のれん分け
(画像=PIXTA)

暖簾分けによる多店舗展開には、商業圏の拡大やスケールメリット、リスクの分散など、さまざまなメリットが期待できる。しかし、その進め方を誤れば足をすくわれる恐れもある。今回は暖簾分けについて、フランチャイズとの違いも踏まえながら解説していこう。

目次

  1. そもそも「暖簾分け」とは?
  2. 暖簾分けとフランチャイズの違い
    1. 1.対象者の違い
    2. 2.加盟店(事業者)側の自由度の違い
    3. 3.加盟金やロイヤリティの違い
    4. 4.本部のサポートの違い
    5. 5.向いている業界の違い
  3. 暖簾分けのメリット・デメリットとは?
    1. 【メリット1】ノウハウの指導の必要性がなく、失敗リスクが低い
    2. 【メリット2】 従業員のモチベーションを高く保てる
    3. 【デメリット1】 開業まで時間を要する
    4. 【デメリット2】 加盟金やロイヤリティがない
  4. フランチャイズのメリット・デメリットとは?
    1. 【メリット1】指導や管理が手厚く、未経験者でも始められる
    2. 【メリット2】加盟金やロイヤリティを受け取れる
    3. 【メリット3】スケールメリットが早く得られる
    4. 【デメリット1】 ブランドイメージの悪化リスクがある
    5. 【デメリット2】 ノウハウ流出の恐れがある
  5. 暖簾分けとフランチャイズの“いいとこ取り”のれんチャイズ
  6. 暖簾分けを成功させるために、しっかりと事業譲渡契約を交わそう
    1. 1.競業避止義務
    2. 2.保証金
    3. 3.違約金
  7. 暖簾分けでブランド認知度アップを目指そう

そもそも「暖簾分け」とは?

暖簾分けとは、店で長年働いた従業員に対し、同じ屋号を使って独立して商売を始めることを認めることだ。

古くから「暖簾」は、商家の入り口に掲げられてきた。元々は日よけや目隠しが主な目的だったが、閉店後に暖簾をしまうことから営業中の証としても用いられている。また、屋号や店名、業種を表す役割もあり、言わば広告媒体としての役割も担っている。

今でも個人商店・飲食店などで暖簾を目にすることはあるが、次第に「暖簾」という言葉は概念的な意味合いも持つようになった。「暖簾を守る」「暖簾に傷がつく」といった言い回しがあるし、M&Aの際の会計処理に「のれん」という勘定科目が用いられるのはよい例だろう。単なる印ではなく、店の信用や格式など、目に見えない価値を表しているのである。

つまり、暖簾分けは、そうした店の信用や格式を守っていく手段であると言える。暖簾分けを繰り返すことで、店の認知度やブランド力が上がり、店の伝統を受け継いでいくことができるのだ。

暖簾分けとフランチャイズの違い

暖簾分けとよく比較されるのが、「フランチャイズ」である。いずれも多店舗展開を図る手段だが、両者の違いはどこにあるのだろうか。簡潔に表にまとめてみた。

主な違い暖簾分けフランチャイズ
対象者元従業員第三者
加盟店側の自由度高い低い
加盟金やロイヤリティなし、または少ないある
本部のサポート右記いずれか・屋号、店名、商標の使用権
・ノウハウ
・商材
・開業指導
・経営指導
向いている業界高い技術や職人技が求められる店舗高い技術が必要のない業界
コンビニや外食店など

では、以下でそれぞれの違いを詳しく見ていこう。

1.対象者の違い

暖簾分けは前項のとおり、従業員が対象である。元々ノウハウや高い技術を持った人材が開業するため、指導の手間が省ける。また、店のブランドイメージを損なう可能性が低い。

一方のフランチャイズはまったくの第三者が対象で、基本的に誰でも加盟店になれる。元来、店とは何の関わりもない人、経験のない人が開業することも可能なシステムであるため、あらゆることに対し細かな指導が必要となる。

2.加盟店(事業者)側の自由度の違い

対象者の違いに伴って、暖簾分けとフランチャイズでは加盟店に与える裁量、つまり、自由度にも差がある。

先にも述べたが、フランチャイズの場合はノウハウのしっかりとした共有が必要だ。営業の手法、商品・サービスの種類、仕入れ先、事業に使用するツールに至るまで、本部(フランチャイザー)から加盟店(フランチャイジー)へ細かな指定を行う必要がある。

そのため、加盟店にとっては制約が多く、自由度は低い。経営方針を変えることは基本的にできないし、加盟店がオリジナリティを発揮することもほぼできない。さらに、契約期間などのルールを破れば多額の違約金が発生する。

これとは対照的に、暖簾分けにおける事業者の自由度は高い。元従業員が独立する手助けをする手段でもあるので、店のブランドイメージさえ傷つけなければ、ある程度の裁量を与えて経営を任せる形が一般的だ。また、本部と事業者との信頼関係が構築されているため、制約を特段設けなくても、もめごとに発展しにくい。

3.加盟金やロイヤリティの違い

暖簾分けでは、基本的に加盟金やロイヤリティが発生しない。また、すでにノウハウを持った人材が経営をするので、事業者は開業指導や研修に費用を掛ける必要もなくなる。ただし、事業者が本部から商材の提供や経営指導を受ける場合などは、一定の手数料が発生する場合もある。

これに対して、フランチャイズの場合は、加盟金やロイヤリティが本部における一定の収入源になる。本部は商標やノウハウを共有する代わりに、加盟店から加盟時の加盟金に加え、開業指導費や研修費を受け取れるのだ。また、加盟店による売上金の一部を、ロイヤリティとして継続的に受け取ることもできる。

4.本部のサポートの違い

本部との関係性の違いは、本部から加盟店・事業者へのサポートの違いとしても現れる。

フランチャイズは、本部での業務経験がまったくない人でもすぐに開業できる仕組みだ。そのため、屋号・店名・商標の使用権、ノウハウ、商材、開業指導、経営指導といった店舗の開業・経営に必要なすべてを本部が用意する。

一方の暖簾分けでは、すでに高い技術やノウハウを持った人材が開業する。そのため、屋号・店名・商標の使用権、ノウハウ、商材、開業指導、経営指導のうち、一部を本部が提供することが多い。中には、屋号以外は提供されないケースもある。

5.向いている業界の違い

以上のような特徴から、一般的に高い技術を要する業界では、フランチャイズは難しい。例えば、昔ながらの和菓子店や蕎麦屋では、暖簾分けをすることが多い。また、何年も修行が必要な美容師の間でも、暖簾分けが広く行われている。

これに対して、フランチャイズが行われるのは、コンビニエンスストア、飲食店といったマニュアル化しやすい店舗である。

暖簾分けのメリット・デメリットとは?

先ほども紹介したように、多店舗展開の手段として「暖簾分け」と「フランチャイズ」のどちらが適しているかは業態によって異なり、それぞれにメリット・デメリットがある。まずは、暖簾分けのメリット・デメリットを見てみよう。

【メリット1】ノウハウの指導の必要性がなく、失敗リスクが低い

暖簾分けは、失敗のリスクを抑えやすい点が大きな特長だ。独立を認められるほど優秀で高い技術を有した人材が事業者となるので、成功の見込みが大いにある。ノウハウを改めて指導しなくても、開業後すぐに質の高いサービスを提供できる可能性が高いだろう。ブランドイメージが悪化する心配も少ない。

【メリット2】 従業員のモチベーションを高く保てる

暖簾分けという制度が生まれたのは、年金制度や終身雇用制度のなかった時代のこと。店で修行を重ねた従業員に対し、言わば退職金の代わりとして「恩返し」のような意味を込めて、暖簾分けによる独立が認められていた。

現代でもその本質は変わらず、従業員にとっても暖簾分けはメリットだ。暖簾分けを前提とした雇用なら、従業員のモチベーションを高く保つことができ、魅力的な職場を作れるだろう。自分の店を持つことを目指す従業員は、ノウハウや技術の吸収が早いことは想像に難くない。人手不足の深刻さが叫ばれる中、モチベーションの高い人材が企業の発展に貢献してくれることは心強いだろう。

【デメリット1】 開業まで時間を要する

一方でデメリットとしては、まず「開業までの時間が長いこと」が挙げられる。独立した店を持たせられるまで従業員が成長し、商標を任せられるほどの信頼関係を築くには、年単位の時間が必要となる。したがって、いくつもの店舗を次々と展開させるような戦略にはあまり向かないと言える。

【デメリット2】 加盟金やロイヤリティがない

前述したが、暖簾分けでは基本的に本部は収入源を期待できない。加盟金やロイヤリティは発生しないことがあり、一般的に事業者の売上は事業者自身のものとなるためだ。

ただし、暖簾分けが成功すれば、ブランドイメージの向上につながり、ひいては自らの店の売上アップにつながる可能性もある。目先の利益ではなく、長い目で見て経営に好影響を与える可能性もあるのが暖簾分けだと考えよう。

フランチャイズのメリット・デメリットとは?

フランチャイズのシステムがコンビニエンスストア、飲食店、学習塾などあらゆる企業にとり入れられているのは、そのメリットが大きいことの証明でもある。より詳しく、メリットとデメリットを見ていこう。

【メリット1】指導や管理が手厚く、未経験者でも始められる

店舗経営には仕入れ、接客、販売促進、宣伝、労務など、あらゆるスキルが求められ、特に未経験者には高いハードルが課せられる。その点、フランチャイズでは本部によるきめ細やかな指導があり、あらゆることがシステム化されているため、まったくの未経験者でもすぐに経営を始められる。アルバイトの採用や教育までマニュアル化されており、事業者が経営に集中できる環境が整えられている。

暖簾分けによる多店舗展開の場合、「後継者がいない、または育てるまでに時間が掛かる」という悩みを抱える経営者もいるが、フランチャイズの場合は上記の理由からその心配は要らないだろう。希望する人さえいれば、加盟店として1つの店を短期間で任せられる。

また、加盟店はすでに確立されたブランドイメージの傘の下で開業できるため、最初からある程度の売上が期待できる点もメリットだ。

【メリット2】加盟金やロイヤリティを受け取れる

繰り返しになるが、フランチャイズでは加盟店からの加盟金やロイヤリティによる収入が期待できる。ブランドイメージやあらゆるノウハウを提供する「対価」を得るというわけだ。

ロイヤリティは毎月定額の場合もあれば、売上金の一定割合をロイヤリティ料と定める場合もある。一般的には、後者の売上金の一定割合を徴収する「売上歩合方式」が採用されているケースが多い。なお、ロイヤリティのパーセンテージは本部が自由に決められる。

【メリット3】スケールメリットが早く得られる

効率よく多数の店舗を展開できるフランチャイズなら、スケールメリットが早く得られ、事業の拡大に拍車をかけられるだろう。例えば、仕入れ単価や輸送コストの抑制や、店舗数増加による認知度アップが期待できる。

【デメリット1】 ブランドイメージの悪化リスクがある

2019年頃から「バイトテロ」という言葉が生まれたことは、記憶に新しい。

有名企業の飲食店やコンビニエンスストアのチェーン店で働くアルバイトが、勤務中に撮影した不適切な動画をSNSに投稿し、炎上してしまうといったものだ。こうした行為は企業ブランドのイメージ悪化につながり、一時は売上が低迷する店も出た。ほかにも賞味期限や産地の偽装など、いち加盟店の不祥事が企業全体の不祥事になり得るし、その結果ブランドイメージに傷をつけてしまう恐れがある。

たとえ加盟店への指導・管理に力を入れたとしても、フランチャイズで加盟店を経営するのはまったくの第三者だ。その分、効率よく多店舗展開はできるが、反面ですべての店舗、すべての従業員を完全に管理・コントロールすることが難しい。

【デメリット2】 ノウハウ流出の恐れがある

フランチャイズは、長年かけて集めた成功事例・失敗事例を元にノウハウが構築されている。当然ながら、そのノウハウは競合する企業にとっても価値のある代物だろう。

加盟店に対して秘密保持義務を課すとは言え、何店も開業すれば、どこかから流出しないとも限らない。長年培ったノウハウが流出してしまえば、企業にとって大きな痛手となる可能性がある。

メリットデメリット
暖簾分け・ノウハウの指導の必要性がなく、失敗リスクが低い
・従業員のモチベーションを高く保てる
・開業まで時間を要する
・加盟金やロイヤリティがない
フランチャイズ・指導や管理が手厚く、未経験者でも始められる
・加盟金やロイヤリティを受け取れる
・スケールメリットが早く得られる
・ブランドイメージの悪化リスクがある
・ノウハウ流出の恐れがある

上の表は、ここまで解説してきたメリット・デメリットをまとめたものだ。経営者はそれぞれの違いをしっかりと理解し、目的に適した手段を選んでいきたい。

暖簾分けとフランチャイズの“いいとこ取り”のれんチャイズ

ここまでで見てきたように、暖簾分けにもフランチャイズにもそれぞれデメリットがある。そのデメリットをカバーする制度として、「のれんチャイズ」と呼ばれる制度をとり入れている企業が存在する。

のれんチャイズは、フランチャイズのように初期のサポートが手厚く、暖簾分けのように開業後の自由度が高いといった特徴を持つ。本部から開業・経営に対する指導を受けながらも、販促活動や取引先の選定、商材の開発などを自由に行えるのである。

例えば、外食チェーン大阪王将は、のれんチャイズによる多店舗展開を繰り広げている代表的な企業だ。大阪王将の加盟店は、本部に対しロイヤリティを支払う必要もない。加盟店の自主性を尊重しながら、着実に店舗数を増やしている。

暖簾分けを成功させるために、しっかりと事業譲渡契約を交わそう

多店舗展開の手段として暖簾分けすることを決めたとして、いくら信頼関係のある元従業員と言えども、口約束で暖簾分けをするのはおすすめしない。未経験者に商標を提供するフランチャイズほどではないにせよ、最低限のルール設定は必要である。

そこで大切なのが「事業譲渡契約」だ。事業譲渡契約書は、まさに暖簾分けをするタイミングだけでなく、その後のトラブルを回避するためにも重要になる。具体的に、暖簾分けに際して交わしておくべき最低限の事業譲渡契約の内容について、以下で解説していこう。

1.競業避止義務

暖簾分けにおける事業譲渡契約では、「競業避止義務」の規定が欠かせない。顧客を奪い合うことのないよう、「同一事業を同一地域で行わない」という取り決めを交わすのである。独立した元従業員に自分の顧客の大半を奪われてしまったら、本部の売上は下がってしまうだろう。その結果、両者の関係が悪化する事態も招きかねない。

こうしたトラブルを未然に防ぐために、競業避止義務契約とともに、万が一違反した場合の違約金(後述)についても、事業譲渡契約書に盛り込んでおくことをおすすめする。

2.保証金

独立する元従業員が本部に対して債務を負う場合は、保証金に関する規定を設けるべきだ。もし、暖簾分けした事業者がロイヤリティや家賃などを支払えなくなった場合、本部は大きな損失を負いかねない。

保証金を受け取っておけば、その弁済に充てることができる。恩のある元従業員に対して保証金を受け取るのは気がひけるかもしれないが、保証金があることで不要なトラブルを避けられる可能性もある。

保証金の額は、本部に対して負う債務の1ヶ月分が目安だ。不測の事態が生じたときにも、少しの時間を稼ぐことができる。なお、特に債務が発生しない場合は、保証金を設ける必要はないだろう。

3.違約金

違約金も、信頼関係のある元従業員に対しては提案しづらいかもしれないが、万一重大な契約違反があった場合に備え、しっかりと規定しておきたいところだ。「重大な契約違反」とは、例えば先述した競業避止義務違反のほか、商標使用義務違反といったことが挙げられる。

ただし、違約金は抑止力になり得るが、あまりに厳しく設定すると事業者の自由を奪いかねないため、注意が必要だ。あくまで、最低限守ってもらいたいことを破った場合に発生するものだと考えるべきだろう。

暖簾分けでブランド認知度アップを目指そう

暖簾分けは、多店舗展開を目指す上で有効な手段だ。しかし、目指すゴールや業態によってはフランチャイズの方が適切なケースもある。それぞれにメリット・デメリットがあるため、本記事を参考に自社の経営戦略に合った方法を見つけてほしい。

また、暖簾分けを目指すなら、そのデメリットを知った上で必ず事業譲渡契約を交わすことを覚えておこう。せっかく厚い信頼関係を築いた元従業員と無用なもめごとを引き起こさないためにも、そして、多店舗展開を成功に導くためにも、適切に事業譲渡契約書を作成・締結したいところだ。

文・THE OWNER編集部

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