経営者に求められる資質や施策は時代によって変化します。ただし、重要なのは優れた手腕で業績を伸ばし、企業を成長させることであるのは間違いありません。また、今後は企業を長続きさせるためのサステナビリティの観点も必要になってきます。それぞれランキングを出すとともに、今後を展望します。
時代をリードする経営者や企業の姿を映し出すランキングが数多く発表されています。指標や算出手法によって、さまざまな角度からそのあり方をとらえることができるでしょう。ここでは、いくつかのランキングを紹介します。
目次
資産の多い経営者ランキング 1位はジェフ・ベゾス
米経済誌フォーブスによる世界長者番付の2019年版では、インターネット通販大手アマゾンの創業者で最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏が保有資産1,310億ドル(約14兆円)で2年連続の首位となっています。アマゾンの株価上昇で資産を増やし、2位と差を広げました。
かつて長期にわたり首位を維持していたマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が2位。グーグルやフェイスブックなどIT大手の創業者も並んでいます。
上位10人の顔ぶれは以下の通り。
1位 ジェフ・ベゾス:1,310億ドル(アマゾン/米国)
2位 ビル・ゲイツ:965億ドル(マイクロソフト/米国)
3位 ウォーレン・バフェット:825億ドル(バークシャー・ハサウェイ/米国)
4位 ベルナール・アルノー:760億ドル(LVMH/フランス)
5位 カルロス・スリム・ヘル:640億ドル(通信事業等、実業家/メキシコ)
6位 アマンシオ・オルテガ:627億ドル(ザラ/スペイン)
7位 ラリー・エリソン:625億ドル(オラクル/米国)
8位 マーク・ザッカーバーグ:623億ドル(フェイスブック/米国)
9位 マイケル・ブルームバーグ:555億ドル(ブルームバーグ/米国)
10位 ラリー・ペイジ:508億ドル(グーグル/米国)
日本人の上位は以下。
41位 柳井正:222億ドル(ファーストリテイリング)
43位 孫正義:216億ドル(ソフトバンクグループ)
69位 滝崎武光:163億ドル(キーエンス)
365位 高原豪久:49億ドル(ユニ・チャーム)
379位 三木谷浩史:48億ドル(楽天)
東京商工リサーチによる日本の経営者収入(報酬と配当の総額)でも、1位と2位は平成の名経営者と言われるファーストリテイリングの柳井社長、ソフトバンクの孫社長でした。衣料通販サイトZOZOの創業者、前澤友作氏が5位、トヨタ自動車の豊田章男社長は15位。
このようなランキングは、経営者と社員の格差を指摘する議論も呼びますが、時代の先頭を走る企業や創業者にあらためてスポットを当てる側面もあるでしょう。
世界で最も優れた経営者ランキング セールスフォースCEOが2位
ハーバード・ビジネス・レビューによる、世界で最も優れたCEOベスト100は、在任中の株主総利回り(TSR)や時価総額の増加など、優れた財務実績を達成しているCEOをランク付けしています。「ESG」(環境、社会、ガバナンス)面も評価し、長期の視点で持続的に価値を創出することを重視しています。
アマゾンのベゾス氏は、2014年には1位、2018年までトップ100に入っていましたが、2019年はESGの評価が低く、ランク外でした。スコアの20%だったESGの比重が2019年より30%に引き上げられたためです。
2019年の上位10人は以下。
1位 ジェンスン・フアン(エヌビディア/米国)
2位 マーク・ベニオフ(セールスフォース・ドットコム/米国)
3位 フランソワ・アンリ・ピノー(ケリング/フランス)
4位 リチャード・テンプルトン(テキサス・インスツルメンツ/米国)
5位 イグナシオ・ガラン(イベルドローラ/スペイン)
6位 シャンタヌ・ナラヤン(アドビ システムズ/米国)
7位 アジャイ・バンガ(マスターカード/米国)
8位 ヨハン・タイス(KBC/ベルギー)
9位 サティア・ナデラ(マイクロソフト/米国)
10位 ベルナール・アルノー(LVMH/フランス)
ランクインした日本人。
33位 家次恒(シスメックス)
36位 澤田道隆(花王)
43位 永守重信(日本電産)
52位 魚谷雅彦(資生堂)
54位 柳井正(ファーストリテイリング)
72位 高原豪久(ユニ・チャーム)
96位 孫正義(ソフトバンク)
時価総額を増やした日本の経営者ランキング 1位は北の達人コーポレーション
東洋経済が「トップの通信簿」として紹介したこのランキングは、代表者が役職に就任後直近までの営業利益と時価総額の増加倍率を算出したものです。ほかのランキングと異なる顔ぶれが並び、成長企業の意外な共通点も明らかにしています。
首位は、北海道を拠点に健康食品や化粧品のインターネット通販を手がける北の達人コーポレーションの木下勝寿社長で、時価総額増加倍率は167倍でした。同氏が2002年に創業し、北海道特産品のネット販売から始まった企業です。
3位は鳥取の菓子メーカー、寿スピリッツの河越誠剛社長で41倍でした。時価総額1,000億円以上、直近決算期の営業益50億円以上の会社では首位です。北海道銘菓ルタオのメーカーなど、観光地の土産菓子の製販会社を統括しています。河越氏は1994年、上場直前に就任。赤字メーカーの買収、立て直しに成功しました。
東洋経済は、オーナー経営で地方発祥の企業が強さを見せているとしています。
1位 北の達人コーポレーション:木下勝寿(札幌)167.71倍
2位 シノケングループ:篠原英明(福岡)46.36倍
3位 寿スピリッツ:河越誠剛(鳥取)41.66倍
4位 ゴールドウイン:西田明男(富山)40.95倍
5位 デジタルアーツ:道具登志夫(東京)38.04倍
6位 JAC Recruitment:松園健(東京)37.17倍
7位 シーティーエス:横島泰蔵(長野)35.70倍
8位 ハーモニック・ドライブ:伊藤光昌(東京)29.02倍
9位 ジーエヌアイグループ:イン・ルオ(東京)28.16倍
10位 フジオフードシステム:藤尾政弘(大阪)28.09倍
これからの経営者に求められる2つのこと
企業が利益を追求し、成長を続けることが重要であるのは言うまでもありません。そしてランキングからも分かるように、最近では企業を取り巻く環境が大きく変化してきたことから、短期的な利益だけでなく、社会の持続可能性に配慮して中長期的な企業の価値向上と競争力強化を目指すサステナビリティやCSR(企業の社会的責任)が重視されるようになっています。そのために、これまでになかった新たな価値を生むイノベーション力も求められます。
そのような中、これからの経営者には何が必要とされるのでしょうか。
1.高収益を生むビジネスモデルの確立
企業は利益を追求する上で、自社サービスの付加価値を生むビジネスモデルを持つことが鍵となります。これからの経営者にも、その推進役を果たすことが求められるでしょう。
イノベーション力に優れた企業で首位のキーエンスは、営業利益率50%超、平均年収2,000万円超という、時価総額トップ企業で圧倒的な数字を誇ります。
創業者の滝崎氏は、「商品を通して世の中を変える」という信念の下、数字を根拠にした経営と強力なビジネスモデルで、付加価値の高い商品の販売を徹底し、同社を高収益企業に育て上げました。
同社は直販体制によるコンサルティング営業力、世界初や業界初の製品を生む企画・開発力、工場を持たず生産を委託するファブレス体制を確立しており、その効果を高めるデータ活用を全社的に行っています。顧客に最適なソリューションを提案して信頼を獲得し、価格競争に巻き込まれない態勢を維持しています。
滝崎氏の退任後も、合理的に付加価値を高める経営は高収益な体質を支えているようです。最近では、社内のデータ活用のノウハウをデータ分析プラットフォームとして外販し、これまでの製造業に限らず、顧客層の拡大を狙っています。
時価総額増加倍率で首位の経営者、北の達人コーポレーションの木下社長も、安定成長を続ける仕組みを確立し、利益率の高さを維持しています。背景にあるのは、競合の少ないニッチ市場に注力し、ブームに左右されない商品を販売する、リピート率を高め、売上の7割を定期購入が支えるといった無駄の少ない戦略です。また、自社運用のインターネット広告で効率的な顧客分析を行って売上につなげています。
2.利益とともに持続的な成長を追求するリーダーシップ
デジタル技術の進展でビジネス環境が劇的に変化する中、サステナブルな経営を目指す動きが広がっています。短期の利益にとらわれず、長期的に社会の課題を解決することが競争力を高める上でも重要だと考えられるようになっています。
そうした中、企業が業績を重視すると同時に、社会や環境にポジティブなインパクトを生み出す上で、経営層に求められるリーダーシップについて、世界経済フォーラムとアクセンチュアがまとめています。
意思決定をする上でさまざまなステークホルダーの立場を考慮し、信頼を得るための「ステークホルダーのインクルージョン」、思いやりや謙虚さを示して組織メンバーのコミットメントを高めるための「感情と直感」、企業とステークホルダー間で理念を共有して前進するための「ミッションとパーパス」、新しい技術を活用し、企業の社会的責任を伴うイノベーションと社会的価値の創出を目指すための「テクノロジーとイノベーション」、データを重視し、学習と知識の共有を継続して組織の成長と社会的変革を促す「知性と洞察」という5つの要素です。
調査によると、このようなリーダーシップを推進している多くの企業で業績が好調であり、イノベーションとステークホルダーの信頼獲得を高いレベルで遂げている企業は、競合企業より優れた財務実績を上げているとのことです。
2020年の世界経済フォーラム年次総会では、「ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界」とのテーマが掲げられ、2019年の「日経フォーラム世界経営者会議」でも、ファーストリテイリングの柳井氏ら世界トップの経営者がサステナブルを取り入れた施策をアピールしていました。
このようなコンセプトが隆盛していることに対してはさまざまな見方があります。特に日本は企業ガバナンスのあり方が米国と異なる部分が大きいことなどから、経営者は日本の良さを生かしながら、それぞれの企業に適した、事業の成長に直結するCSR戦略を実践する必要があるでしょう。
これからの成長が期待される企業と経営者3選
それではこれからの成長が期待される海外、日本企業を3社紹介します。
1.マイクロソフト……サティア・ナデラ
優れたリーダーシップを備えた経営者の代表例として、マイクロソフトのナデラ氏が挙げられます。同社が低迷から脱し、巻き返しを図る過程で手腕を発揮しました。
ナデラ氏は、重要な局面で大胆にビジネスモデルを転換するとともに謙虚さや柔軟性を持って変革の舵取りをしてきました。
主力だったWindows PC市場の縮小や、スマートフォン事業の不振で守勢に立たされていた中、脱Windows化を進め、ビジネスの軸をクラウド事業へとシフトさせて高利益な体質を作り上げました。
さらに第4次産業革命の波が押し寄せる今、AIやAR、量子コンピューティングを重要分野と位置づけ、さらなるイノベーションを促しています。
またナデラ氏は、「know-it-all」(知ったふりをする)ではなく「learn-it-all」(学ぶ)という謙虚な姿勢、インクルーシビティや多様性を重視し、同社の文化を変えてきました。
「マイクロソフトの事業の本質は、実現できていない、あるいは明確に言語化されていない顧客のニーズを満たすイノベーションを起こすこと」とし、顧客に共感しながら革新する意思を明確にしています。
こうした謙虚な姿勢が、「悪の帝国」と呼ばれたかつてのイメージを払拭することにつながり、ウォルマートやBMWがITパートナーとしてマイクロソフトを選ぶ理由の1つになっていると考えられます。
IT大手への信頼が揺らぐ風潮の中、世界で評判の高い企業100社のランキングでも、マイクロソフトは2年連続で5位、IT企業では1位でした。倫理や透明性、企業の責任へのコミットメントを意識した製品やサービス展開などCSR面も評価されているようです。
市場の評価は明らかに変化しており、時価総額は2019年に1兆ドルを超え、アップルやアマゾンと世界首位を争っています。
2.アマゾン……ジェフ・ベゾス
世界を席巻するGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)は、ランキング上位の常連で、世界がその動きに注目していますが、中でも期待されるのはアマゾンでしょう。
ベゾス氏率いるアマゾンは、書籍のネット販売から広範なサービスをグローバルに展開する企業へと成長を遂げましたが、Eコマース事業の利益率は低いことで知られています。利益をほぼ投資に回す長期的な成長戦略で、小売業のビジネスモデルを革新してきました。
電子書籍やAIスピーカー、映像コンテンツなどを次々と開発しながら、大量の商品を世界中に届ける大規模な物流システムも整えています。会員制プログラムのサービス拡充や、医療、スマートホーム、実店舗事業への投資も拡大しています。
また、営業利益の6割はクラウドサービスのアマゾンウェブサービス(AWS)から生まれています。AWSはクラウド市場で圧倒的な強さを見せ、成長を続けています。
アマゾンは今後も高度な技術力と、事業を通じて蓄積したデータを活用し、強力なマーケティングや新サービスの創出を続けて、さらに躍進すると予想されます。
CSRの評価は低く、1兆ドル企業として不十分だとされていますが、改善が進んでいます。
3.トヨタ・ソニー……豊田章男、吉田憲一郎
アマゾンらGAFAは、世界中から集めたユーザーデータやAI技術などの「無形資産」を競争力の大きな源泉にしています。第4次産業革命の時代に持続的な成長を実現する上で、機械や工場といった有形なモノに代わり、ソフトウェアやデータ、研究開発など知的、人的な無形資産への投資が注目されるようになっています。
製造業への依存度の高かった日本では、米国などに比べ無形資産への投資は低水準ですが、トヨタやソニーといった代表的なモノづくり企業も、ハードからソフト重視のビジネスモデルへの転換を打ち出し始めています。
両社は最近発表された「日本で最もイノベーティブな企業」にも選出されました。フォーブスジャパンが、持続的な成長を続けるにはイノベーティブでなくてはならないとの観点から、イノベーション効率、オープンイノベーション、イノベーター集積度という指標でイノベーションを定量化したランキングです。
トヨタは豊田章男社長の下、自動車メーカーからモビリティカンパニーへと大きく舵を切り、モノづくりから人の移動にフォーカスしたモビリティサービスのプラットフォーマーへと転換を図っています。
まさに自社の定義を破壊するような業態の変革に踏み切り、長期的な視点で新たな価値を生み出そうとしています。1月には、自動運転やロボティクス、AIなどのテクノロジーを導入、検証できる実証都市の構築を発表したことも話題を呼びました。
ソニーは苦しい時期を経て、2018年に就任した吉田憲一郎社長の下、多様な事業分野のシナジーが生まれる高収益な成長企業へと変貌を遂げました。さまざまな部門を一体化したR&Dセンターを発足させるなど、事業部間の協力体制を整え、培ってきたエレキ事業のデジタル技術を、エンタテインメントや金融に展開できるようになっています。
R&D戦略では、従来のハードウェア・デバイス、新機能材料・解析技術映像技術に加え、センシング・インタラクション、AI・ロボティクスを注力領域としています。「感動を生むテクノロジーの開発」を掲げ、1月にはモビリティの安心安全、快適さやエンタテインメントも追求した自動車のコンセプトを披露したことでも注目されました。
経営者ランキングからこれからの経営者に必要なものを読み取ろう
ここまで見てきたように、企業が収益を上げ、成長するためのヒント、そして持続可能性を追求する重要性が高まっていることがランキングから読み取れます。これからの経営者は、強力なビジネスモデルを確立するとともに、長期的なビジョンを持ち、多面的な資質を備えたリーダーシップで企業の舵取りをする必要があります。また、そのような優れた手腕を持つリーダーの下、デジタルの波が押し寄せる変化の激しい時代に呼応し、従来の殻を破って新たな価値を生み出すイノベーションを起こそうと取り組む企業には今後さらなる期待が持てるでしょう。