2024年米大統領選挙が決着、トランプ氏の圧勝となった。敗者ハリス氏にとってはバイデン政権の中枢を支えてきたキャリアそのものが政治的な制約となった。また、女性、黒人、アジア系という彼女のバックグランドが、彼女の意図しないところで “取り残されているのはマジョリティであり、白人労働者だ” とのトランプ氏の主張を強化したとも言える。
いずれにせよ明らかになったのは階層、世代、性、人種、宗教、教育、地域における格差や利害が絡み合ったアメリカ社会の鬱屈した現状であり、Make America Great Againというエモーショナルで、ストレートなトランプ氏のメッセージがあたかも普遍的なものとして響いたのかもしれない。虚実が問われることなく一方の熱狂に誘引される選挙に民主主義の危さを感じざるを得ない。
トランプ氏の再登場に世界が身構える。“戦争を直ちに終わらせる” との公約は強者による妥協の押し付けが懸念される。“ドリル、ベイビー、ドリル” と石油・ガスの採掘を鼓舞してきた氏にとってパリ協定の再離脱に躊躇はないだろう。一方、経済、通商政策については未知数だ。第1次トランプ政権を振り返るとNAFTAの見直しやTPPからの離脱は実現させたものの、45%とした対中輸入関税は半分程度にとどまった。 “移民300万人の強制送還” も実施されていない。高関税や労働力不足がインフレ要因となることは自明であり、選挙期間中の過激な公約がどのように、どのタイミングで施策化されるのか、現時点ではまさに “予測不能” である。
今後4年間、米国の外交は個別取引、個別交渉が基本になるだろう。そこで問われるのは相対での損得だ。世界の分断は助長され、地政学リスクも高まりかねない。とは言え、米国が自国第一主義に閉じたまま、文字通り製造業への回帰と脱炭素へ向かうのであれば、日本にとっては国際協調、国際貿易を主導する絶好の機会となるはずだ。ただ、それでもしっかりと “その先” の覇権を見据えて行動するのが米国の強かさでもある。いずれにせよ、気の抜けない4年間となることだけは間違いない。
今週の“ひらめき”視点 11.3 – 11.7
代表取締役社長 水越 孝