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経営者・上司はアンコンシャス・バイアスを乗り越えよう

経営者や、組織の要である現場上司は、部下の働きがいを高めるために何をなすべきでしょうか。

つい、部下に何を働きかけるかを考えがちですが、まずは自分自身に向き合うことが大切です。そして、自分の中にある無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や、固定観念に気付くことに注力しましょう。

よかれと思って部下に働きかけていたことが、実は部下の働きがいを削いでいたという、残念な事態を防げるからです。働きがいとは、一人ひとりの心の内側から沸き起こる気持ちであり、外から高めることは容易ではありません。ここは、部下の働きがいを高めるというよりも、そもそも部下が抱いている働きがいを削がないという、逆転の発想も有効です。

では、上司が捨てるべき5つの固定観念を紹介しましょう。自身の考え方と照らしてみてください。特に50代以上のベテランの経営者や上司層ほど、自分自身に向き合うことをお勧めします。

捨てるべき固定観念①:上司と部下は上下関係

上司が抱く「管理職像」には、「上司は部下より偉い」という意識が少なからずあるでしょう。「上司が上で、部下が下」「上司が命令すれば、部下は動いてくれるもの」というように、上司と部下を上下関係で捉える傾向です。

こうした上下の意識は、年功序列・終身雇用が期待できた、過去のパラダイムと言えます。社員の面倒は最後まで企業が見てくれて、働き続ければ多少なりとも昇給が見込めた時代には、その見返りとして、部下は上司の不条理な命令にも我慢して従うことができたわけです。

しかし、上司と部下の関係は、もはや上下関係ではなく、対等な相互依存関係に近づいています。いわば、管理職とは一つの役割なのです。対等な関係においては、部下を動かすのは命令ではなく、「この上司と一緒に仕事がしたい」「この人と一緒なら仕事が楽しくなる」といった、自発的な動機です。

上司の、真摯に人と仕事に向き合う姿勢が、部下の共感や感動を呼び、部下の心を動かすと心得ましょう。

捨てるべき固定観念②:「肩書き」によるポジションパワーへの過信

上下関係で組織が成り立っていた従来型の日本企業においては、「肩書き」もまた大きな力を持っていました。部下が上司に従順だったのは、上司個人の力や人徳というより、会社から与えられたポジションの力であったわけです。だから従来型の組織でがむしゃらに働いてきた人ほど、部長や課長などの肩書きに執着する傾向が強いように思えます。

肩書きに執着する人は、自分がそうであることから、他者も昇進・昇格を望んでいると思いがちです。しかし、これまで述べたように、いまや昇進して偉くなりたいと思っている人ばかりではなくなってきています。若者はもちろん、役職定年や定年再雇用された年上部下にあたるシニアも、当然ながら昇進・昇格を動機づけにはしにくくなっています。

では何によって、部下を動機づけするか。それは一人ひとりにとっての仕事そのものです。部下が上司に任された仕事によって、自分の持ち味を活かし、才能を開花でき、働きがいを感じられるかどうかが大切なのです。

捨てるべき固定観念③:部下は管理すべき対象

「管理職」という言葉から、部下が間違いを犯さないよう、不正や悪事を働かないよう監視する役割をイメージするかもしれません。しかし、監視を強化されるほど、人はやる気を失って受動的になり、監視への反発から余計に悪い方向へ向かい、また批判を恐れてネガティブな結果を隠そうとします。こうして、結局は上司の望まない方向に部下を追い詰めることになりかねません。

そもそも上司が部下を監視しようとするのは、部下への不信感が根底にあるからではないでしょうか。部下のことを信じることができず、認められないために、「部下は監視しなければ誤った方向へ向かう」「部下は上司の言う通りに仕事すべき」という考えを持ってしまうのかもしれません。

部下は監視すべき存在であるという固定観念を捨て、部下への目線を次のように変えてみてはどうでしょう。「任せた仕事が100点に届かなくても、60点取れたら十分じゃないか。」つまり、できなかったことを責めるのではなく、できたことに目を向ける姿勢です。さらに、部下の報告の中に上司すらも気付かなかった工夫や、部下が自ら考えた仕掛けがあったら、それを認めるのです。「これ、あなたが気付いてやってくれたの? ありがとう!」と。

そのためには、「経験の浅い部下にも、よいところはあるはずだ」「部下のよいところを伸ばしていこう」というような、部下を信じ見守る気持ちが大切です。そうすれば、部下のほうから「こんなことを考えてみたのですが、どうでしょうか」と、積極的に上司に報告・連絡・相談したくなるに違いありません。

捨てるべき固定観念➃:プレイヤー業務の7割

現場上司の多くが、管理業務と同時に自分自身も一定のノルマを負う、プレイングマネジャーなのではないでしょうか。そして、ブレイヤーとして実績を上げてきた人ほど、いつまでも自分は第一線で活躍できると思っているかもしれません。しかし、これも固定観念である可能性が高いのです。DX化により、プレイヤー業務はどんどんITツールに代替されています。経験を積んだプレイヤー業務に固執し過ぎていると、いずれ自分の仕事がなくなってしまうかもしれません。

そもそも上司の本分は、自分が動いて仕事をするのではなく、部下たちを動かして組織として仕事をすることです。プレイヤーとしての自負がある上司の中には、仕事ができる部下を警戒し、ライバル心を抱く人もいるかもしれません。けれども、部下を動かし組織として仕事をするためには、むしろ仕事ができる部下を歓迎すべきなのです。

ただし、50代以上にもなると、役職定年や定年が近づいてきて、もう一度プレイヤーである部下の立場に戻る可能性も出てきます。長く現場業務から離れていた人が、いきなりプレイヤーに戻ることは困難です。そのため、プレイヤー業務の全てを捨てるのではなく、先々を見据えて3割程度を残し、7割ほどを部下に委ねるとよいのではないでしょうか。

捨てるべき固定観念➄:組織のリーダーは男性が担うべき

「リーダーは男性であるべき」「女性に管理職は向かない」というジェンダーバイアスも、大いなる固定観念と言えます。女性活躍が謳われて久しくなりますが、実態として女性リーダーはなかなか増えていません。幹部層になるほど、その傾向は顕著です。

育児や介護などの負荷は、現状ではどうしても女性にかかりやすい。だから、女性部下にはワークライフバランスへの配慮が求められ、仕事の負荷が重くなる管理職や経営幹部の職責は担いにくい。こうした一見した「配慮」も、固定観念にとらわれた発想です。

もはや専業主婦世帯は少数派で、共働き世帯や、おひとり様世帯が多数派の時代です。多様性の時代であり、結婚・出産が全て女性の負担なのではなく、男性も育児や介護を担うことが一般化しているのです。何より上司の仕事の本分は、自分が動くことではなく、部下を動かすことであるならば、上司が、常に現場に張り付いて仕事をする必然性も少ないはずです。

ジェンダーバイアスは、会社だけでなく、学校教育や家庭・地域などの環境など社会全体に染みついてきた価値観から生まれるもので、一足飛びに脱せるものではありません。正義は人によって異なるものでもあります。そのため、上司には常に自分の考えが部下一人ひとりにどう受け止められているか耳を傾けながら、マネジメントを軌道修正していくことが求められるのです。

※本稿は前川孝雄著『Z世代の早期離職は上司力で激減できる』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ』(FeelWorks、2024年4月1日)

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