役員賞与
(画像=PIXTA)

株式会社が経営を行うためには、取締役や執行役、監査役といった「役員」を置く必要がある。役員は会社の経営を担うポジションであり、報酬額は高い。ただし役員報酬は、一般社員の給料とは取り扱いが大きく異なる。

一般社員の給与は、業務上の対価として支払われるもので、会社側は損金・経費として計上できる。しかし役員に対する報酬は、税法上の様々な規定があり、そのルールに従って支給されなければ損金に算入できない。つまり課税対象になるのだ。

今回は、役員報酬をどうすれば損金算入できるのかという問題において、「事前確定届出給与」という役員報酬制度に注目した。その概要と制度の利用方法について、詳しく解説する。

目次

  1. 役員賞与と役員報酬の違いとは?損金として扱えるかどうか
    1. 役員賞与と役員報酬の違い
    2. 役員賞与ではなく役員報酬として認められるには?
  2. 事前確定届出給与として届け出れば、損金算入でき節税につながる
    1. 事前確定届出給与とは?
    2. 税務署に届出が必要
  3. 役員への賞与を事前確定届出給与とするための注意点とは?
    1. 届出スケジュールを確認する
    2. 税務署に届出をする際に必要な書類の用意
    3. 事前確定届出給与は利益調整に使うことができる?
  4. 事前確定届出給与で役員の報酬を損金算入すれば、節税効果と役員のモチベーション向上の一石二鳥!

役員賞与と役員報酬の違いとは?損金として扱えるかどうか

企業の中核的人材である役員のモチベーション、士気を高めるためには、報酬を上げることが有効だ。しかし役員は、一般社員とは報酬に関する規則が異なるので注意が必要である。以下で、役員に対する報酬である「役員賞与」と「役員報酬」について取り上げ、両者の違いについて詳しく解説する。

役員賞与と役員報酬の違い

会社が上げた利益を社員に還元する方法の1つに、「賞与」がある。規模の小さな会社であっても、ある程度業績が良い場合、社員の功績をたたえ、労苦をねぎらうために賞与が支給されることが多い。

会社側にとって、賞与を社員に支給することには、節税につながるという利点もある。社員に対して支給する賞与は、基本的にすべて損金=経費・費用として計上できる。社員に賞与を出すことは、社員のモチベーション・士気を高めることに加えて、税金の支払いを抑える効果があるのだ。

しかし、これは役員には当てはまらない。

役員に対する報酬には、「役員報酬」と「役員賞与」がある。役員報酬とは、役員に対して臨時的に支給される賞与と退職給与以外の報酬のことで、「損金」として扱われる。役員賞与とは、役員に支給される退職給与以外の臨時的な報酬のことで、「利益の分配」という意味合いが強い。

損金として扱われない役員賞与は、損金扱いの役員報酬とは異なり、課税対象となる。そのため、役員賞与を支給した場合、モチベーション・士気を高めることはできるが、「節税」というもう1つの効果を得ることはできないのだ。

これは、考えてみれば当然だ。特に中小企業の場合、経営者の親族が役員になっていることが多い。その役員に対して、経営者がいつでも臨時的に賞与を与え、その額を損金に計上できるとなれば、税金逃れのための利益操作が行われかねない。それを防ぐために、役員賞与は損金として計上できないよう規定されているのである。

役員に対して損金に計上できる形で報酬を与えるには、臨時的な「役員賞与」ではなく、非臨時的で経費扱いの「役員報酬」であると税務署に認められる必要があるのだ。どちらの形態であっても、受け取る役員にとって違いはないだろう。しかし企業にとっては、役員への報酬が課税対象となるかどうかは、節税という点で重要な問題なのだ。

役員賞与ではなく役員報酬として認められるには?

では、役員賞与ではなく役員報酬と税務署に認められるためには、どうすればいいのだろうか。

その方法の1つが、「定期同額給与」の支給である。これは、役員への報酬を賞与のような臨時的なものではなく、定期的かつ定額で支給することをいう。要するに一般社員の月給と同様に支給するということだ。定期同額給与として支給することで、賞与として支給する予定だったお金を、損金として計上できる形で役員に支給できる。

ただし定期同額給与を支給するためには、会社が事前にその期に出る利益額を予測し、役員への給与を計画的に設定しなければならない。もし支給時期が不定期で支給額が変動していたら、税務署から役員賞与と見なされ、損金として扱うことができなくなってしまう。

これとは別に、「利益連動給与」を導入するという方法もある。これは、会社の業績に役員の給与を連動させる制度のことで、成果主義を採用している企業に多い支給方法だ。報酬算定の基礎となるのは会社の利益や株式の市場価格であり、必要な要件をクリアできれば、報酬額の全額を損金として計上できる。

そして第3の方法が、今回のテーマである「事前確定届出給与」だ。詳しく見ていこう。

事前確定届出給与として届け出れば、損金算入でき節税につながる

役員に対する給与を損金として計上できるのは、定期同額給与、業績連動給与、そして事前確定届出給与のいずれかに該当するものだけだ。事前確定届出給与は、所轄の税務署長に対して所定の書類を期限内に提出する必要があるなど、ルールが厳しく定められている。もし規定通りに届出をしなければ、役員への報酬を損金扱いにできない。

事前確定届出給与とは?

事前確定届出給与とは、納税地における所轄税務署長に対して「事前確定届出給与に関する届出書」の届出を行った上で、役員に対して賞与を与える方法だ。届出書に個々の役員ごとの報酬の支給時期と支給金額を明記し、記載内容のとおりに支給が行われた場合に限り、その報酬損金として計上できる「役員報酬」となる。

この方法であれば、臨時の賞与に近い形で役員に報酬を支給できる。定期同額給与と事前確定届出給与は、重複しても問題ない。そのため、定期同額給与を役員の定期的な報酬=月給とし、事前確定届出給与による報酬を役員への賞与・ボーナスとするケースは多い。

ただし損金として認められるのは、事前に税務署に届出をして、届出の内容と時期と金額が完全に一致した形で役員に報酬が支給された場合のみだ。もし記載内容のとおりに支給しなかった場合は、法人税法に基づいて、原則としてその報酬は損金不算入となってしまう。

たとえ1円でも異なる金額を支給してしまったら、不完全一致支給と見なされるので、支給の際は注意してもらいたい。不完全一致支給と見なされたら、不一致の部分だけではなく、報酬額の全額が損金不算入となってしまうのだ。

もし事前確定届出給与の関する届出書の内容とおりに報酬を支給することができず、届出をした報酬分が損金不算入となっても、他の方法で損金算入された分には影響しない。たとえば、定期同額給与と事前確定届出給与を重複して利用していて、事前確定届出給与分が手違いによって損金不算入となっても、定期同額給与分については損金算入が認められる。

しかし、事前確定届出給与を複数回に分けて役員に支給することを届出書に明記していた場合、1回でも不完全一致支給を起こしてしまうと、その年度の事前確定届出給与分はすべて損金不算入となる。例えば、1回目は届出書の内容とおりに支給しても、2回目が不完全一致支給だった場合、1回目の分も含めて損金不算入となってしまう。

税務署に届出が必要

「事前確定届出給与に関する届出書」には、厳格な提出期限が定められている。具体的な期日は、次の①と②のどちらか早い日である。

①職務執行開始日、もしくは株主総会等の決議日のどちらか早い日から1ヵ月後。
②事業年度が開始した日から4ヵ月後

たとえば、「事業年度の開始日が4月1日、株主総会が6月25日に開催、株主総会の場で役員報酬額が決定され、職務の執行期間を6月25日~翌年6月24日まで」という状況を考えてみよう。この場合、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限はいつになるだろうか。

事業年度の開始日が4月1日なので、②の「事業年度が開始した日から4ヵ月後」に当たるのは、同年7月31日である。①については、職務執行開始日と株主総会等の決議日はどちらも6月25日なので、その1ヵ月後は7月24日。①と②のどちらか早い日なので、この場合の提出期限は「7月24日」となる。なお新設法人の場合、事前確定届出給与は設立後2ヵ月以内に届け出る必要がある。

役員への賞与を事前確定届出給与とするための注意点とは?

事前確定届出給与に関する届出書は期限が厳格に定められ、さらに届け出た内容とおりに報酬を支給しなければ全額が損金と認められないなど、ルールは厳しい。税務署に届け出る場合は、期限を確実に守り、記載どおりに支給できるように細心の注意を払う必要がある。

届出スケジュールを確認する

事前確定届出給与に関する届け出書は、前述のように提出期限が定められているが、1日でも遅れると全額が損金不算入となる。期限間際に提出する場合は、絶対に遅れないよう十分注意したい。

事業年度の開始日が4月1日で、そこから4ヵ月以内ということは、提出期限は8月1日ではなく7月31日になる。このように提出期限を誤ると、株主総会で決議され、事前確定届出給与として支給されるはずだった役員の報酬は「役員賞与」として扱われることになる。

無事に届出書を期限内に提出しても、諸事情により後で届出内容を変更する必要が生じることがある。

その理由の1つが、役員の職制上の地位変更だ。「事前確定届出給与に関する届出書」に記載したスケジュールの期間中に、対象役員の地位が職制上大きく変わり、その内容どおりに支給することが適切ではなくなることがある。

事前確定届出給与においては、原則として届出後の金額の変更は認められないが、「役員の職制上の地位の変更」もしくは「職務内容の重大な変更等」があった場合は、変更届を税務署に提出することで、例外的に金額を変更できる。

ただし変更できるのは、臨時改定事由が発生した日から1ヵ月以内である。その期間を過ぎると、事前確定届出給与として申請した分は損金不算入となってしまう。

2つめの理由が、事前確定届出給与に関する届出書に記載した期間中に、その会社の業績が著しく悪化した場合だ。業績の状況によっては、記載されている内容どおりの役員報酬を支払うことができないことも起こり得る。このように経営状況が著しく悪化し、やむを得ず役員への給与を減額せざるを得なくなった場合は、届け出後の変更が認められている。

なお、業績悪化による改定が認められるための条件は厳しく、単に自社の都合で危機にあると判断する場合は改定事由とはならない。経営状況の悪化により、第三者である株主や債権者、取引先などの利害関係者との関係上、役員給与の金額を減らさざるを得ない事情がある場合に限る、とされている。

たとえば、「不特定多数の株主との関係上、当初定めた役員給与を減額せざるを得ない」、「銀行との借入金の返済計画を再検討した結果、当初定めた役員給与を減額せざるを得ない」といった場合だ。企業の経営者や役員当事者ではなく、外部の利害関係者の要請により変更を余儀なくされた場合に、届け出た後の改定が認められるのである。

業績悪化理由による変更にも変更届の提出期限があり、内容変更を行う株主総会などの決議日から1ヵ月以内とされている。

税務署に届出をする際に必要な書類の用意

事前確定届出給与に関する届出書を提出する場合、所定の書式の届出書と付表をセットにして提出する必要がある。届出書には、役員の報酬に関する決議を行った日、決議をした期間、提出期限となる日(前述の期限の決定方法に基づき記載)、事前確定届出給与が支給される日、支給される金額、などを正確に記載することが求められる。

記載する支給日については、「〇月〇日」という形で明確な日付を書くことが求められる。支給の回数は最大で3回まで記載できるが、一般の社員と同じく年2回以下とするのが一般的だ。支給金額についても、大まかな金額ではなく、1円単位で記載することが求められる。

届出書とセットで提出する付表には、事前確定届出給与などの状況、対象者の氏名と役職名、職務執行期間、事業年度(執行期間を含む)などを明記する。なお、提出は役員個々人ごと、職務試行期間ごとに行うのが原則である。

事前確定届出給与は利益調整に使うことができる?

事前確定届出給与の届け出を、株主総会を経て所定の期限内に適切行うことで、会社側は任意の時期に一般社員にとって賞与に当たるような報酬を役員に支給することができる。事前確定届出給与の仕組みに対して、「やり方次第では、会社が税金逃れのための利益調整目的で仕組みを悪用できる」と指摘する有識者もいる。

たとえば、3月決算の法人が、役員報酬を3月10日に300万円支給するという事前確定届出給与に関する届出書を税務署に提出したとしよう。

その後決算期を迎えて、利益が十分に出ていることがわかれば、届出書の内容のとおりに役員報酬(事前確定届出給与)を支給する。事前確定届出給与分の役員報酬は損金算入されるので、支給しない場合よりも節税できる。

もし、決算期を迎えて想定した利益が出ていない、あるいは赤字であることがわかったら、届出書の内容を実行せず、役員報酬を一切支給しない。すると、利益が出た場合に節税をするためだけに、事前確定届出給与の届け出をしたように見える。この場合は、確かに利益調整ができると見ることもできる。

しかし、このような行為を繰り返していると、税務署の側も疑義を抱き、対策措置・報復措置を取ってくることが考えられるので、おすすめできる方法ではない。

事前確定届出給与で役員の報酬を損金算入すれば、節税効果と役員のモチベーション向上の一石二鳥!

厳格な手続きを必要とする事前確定届出給与だが、税務署に必要書類を期限内に届け出ることで、株主総会で決められた役員報酬を損金算入できる。同じく役員に対する報酬を損金として扱える定期同額給与と併せて利用すれば、毎月定額の給与と、年に1~2回の大きな報酬という報酬体系を構築することができるのだ。

毎月支払われる定額の報酬だけでなく、事前確定届出給与の申請をして、ボーナスのような形の支給も行えば、役員のモチベーションアップにつながるだろう。損金算入することで節税効果も得ることができるので、一石二鳥と言えるだろう。

文・THE OWNER編集部

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