次世代の建設会社を目指し、ICTの積極活用等により新卒採用進む 採用の7割強が女性 新栄重機土木(神奈川)

目次

  1. 復旧に協力し公共事業を請け負う責任を果たすことで、待遇改善を求め経営の安定化を図る
  2. スマートフォンに搭載の電子小黒板アプリを使って写真管理の効率化を実現し、現場作業の省力化にもつなげる
  3. 現場ではタブレットを使い図面や資料を参照、会議もオンラインで行って効率的な時間の使い方を実現
  4. 新しいシステム導入への取り組みも評価され4年間で11人の新卒採用、女性が8人という従来の建設会社では考えられない成果
  5. フリーアドレス化や休憩スペースの設置で若手や女性が働いて気持ちの良い環境作り
  6. 業界のICTけん引役として建設ASPの普及に尽力
中小企業応援サイト 編集部
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開港から165年の歴史を持ち、今も発展が続く神奈川県の横浜市で、半世紀以上にわたり水道工事や土木工事などを手がけ、インフラの整備・維持に貢献してきた会社が新栄重機土木株式会社だ。開発に伴う工事だけでなく、街としての長い歴史の中で古くなってきた水道管を交換する工事も途切れず、忙しい日々を送っている。業界共通の悩みとなる人手不足に直面し、一方で働き方改革に伴う勤務時間の短縮もあり苦悩しているが、同社では写真管理アプリの活用などDXによる効率化を進め、次の世代が働きやすい会社に変えていこうとしている。(TOP写真:スマートフォンの電子小黒板アプリで撮影した工事現場の画像)

復旧に協力し公共事業を請け負う責任を果たすことで、待遇改善を求め経営の安定化を図る

次世代の建設会社を目指し、ICTの積極活用等により新卒採用進む 採用の7割強が女性 新栄重機土木(神奈川)
新栄重機土木株式会社の新井正和代表取締役

災害で水道管や下水道管、ガス管といったライフラインに被害が出た時、土木事業者がすぐに現地へと飛んでいって復旧にあたる。2024年1月1日に能登半島で発生した地震でも、地元や近隣の県から土木工事業者が駆け付け、ライフラインの復旧にあたった。新栄重機土木は能登の被災地から遠い横浜市の会社だが、「事業組合を通じて依頼があったので、関連会社から人を派遣しました」と、代表取締役の新井正和氏は復旧に協力していたことを明かす。

「公共工事の仕事をくださいと自治体にお願いしている以上は、義務として社会の役に立つことをしなければいけないと、業界の誰もが感じている現れです」(新井社長)。こうした日頃の貢献の積み重ねがあるからこそ、資材費や人件費が高騰する中で、工事費を引き上げて欲しいといった要望も出していけると打ち明ける。

スマートフォンに搭載の電子小黒板アプリを使って写真管理の効率化を実現し、現場作業の省力化にもつなげる

次世代の建設会社を目指し、ICTの積極活用等により新卒採用進む 採用の7割強が女性 新栄重機土木(神奈川)
スマートフォンに搭載の電子小黒板アプリで撮影した現場

当然自治体から払われる金額には限界があり、自分たちでも常に効率化の努力を行う必要がある。工事現場で撮影した写真を管理するシステムの導入も、そうした効率化の一環だ。画像の管理は土木工事の施工管理者にとって欠かせない作業で、「昔はフィルムカメラで撮影した写真を現像して保存し、書類に貼って提出していました。デジタルカメラが出てきてからは、カメラからパソコンに画像を取り込んだ後、現場ごとにファイル名を付け保管場所を指定する、といった作業に時間がかかっていました」(新井社長)。

こうした状況を改善するために導入したのが、スマートフォンを使った写真管理システムだ。スマートフォンに搭載した電子小黒板アプリを使って現場を撮影すると、現場の情報が記載された黒板も写り込んだ写真として保存される。あとは、スマートフォンから写真管理システムに送れば、工事現場ごとに自動的に振り分けられるようになっている。電子小黒板アプリの利用で大幅な時間と手間を削減できた。

スマートフォンを工事現場で手にすることを、ためらう声も当初はあった。汚したり壊したりする可能性があるからで、同社では従業員の要望に応じて作業用のスマートフォンを持たせて、現場での撮影に使ってもらうようにした。

現場ではタブレットを使い図面や資料を参照、会議もオンラインで行って効率的な時間の使い方を実現

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パソコンに向かって作業をする新栄重機土木の新井社長

現場のツールのデジタル化では、ノートパソコンやタブレットの活用にも取り組んでいる。工事図面の参照などは、デジタル化されたものを現場でタブレットなどから行うことが通常になっている。「紙の図面を見ることはもうほとんどありません。タブレットなら見たい場所を拡大して見られるので便利です」(新井社長)。施工関係の書類も含めたこうした社内資料は、個々のパソコンではなくサーバーにまとめて保存されていて、現場のタブレットやパソコンから閲覧できる。「いちいち会社に戻って閲覧しなくても済みます」(新井社長)。

会議も、こうした機器を使ってオンラインで行う。「写真の振り分け作業と同じで、現場での作業が終わってから会社に集まって会議をしていると、どうしても時間が遅くなってしまいます。オンラインならそうした時間を省くことができます」(新井社長)。コロナ禍でweb会議に移行するようになったことがきっかけにはあったが、便利さを考え今ではすべての会議をオンラインで行うようにしているそうだ。

気になるのは、そうした急速なデジタルデバイスの普及に、従業員がついていけるかだが、「最初は苦手そうにしていても、現場の若手が積極的に使うのを見て、自分も使ってみようという気になるようです」(新井社長)

新しいシステム導入への取り組みも評価され4年間で11人の新卒採用、女性が8人という従来の建設会社では考えられない成果

次世代の建設会社を目指し、ICTの積極活用等により新卒採用進む 採用の7割強が女性 新栄重機土木(神奈川)
2023年11月に採用した新しいユニフォームは好評だ

若い人には次から次へと新しいシステムに触れさせて、いち早く育ってもらうことも考えている。「土木関連のシステムは、どんどんと新しいものが出ています。そうしたものに早く慣れてもらうことで、変化に対応できる態勢ができるのではと考えています」(新井社長)。土木や建設の現場では昨今、「BIM/CIM」と呼ばれ、工事の計画・調査・設計の段階から3次元モデルを使い、施⼯・維持管理の段階でも3次元モデルを連携・発展させて情報の共有化を行い、工事全体の効率化や高度化を目指す動きが出ている。同社でもこのBIM/SIMを活用できる人材を育て、新時代に備えていきたいと考えている。

せっかく準備をしても若い人材が採用できなければ意味がないが、同社の場合は近年、連続して大卒を含む新卒者を採用できている。この4年間で11人。そのうち8人が女性というから驚きだ。土木建設会社は長く男性の職場と思われていて、今も多くの会社で男性を中心に採用している。理系や工業系の高卒者といった、男性が多くなりがちなカテゴリーに求人を出すことも、男性の採用を多くしている。

同社では、こうしたカテゴリーにこだわらなかった。「以前は工業高校などに求人を出していましたが、決して卒業者が多くない上に、多くの会社が求人を出すため倍率がケタ違いになってしまいます。これでは採用できないと考え、文系でも女性でも関係なく採用するようにしました」(新井社長)。これが女性の増加につながり、以後も「女性が働きやすい職場」といった評判を聞いて、志望者が後を絶たないという。

同社の場合は、現場を監督する立場となるため、知識さえあれば体力の強弱は関係なく仕事を務めることができる。「重機の扱いなどでわからないことがあっても、現場にいるベテランに聞いて覚えれば良いだけです」(新井社長)。資格取得のための教育にも熱心で、必要ならば勤務時間内でも試験勉強のための時間を作り、早い段階での資格取得を促す。そうすることによって社員のモチベーションは上がり、定着にもつながる。実際、近年の定着率は100%だそうだ。

フリーアドレス化や休憩スペースの設置で若手や女性が働いて気持ちの良い環境作り

次世代の建設会社を目指し、ICTの積極活用等により新卒採用進む 採用の7割強が女性 新栄重機土木(神奈川)
フリーアドレス化されたスペースと個人ロッカー

2023年3月、オフィスを改装してレイアウトやインテリアを一新した。さらに一部をフリーアドレスにして、机の上が雑然としないよう個人ロッカーを導入し、居心地の良い空間作りを行った。ユニフォームも2023年11月に斬新なデザインに一新した。

こうした施策に加え、会社のホームページには業務内容に加えて社会貢献活動を紹介するコーナーを設けて、働いていて誇れる会社であることを感じてもらっている。採用ページでは、労働条件や採用実績を明記して、信頼できる会社であることをアピールしている。

業界のICTけん引役として建設ASPの普及に尽力

今後は、率先してICTを活用している経験を元に、同業の土木建設事業者のICT活用にも貢献したいとのこと。「建設ASP※が普及して、工事書類の作成・提出をインターネット上で行えるようになれば業務の効率化につながりますが、そのためには行政と業界が共に導入を目指す必要があります」(新井社長)。国の方針もあってASP化は進んでいくと見られており、その動きに対応することが業界の発展や働き方の改善につながるのなら取り組まない手はない。業界におけるICTの旗振り役として、今後も新しいシステム導入に挑んでいく。(※建設ASP:公共工事における受発注者間のやり取りや工事書類の作成を、インターネットを通して行い情報共有するシステム)

次世代の建設会社を目指し、ICTの積極活用等により新卒採用進む 採用の7割強が女性 新栄重機土木(神奈川)
内外装をリニューアルした新栄重機土木本社

企業概要

会社名新栄重機土木株式会社
本社神奈川県横浜市南区永田北3丁目40番12号
HPhttps://www.shinei-j.com/
電話045-712-3535
設立1967年3月15日
従業員数30人
事業内容土木工事業、とび・土工工事業、ほ装工事業、水道施設工事業