※本稿は寄稿者の個人的見解に基づく原文を掲載したものであり、THE OWNERの見解を示すものではありません。

Diamond Fuji/stock.adobe.com
(画像=Diamond Fuji/stock.adobe.com)
本物の「上司力」
大村 康雄(オオムラヤスオ)
株式会社エッジコネクション 代表取締役

延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。 2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1500社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。

2024年7月には、「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。

序列を入れ替えるべきときとは?

一言で“優秀”と言っても、様々な解釈がある。学歴が優秀、職歴が優秀、前職の実績が優秀、自社での実績が優秀などなど。このように幅広い優秀の定義の中で、創業メンバーと新加入メンバーの序列の入れ替えを検討しないといけないときは、どの優秀の定義においてだろうか。答えは、“社長の求めるものを実現しようとする熱意や姿勢において優秀である”ときである。

取り扱い注意!! “優秀”の定義

「社長の求めるものを実現しようとする熱意や姿勢において優秀であれば創業メンバーと新加入メンバーの序列を入れ替えても良い」そう聞くと、YESマンを周囲に揃えろということ?とネガティブに聞こえる人がいるかもしれない。しかし、答えは、「その通り」である。

創業メンバーとは、創業時の苦楽を共にしており、それぞれに自分がこの会社を立ち上げたという自負がある。そのこと自体は悪いことではないが、それが行き過ぎると社長へのリスペクトが欠けてくる事がある。

社長が掲げた新たな方針に対して、「自分はうまくいかないと思う」と代案を示さずに反対するなど、同じ目線で先を見据えようという姿勢が損なわれていくことがあるのだ。このようなメンバーが上層部にいると会社全体の推進力は失われていく。その人物が優秀であればあるほど、その不一致は会社の推進力の逆噴射になっていく。

よって、冒頭の“社長の求めるものを実現しようとする熱意や姿勢において優秀”という点が重要になってくる。

どんなに業務スキルが優秀であっても、この点での優秀さを欠いていたのであれば、そして、より優れた人物がいるのであれば会社の推進力を維持するために入れ替えるべきである。逆に、新加入メンバーが、業務スキルが優秀であってもこの点で優秀でなければ入れ替えるべきではない。

創業メンバーと新加入メンバーを入れ替えるときのポイント

では、実際に序列を入れ替えるときにどうするべきなのか。結論としては、これから紹介するポイントに合致しているときに序列交代を行ってほしい

1. 新加入メンバーが“社長の求めるものを実現しようとする熱意や姿勢において優秀”である

再三指摘したが非常に重要なので改めてこのポイントを確認ポイントの1番目としたい。それくらい、この優秀の定義は見誤られる事が多いからだ。

実際にある事例として、新加入メンバーが営業スタッフとして創業メンバーよりも大きな売上を上げ、周囲の同僚からも一目置かれ始めた場合というのがある。周囲もこのメンバーが上層部に居るべきと思うようになり、そこで社長は入れ替えを検討し始めるという流れなのだが、そのときに確認してほしいのはどちらが自分の価値観に合わせようとしてくれるのか、という点だ。

もしかしたらその新加入メンバーはそのように派閥を形成して最終的には乗っ取りを画策しているのかもしれない。乗っ取りまではいかなくとも、「みんなこう言ってますよ。」などという持ちかけ方で、様々な経営判断を自分に有利なように誘導するかもしれない。しかし、社長の価値観に合わせようとする人は、そんなことはしない。常に社長をリスペクトしているからだ。

仮に、新加入メンバーが創業メンバーに及ばないと思った場合、率直に「まだあなたは私の直属の部下になるには当社の価値観が浸透していない」などと伝えれば良い。それでも他の社員からの目などの兼ね合いで一定程度取り立てなければいけない場合は、創業メンバーと同列に置けば良いだろう。そこで色々と学び、成長が促進される可能性も十分にある。

2. 創業メンバーが新加入メンバーとの序列交代を受け入れる

実際に、創業メンバーと新加入メンバーの序列を入れ替えたほうが良いと判断した場合に話を移す。この場合、当然ながらその序列交代を創業メンバーが受け入れるかどうかが焦点となる。受け入れるなら粛々と進めれば良い。

3. 創業メンバーが派閥を持っていないか、持っていても派閥の結びつきが弱い

序列の交代を創業メンバーが受け入れない場合、慎重な対応が必要になる。ここでの対応を誤った場合、以下のようなことが発生する可能性がある。

・創業メンバーが離職する ・創業メンバーに懐いていたメンバーも一斉に離職する ・離職の際に引き継ぎが甘いなど会社にダメージが残るやめ方をする

どれも起こってほしくない事象である。 その中でも一番避けたいのが創業メンバー以外への離職の波及だ。そのため、創業メンバーの派閥がコントロールできない場合は、迂闊に序列交代をするべきではない。一気に会社が割れ、経営が傾いてしまう恐れがある。

序列交代を望まない創業メンバーが派閥を持っているときの対処法

派閥を持つ創業メンバーの序列を交代すると、派閥を引き連れて離職するなどし、会社の経営が傾く恐れがある。このときに一番やっていけないのは、正面からぶつかって実際にそのような事態を招いてしまうことだ。

人の感情が関わる部分なので、必ず正解というものはなかなか存在し得ない分野だが、このような状況におけるソフトランディングをもたらす可能性のある対処法を紹介して終わりにしたい。

1. 新加入メンバーと同列に配置する

序列を入れ替えたいと判断しているということは、新加入メンバーの方が社長の意思を汲み、それらを形にしたいと思っているということだ。その差が明確になるようにするには、同列に配置し、同じ会議に出席させることである。

そうすると、社長の意向に対して適切に肉付けし、実現に向けて頭を働かせようとする新加入メンバーと、細かいところを指摘してマイナス要素を膨らませてプレゼンする創業メンバーという構図も明らかになるかもしれない。

そのような場面を繰り返していくことで、 ・創業メンバーが社長の考えにシンクロしてくる(“優秀”になってくる) ・創業メンバー自ら、合わないので降りたいと言ってくる ・周囲の社員に創業メンバーの異質感が伝わり、派閥が解体されていく といった効果が期待できる。

2. 創業メンバーの部下と定期的に面談する

社長から見たら、創業メンバーの部下なので2個下の部下になるわけだが、彼らと最低でも月に一回面談を行い、「最近の仕事どう?なにか聞きたいこととか、疑問はない?」と聞くようにする。

そうすると、何かしら自分の指示が間違って伝わっていたら修正でき、また、そこで上がってきた情報から創業メンバーの現状の立ち居振る舞いをかなり高い解像度で推測することができる。そこまでできれば、今どのような心情でいるのかも垣間見ることができ、その後の施策も打率の高い形で考案することができる。

3. 創業メンバー自身と定期的に面談する

上記のような施策を行いつつ、創業メンバーとも定期的に面談を行う。2個下のメンバーとは最低でも月に一回なので、創業メンバーとは2週間に一回の頻度はキープしたい。ここで色々と話すことで、考え方が修正され、新加入メンバーを刺激としてあるべき姿に戻っていくのか。それとも物別れで別々の道を歩むのか、少しずつ将来が固まってくる。

そして、仮に別々の道を歩むことになったとしても、これまでのことを行っていれば、「社長に不当な扱いをされたから辞める」ではなく、「社長と自分の考えが合わなくなってきたから辞める」となっているはずであり、むやみに逆恨みをする可能性も低いだろう。また、面談を通して派閥の解体も進んでいるはずだ。

創業メンバーが絡む人事は苦楽を共にした仲間であり、感情がより一層揺れ動き、非常に苦しいものである。実体験としてそうだった。社長と創業メンバーそれぞれの人間関係によって最適な答えは変わってくるのかもしれないが、今回の内容が心理的にきつい状況に置かれている方の一助になれば幸いである。