人材
(画像=Alexander Supertramp/Shutterstock.com)

「優秀な経理担当者は必要ですか?」と質問をしたときほとんどの経営者は必要であると答えるでしょう。では、質問を変えます。

「経理における優秀とは一体何を指しますか?」この質問をしたとき、明確に答えることができる経営者多くありません。その理由として、経理業務で必要とする「スキル」や経理の「環境」を詳しく把握している経営者が少なく、経理がブラックボックス化していることが原因です。

今回は、経理における優秀な人材について「スキル」と「環境」の視点から詳しく説明しますので、今後経理機能を強化したいと考えるのであれば是非参考にしてください。

「消える経理」と「残る経理」

「経理」とは「経営管理」の略で、経営資源であるお金を管理し日々の取引を数値で見える化することです。そして出来上がったものが試算表や決算書になります。
経営陣はこれらの資料をもとに経営判断をするわけですから、経理業務は非常に重要な業務と言えます。

経理業務を細分化した場合、次の2つに分けることができます。
・単調な業務(データ入力など)
・専門性を必要とする業務(会計や税務知識など)

単調な作業はクラウドツールやRPAなどITの発展により今後消えると言われますが、VUCS※つまり「予測不能な時代」では高度な専門性を必要とする業務は残り、これまで以上に専門性が求められその役割が拡大変化していきます。

※VUCAとは
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字

「優秀」である前に「有能」であれ

経理に必要なスキルの例をあげると次のようになります。

・会計に関する知識
・税務に関する知識
・正確性
・情報のキャッチアップができる
・コミュニケーション
・分析力(フィードバック)など

これらの分野において秀でた能力がある場合、優秀であると言えます。しかし、重要なことは優秀であるかどうかではなく、会社が必要とする経理スキルを有しているかどうかです。

企業の成長ステージで求められる経理機能・役割

▼創業期
・コア業務に集中するための必要最低限の経理機能
・事業拡大のための資金調達

▼成長期
・経営状況の素早いフィードバック
・内部統制の整備

▼安定期(成熟期)
・スピーディかつ正確に経理業務を遂行
・他部署と連携し円滑な経営をサポート
・効率的な経理の追及

▼変革期
・新規事業のサポート
・M&Aや事業分割など組織再編への対応

このように企業の成長ステージで求められる経理機能は変化するため、求められる経理の「優秀」の定義も必然的に変わることになります。一つの分野において優秀であっても企業の成長ステージで必要とされる能力でなければ意味がありません。将来を見据え戦略的に経理部を組成し、それに応じて必要となる経理スキルを見極めることが重要です。

業務の「遅れ」は誰が影響をうけるのか?

『平成26年度 中小企業における会計の実態調査事業報告書』によると、企業内の経理財務担当の人員数は1人が最も多く58.2%、次に2人が17.9%となっています。

約80%近くの企業で経理財務担当者数が1~2人という状況の中、「予測不能な時代」に対応していかなければなりません。
経理担当者は1人また人で、外部環境の変化に対応しながら日々業務をこなすのですが、実は経理機能に大きく影響を与える内部環境要因があります。

小学生の遠足に例えると

内部環境要因の説明の前に、小学生の頃の遠足を話をします。

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目的に向けて学校を出発し、先生を先頭に生徒たちが22列で歩き始めます。
最初は等間隔で歩いるのですが10分程歩くとあちこちで生徒と生徒の間隔が空いてしまい、列が長くなってしまいました。
先頭を歩く先生がその光景を見て「○○君、少し遅れてるよ。間隔が空かないようにちゃんと歩いてね。」と呼びかけます。
すると遅れていた生徒は駆け足で前を歩く生徒を追いかけます。その後ろを歩く生徒も続いて走りだします。
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これはよくある話ですが、さて、一番たくさん走ることになったのは列のどのあたりを歩いていた生徒でしょうか?
列の前の方や列の真ん中など複数の箇所で間隔が空いてしまった場合…。そうです、最後尾を歩く生徒が何度も駆け足になってしまうのです。

最後尾を走る経理担当者

遠足と同じことが、実は企業内でも頻繁に起きています。
企業の商取引を数値化させ最終的に試算表や決算書として仕上げている経理担当者は、最後尾に位置しており、各部署で生じた遅れを取り戻すため、月次スケジュールを立て直し効率の悪い状態で業務を進めています。経理財務担当者数が1~2人の中小企業であれば、遅れを取り戻すことだけで精一杯なのです。

経理の悪環境は経理担当者の能力を引き出せないばかりか、ストレスを溜め込む要因となり退職につながってしまいます。経理の悪環境の影響はすぐに表面かすることはありませんが、今後大きな問題になりかねないため抜本的な改革が必要になります。

輝ける場所作り

  これからの経理は、単に優秀というだけでは、この「予測不能な時代」を乗り切ることはできません。いくら優秀であっても、業務に追われる環境ではせっかく有している能力を十分に発揮することができず、何れは輝ける場所を求めて辞めてしまうことになります。

経理の今後の課題は、「人」から「環境」へと移っていきます。環境が課題であることを認識し整備することができれば、有能な人材が集まり優秀な人材へと成長していくのです。経営を前にすすめる第一歩として、経理担当者の輝ける場所作りを進めてみてはいかがでしょうか。

(提供:税理士法人M&Tグループ