相続財産として一定の種類の宅地(住宅を置くのに使っている土地)を相続した場合には、「小規模宅地等の特例」という節税方法を使えることがあります。
ごく簡単にいうと、小規模宅地等の特例とは「宅地を相続した時には、相続財産としての評価額を低く計算することができる」というものです。
相続財産としての評価額が低くなれば、それだけ相続税は安くなりますから、節税につながるというわけですね。
宅地として使われている土地は、相続人となる人の生活の基盤となっていることも少なくないことから、相続税の負担が大きくなりすぎないように設けられている制度が用意されているのです。
ここでは、小規模宅地等の特例を利用するための条件や、実際に適用を受ける時に注意して置くべきポイントについて具体的な事例をあげながら解説させていただきます。
この記事の監修者 税理士 近藤洋司
1. 土地の基本的な評価方法
基本的に、相続税において、税計算に使う土地の価格をどのように決めているのでしょうか。
土地の評価方法で使われているのは「路線価方式」と「倍率方式」という2種類になります。
「路線価方式」は市街地にある宅地の評価に使う方法です。
その宅地が面している道路に価格がつけられており、それを基準として土地の形状などで補正しながら評価額を計算するやり方です。
一方の「倍率方式」はその宅地の固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価額を計算する方法です。
倍率については国税局が毎年見直しをしており、「倍率表」というものが作られています。
路線価図および倍率表はいずれも税務署で閲覧できるほか、国税庁のホームページでも見ることができます。
そして、自用地(自分で使っている土地)はそのままの価格となりますが、借りている土地や貸している土地は自用地の評価額から一定の割合を控除することになっています。
2. 小規模宅地の特例とは
小規模宅地等の特例は、被相続人(亡くなった人)の自宅や店舗、事務所など、事業用に使っていた宅地につき大幅に評価額を下げてもらえる措置のことです。
不動産の評価額を下げることにより、結果として算出される税額も下がることになります。
具体的には、「居住用」「事業用」の宅地に関しては80%引き、「事業用」として他人に貸し付ける土地に関しては50%引きということになっています。
いずれも取得者の要件や面積の上限がありますが、これを最大限に生かせば大幅な節税が可能になるのです。
通常、相続税対策というのは相続が開始する前に時間をかけて行うことが多いのですが、小規模宅地等の特例は「相続開始してからでもできる数少ない相続税対策」として、使える要件を満たす人は有効に利用したいものです。
3. 小規模宅地等の特例の計算方法
小規模宅地等の特例を適用すると、以下の計算式に従って相続財産の相続税評価額を減額してもらうことができます。
式1
特例適用後の相続税評価額=特例適用前の宅地の評価額−(相続する宅地の評価額×減額割合)
なお、適用を受けられる宅地には限度面積があります。
実際の宅地の面積がこの限度面積を超える場合には、上の計算式にさらに「限度面積÷実際の面積」を乗じた金額が減額されることになります(この場合は、次の式2で計算します)。
式2
特例適用後の相続税評価額=特例適用前の宅地の評価額−(相続する宅地の評価額×減額割合)×(限度面積÷実際の面積)
例えば、1億円の価値がある居住用の宅地500㎡を相続した場合には、この宅地の相続税評価額は以下のように計算します。
計算例
1億円−(1億円×80%)×(330㎡÷500㎡)=4720万円
本来であれば1億円の相続財産として相続税を計算しなくてはならないところ、この特例を適用することによって4720万円の財産として評価すればOKということになりますね(それだけ相続税の負担が小さくなります)。
なお、小規模宅地等の特例の適用を受けることができる「宅地」は、4種類に分けられ、それぞれ限度面積と減額割合が異なります。
・1 特定居住用宅地等:限度面積は330㎡、減額割合は80%
・2 特定事業用宅地等:限度面積は400㎡、減額割合は80%
・3 特定同族会社事業用宅地等:限度面積は400㎡、減額割合は80%
・4 貸付事業用宅地等:限度面積は200㎡、減額割合は50%
以下ではそれぞれの「宅地」の意味と適用条件について解説させていただきます。
4. 小規模宅地等の特例の適用を受けるための条件
4-1. 特定居住用宅地等
「特定居住用宅地」といって、被相続人が住んでいた自宅の土地、被相続人と生計を一つにする親族が住んでいた宅地がこれにあたります。
被相続人や、その家族が住んでいた宅地を相続した場合には、「特定居住用宅地等」として小規模宅地等の特例の計算を行います。
被相続人の配偶者が宅地を相続する場合には特に適用を受けるための条件はありませんが、同居の親族や、同居していない親族がこの宅地を相続する場合には一定の条件があります。
特定居住用宅地等の場合、限度面積は330㎡、減額割合は80%となります。
例えば、5000万円の価値がある400㎡の宅地を相続した場合には、以下のように相続税評価額は1700万円まで減額してもらうことができます。
計算例
5000万円−(5000万円×減額割合80%×330㎡÷400㎡)=1700万円
同居していた親族が宅地を相続する場合の条件
同居していた親族が特定居住用宅地等を相続する場合には、前の所有者が亡くなってから、相続税の申告期限が来るまで、継続的にその宅地上にある住宅に居住していなくてはなりません。
さらに、単に居住しているだけではなく、相続税の申告期限が来るまでは所有権を持ち続けている必要があります。
ただし、単身赴任等によって別の場所に住んでいた場合にも、生活の拠点が相続する宅地とその上の住宅にあるとみられる場合には、この要件に該当することになります。
同居していなかった親族が宅地を相続する場合の条件
小規模宅地等の特例についてのルールは、平成30年4月以降の相続については改正後のルールが適用になります。
いわゆる「家なき子特例」と呼ばれている法改正なのですが、ごく簡単にいうと次のような形で小規模宅地等の特例のルールが変わります。
従来、小規模宅地等の特例は亡くなった人の配偶者や、同居していた親族が宅地を相続した場合に、その宅地の相続税評価額を大幅に減額してもらえるというものでした。
それが、今回の特例によって「亡くなった人に配偶者か、同居していた親族も相続人としていない場合には、別居していた親族が相続人となる場合に、小規模宅地等の特例が適用してもらえる」という形に代わりました。
家なき子特例の条件
なお、別居していた人が相続人となる場合に小規模宅地等の特例を適用してもらうための具体的な要件としては、3年以上、「自分の持ち家に住んでいない親族」つまり、賃貸アパートなどに住んでいる人であることが必要になります。
自分のマイホームを持っていない人に適用される特例という意味で、「家なき子特例」と呼ばれるわけですね。
また、相続が発生してから10カ月間は相続した宅地を処分せずに所有し続けることも条件となりますから、注意しておきましょう。
亡くなった人が住んでいた宅地に一緒に住んでいなかった場合には、以下のような条件を満たしていないと小規模宅地等の特例を適用してもらうことができません。
- 亡くなった人に配偶者がいないこと
- 亡くなった人と同居していた別の相続人がいないこと
- 相続開始前3年以内にマイホームを取得していないこと
- 相続税の申告期限まで、相続する宅地の所有権を持っていること
4-2. 特定事業用宅地等
「特定事業用宅地」といって、被相続人や生計を一つにする親族の事業に使われていた宅地のことです。
被相続人やその家族が自営業の店舗等として宅地を使っていた場合、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
ただし、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、事業を引き継ぐ親族がその宅地の所有権を取得して、相続税の申告期限がくるまで事業を継続していなくてはなりません(所有権も相続税の申告期限まで持ち続けていないといけません)。
なお、特定事業用宅地等の場合、適用される限度面積は400㎡、減額割合は80%となります。
例えば、6000万円の価値がある500㎡の宅地を相続した場合には、以下のように相続税評価額は2160万円まで減額してもらうことができます。
計算例
6000万円−(6000万円×減額割合80%×400㎡÷500㎡)=2160万円
4-3. 特定同族会社事業用宅地等
「特定同族会社事業用宅地等」とは、親族が50%以上の株式を有するオーナー企業が事業用に使っている宅地です。
特定同族会社事業用宅地等の限度面積と減額割合は 2 の特定事業用宅地等と同じで、限度面積は400㎡、減額割合は80%です。
4-4. 貸付事業用宅地等
「貸付事業用宅地等」とは、被相続人やその家族が不動産投資等に使っていた宅地のことをいいます。
ここでいう不動産投資というのは住宅アパートの貸付や駐車場や駐輪場などの事業のことですが、どのような形で不動産投資を行なっていたかによって適用条件が微妙に異なるので注意が必要です。
貸付事業用宅地等の場合、限度面積は200㎡、減額割合は50%となります。
例えば、1億円の価値がある500㎡の宅地を相続した場合には、以下のように相続税評価額は8000万円まで減額してもらうことができます。
計算例
1億円−(1億円×減額割合50%×200㎡÷500㎡)=8000万円
5. 小規模宅地等の特例を利用する際の注意点
小規模宅地等の特例を使う場合には、以下のような点に注意しておく必要があります。
5-1. 複数の宅地を相続した場合
複数の宅地を相続した場合には、それぞれの宅地の用途が同じである場合と、それぞれ異なった用途で宅地をもっている場合とに分けて考える必要があります。
それぞれの宅地の用途が同じである場合
複数の宅地の用途がすべて同じである場合(すべて居住用である場合や、すべて事業用である場合など)には、シンプルに「限度面積」を考慮して小規模宅地等の特例による評価減を計算します。
例えば、200㎡の居住用宅地A(3000万円)と、300㎡の居住用宅地B(4000万円)の2つを相続した場合には、これら2つを合算して500㎡の宅地として限度面積の範囲内で小規模宅地等の特例による評価減を計算します。
計算例
3000万円+4000万円=7000万円
200㎡+300㎡=500㎡
7000万円−(7000万円×減額割合80%×330㎡÷500㎡)=3304万円
ただし、居住用宅地として認められるのは亡くなった人が生活の拠点としていた宅地だけですから、もし別荘などとして使っていたような場合や、週末だけしか利用していなかったような場合には小規模宅地等の特例は適用できません。
複数の宅地をすべて居住用宅地として認めてもらえるのは、例えば、被相続人が宅地Aに居住し、その被相続人と生計を一つにしている親族が別の宅地Bに住んでいるというようなケースが考えられます。
それぞれ異なった用途で宅地をもっている場合
居住用宅地として持っていた宅地、事業用に使っていた宅地…というように、異なる用途で被相続人が所有していた宅地がある場合には、小規模宅地等の特例の計算にあたっては「調整計算」を行う必要があります。
調整計算の行い方は複雑ですから、土地相続についての実務経験が豊富な税理士等に相談するようにしましょう(平成27年以降は小規模宅地等の特例についてのルールが変更となっていることにも注意を要します)。
5-2. 生前贈与に注意
相続税対策の基本は、生前に遺産として残す財産をできる限り家族に分配しておくことです。
そのため、生前贈与という形で財産を分け与えるということがよく行われるのですが、もし小規模宅地等の特例を適用できる宅地を生前贈与してしまうと、小規模宅地等の特例を使うことができなくなってしまいます。
小規模宅地等の特例は、多くの場合は贈与税を負担して生前贈与を行うよりも節税効果としてより効果が高くなりますから、安易に生前贈与の方法を選択してしまわないように注意しておきましょう。
逆贈与を使って小規模宅地等の特例を活用できるケース
ただし、あなたが所有している宅地で、あなたの家族がアパートを建てて不動産投資を行なっているような場合には、贈与を活用することによって小規模宅地等の特例を活用できるケースもあります(このままの状態だと、小規模宅地等の特例は使えません)。
理由としては、親族が所有している土地の上に事業用にアパートを建てて不動産投資を行なっている場合、その土地は「使用貸借」となるため相続財産である宅地は「事業用宅地」には該当しないためです。
そこで、相続人となる予定の人から、宅地を持っているあなたに対してアパートを贈与してもらうことが考えられます(相続人から被相続人予定者に対して贈与を行うので、「逆贈与」といいます)。
こうすることによって被相続人となる見込みのあなたが宅地とアパートの両方を所有している状態になりますから、将来的にあなたが亡くなって相続人が宅地とアパートを相続する際には、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を受けることができることになります。
駐車場を相続するケースの注意点
相続した宅地が駐車場として不動産投資に使われている場合にも、小規模宅地等の特例を適用して相続財産としての価値を低く評価してもらうことができます。
具体的には上で説明させていただいた「4 貸付事業用宅地等」として限度面積は200㎡、減額割合は50%の適用を受けることが可能になります。
ただし、駐車場の場合には特殊な条件があります。
具体的には「宅地の上に何の構築物もない、いわゆる青空駐車場の場合は、小規模宅地等の特例を適用できない」という扱いになっているのです。
駐車場として使っている宅地に小規模宅地等の特例を適用してもらうためには、アスファルトや砂利を使って舗装されていることや、機械式の構築物が設置されていることが条件となります。
単にロープを張って区画しているだけという場合や、止め石を設置しているだけという状態の場合は、小規模宅地等の特例は適用されないので注意しておきましょう。
農業に使っている土地を相続する場合の注意点
農業に使っている土地を相続する場合には、小規模宅地等の特例を適用できるかどうかは「その土地をどのような形で使用しているか」によって判断が異なります。
具体的には、その土地を耕作のために使っている時(ビニースハウスなどがある場合を含みます)には、その土地は「農地」と判断されるため、「宅地」に対してのみ適用できる小規模宅地等の特例は適用できないことになります。
一方で、農業機械やトラクターなどを保管するためにその土地を使用している場合には、その土地は「農地」ではなく、「特定事業用宅地等(上の②です)」として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
なお、上でも説明させていただいた通り、特定事業用宅地等に小規模宅地等の特例を適用してもらうためには、相続税の申告期限まではその宅地の所有権をもって事業を継続している必要がありますから注意しておきましょう。
家族が老人ホームを利用していた場合
居住用宅地として小規模宅地等の特例を適用してもらうためには、亡くなった人や同居親族がその宅地を生活の拠点としていたことが条件となります。
そのため、亡くなった人が老人ホームなどを利用しており、宅地には住んでいなかったという場合に小規模宅地等の特例を使うことができるかどうかが問題となります。
結論から言うと、亡くなった人が老人ホームを利用していた場合でも、相続した宅地について小規模宅地等の特例を適用してもらうことは可能です。
そのための条件としては、亡くなった人が要介護認定または要支援認定を受けていたことや、宅地を他人に賃貸などの形で使用させていないことがあります。
また、これらの認定の申請中にその方が亡くなってしまったような場合でも、相続発生後(亡くなった後)に市区町村から要支援認定が認められれば、小規模宅地等の特例を適用してもらうことができます(市区町村による要支援認定の効果は申請日に遡って適用になるためです)。
まとめ
今回は、相続財産に宅地が含まれる時に利用できる節税方法である「小規模宅地等の特例」について、適用を受けるための条件や注意点について解説させていただきました。
小規模宅地等の特例を利用すると、相続税の負担を大幅に減らすことができる可能性がありますが、本文で説明させていただいたように注意を要するようなケースもあります。
相続に関する税金の疑問点については、相続税対策を専門としている税理士に相談することでわかりやすく対策方法を教えてもらうことが可能です。
多くの場合は初回の相談料等は無料で受け付けてくれますから、気軽にアドバイスを求めてみると良いでしょう。
(提供:相続サポートセンター)