フレームワーク
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企業経営者が頭を悩ませる項目に「人材育成」がある。現状の従業員に関する課題は山積みで、課題を検討するにも、どこから手をつけるべきか見当がつかないこともあるだろう。一方で企業経営者は、国の施策である「働き方改革」によって、従業員一人ひとりがモチベーションを持ち、個人の能力に応じて働くことができる環境整備を求められている。

企業経営者が人材育成の改善に取り組むための解決策として活用できるのが「フレームワーク」である。今回は、人材育成を考える上でなぜフレームワークが必要なのかを明確化し、活用するためのポイントとフレームワークモデルを紹介する。

目次

  1. 人材の育成にフレームワークが必要な理由
    1. フレームワークとは?
    2. 中長期の人事戦略にはフレームワークが必要
    3. フレームワークは共通認識をつくる
    4. フレームワークによる共通認識の重要性
  2. 人材育成にフレームワークを活用するためのポイント
    1. ポイント1 自社の求める従業員像を明確化する
    2. ポイント2 役職や業務ごとに最適な従業員像を明確化する
    3. ポイント3 フレームワークを自社に最適なモデルにカスタマイズする
  3. 人材育成のフレームワークモデル
    1. 自社の人材育成の目的を明確化する
    2. 自社の人材育成の現状と課題を把握する
    3. 人材育成制度を再構築する
    4. 具体的な育成方法を選択する
    5. 人材育成の実施
  4. 人材育成のフレームワークは企業経営を意識して考える
  5. フレームワークは人材を育成し、企業に定着させる

人材の育成にフレームワークが必要な理由

人材育成を含めた人事関連の戦略は企業にとって非常に重要だ。自社の人材育成の戦略を立てる時や、現状の制度を見直す時には、それらのプランのベースとなる構造が必要になる。ここでは、フレームワークの概要と、人材育成にフレームワークが有効な理由を解説する。

フレームワークとは?

フレームワークを一言で表すと「枠組み」といったイメージになる。家を建てるときに作る枠組みを思い浮かべると良いだろう。枠組みができるとこれから建てる家の全体像が浮かび上がってくる。枠組みがない中で、現実に建てられる家の全体像を想像するのは容易ではなく、具体性に欠ける。

人材育成におけるフレームワークとは、自社の人材育成を将来的にどのような形にしていくかを議論し、分析をすすめていく過程で活用すると効果的だ。「求める従業員像」を明確化し、人材育成に関わる経営者やスタッフの思考力を向上させる「枠組み」となるものである。

中長期の人事戦略にはフレームワークが必要

人材育成を含めた人事の実務には、短期・中期・長期の業務と課題が存在する。それぞれに重要であるが、すぐに結果や結論が出る短期の仕事とは違い、中期・長期の業務と課題には、最適で明解な施策や対策、正解は存在しない。なぜなら将来は未確定であるからだ。特に近年は、企業を取り巻く環境変化のスピードが加速し、予測の困難さが増している。

そのような中でも、企業は中期・長期、将来のビジョンや目標達成のための戦略が必要になる。中期・長期の人事戦略は、企業を取り巻く環境の変化に対応できるものでなければならない。そこで解決策として活用できるのが、人事戦略の枠組みとなるフレームワークなのである。

フレームワークは共通認識をつくる

フレームワークは「枠組み」となって、人材育成に関わる経営者やスタッフの思考力を向上させる。さらに、組織運営に欠かせないコミュニケーションツールとしての利点もある。それはフレームワークによって、経営者やスタッフの「共通認識」が確立される点である。

フレームワークは明確で絶対的な価値の枠組みとして、人材育成に関わるすべての経営者やスタッフの「共通認識」として存在するのである。これは、中期・長期間、人材育成の問題点や施策を実行していくうえで非常に重要なポイントである。

人材育成に関わる経営者やスタッフの考え方、価値観は、個人によってばらつきがある。施策を検討していくうえで、考え方や価値観のばらつきは、決して悪いことではない。多様で多面的な考え方は、計画段階では重要である。

しかし施策の決定や実行段階では、ひとつの考え方が採用され、その他の考え方は不採用になることがある。施策の決定や実行で最重要なのが「共通認識」としてのフレームワークである。人材育成に関わる経営者やスタッフの間で十分なコミュニケーションのもと「共通認識」ができていれば、不採用になった考え方をもつスタッフの不満は緩解すると予測される。その結果、不効率で無駄な組織運営が発生することを未然に防ぐことができるのである。

フレームワークによる共通認識の重要性

フレームワークによる経営者やスタッフの共通認識は、人材育成をテーマにしたプロジェクトやミーティングの場面などで重要性が増す。特に、部門や部署を超えてスタッフを集めプロジェクトチームを編成する場合はより効果的だ。具体例として下記のような場面が考えられる。

・ランダムにアイデアを出し合う場面:ランダムにアイデアを出す場面では、考え方の制限は加えないが、何の話し合いをしているかという根本的な「共通認識」としてフレームワークが役立つ。

・目標目的の決定:目標目的の決定の場面では、なぜその目標にするのかというベースとなる共通認識としてフレームワークが重要である。

・戦略の決定:目標目的を達成するための戦略を決定する場面では、具体的な方向性を示す共通の枠組みや言語としてフレームワークが必要である。

人材育成にフレームワークを活用するためのポイント

フレームワークを活用するときの前提は、フレームワークは「枠組み」であって、人材育成の取り組みの完成形ではない点だ。フレームワークは自社の課題や問題点を解決するための思考を整理し、効率的な作業を手助けするものであるが、フレームワークの枠を埋めるだけで満足していては、問題解決には至らない。前提をふまえた上で、人材育成にフレームワークを活用するためのポイントを3点紹介する。

ポイント1 自社の求める従業員像を明確化する

フレームワークは枠組みのモデルであって万全なものではない。スタートに当たっては、現状を調査・分析しなければならない。そして、現状分析のゴールは「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を明確化することだ。そして、その従業員像は人材育成の取り組みを進める際に、人材育成に関わる経営者やスタッフの共通認識として共有される必要がある。

「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を明確化する手順例は下記になる。

1)自社の従業員や組織、人事制度の課題や強み・弱み、を洗い出す

2)企業のビジョンや目標達成のために、今後改善すべき組織、制度、意識、行動を明確化する

3)今後改善すべき組織、制度、意識、行動を成し遂げるために必要となる「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を明確化する

4)「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を生みだすために必要な人材育成の取り組みを検討する。

ポイント2 役職や業務ごとに最適な従業員像を明確化する

「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」は、人材育成に関わる経営者やスタッフの共通認識として共有でき、具体性のあるものでなければならない。施策として実務に落とし込み、行動を可能とするためには、「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」が、従業員一律でではなく、職階や職務ごとに設定される必要がある。さらに、実務的な職階や職務の区分だけでなく、企業がビジョンや目標達成のために、今後改善すべき組織、制度、意識、行動を起こすための期待項目についての区分も必要だ。

期待項目の例としては次の3点があげられるだろう。

1)「知識」のある人材
2)「クリエイティブ」な人材
3)「成果」を出せる人材

「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」は、職階や職務、期待項目を軸として、自社の現実的な「組織の人員構成」「従業員の年齢構成」などを考慮しながら、明確化していく。実務的で期待に即した人物像を区分して明確に設定していく事で、人材育成に関わる経営者やスタッフが企業のビジョンや目標達成に近づくためのより現実的な取り組みを検討できる。

ポイント3 フレームワークを自社に最適なモデルにカスタマイズする

フレームワークは、スタートのためのツールで、通過点と考える必要がある。さらにフレームワークモデルを埋めるだけでは、自社に最適な人材育成施策の「枠組み」をつくったことにはならない。企業の現状や目指す目的によってフレームワークの調整が必要だ。自社の現状を分析し、自社のビジョンや現状にあった最適なフレームワークモデルにカスタマイズすることが望ましい。

人材育成は、企業がビジョンや目標達成のための人事戦略のなかのひとつの項目である。人事戦略には、他にも「人事評価」「人材配置」「給与制度」などがある。人材育成のフレームワークは、単独で独立したものではなく、他の人事戦略と相互に連携したトータルなシステムである事も重要だ。

人材育成のフレームワークモデル

企業経営者が人材育成の改善に取り組むための解決策として活用できるのが「フレームワーク」であることを解説してきた。同時に、フレームワークは絶対的なものでなく、自社の実情に合わせてカスタマイズすることが重要である点も説明した。ここでは、参考に一般的な人材育成のフレームワークを紹介する。

自社の人材育成の目的を明確化する

人材育成をスタートするにあたり、まず初めにすべき点は「自社の人材育成の目的を明確化する」ことだ。明確化にあたって留意すべきポイントは3点ある。

1)人材育成は経営戦略のために実施する
自社の将来に向けた経営戦略を念頭に置き、そのために必要な人材を育成することが目的である。

2)人材育成は社会環境の変化に対応するために実施する
少子高齢化による人材不足やグローバル化、IT化など、自社を取り巻く社会環境の変化に対応するために人材育成が必要である。

3)人材育成は自社に最適なプランでなければならない。

自社の人材育成の現状と課題を把握する

自社の現状と課題を本質的に把握するには5つのポイントに留意する必要があるだろう。

1)従業員の職階・職務や企業が求める人材ごとに人材育成の現状と課題を洗い出す。
(企業が求める人材としては、知識が必要な人材、クリエイティブが求められる人材、成果を求める人材などがあげられる。)

2)組織の人員構成・業務内容・生産性などを数値で把握して分析する。

3)現状と課題の把握には現場の管理職、実務担当者の意見も聞く。

4)課題の把握には、3年後5年後の人員構成・業務内容・生産性も想定し考慮する。

5)経営者としての立場から現状と課題を考える。

人材育成制度を再構築する

自社の人材育成の目的が決まり、現状と課題の把握と分析ができたら、人材育成制度の再構築へのステップに進む。まずは、前述の人材育成にフレームワークを活用するためのポイントにある「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を明確化していく。

「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を具体的に自社の組織に当てはめるためには、役職や業務ごとに最適な従業員像を明確化する必要がある。それには、経営者の経営方針をベースにしながら、現場のマネージャーや場合によっては実務上キーマンとなっている従業員の意見をふまえ、役職や業務、担当部署ごとに最適な「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を明確化する。

人物像は具体性をもった項目で説明できるものでなければならない。代表的な項目としてはスキルがあげられる。自社の求める従業員のもつスキルを具体的にあげていくのだ。スキルを洗い出して明確化するツールに「スキルマップ」がある。

スキルマップとは、役職や業務、担当部署ごとに望むべきスキルと能力を洗い出して決定し、一覧表にしていくことである。スキルマップを作成することで、人材育成に関わる経営者やスタッフの中で「共通認識」が容易になる。

具体的な育成方法を選択する

スキルマップを活用して役職や業務、担当部署ごとに最適な「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」を明確化することができたら、具体的な育成方法を考えていく。

人材育成の施策を考える上で、忘れてはならないのが「コスト」である。コストは金銭面の他に、リソースと時間を考慮しなければならない。企業経営者は、スタッフからの提案や自らのプランを選択する際にコストに応じた効果、つまり費用対効果を意識して決断していく必要があるだろう。

具体的な人材育成の方法としては次の5つがあげられる。

1)集合研修
集合研修は、全従業員対象の研修から、役職や業務、担当部署、年次ごとに区分した研修まであり、多くの企業で実施されている。対象者に研修内容を一度に伝える方法として効率的である。一方で、場所と時間に制限があり、コストが大きい。

2)OJT
OJTは、現場で行う研修として通常実施されている。実務的なスキルを身につけさせるには効果的だ。一方で、コストとしてトレーナーのリソースと時間が大きくかかる。また、トレーナーのトレーニングスキルによって、効果に違いが生じる可能性がある。

3)eラーニング
eラーニングはIT技術を利用した手法で、テキストを使うような教育的人材育成方法として多くの企業に採用されている。集合研修と違い、時間と場所の制限を受けないところがeラーニングの最大の魅力だ。

4)自己啓発
通信教育などの自己啓発を人材育成の方法として採用することは、主体性のある従業員に適した施策である。一方で、主体性のない従業員に対しては効果が希薄である。

5)社外研修
社外の研修プログラムを採用して、従業員に社外研修を受講させる方法は、研修のプロによる質の高い内容が期待できる。一方でコストが高く、限られた人材のみが対象になる点は否めない。

人材育成の実施

具体的な人材育成の方法が選択できたら人材育成のプランを計画し実行していく。ここでも注意すべき点は、「費用対効果」である。どの育成方法であっても、費用と担当者の負担が生じる。自社のリソースの現状に合わせて、いくつかの方法を効果的に組み合わせることが必要であろう。

コストを意識した人材育成の実施例としていくつか紹介しよう。

・知識面は、集合研修ではなく、eラーニングを活用
・大規模な集合研修からコミュニケーション重視の小規模集合研修に移行する
・実務的なスキルのうちマニュアルで対応できるレギュラーなスキルはOJTから小規模な集合研修へ移行させる

人材育成のフレームワークは企業経営を意識して考える

人材育成のフレームワークを考える際に忘れてはならないことは「企業経営を意識」することである。企業経営者にとっては当たり前のことであるが、現状分析や検討、課題の洗い出し、目標や施策などをスタッフと考えているうちに、本題である企業経営や業績向上を見失ってしまう事も考えられる。

最後にフレームワークの実践部分である具体的な育成方法を考える際に忘れてはならないポイントを解説しておこう。

企業経営おける業績向上とは、第一に「売上を上げる」ことであるがそれだけではない。問題になるのは「コスト」と「ロス」である。フレームワークの実践部分である具体的な育成方法を考える際には、売上を上げるための育成方法だけでなく、コストダウンを図るための育成や、ロスを生じさせない育成方法も同時に考える必要がある。

売上を上げるための育成方法は、スキルアップの育成であり、「人材育成=スキルアップ」といえるぐらい企業に浸透している。一方でリスク管理、業務改善といったコストダウンを図るための育成や従業員の退職防止、モチベーションアップ、コンプライアンス、メンタルヘルスなどのような結果的に企業のロスを防ぐための人材育成もある。これらは業績向上というよりは、保全的な意味合いで考えられることが多いだろう。

現実には「売上を上げる」ことと同様(社会環境によってはそれ以上)に、「コスト」と「ロス」は、業績向上に影響をおよぼす。人材育成のフレームワークを考える際には自社の現状と企業経営を意識し、「売上」「コスト」「ロス」を念頭にいれたフレームワークモデルを構築する必要がある。

フレームワークは人材を育成し、企業に定着させる

フレームワークは人材育成の改善を図るだけではなく、人材の定着にも有効だ。なぜならフレームワークを活用すると、経営者と人材育成に関わるスタッフが「自社の求める従業員像(自社が期待する人材像)」の情報を共有しやすくなるためである。そのうえ、人材育成のために明確にしたスキルマップを指標とする人材育成方法を採用し、求める従業員を育成しやすくなる。フレームワーク(枠組み)をもった取り組みは明解で、人材育成の浸透・定着の可能性が高まるのである。

文・小塚信夫(ファイナンシャルプランナー・ビジネスライター)

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