免税事業者
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内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

消費税申告をする必要のない免税事業者にとって、日ごろ消費税を意識することはないかもしれない。しかしながら軽減税率の導入やインボイス制度の導入など、免税事業者にとっても消費税を意識せざるをえない状況に変わりつつある。今回は、免税事業者が知らなければならない、消費税の内容をみていこう。

免税事業者の条件は?

消費税では、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は納税の義務が免除されており、その事業者のことを免税事業者という。免税事業者となるかどうかは個人事業者の場合、原則として前々年の課税売上高で判定する。法人の場合は原則として前々事業年度の課税売上高で判定する。

なお、基準期間が1年でない法人の場合は原則として1年相当に換算した金額によって判定することとされている。具体的には、基準期間中の課税売上高を、基準期間に含まれる事業年度の月数で割った額に12を掛けて計算した金額により判定することになる。課税売上高は、輸出などの免税取引を含め、返品、値引き、割戻しをした対価の返還等の金額を差し引いた額となる。

基準期間において課税事業者であった場合は、その判定は税抜にて行い、免税事業者であった場合には、税込にて行うことになる。新たに設立した法人については、設立1期目及び2期目の基準期間はないため、原則として納税義務が免除される。

しかし、基準期間のない事業年度であっても、その事業年度の開始日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である場合や他一定の条件に該当する場合には、納税義務の免除はされない。

免税事業者は顧客から消費税を請求できる?

免税事業者は消費税の納税を免除されているため、「顧客に対して消費税を請求できないのではないか」という誤解が生じることがある。消費税は、免税事業者と課税事業者でその取扱いを(現行制度上は)変えていない。免税事業者であっても、問題なく消費税を請求することはできる。

消費税法や国税庁が発表している法令解釈の通達においては、免税事業者は消費税を請求してはいけない旨の記載は存在しない。また、仮に免税事業者が消費税を請求できないことになれば、仕入れ時に支払った消費税を自分で負担しなければならなくなる。

なお、消費税が10%に引き上げられた2019年10月1日から「区分記載請求書保存方式」が導入されているため、免税事業者であっても請求書を発行する際には税率8%の品目と税率10%の品目を分けて表示する必要がある。

「消費税転嫁対策特別措置法」とは?

消費税増税時に注意しておきたいのが、取引先による消費税の転嫁拒否といった不当行為である。そのような消費税の転嫁拒否等を取り締まるため、消費税転嫁対策特別措置法が設けられている。

2021年3月までの時限立法

消費税転嫁対策特別措置法は、事業者間取引における消費税の転嫁拒否などを禁止する法律だ。正式名称は、「消費税の円滑かつ適切な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」というものである。

消費税転嫁対策特別措置法が設けられたのは、2014年4月の5%から8%への増税時、2019年10月の8%から10%への増税時に増税分の転嫁拒否が発生することが予想されたからである。このことから、消費税転嫁対策特別措置法は、2021年3月までの期間のみ有効な時限立法となっている。

消費税の転嫁拒否などを禁止する法律

消費税転嫁対策特別措置法では、買い手である事業者による消費税の転嫁拒否が禁止されている。たとえば、メーカーが下請業者に外注を出す際に、メーカーはユーザーから消費税込みの対価を収受し、下請業者はメーカーから消費税込みの対価を収受するのが通常である。

しかし、景気後退の局面などで買い手が売り手よりも強い立場に置かれると、売り手に対して、「消費税の増税分は値引きをするように(=増税分の負担はそちらでしてほしい)」という要求をすることがある。これは消費税の転嫁を阻害しており、売り手に不利益をもたらす行為だ。そこで、消費税転嫁対策特別措置法では、次のような行為を禁止している。

消費税転嫁対策特別措置法のもとでの禁止行為5つ

1つ目は「減額」といい、本体価格に消費税を上乗せした額を支払う契約をしていたにもかかわらず、支払う段階になって消費税の全部や一部を減額する行為である。これは、そもそも契約に定められた金額を支払っていない時点で契約違反であり、さらには詐欺にあたる可能性もある。特に優越的な立場にいるとき、継続的な取引の打ち切りなどをちらつかせて、受け入れることを強要することが起こり得る。

2つ目は「買いたたき」といい、消費税引き上げ前の税込価格に増税分を上乗せした金額よりも低い対価を定めることである。増税分は適切に転嫁しなければならないため、税込ベースで価格を据え置いた場合においても買いたたきとされてしまう。

3つ目は「商品購入・役務提供または利益供与の要請」だ。これは、消費税率引き上げ分を満額上乗せすることを受け入れる代わりに、特定の商品やサービスを買わせたり、その他の利益供与を要求したりすることである。

4つ目は「本体価格での交渉の拒否」だ。売り手側が、消費税抜きの価格で交渉することをもちかけているにもかかわらず、買い手がそれを拒否し、税込価格で交渉をすることは禁止されている。

5つ目は「報復行為」である。消費税転嫁特別措置法の禁止行為が行われている事実を公正取引委員会に知らせたことを理由に取引の打ち切りなど、不利益な取り扱いをすることは認められていない。

消費税の転嫁拒否については、公正取引委員会や中小企業庁長官が必要な指導・助言を行うことが法定されている。違反行為が認められた場合には、公正取引委員会が勧告を行い、その旨を公表することになっている。もし転嫁拒否等に遭遇した場合には、公正取引委員会などに相談するのがよいだろう。

課税事業者を選択した方がいい場合

消費税は納付をするばかりではない。場合によっては、消費税の還付といって、消費税の申告をすることによって、税金が戻ってくることがある。大幅な赤字になったときや大幅な設備投資をしたときに、課税売上が課税仕入れを上回っている場合や輸出事業を行っており免税売上が多い場合があげられる。

免税事業者は売上に係る消費税額を納付しなくてもよいことは当然だが、仕入れ等にかかった消費税額の控除もできないため、消費税の還付を受けることができない。このようなことから、多額の設備投資の予定がある場合や輸出業者のように経常的に消費税額が還付になる事業者等は、課税事業者を選択すると還付を受けられる。

課税事業者となるには、納税地を所轄する税務署長に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することが必要である。この届出書は原則として、適用しようとする課税期間の開始日の前日までに提出しなければならない。

この届出書を提出した事業者は、事業廃止の場合を除き原則として課税選択によって納税義務者となった最初の課税期間を含めた2年間は免税事業者に戻ることはできない。なお、免税事業者に戻るには、戻ろうとする課税期間開始の日の前日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要がある。

インボイス制度と免税事業者

消費税の増税に伴い、2023年から導入される「インボイス制度」が取りざたされることになってきた。インボイス制度は、軽減税率導入に伴う税収の減少に対応して行われるもので、免税事業者にとっては、かなりの増税となる大きな改正である。

インボイス制度とは?

インボイス制度とは、正式名称とは「適格請求書保存方式」で、適格請求書等の保存を仕入税額控除の要件とする制度である。そしてこの適格請求書等を発行できるのが、消費税の「課税事業者」に限定されている。

適格請求書には、「発行者の氏名又は名称及び登録番号」「取引年月日」「取引の内容(軽減税率対象である旨の記載を含む)」「税率ごとに合計した対価の額及び軽減税率、消費税額等」「交付を受ける事業者の氏名又は名称」を記載することになっている。

現行法では、免税事業者から仕入れた場合であってもその支払った対価の額は消費税込みの金額とされ、仕入税額控除が可能であるが、今後消費税の免税事業者は適格請求書等を発行できないため、それを受け取った企業側では、仕入税額控除ができず、ケースによっては消費税の納税が増えることになる。

すると、買い手としては免税事業者に発注すると消費税分を損してしまうため、課税事業者であるか確認したうえで、仕事を発注することになる。なお、免税事業者で、売上が1,000万円に届かなくても、税務署に届出書を提出すれば課税事業者になることができる。

免税事業者はどのような対応をすればよい?

現在では、免税事業者であるか課税事業者であるかについては自己申告がない限り、外見ではわからない。しかし、今後「適格請求書発行事業者登録制度」が始まり、インターネットを通じて、「適格請求書発行事業者の氏名又は名称や本店所在地等」がオープンになる。このリストに登録がなければ免税事業者ということになり、買い手は取引をする前に課税事業者か免税事業者かわかるようになる。

インボイス制度が始まるのは2024年であるが、適格請求書発行事業者登録制度はそれより前から始まるため、事前に申請を出しておいてもいいだろう。

免税事業者からの仕入税額控除の廃止が税収減の財源に

会計検査院における研究によれば、全事業者のうち免税事業者の占める割合は4割にのぼる。消費税率が10%に引き上げられた場合には、その影響額は8,000億円に達するともいわれている。軽減税率導入に伴う税収減は1兆円にのぼり、うち4,000億円は、支出の削減によって穴埋めされることになっている。これと合わせ、免税事業者からの仕入税額控除の廃止により財源が確保される予定である。

免税事業者からの仕入税額控除の廃止は段階的に進められる

消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げ等に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額控除)を控除して計算する。現行法では、仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿や請求書等の両方を保存する必要があるが、免税事業者から仕入れた場合や事業者でない消費者から仕入れた場合も、仕入税額控除の対象になることになっている。

免税事業者からの仕入税額控除の廃止は、軽減税率導入の2019年10月から、10年間で段階的に廃止されることになっている。2023年10月にインボイス制度が導入されたのち、2026年9月までは、原則として免税事業者からの仕入税額控除はできなくなるが、経過措置として、免税事業者からの仕入れについて、80%の仕入税額控除を認めることになっている。2026年の10月からは50%の控除となり、2029年10月からは控除が認められなくなる。

免税事業者の消費税の会計処理

免税事業者がこのまま事業を継続する場合と課税事業者に切り替える場合の会計処理の違いを見てみよう。

従来の免税事業者の会計処理

免税事業者は通常、「税込経理方式」で記帳を行うことになる。税込経理方式は、税抜金額と消費税額を合わせた税込金額で仕訳に起こす方法である。たとえば、税込み550円のボールペンを売り上げた場合には、下記のような仕訳となる。

(借)現金 550/ (貸)売上 550

つまり、税込経理方式とは、消費税の金額は気にせず、総額で仕訳を起こすことといえるだろう。

なお、経費のなかには、従業員への給料や領収書に貼るための印紙代、お店の火災保険料のように消費税がかからないものもある。免税事業者で税込経理方式を採用している場合には、どんな経費に消費税がかかるのか、かからないのか気にせずに処理をすることが可能である。

免税事業者が課税事業者に変わると処理はどう変わる?

免税事業者が課税事業者に切り替わったときは、「税抜経理方式」と「税込経理方式」のどちらかを選択することが可能である。税抜経理方式とは、消費税を別建てで仕訳を起こす方法であり、先ほどの例と同じく、550円のボールペンを売り上げた場合を考えてみると、税抜経理方式の場合は、下記のように仕訳をすることになる。

(借)現金 550/ (貸)売上 500
               仮受消費税 50

受け取った金額に変わりがないが、その中に含まれる消費税を別に仕訳することになる。このように、課税事業者の場合、税込経理方式でも税抜経理方式でも処理することができる。免税事業者であれば、どの支出に消費税がかかるのか気にすることはなかったが、課税事業者になると、税込経理方式であってもどのような支出に消費税がかかっているのかということは一つひとつ把握しておかなければならない。

税抜経理方式と税込み経理方式、それぞれのメリット、デメリット

税抜経理方式と税込経理方式のどちらを採用するかは任意であるが、それぞれメリット、デメリットがある。税込経理方式のメリットは、試算表作成時点での消費税の納付額が容易に計算できること、消費税が損益に影響せず正しい損益状況が把握できることがあり、デメリットとしては経理処理に手間がかかることがあげられる。

税抜経理方式のメリットは経理処理が簡単なことであり、デメリットとしては、消費税の現状の金額の把握が容易ではなく、黒字だと思っていたのにいざ決算を組んでみたら赤字であったというような事態が起こる可能性があることである。そのため、正確な損益把握という意味で税抜経理方式は税込経理方式よりも優れている方法である。

特に課税事業者で正確な経理が求められる場合や、輸出取引を行っていて消費税の還付がある場合には税抜経理方式を採用するほうが無難である。

他にも税抜経理方式にはメリットが多い。わかりやすいのが交際費の課税についてである。資本金1億円以下の中小企業に対しては、800万円以下の交際費を損金(経費)とできることが法律によって認められている。

800万円のラインを判定するとき、税込経理方式で計上すると、消費税を含めた金額で800万円のラインが判定されてしまう。税抜経理方式ならば交際費は税抜で計上されるため、実際に支払った消費税を含んだ金額より交際費に計上される金額が低くなり、有利となる。

免税事業者は課税事業者への変更も検討してほしい

2019年10月からスタートした消費税の増税と軽減税率の導入や今後始まるインボイス制度により、現在、消費税の納税が免除されている免税事業者も何らかの対応を迫られることとなる。消費税の還付を受けるためや継続して安定的な取引を継続するには、消費税に仕組みを知り、課税事業者への変更も視野に入れてほしい。

文・内山瑛(公認会計士)