矢野経済研究所
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10月8日、厚生労働省は毎月勤労統計調査の8月速報を発表した。就業者の現金給与総額は名目ベースで296,588円(前年同月比+3.0%)、うち一般労働者は377,861円(同+2.7%)、パートタイム労働者が110,033円(同+3.9%)となった。前者の所定内賃金、後者の時間当り給与もそれぞれ2.9%、4.8%と前年同月を上回った。しかしながら、物価変動の影響を除いた実質賃金は同▲0.6%と3カ月ぶりにマイナスに転じた。

実質賃金のマイナスは8月の消費者物価が前年同月比+3.0%と賃金の伸びを上回ったことによる。とは言え、「27カ月ぶりのプラスとなった6月そして7月も夏季賞与による押上効果によるものであって、そもそもの “基調” は変わっていない」との見方も出来る。ただ、マイナス幅は縮小しており、それだけに “夏” への期待もあった。

そこに水を差したのが、南海トラフ地震臨時情報の発出とお盆休みのタイミングで警戒が呼びかけられた台風である。結果、8月の消費支出は実質ベースで1.9%のマイナスとなった。とりわけ、自動車販売、国内パック旅行の不振による「交通・通信」と「教養娯楽」が低迷、前者が▲17.1%、後者が▲6.9%と個人消費を押し下げた。一方、極端な伸びを示したのが記録的な猛暑に伴うエアコン需要(+22.7%)とコメ(+34.5%)、カップ麺(+18.1%)、トイレットペーパー(+17.2)といった災害備蓄関連の消費である(総務省「家計調査」より)。

8月の統計データは、日本中が巨大地震に身構え、猛暑に喘ぎ、物価高に苦しんだことを伺わせる。今、中東情勢の緊迫化に伴い原油市場の先行きが懸念される。米国は雇用情勢が好転、大幅利下げの観測が遠のく。為替の修正の遅れは輸入物価の高止りを意味する。アベノミクス、官製春闘、新しい資本主義を経て、未だ “デフレ脱却宣言” には至っていない。こうした中、牛丼大手3社が「並盛300円台」を謳った期間限定の値下げキャンペーンを一斉にスタートさせた。再び “安い日本” に閉じてゆくか、“金利のある世界” での成長に賭けるか、私たちは大きな岐路にある。

今週の“ひらめき”視点 10.6 – 10.10
代表取締役社長 水越 孝