入院付き添いのパパママを応援したい!病院でキッチンカーを出店する夫婦が目指すもの
青木佑太(あおきゆうた)さんは、キッチンカー『fufufu-soup(フフフスープ)』を、毎週水曜日に群馬県立小児医療センターで出店し、栄養たっぷりで温かい食事を提供しています。息子さんが闘病中に付き添い入院をした経験から、『おうえんチケット』という取り組みを始め、全国の付き添い家族を支援。食事の提供だけでなく交流の場として、多くの方々の協力を得て活動の幅を広げています。そんな青木さんに、キッチンカーの出店に至った経緯や今後の展望などを伺いました。

付き添い家族を支える『おうえんチケット』

入院付き添いのパパママを応援したい!病院でキッチンカーを出店する夫婦が目指すもの

私は現在、『fufufu-soup』というキッチンカーを、毎週水曜日に群馬県立小児医療センターで営業しています。始めたきっかけは、私自身が病気の子どもの付き添い入院を経験したことです。入院中の子どもには病院から食事が提供されますが、付き添う親の食事は自分で用意しなければならないことを体験しました。

親としてはコンビニ弁当や栄養補助食品に頼りがちで、栄養バランスの取れた食事を摂るのが難しい状況です。添加物の多い食事を続けると体に負担がかかり、心も疲弊してしまいます。

そこで、せめて週に1回でも、体と心が温まる食事を提供したいと思い、小児医療センターでスープとおむすびを販売するキッチンカーを始めました。使用するお米はミネラル豊富な自然栽培米で、すべてのメニューは化学調味料不使用。スープにも砂糖は加えておらず、体に優しい料理を心がけています。

息子が亡くなった1カ月後には、付き添い家族の食事支援をしたいという構想はありました。加えて、入院中の子どもの兄弟にも支援が必要だと感じ、子ども食堂をオープンしました。そんな中、X(旧Twitter)で「病院にキッチンカーが来た!」という投稿をみて、キッチンカーの営業を始める後押しになりました。

投稿元である『NPO法人キープ・ママ・スマイリング』に連絡を取ったところ、「ぜひ協力させてください!」と話が進みました。キッチンカーを病院で出店する方法を教えてもらい、さらに群馬県議会議員の協力も得て、ついに出店が実現しました。

当初はレンタルしたキッチンカーで営業していましたが、事業が順調に進む見込みが立ったため、クラウドファンディングを通じて資金を調達し、念願のキッチンカーを購入しました。

150万円を目標にクラウドファンディングを開始しましたが、なんと初日で目標を達成。その後も多くの支援をいただき、最終的には560万円もの資金が集まりました。これは、同じように付き添いの経験を持つ方々の共感を得たことが大きかったと思います。

このキッチンカーでは、『おうえんチケット』という取り組みも行っています。これは、「付き添い入院のパパママを応援しよう!」という趣旨のもと、賛同いただいた方に1枚300円でチケットを購入してもらい、そのチケットを『fufufu-soup』で使える割引券として、付き添い家族にプレゼントするというものです。

私たち夫婦も同じような経験をしており、子どもの退院時期が不明なため、妻は仕事を辞め、私は子ども介護休暇を取得して収入が6割程度に減少しました。付き添い中は金銭的負担が大きく、このようなおうえんチケットがあれば助かると考え、取り組みを始めました。

キッチンカーはテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』で特集されたり、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞などの多くのメディアにも取り上げていただきました。メディアで知った方が『fufufu-soup』を検索し、Web上でおうえんチケットを購入することもできるようになっています。

さらに、このチケットを使って全国の付き添いのパパママを応援したいと考えています。キッチンカーで提供しているスープやカレーのレトルトを、全国の食料支援団体を通して付添い入院中のパパママに届けるために、チケット代で集まった資金を活用しています。

最愛の息子を自宅で看取ると決断

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私たち夫婦は、息子を亡くしてから早い段階でさまざまな活動を始めることができた方だと思います。息子を自宅で看取ったのですが、全国的にも子どもを家で看取るケースは非常に少ないのです。

多くの家族が、できる限り治療を続けたいという強い思いから、病院での看取りを選択するのは当然のことです。私たちは息子を自宅に連れて帰るという、苦渋の決断をしました。

私は以前、病院や介護施設で働いていた経験があり、さまざまな現場で「死」と向き合ってきました。その経験から、自宅で亡くなられる方が最も幸せそうに見えました。亡くなったご本人だけでなく、ご家族も、自宅という愛する場所で最期を迎えさせてあげられたという思いから、穏やかな笑顔を浮かべていました。

私自身も、息子を自宅で看取りたいという気持ちはありましたが、治療を止めるという決断はとても難しいものでした。家に帰ることを決めた際、お医者さんを紹介していただいたのですが、その先生が言っていた言葉が今でも心に残っています。

「お父さんお母さんなら、息子さんの命を1分1秒でも長くしたいと思うのは当たり前です。だから延命治療をしていることを否定はしません。しかし、1分1秒でも長く生きることを目標にしてしまうと必ず最後は失敗で終わります。病院で亡くなるときは残念ですが……と言われます。でも、本人が望んでいることを100%かなえてあげるために関われたら、最後は『ありがとう、お疲れ様でした』と成功で終えられます」

その先生の言葉を聞いてから、息子の希望を100%かなえるために全力で関わろうと決めました。息子に「どうしたい?」と聞くと、「もう病院には行かない。家に帰る」とはっきり答えたので、私たちは自宅に戻ることにしました。

家に帰ると、病院でまったく食事を摂れなかった息子が、驚くほど元気にごはんを食べるようになったんです。病院では薬の影響でイライラし、一緒に寝ていると私を引っかいたり殴ったりしていましたが、自宅ではそういった行動も一切なく、穏やかに過ごしていました。

自宅で過ごした10日間、息子は病院にいる時よりもはるかに長く、楽しく過ごせたのではないかと思います。最期の時、息子は私たちの腕の中で静かに息を引き取りました。

亡くなる前日には、従兄弟たちをひとりずつ呼んで「大好きだよ」と伝え、妹には「一人になっちゃって寂しいね」と優しい言葉をかけていました。4歳という年齢で、そんなふうに自分の気持ちを表現できたことに驚かされました。

息子との死別は、言葉にできないほど辛いことでしたが、自分の家で最期を見届けられたことは、私たちにとって成功と呼べるものだったと思います。そのため、息子が亡くなってからも、すぐに次の行動を起こすことができたのでしょう。

食事提供を超えたキッチンカーの役割

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キッチンカーで食事を購入してくださった付き添い家族の方から「お話しできるだけでもありがたい」と言っていただけると、本当にやっていてよかったと感じます。私たち自身も付き添いを経験しているからこそ、自然と話しやすくなるのかもしれません。キッチンカーが単に食事を提供する場としてだけでなく、交流や癒しの場所になったことが、とても嬉しいです。

私たちのキッチンカーは毎週水曜日にオープンしているのですが、その後、木曜と金曜にもそれぞれ別のキッチンカーが来るようになりました。これらのキッチンカーも、私たちと同じく付き添い経験のある方が運営しており、付き添い家族の楽しみが増えていることを本当に嬉しく思っています。

このキッチンカーは、多くの方々の応援によって成り立っています。その応援の輪をさらに広げ、より多くの付き添い中のパパママに支援を届けていきたいと考えています。理想的には、国の制度が改善され、食事支援団体や『fufufu-soup』が必要なくなる日が来ることを願っています。

今年度の診療報酬の改定で、初めて「付き添い家族の食事と睡眠に配慮すること」と明記されました。これを守らなければ、診療報酬の点数が得られないという大きな改正が行われたのです。

この改正に至るまで、『NPO法人キープ・ママ・スマイリング』が全国の付き添い家族や経験者にアンケートを実施し、6,000件もの結果をこども家庭庁に提出しました。その努力が実を結び、国が動くことになったのです。

病院側も、どのように付き添い家族の食事を支援すべきかはまだ不明瞭な部分があるため、こども家庭庁が事例集を作成。その中に『fufufu-soup』も掲載されました。事例集に載せていただいたことは非常に光栄ですし、それをきっかけに別の御夫婦が「自分たちもお世話になった病院を応援したい」との相談があり、その御夫婦の食支援もスタートしています。