税金
(画像=PIXTA)
関 伸也
関 伸也(せき・しんや)
1987年9月9日生まれ、広島県尾道市出身。税理士(簿記論、財務諸表論、法人税法、所得税法、相続税法に合格)。東京税理士会、登録番号140716。法人から個人へまたがり発生する税務問題にオールラウンドに対応しており、創業時からお手伝いをすることにより、共に成長することをミッションとしている。好きな小説家は吉川英治、司馬遼太郎であり、株式投資を通じて気になる上場企業をベンチマークしている。

近年、事業承継の機会は増えてきており、課税対象となるものの承継にあたってはトラブルも発生しやすい。今回は、課税関係が複雑な「非常上場株式」について、その概要はもちろん、非上場株式の譲渡を行った場合における譲渡相手別の課税関係についても説明する。

目次

  1. 非上場株式の意義・評価は?
    1. 非上場株式の原則的評価方式
    2. 非上場株式の特例的評価方式
    3. 特定の評価会社の株式の評価
  2. 非上場株式の譲渡に掛かる税金
    1. 譲渡所得税及びみなし譲渡所得税
    2. 法人税
    3. 贈与税・みなし贈与税
  3. 非上場株式の税金は譲渡相手によって変わる
    1. 非上場株式の個人から個人へ譲渡
    2. 非上場株式の個人から法人へ譲渡
    3. 非上場株式の法人から法人へ譲渡
    4. 非上場株式の法人から個人へ譲渡
  4. 非上場株式の低額譲渡の事案
  5. 非上場株式の譲渡においては専門家に相談する

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非上場株式の意義・評価は?

非上場株式とは「取引相場のない株式」と言われ、全国の各証券取引所に上場されている株式及び気配相場等のある株式以外の株式を指す。

非上場株式の評価は、上場株式のように証券所における時価が随時把握ができないため、必要な時に個別に評価をする必要がある。非上場株式の評価方法には、大別して「原則的評価方式」と「特例的な評価方式」の二つに分けられる。

原則的評価方式と特例的な評価方式の判定は、相続や贈与等により株式を取得した株主が、その株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かの区分により判定する。

非上場株式の原則的評価方式

非上場株式の原則的評価方式については、まずは企業の規模により大、中、小の会社に分けることにより評価の入口で非上場株式の評価方法をふるいにかけている。

具体的な数字の算定については、類似業種比準方式又は純資産価額方式による。

・大会社:類似業種比準方式によって評価される
・小会社:純資産価額方式によって評価される
・中会社:大会社と小会社の評価方法を併用して評価される

類似業種比準方式とは、上場会社等の時価のある類似する会社の株価をもとにして非上場株式の時価を算定する方法である。参考とする指標として、国税庁にある「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」を参照して計算する。

純資産価額方式とは、非上場会社の資産から負債を差引いた純資産の価額をもって時価を算定する方法である。

非上場株式の特例的評価方式

非上場株式を同族株主以外の株主が取得した株式については、その株式の発行会社の規模にかかわらず原則的評価方式に代えて特例的な評価方式の配当還元方式で評価します。

配当還元方式は、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10パーセント)で還元して元本である株式の価額を評価する方法である。

特定の評価会社の株式の評価

上記の二つの評価方法の他に、次の(1)から(5)については純資産価額方式により、(6)については精算分配見込み額により評価することになっている。

なお、以下(1)から(4)の会社の株式を取得した同族株主以外の株主等については、特例的な評価方式である配当還元方式により評価する。また、ここでは、その種類を箇条書きすることにとどめる。

(1)比準要素数1の会社の株式
類似業種比準方式での評価要素が直前期末、直前々期末が一つしかない会社

(2)株式等保有特定株式
評価会社が保有する株式の価額の合計額が純資産価額に占める割合が一定の株式

(3)土地保有特定株式
評価会社が保有する土地等の価額の合計額が純資産価額に占める割合が一定の株式

(4)開業後3年未満の会社等の株式
開業後3の経過年数が3年未満の会社又は類似業種比準方式での評価要素が直前期末にゼロである会社

(5)開業前又は休業中の会社の株式

(6)精算中の会社の株式

これらは一般的な会社とは異なる業態であるので、特定の評価により非上場株式の時価を算定する。

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非上場株式の譲渡に掛かる税金

非上場株式の税金において、最も理解しておかなければいけないことが、譲渡をした場合に発生する税金である。譲渡における課税関係を学ぶ前に、まずは非上場株式を譲渡する際に掛かる以下の3つの税金を押さえてもらいたい。

・譲渡所得税及びみなし譲渡所得税
・法人税
・贈与税・みなし贈与税

譲渡所得税及びみなし譲渡所得税

個人が非上場株式を譲渡した場合に発生する代表的な税金が所得税である。その中でも、非上場株式を譲渡すると、所得税法上は一般株式等に係る譲渡所得として、申告分離課税される。

給与所得等の総合課税とは分離して課税するため、譲渡所得の金額に所得税率15パーセント、住民税率5パーセントが課税されることとなる。

個人が非上場株式を法人に贈与した場合には、その贈与の時の価額により譲渡があったものとみなす。そのため、譲渡所得の金額として、所得税率15パーセントと住民税5パーセントが課税される。

法人税

資本金1億円以下の法人が所有する非上場株式を譲渡した場合には、譲渡益の金額及び他の法人の所得金額との合計額に法人税率(年800万円以下は15パーセント、年800万円超は23.2パーセント)が課税される。

贈与税・みなし贈与税

個人から非上場株式の贈与を受けた場合は、贈与税が課税される。なお、暦年課税の場合には、その財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残額に贈与税が課税され、1年間で受け取った財産の合計額が110万円以下ならば、贈与税は課税されずに申告不要となる。

個人から非上場株式を適正価格よりも低い価格で取得をするときは、その差額部分に対してみなし贈与税が課税される。

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非上場株式の税金は譲渡相手によって変わる

非上場株式の課税関係は、譲渡する相手と取得する相手によって異なる。ここでは、譲渡パターンとして時価相当額と低額譲渡について説明する。

非上場株式の個人から個人へ譲渡

①父から子へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価相当額の200万円で譲渡した場合の課税関係

・父の課税関係

非上場株式の個人への譲渡であり、一般株式等に係る譲渡所得等に該当する。譲渡益は以下のように算出される。

譲渡対価200万円-取得費100万円=譲渡益100万円

したがって、譲渡益100万円に所得税と住民税が課税される。

・子の課税関係

子は非上場株式を時価相当の200万円を取得したのみであるため、課税関係は生じない。なお、非上場株式の取得費が200万円となる。

②父から子へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価よりも低い50万円で譲渡した場合の課税関係

・父の課税関係

非上場株式の時価200万円を対価50万円で譲渡した場合には、一般株式等に係る譲渡所得等に該当する。下記の計算のように、譲渡損として赤字になる。

譲渡対価50万円-取得費100万円=譲渡損50万円

一般株式等における譲渡所得などの赤字額は、他の一般株式等における譲渡所得の黒字額から控除できる。しかし、それでも控除しきれずに残った赤字額は、他の所得から控除することはできない。

・子の課税関係

時価200万円と対価50万円の差額150万円に対して、みなし贈与税が課税される。なお、その取得費は50万円となる。

非上場株式の個人から法人へ譲渡

① 個人から法人へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価相当額の200万円で譲渡した場合の課税関係

・個人の課税関係

非上場株式の法人への譲渡であり、一般株式等に係る譲渡所得等に該当し、時価相当で譲渡をしている。この場合、下記の計算のように譲渡益がでる。

譲渡対価200万円-取得費100万円=譲渡益100万円

したがって、譲渡益100万円に対して所得税と住民税が課税される。

・法人の課税関係

課税関係は生じない。なお、非上場株式の取得価額は、200万円となる。

②個人から法人へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価よりも低い50万円で譲渡した場合の課税関係

・個人の課税関係

譲渡対価50万円が時価200万円の2分の1未満のため、低額譲渡に該当する。この場合、時価相当額である200万円で譲渡したものとみなされる。

譲渡対価200万円-取得費100万円=譲渡益100万円

したがって、譲渡益100万円に対して所得税と住民税が課税される。

なお、対価の額が時価の2分の1以上であれば、通常の譲渡に該当する。

・法人の課税関係

譲渡対価50万円と時価200万円の差額150万円は、受贈益として法人税が課税される。
なお、非上場株式の取得価額は200万円となる。

非上場株式の法人から法人へ譲渡

① A社からB社へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価相当額の200万円で譲渡した場合の課税関係

・A社の課税関係

非上場株式の譲渡対価の額200万円から譲渡原価100万円を差し引いた譲渡益100万円に法人税率が課税される。

・B社の課税関係

課税関係は生じない、なお、非上場株式の取得価額は200万円となる。

②A社からB社へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価よりも低い50万円で譲渡した場合の課税関係

・A社の課税関係

非上場株式の譲渡に伴う譲渡対価の額50万円から譲渡原価100万円を差し引いた金額50万円が、譲渡損失額として損金の額に算入される。

また、時価200万円と対価50万円の差額150万円が寄付金の額に該当するため、B社との資本関係がない場合には、一般寄付金の損金算入限度額に達するまでの金額が損金の額に算入され、超える部分の金額は損金不算入とされる。

非上場株式の法人から個人へ譲渡

① A社から個人へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価相当額の200万円で譲渡
した場合の課税関係

・A社の課税関係

非上場株式の譲渡対価の額200万円から譲渡原価100万円を差し引いた譲渡益100万円に法人税率が課税される。

・個人の課税関係

課税関係は生じない、なお、非上場株式の取得費は時価取得であるため200万円となる。

②A社から個人へ非上場株式(時価200万円、取得原価100万円)を時価よりも低い50万円で譲渡した場合の課税関係

・A社の課税関係

非上場株式の譲渡対価の額50万円から譲渡原価100万円を差し引いた譲渡損50万円が損金の額に算入される。

時価200万円と譲渡対価50万円との差額150万円が寄付金の額に該当し、一般寄付金の損金算入限度額に達するまでの金額が損金の額に算入され、超える部分の金額は損金不算入とされる。

また、個人が役員である場合には、法人税法上においては役員に対する給与は法人税法第34条により損金の額に算入する金額が制限されている。

したがって、役員への給与に該当する場合には、その給与は事前確定届出給与に該当せず、その全額が損金の額に算入されない。

・個人の課税関係

非上場株式の低額譲受に伴う150万円は、受贈益として法人から一時に受ける所得に該当するため、一時所得となり所得税が課税関係される。

なお、一時所得の金額から50万の特別控除額を控除した金額に所得税が課税される。

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非上場株式の低額譲渡の事案

非上場株式の低額譲渡に伴う事案をご紹介する。なお、この事案は最高裁での判決結果が未だでていないため、考え方を紹介するに留める。

この事案は、被相続人が生前に非上場株式の譲渡について、みなし譲渡課税が適用されるかどうかを争点としている。

・事案概要
最高裁判所広報課の発表による事案概要に

「本件は,法人への株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額につき,被上告人らが,その譲渡における代金額である1株当たり75円として所得税の申告をしたところ,税務署長から,上記譲渡は所得税法59条1項2号所定の低額譲渡に当たるとして増額更正処分等を受けた(上記株式の譲渡の時における価額は1株当たり2,505円とされた。)ため,その取消しを求める事案である。」

と記載されている。

・争点
争点に関しても

「上記株式は,上場されておらず,取引相場のない株式である。国税庁長官による財産評価基本通達(相続税等について財産の評価方法等を定めたもの)は,取引相場のない株式の価額について,原則的な評価方法を定める一方,会社の事業経営への影響力に乏しい少数株主の株式の場合に用いる例外的な評価方法として配当還元方式を定める。
本件では,譲渡所得に対する課税の場面において,配当還元方式を用いることとなる
のは,譲渡人である株主が少数株主に該当する場合なのか,譲受人である株主が少数株
主に該当する場合なのかが争われている。
※配当還元方式によると,一般的に,原則的な評価方法に比べて低い価格になる。上告人
(国)は,譲渡人が少数株主に該当しないことから原則的な評価方法による1株当たり2,505円を主張し,被上告人らは,譲受人が少数株主に該当することから配当還元方式に
よる1株当たり75円(上記代金額)を主張している。」

と記載されている。

つまり、最大の論点としては、株主区分の議決権数の判定は譲渡直前か譲渡後なのかという点である。

この譲渡のタイミングによって、その非上場株式の取引価額である時価の算定方法が、原則的評価方式(類似業種比準方式又は純資産価額方式)又は特例的な評価方式(配当還元方式)によることにより、低額譲渡に該当するみなし譲渡課税が適用される論点となっている。

みなし譲渡課税は、対価が時価の2分の1未満で譲渡する場合に適用されるため、上記評価方式のいずれかによって、この規定の適用を受ける可能性がある。

東京地裁の第一審では、非上場株式の譲渡直前の議決権数で同族株主以外の株主等を判定すると判断しているため、原則的評価方式によることにより、みなし譲渡課税の適用がされる。

東京高裁の第二審では、非上場株式の譲渡後の議決権数で判定すると判断していることから、特例的な評価方式によるため時価祖相当での非上場株式の譲渡に該当することから、みなし譲渡課税は不適用とされる。

これから先、最高裁判所第三小法廷で弁論が開かれる。

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非上場株式の譲渡においては専門家に相談する

非上場株式を譲渡する場合には、「譲渡所得税及びみなし譲渡所得税」「法人税」「贈与税・みなし贈与税」といった、非上場株式の譲渡における税金の基礎について把握しておこう。

ただ、非上場株式の譲渡にあたっての株式の時価の算出、譲渡相手等を勘案した課税関係は複雑であり、個人では判断が難しいところもあるだろう。実際に非上場株式の譲渡を考えている場合には、税務の専門家への相談が最善策だ。

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文・関伸也(税理士)

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