
1-3. 税務上の「贈与」に該当する行為
贈与というと一般的にイメージされるのは、財産をある人からある人に移転させるという単純な構造ですが、税務上の贈与は、これよりももう少し広い概念を指します。
税務上では、家族からお金を借りたが現実的に特に返済しなくても良いという場合、若しくは金銭の負担をしていないにもかかわらず、不動産などの財産の名義が入る場合なども贈与として考えられます。
1-4. 贈与税の申告手続き
以下に記載しています贈与税の計算の上、税金が発生することになれば、お住まいを管轄する税務署に贈与税の申告手続きをしなければいけません。
計算の対象となる期間は、毎年1月1日から年末までの間であり、これを翌年の2月1日から3月15日までの期間内に申告をすることになります。
贈与税の計算に不安がある方は、専門家の税理士に相談して手続きをするようにしましょう。
2. 贈与税の計算の手順を押さえましょう
贈与税の具体的な計算方法について確認していきます。
前述の一般贈与財産並びに特例贈与財産の種類に応じて、支払う贈与税の金額はどのように変わるのかという観点に着目して、見て頂けますと違いが分かりやすくなるはずです。
2-1. 国税庁の早見表
それでは、実際に贈与税がどのように計算されるのか見ていきましょう。
贈与税を計算するために必要となる税率については、国税庁のホームページより公開されていますので、誰でも確認することが出来ます。
【一般贈与財産早見表】
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
【特例贈与財産早見表】
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
上記図は、一般贈与財産及び特例贈与財産の早見表を並べたものですが、よく見ると特例贈与財産早見表の方が一般贈与財産早見表よりも税率が優遇されていることが分かります。
特例贈与財産の方が同じ課税価格であれば、税率も安く、控除額も大きくなっていますので納める税額も少額で済むことになります。
参考:国税庁
2-2. 実際に税金の計算をしてみましょう
それでは、上記早見表を用いて、実際に贈与税の計算方法について解説していきます。
贈与税の計算には、基礎控除として毎年110万円までの非課税での贈与が認められています。
上記早見表の「基礎控除後の課税価格」を算出するためには、以下のような計算式を用いることになります。
「贈与税の課税価格 = 贈与した金額 - 110万円(基礎控除)」
例えば、500万円の贈与を行った場合には、500万円-110万円=390万円が課税価格となります。
よって、贈与した金額に対して、そのまま税率がかけられることはありません。
今度は、AさんがAさんの長い付き合いのある友人に贈与をしたとしましょう。
この場合、まず贈与した財産の種類を確認することになりますが、上記で見た通り、特例贈与財産と言えるためには、両親や祖父母が成人した子供や孫に対して贈与を行うことになるところ、今回のケースはこれを満たさないと考えられます。
よって、これは一般贈与財産と判断して、計算を進めていくことになります。
したがって、今回は国税庁の一般贈与財産早見表を参照しながら、計算していきましょう。
先程と同じくAさんは500万円の贈与を行った場合には、課税価格は390万円(500万円-110万円)となります。
これに税率をかけて、控除金額を差し引くことで贈与税を算出することが出来ますので、計算結果は以下のようになります。
390万円 × 20% - 25万円 = 53万円
よって、Aさんは上記ケースで500万円の贈与を行ったことにより、53万円の贈与税を申告しなければいけないことになります。
続いて、Aさんは還暦を迎え、財産の処分方法を考えていたところ、そのうちの一部の財産として、30歳の息子に500万円を贈与することにしたというケースを考えてみます。
この場合、特例贈与財産の要件を満たすことになります。
したがって、今回は国税庁の特例贈与財産早見表を参照しながら、計算していきましょう。
Aさんが500万円の贈与を行った場合には、基礎控除を考慮すると、課税価格は390万円(500万円-110万円)となります。
一般贈与財産の場合と同様に、これに税率をかけて控除金額を差し引くことで、贈与税を算出していきます。
390万円 × 15% - 10万円 = 48.5万円
よって、Aさんは上記ケースで500万円の贈与を行ったことにより、48.5万円の贈与税を申告しなければいけないことになります。
贈与した金額500万円とすると、一般贈与財産の場合と特例贈与財産の場合とで、納める税金の金額が5万円程変わってくることになります。
3. 贈与税と相続税を組み合わせた節税方法とは?
贈与税と相続税という2種類の異なる税金を並べてみましたが、実はこの2つの税金を分析することには大変大きな意義があります。
贈与税と相続税には、その趣旨・目的から相互に関わり合いの高い税金として知られており、これらの税金の仕組みを上手く活用することで賢く節税をすることが出来るようになります。
そのポイントの一つとして、相続時精算課税制度という特殊な制度が設けられています。
これは、どのような場合に利用すべきかについても分かりやすく解説していきます
3-1. 贈与税と相続税の関連性
贈与するという行為と相続という事実の発生には、一見繋がりは何も見えませんが、それらの性質を比較・整理することで共通点・相違点が見えてきます。
贈与税及び相続税は、それぞれ、贈与・相続に対してかかる税金です。
それでは、これら贈与・相続に共通する特徴として、双方とも財産が無償で移転されるという点があります。
すなわち、贈与は売買ではありませんので、財産の取得に際して、対価として支払うべき必要はなく、相続は死亡を原因として発生しますので、財産を移転することに金銭的対価を求めることはできないということになります。
また、相続が起こりそうな際には、往々にして相続対策としての贈与を110万円の基礎控除の範囲内で行うように書籍や新聞などで記載されているのをご覧になったことはないでしょうか。
相続対策をする際には、必ずと言ってよいほど、贈与税が問題となります。
もう少し深く掘り下げるために、今度は相続税の仕組みについて見ていきます。
決定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税を計算するためには、国税庁ホームページにあります相続税の早見表を確認する必要があります。
相続税の計算をすると長くなってしまいますので、ここでは相続税の税率に注目して下さい。
上記相続税の早見表に記載のある税率と少し遡っていただき、贈与税の早見表を比較してみて下さい。
課税対象価格はそれぞれ異なりますが、税率は同じようなものが適用されることになっています。
よって、多額の金額に対してより少ない税率がかけられる相続税の方が贈与税よりも負担する税金が少なくて済むことになります。
贈与税の方が高い税率を支払わなければいけないというイメージを持って頂けましたら大丈夫です。
贈与税の目的の一つとして、相続税による方法では課税されない部分を課税するために存在するとも言われています。
参考:国税庁
3-2. 相続時精算課税制度
贈与税と相続税の制度を連動した課税方法として、相続時精算課税制度というものがあります。
この制度を利用するためには、60歳以上の両親・祖父などの直系尊属が成人した子供・孫に対して贈与を行う場合に、その時点での贈与は2,500万円までの範囲で一旦非課税となり、贈与を行ったものがなくなった際に、贈与の合計額を相続税の計算に合計することになります。
例えば、65歳のAさんは、40歳の娘に対して、相続時精算課税制度を選択して、1,000万円の贈与を行ったとします。
この時、翌年に申告すべき贈与税はかからないことになります。
一方で、数年後お亡くなりになったAさんは、自身の相続財産に加えて、相続時精算課税制度を利用して贈与した1,000万円もこれに加味して相続税を計算することになるという訳です。
この相続時精算課税制度は、やみくもに利用しても相続税が多くなってしまうだけですが、財産の状況をしっかりと見定めて利用すると大きな節約となります。
相続の場合、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という相続税の基礎控除が定められています。
仮に法定相続人が3人であるとすると、基礎控除の額は4,800万円(=3,000万円+600万円×3)になります。
すると、相続時精算課税制度により、1,000万円分の贈与を行ったとすると、相続財産が3,800万円(4,800万円-1,000万円)以内であれば、基礎控除の範囲で収まり、相続税は発生しないことになります。
このように、財産が少ないことがはっきりと認識でき、贈与を行った場合でも相続税の基礎控除の範囲で収まる見込みが高いのであれば、贈与税と相続税の制度の組み合わせにより、全く税金をかけないで済むという節税方法も考えられます。
4. 贈与税と非課税制度
贈与税には、様々な非課税制度が設けられており、利用可能な非課税制度を正しく理解することにより、大幅な節税効果を上げることが出来ます。
4-1. 110万円の贈与税基礎控除を利用しよう
贈与税の非課税制度のうち、最も良く認知されているのが110万円の基礎控除です。
相続とは違って、贈与をするタイミングはある程度コントロールすることが出来ます。
よって、500万円贈与をしたいと考えているのであれば、一気に贈与を行い、53万円(上記で確認した一般贈与財産の算出結果を使用しています)の贈与税を支払うよりも、タイミングを分散して毎年100万円ずつ贈与を行えば、全くの非課税となり1年あたり約10万円の税金を節税することが出来ます。
4-2. 住宅取得資金等の贈与による非課税制度
住宅取得資金等の贈与とは、平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、両親・祖父母などの直系尊属から、居住用住宅の新築・改築などの資金を得た場合には、省エネ等の住宅であるか否かの区分により、該当年度の非課税限度額の適用を受けることが出来ます。
ただし、適用を受けるためには所定の条件をすべて満たしておく必要があります。
その条件としては、(1)贈与者と贈与を受けた者との関係が両親と子供、祖父母と子供などの様に、直系尊属・直系卑属の関係にあること、(2)贈与を受けたものが成人していること、(3)贈与を受けた年の所得の合計が2,000万以下であること、(4)今まで住宅資金等の贈与の非課税制度を使用したことがないこと、自己と一定の関係にある者から住宅を取得していないことなどがあります。
4-3. 結婚・子育て資金の贈与による非課税制度
平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に、両親・祖父母から結婚・子育てを目的とした資金管理契約に基づき手にした信託受益権、銀行等に預け入れていた預貯金等のうち、1,000万円までは非課税として処理することが出来ます。
結婚・子育て資金の贈与の制度を利用するためには、資金管理契約締結時において20歳以上50歳未満である必要があります。
この制度を利用して、非課税とすることが出来る範囲は、結婚式の挙式費用、結婚披露宴に要する費用、新居に関する諸費用のうち300万円まで、並びに不妊治療、分娩費用、子供の医療費などに関する費用とされていますので覚えておきましょう。
4-4. 教育資金の贈与による非課税制度
平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、30歳までの子供に対して、両親・祖父母から頂いた教育資金を1,500万円までの範囲で、非課税とすることが出来ます。
これにより、例えば、小学校・中学校・高校・大学の授業料の費用として利用することが出来ます。
一方で、教育の用途のために用いられるべき資金であるため、学校等の教育関係機関に対して直接支払いがなされるものである必要があります。
直接支払われない場合には、非課税枠に制限がかかりますので、相談先の税理士に相談してみることをオススメします。
5. 贈与税と時効との関係性
先程贈与税は相続税よりも高い金額を支払うことになる旨を申し上げました。
そうすると、人によっては贈与税を払いたくないと考え、申告手続きをしないという人が現れるかもしれません。
しかしながら、贈与税を申告せず時効により納税義務を免れようとする考えは問題ないのでしょうか。
贈与税を時効で処理したいという人に向けて、どのように考えて対策するべきかについて解説していきます。
5-1. 贈与税の時効期間
贈与税は時効により消滅するまでに最低でも6年間待たなければいけません。
ここから、贈与税の時効消滅を目論む人には、1年加算されて期間が延長されることになります。
それだけでも長期間の時間が必要ですが、時効完成を妨害するいくつかのハードルがあります。
贈与税は頻繁に把握されるわけではありませんが、自主申告しなくても相続発生時や不動産購入時には税務署からの調査で露呈するリスクが高くなってしまいます。
更に時効には「時効の中断」というシステムがあり、税務署から贈与税未払いの督促状が届くと、時効期間の計算を初めからやり直さなければいけないことになってしまいます。
現実的にも贈与税を時効により逃れられたケースはほとんど見られないと言われています。
5-2. 贈与税未払いのペナルティ
贈与税を期限通りに申告せず、未払いのまま放置してしまうと、税務署より追加のペナルティを支払わなければいけないことになります。
これにより、延滞税・無申告加算税・過少申告加算税などの税金を負担することになります。
これらの税金は、悪質な税金逃れをしようとすれば、それだけ重いペナルティを負担しなければいけない仕組みになっており、また支払いの期間が延びれば延びるほど高額の税金を追徴しなければいけないことになります。
5-3. 贈与税は適切に納めましょう
贈与税だから少しくらい申告しなくてもバレないという考えは改めましょう。
前述の通り、贈与税を未申告にしておいても時効完成が期待される確率は極めて低いものです。
また、万一暫くの間時効期間が経過しても、途中で時効の中断手続きを取られ、時効期間の計算をリセットされるとほぼ完成の見込みはなくなってしまいます。
更に悪いことに、贈与税を期限内に申告しないと、税務署よりペナルティとして追徴の負担を命じられることになります。
贈与税を避けるのではなく、本記事でご紹介しましたような非課税制度を利用して賢く贈与税を納めるのが得策と言えるでしょう。
6. まとめ
贈与税というと、よく聞く言葉でもありますのでなんとなくの意味で理解してしまいがちですが、本記事を最後までお読み頂いたことでより専門的なイメージが付いたのではないでしょうか。
贈与税が発生する財産には、一般贈与財産と特例贈与財産とがあり、どのような贈与をするかによってかけられる税率が異なりました。
贈与税の申告額を少しでも抑えるために各種非課税制度を積極的に利用するようにしましょう。
日頃から自身に関わる税金に興味を持っていると、利用可能な非課税制度・減税制度と出会う可能性も高まります。
あくまでも贈与税をきちんと納税するという方向で、いかにして納税額を少なくすることが出来るかという思考を持つことが重要です。
個別具体的な贈与税の計算並びにさらに詳しい節税方法などは専門家の税理士までご相談下さい。
(提供:相続サポートセンター)