いざ相続が発生した時に、一体誰に相談すればよいのかについて非常に悩むところです。
相続の問題は一生のうちにそう何度も経験することではありません。
また、問題が発生した場合には基本的に親族が相手になります。
親族とは相続が発生してからも関係は続きます。
後悔しない対応ができるように、しかるべき専門家にきちんと相談したいものです。
1. 相続と言っても色々な場面がある
相続と一口でいっても、さまざまな局面がありいろいろな種類の問題があります。
例えば、実際に被相続人が亡くなりすでに相続が発生している場合と、これから起こるべき相続について節税や各種対策を立てる場合とは相談する相手が異なります。
実際に相続が発生した場合においても、遺産分割でもめている場合に仲裁に入ってもらうことが必要なケースもあれば、金額も僅少で協議もスムーズに終了しあとは粛々と手続きを行うだけというケースもあるでしょう。
当然にそれぞれのケースで相談する先は異なります。
来るべき相続に対して対策を立てる場合については、税理士により得意分野が違うので相談先の選定には特に気を遣います。
また、実際に節税対策のために資産運用を行う場合にも、資産の種類に応じて異なる機関に相談することも必要です。
預貯金や有価証券の関係であれば銀行に相談します。
保険を使った節税対策を行う際には、相続に詳しい保険会社の営業マンに相談することになります。
保険の場合は、各社取り扱う商品が異なりますので、自分の狙った効果が得られる商品を扱っている保険会社に依頼する必要があります。
不動産により節税対策を行う場合には、実際に優良な運用先を探してくれる不動産業者の協力も必要です。
相続の問題は大きなお金が動くことが多いため、対策の方法によっては大きな金額の有利不利が生じる可能性があります。
後悔しない相続を行うために、しっかりと相談先を選定することが必要です。
2. 具体的な手続きを依頼する場合は専門家へ
実際に相続が発生した場合や、遺言等を使って行う相続対策が確定している場合には、各手続きに応じた専門家に依頼することが必要です。
国家資格を有する専門家には、それぞれ「独占業務」があります。
この範囲に対応した専門家に依頼することになります。
例えば、行政書士で対応できる業務を弁護士も行うことができる場合もあります。
この様なときには料金も異なりますので、どちらに頼むべきなのかは内容に応じて考える必要があります。
3. 税理士は相続税の申告代理
相続が実際に発生すると、原則的に10ヶ月以内に相続税の申告書を提出して税金を納付します。
この申告書の作成代理を行うことができるのが税理士です。
相続税額が発生する案件については税額が大きな案件から小さな案件まで、基本的に税理士に申告書の作成代理を依頼します。
相続税が発生するかどうかが不明な場合も、税理士等に調査を依頼することになります。
遺言書の作成や、遺産分割協議書の作成を他の専門家に依頼したとしても、最終的な申告書の作成は税理士が行います。
個人の所得税の確定申告等とは異なり、相続税については税務知識のない一般の人には相続税の申告書の作成は不可能です。
この意味では、相続税の実務に一番幅広い経験を有する専門家と言えそうです。
4. 弁護士は頼れる第三者
相続が発生した時に必要なことと言えば、誰でも相続税の申告と税金の納付を考えるのではないでしょうか。
実際にはここにたどり着くまでの過程が非常に重要です。
依頼者にとって有利な内容で協議が完了しているかの確認はもちろん重要です。
また、身内同士でのトラブルに発展することは避けたいところです。
弁護士は、依頼者の代理になることもできますし、第三者として仲裁に入ることも可能です。
相続に関する話し合いでは、自分の利害に大いに関係する内容を親族同士で話し合うことになります。
時には感情的になってしまうこともあるでしょう。
この様なときに弁護士が第三者として話し合いの場に参加することによって、法的根拠をもって話し合いが円滑に進むように促してくれるでしょう。
その場に弁護士がいるだけで無理な主張や無謀な要求をさせない心理的効果もあると思います。
素人だけの会議では、強く主張した方が得をするという何とも理不尽な原理があることは皆さんが経験済みだと思います。
会議のメンバーに専門家がいるとこうは行きません。
相続放棄や限定承継などの重要な意思決定が必要となるときには、その内容をわかりやすく説明してくれます。
遺産相続の実際の手続きにおいて、法律の専門家として非常に頼りになる存在です。
5. 司法書士は登記手続きの専門家
相続財産のうち、土地や建物などの不動産については法務局への登記が必要です。
登記は第三者へ自分の権利を主張する非常に重要な手段です。
実は不動産の所有者が亡くなった時に名義人を変更することは法律上の義務はありません。
それでも、正式に相続を受けたのであればあとからトラブルになることを防ぐために、迅速・正確に手続きを行うことをおすすめいたします。
平成26年の国税庁の発表によれば、相続財産のうち金額ベースで不動産の占める割合は半分近くにもなります。
相続に関する問題に対処するときに、不動産の関係はしっかりと対応する必要があります。
司法書士は不動産実務に非常に長けている場合が多いです。
相続財産の中に不動産がある場合には、早めに司法書士に依頼することをお勧めいたします。
6. 行政書士に頼めることは積極的に依頼しよう
行政書士の独占業務は役所に提出する許認可等の申請書類の作成代理がメインです。
行政書士の業務範囲は非常に幅広く、いろいろな分野に及びます。
相続の関係でいえば、遺産分割協議書の作成や、有価証券・預貯金口座の名義変更です。
家庭裁判所での相続放棄手続きは司法書士と異なり行うことはできません。
また、細かい手続きですが、相続の手続き上戸籍謄本や除籍謄本、住民票などを取得する必要があることがあります。
この様なときには、国家資格者として業務の範囲であれば、職務上請求書を用いて委任状なしで取得することができます。
これらの手続きについては、実は司法書士も可能なものになります。
また、弁護士と業務の範囲が重なることもあります。
これら重複する範囲の手続きについて行政書士に依頼するメリットは費用の安さです。
同じ手続きでも、弁護士に依頼するのと行政書士に依頼するのでは大きな料金の開きがあります。
相続税対策のスキームの一部として遺産分割協議書を作成する場合などは、他の相続予定者やその他の人との調整等が必要になり、弁護士に依頼することをお勧めいたします。
反対に、内容が簡単な場合やトラブルの余地がないものについては積極的に行政書士に依頼することによって費用を節約することができます。
7. まずは無料の公的機関を利用しよう
相続税が実際に発生したわけではないものの、漠然とした不安を抱えている人も多くいると思います。
また、相続が実際に発生してしまったものの、何から手を付けてよいかわからないという場合もあると思います。
この様なときには、公的機関等が実施する無料の相談を利用するとよいでしょう。
各相談所にも対応できる範囲がありますので、それぞれの機関がどのような内容の相談を受け付けてくれるのかをしっかりと確認することが重要です。
8. 税務署では相続税額の基本的な計算方法を聞く
税務署は全国12の国税局(沖縄国税事務所含む)に分かれています。
それぞれの国税局では地域ごとにたくさんの税務署に分かれています。
どの税務署の電話をかけても各税務署への個別の相談以外は、税についての相談窓口にまわされることになります。
ここでは、相続税についての一般的で基本的な内容を質問することができます。
相続税については、他の税目と比較して多くの前提や仮定により状況が異なりますので、電話でのやり取りについて特に限界があります。
それでも、自宅に居ながらいつでも相談できることは非常にすばらしいことです。
積極的に活用しましょう。
各税務署に直接赴くことができれば、担当官がわかる範囲で質問に答えてくれますので、こちらも積極的に利用しましょう。
しかし、税務署では相続税の申告に必要な必要最低限度の内容しか答えてくれません。
あくまでも税務署職員は公務員ですので、納税者の側に立って親身に相談に乗ってくれることはありません。
納税額の計算方法について教えてくれるかもしれませんが、節税に関するアドバイスは一切期待することはできません。
商工会議所では無料セミナーを活用する
商工会議所は、商工業者を会員として組織される総合経済団体です。
地域経済の発展のため相続の問題は非常に重要です。
例えば、東京商工会議所においては随時100件を超える申し込み可能な相続に関するセミナーがあります。
ただし、事業承継など中小企業の運営に必要な内容が中心になるかもしれません。
このセミナーの中には、個別の相談会も多くあり、商工会議所から依頼を受けた弁護士や税理士等の専門家が対応することも多くあります。
このような専門家に無料で相談できる点は非常に良い点です。
ただし、一件当たり30分~1時間程度と短い時間で区切られてしまうことが多いため、質問する内容をあらかじめ整理しておくことが重要です。
ここでも、上記の税務署の場合と同じく基本的には一般論での質問に限られ、込み入った相談はできないと考えたほうがよさそうです。
相談会において、あまりに個別の内容や突っ込んだ内容の説明をすると専門家としてのリスクがあるためです。
日本司法支援センターも積極的に活用を
日本司法支援センターは、総合法律支援法により平成18年に設立された独立行政法人です。
民事・刑事の別を問わず広く法的トラブルを解決するための情報サービスを行っています。
日本司法支援センターのホームページにおいて、「相続」とキーワード検索をかけると実に140件もの検索結果が得られ代表的な質問とその回答が掲載(平成30年8月13日現在)されています。
ここで目的の相談内容の回答が得られない場合には、法テラスサポートダイヤルに電話をかけることによって、相談することができます。
税務署とは違い、平日の21時までの遅い時間帯や、土曜日も対応していることころが非常に利便性が高いです。
平日会社に勤めている人でも気軽に相談することができます。
9. 節税対策(資産運用)の相談相手はよく考えて
上記まで相続に関する一般的な相談先について紹介しました。
これから起こる相続について節税対策を行う場合に相談する相手を選ぶことはさらに重要です。
なぜならば、実力が問われる相談内容になるからです。
例えば、相続税額の計算において1億円の現金を持っている場合と、1億円の不動産を所有する場合には大きく納税金額が異なります。
また、同じく不動産を所有する場合においても、誰が住んでいるのか、いつから住んでいるのか、事業用に使用しているのか等、状況により評価額が大きく異なります。
このように、未来の納税に対するアプローチは詳細な計画が必要で非常に専門的な分野になります。
この様な場合には、相続税実務に精通した税理士・弁護士に依頼することが確実です。
行政書士でも遺産分割協議書の作成経験はあるかもしれませんが、実際に相続税の計算を行い納税までワンストップでサービスを行うことはできないため、総合的な戦略を立案することはできないはずです。
また、司法書士はその職務上不動産取引に非常に精通しているものの、相続税の節税スキームにおいては、使用する商品は不動産だけにとどまりません。
時には保険契約を使用することもあるでしょう。
さまざまなものの、相続税法から見た評価額について熟知している専門家が投資先を選定し、計画を立て実行するのが相続税対策です。
10. 銀行、不動産会社、生命保険会社
実際に相続税対策として資産運用を行う際には、税理士や弁護士等の専門家だけでなく、その商品を取り扱う会社にも相談することが必要です。
例えば、借金をして不動産を購入するとそれだけで相続税対策となる場合があります。
この様なときにはそもそもお金を貸してもらうことができなければ、スキームを実行することができません。
従って、銀行への相談は必要不可欠です。
また、節税のために不動産を購入したとしても、その不動産に価値がなければ長期的な投資としては失敗です。
価値の高い不動産に対して投資をするためには、不動産業界に熟知した相談相手が必要です。
不動産会社への相談も必要になるでしょう。
生命保険金は、受取人固有の財産として民法上の相続財産にはなりません。
このルールを利用して相続税対策として生命保険を組み入れる場合があります。
生命保険契約の相続対策上の理由は非課税枠の活用となりますが、そもそもの保険商品としての設計も非常に重要です。
この様な時には、保険会社の担当者に相談をして適当な保険商品を紹介してもらうことになります。
11. 総合的な窓口は誰が適当か
以上のように、相続税について相談する相手とてして内容別に確認しました。
実務上は、上記のうちの誰かに相談し範囲外の内容が出てきた際には、提携先の他の専門家等を紹介してくれることになるでしょう。
預貯金の運用について銀行に相談に行くと、提携する税理士を紹介してくれることがあります。
弁護士に相続の手続き代行を依頼すると、登記手続き部分については司法書士を紹介されることもあるでしょう。
実際には、案件が進行していくうちに適切な専門家を紹介され困ることはありません。
しかし、この各分野の専門家選びが一番重要なポイントです。
確かに、業務を最低限執り行うことができる専門家を紹介してくれるかも知れません。
各専門家において得意な分野や不得意な分野があります。
一般の人が見ただけでは判断がつかないこともあります。
この様なときには、総合的な窓口として税理士に相談することをお勧めいたします。
弁護士ほど費用が高額にならないことが多いだけでなく、問題が発生した案件からスムーズに完了した案件まで、幅広い相続に関する業務経験をもっている可能性が高いためです。
税理士が専門的な視点で、案件を検討して案件ごとの難易度や複雑さに応じて各分野の専門家を紹介してくれると納税者にとっては非常に心強いものです。
12. まとめ
相続について各分野に応じて相談先について紹介してきました。
相続税の案件はそれぞれ内容が全く異なることが特徴です。
金額的に高額の案件もあれば、基礎控除内に収まり税額の発生しない案件もあります。
私たち一般人にとっては、どの専門家も同じように見えてしまいます。
案件ごとに相談すべき専門家を選ぶことができれば、後悔しない相続ができます。
(提供:相続サポートセンター)