会社売却
(画像=PIXTA)

中小企業の経営者にとって、「会社売却」はさまざまな経営課題を解決する手段となり得る。ただし、会社売却は決して簡単な話ではなく、思わぬ失敗を招くことも珍しくない。興味を持っている経営者は、これを機に会社売却の概要や全体像をチェックしておこう。

目次

  1. 世の中のオーナーはなぜ会社を売却する?会社売却を決断する理由とは
  2. 会社を売却する6つのメリット
    1. 1.創業者利潤を獲得できる
    2. 2.会社や事業を存続できる
    3. 3.後継者不足が解決する
    4. 4.業務や連帯保証から解放される
    5. 5.シナジー効果によって、事業の成長を期待できる
  3. 会社を売却する3つのデメリット
    1. 1.経営権や同じ事業領域でのチャンスを失う
    2. 2.拘束期間(ロックアップ)が発生する
    3. 3.会社のイメージが低下するリスクがある
  4. 会社売却の基礎知識をチェック!売却する5つの方法と「M&A」とは?
    1. 会社を売却する5つの手法
  5. 売れる会社と売れない会社の違いとは?売れる会社にするためのポイント
    1. 1.事業を分社化し、営業キャッシュフローがプラスの事業のみを売却する
    2. 2.属人性を排除するための期間を設ける
    3. 3.資産や資料の洗い出しを行い、自社に最適な専門家を選ぶ
  6. 最後にチェック!会社を売却するまでの基本的な流れ
  7. 計画・準備に時間をかけ過ぎず、すばやく専門家に相談を
  8. 監修者紹介

世の中のオーナーはなぜ会社を売却する?会社売却を決断する理由とは

世の中のオーナーにとって、「会社の売却」は今後の人生を左右する重大イベントだ。会社売却が良い結果をもたらすこともあれば、悪い方向に転がってしまう可能性も十分に考えられる。

状況次第ではハイリスク・ハイリターンな選択肢といえるが、そもそも経営者はなぜ会社売却を決断するのだろうか。会社売却を決断する理由は、大きく以下の3つにわけられる。

会社売却の理由具体的な状況
【1】経営課題を解消するため・今のままでは従業員の雇用を守れない
・業績が悪化し、先行きに不安を感じている
・後継者がいない など
【2】会社を成長させるため・不採算事業を処理したい
・主力事業にもっと力を入れたい など
【3】新しいチャレンジをするため・創業者利潤を獲得し、別のビジネスを始めたい
・企業価値がピークの時に売却をしたい

上記を見てわかる通り、会社売却の理由は人それぞれだ。たとえば、上記【1】はややネガティブな理由(=ほかの選択肢が少ない)といえるが、【2】や【3】のように前向きな経営戦略によって会社売却を決断するオーナーも多く存在している。

上記でまとめた理由は、言い換えれば「会社を売却する目的」になる。目的によって今後とるべき戦略・行動はやや変わってくるので、会社売却を検討しているオーナーは、最初に会社売却の理由・目的を明確にしておきたい。

会社を売却する6つのメリット

経営者が会社を手放す方法としては、ほかにも「解散」や「清算」などがある。では、これらの方法と比べた場合に、会社売却にはどのようなメリットがあるのだろうか。

細かく見れば、会社売却にはさまざまなメリットがあるため、各メリットをひとつずつ確認していこう。

1.創業者利潤を獲得できる

一般的な会社売却は、その企業の株式を売却する形で進められる。つまり、実際には株主に売却益が入る形となるが、中小企業の場合は「株主=経営者」となっているケースが多いため、会社売却がそのまま創業者利潤につながることは珍しくない。

世の中のオーナーにとって、まとまった資金が手元に残る点は大きな魅力だ。老後資金に充てれば充実したセカンドライフを送れるし、起業資金として活用すれば新たなビジネスにチャレンジできる。

特に企業価値がピークのときに売却をすれば、「起業→会社売却」を繰り返すことで効率的に資産を構築できるため、近年では最初から売却を目指して起業するようなケースも見受けられる。

2.会社や事業を存続できる

経営に行き詰まっている中小企業にとって、会社売却は会社・事業を存続させるための手段になる。たとえば、潤沢な資金力を持つ企業に対して売却をすれば、設備投資によって売上が右肩上がりになるかもしれない。

赤字などの問題を抱えているときに打つ手がなくなると、後に待っている結果は倒産だけだ。倒産をすると会社や事業用資産を失うばかりか、これまで会社を支えてきた従業員も路頭に迷ってしまう。

そのような企業が会社売却によって経営課題を解決できれば、会社・事業そのものを存続できるため、従業員の雇用も引き続き守れるだろう。

3.後継者不足が解決する

昨今では、会社の経営を任せられる後継者が見つからない影響で、黒字であるにも関わらず倒産してしまう企業が珍しくない。このような現象は日本全国で発生しており、特に人材が限られている地方中小企業にとっては喫緊の課題となっている。

そんな状況を打開するための解決策として注目されている方法が、まさに今回解説している「会社売却」だ。自社を買収してくれる企業が見つかれば、新たな経営者を買い手側が用意してくれるため、売り手側から見れば後継者不足が一気に解決する。

4.業務や連帯保証から解放される

業務や連帯保証をはじめ、経営者がさまざまな負担から解放される点も会社売却のメリットだ。日々の業務から解放されれば、経営者は自由に使える時間がぐっと増えるため、プライベートやセカンドライフに費やす時間を充実させられる。

また、金融機関から融資を受ける際に設定される、「個人保証(連帯保証)」を外せるメリットも大きい。会社売却では、買い手側が保証を引き継ぐケースが一般的であるため、売り手側のオーナーの精神的負担は一気に軽減されるだろう。

5.シナジー効果によって、事業の成長を期待できる

シナジー効果とは、買い手・売り手の経営資源をうまく活用することで発生する、いわゆる「相乗効果」のことだ。このシナジー効果が発生すると、買い手側・売り手側の双方の売上が爆発的に伸びることがある。

「会社が成長する姿を見たい」と考えているオーナーにとって、シナジー効果は特に意識しておきたいポイント。仮にシナジー効果がうまく発生すれば、数ヶ月などの短期間で会社を成長させることも夢ではない。

また、シナジー効果の発生にともなって、従業員の待遇面がアップする点も大きなメリットとなる。

会社を売却する3つのデメリット

会社売却にはさまざまなメリットがある一方で、経営者にとっては軽視できないデメリットも存在する。目先の利益だけを重視すると、後になってからさらに大きなモノを失う恐れがあるため注意が必要だ。

では、会社売却において特に注意しておきたいデメリットを、以下でしっかりと確認していこう。

1.経営権や同じ事業領域でのチャンスを失う

これは当然のデメリットともいえるが、会社を売却したオーナーは経営権を失ってしまう。経営権を失う弊害としては、主に以下の点が挙げられるだろう。

・仮に経営が回復しても、その利益を手に入れられない
・事業の進め方や従業員の扱い方などに関して、口を挟めなくなる
・伝統のある会社を売却し、売却後に方向性が大きく変わると、周りから非難されることも

また、場合によっては「競業避止義務」が課せられる点も、会社売却において注意しておきたいポイントだ。たとえば、売り手側のオーナーが同じ業界や地域で再起を果たすと、買い手側に深刻な損失が生じる恐れがある。競業避止義務はそのような状況を防ぐための制約であり、競業避止義務を課せられた売り手側のオーナーは、売却した事業領域に一定期間携われなくなってしまう。

競業避止義務の内容はケースごとに変わるため、成約の前には契約内容を確実にチェックしておきたい。

2.拘束期間(ロックアップ)が発生する

会社売却では事業に関するキーマンが抜けることで、買収後の事業がうまく回らないケースもある。このような状況を防ぐために、買収側の権利として契約によく含まれているものが、「ロックアップ」と呼ばれる拘束期間だ。

ロックアップが定められている契約の場合、基本的には売り手側の経営者が2年~3年ほどは会社に残らなくてはならない。当然、この期間中に会社を辞めることは許されないので、人によっては大きな負担になってしまうだろう。

3.会社のイメージが低下するリスクがある

さまざまな経営課題を解決するために、会社売却を目指すことは今や珍しい現象ではない。しかし、会社売却に対して「同業他社に負けた」「ほかの選択肢がなくなった」など、あまり良くない印象を持っている人が多いのも事実だ。

つまり、状況次第では会社を売却するだけで、イメージが下がってしまう恐れがある。顧客からのイメージはもちろん、場合によっては従業員からのイメージも悪化してしまうため、関係者への説明にはしっかりと時間をかけなくてはならない。

会社売却のメリット会社売却のデメリット
・創業者利潤を獲得できる
・会社や事業を存続できる
・後継者不足が解決する
・業務や連帯保証から解放される
・シナジー効果によって、事業の成長を期待できる
・経営権や同じ事業領域でのチャンスを失う
・拘束期間(ロックアップ)が発生する
・会社のイメージが低下するリスクがある

上の表は、ここまで解説したメリット・デメリットをまとめたものだ。会社売却には魅力的なメリットがある一方で、経営者の今後を左右する深刻なデメリットも潜んでいる。

ただし、上記で紹介したデメリットについては、買い手との交渉によって回避できるものがある。たとえば、すぐにでも次の事業にチャレンジをしたい場合、売却価格を下げることでロックアップ期間を短縮するようなケースも少なくない。

特に競業避止義務とロックアップの2点は、オーナーの今後の動き方に大きく影響する要素なので、譲れない部分はしっかりと交渉することを意識しておこう。

会社売却の基礎知識をチェック!売却する5つの方法と「M&A」とは?

会社売却と聞いて、「M&A」という言葉をイメージする経営者は多いだろう。M&Aと会社売却は同じ意味合いで使用されるケースもあるが、厳密にいえば全く同じ言葉ではない。

本記事で解説している会社売却は、あくまでM&Aの手法のひとつだ。M&Aは、企業の合併や買収を総称した言葉であり、主に以下のような手法がM&Aに該当する。

M&Aに該当する手法概要
・買収本記事で解説している「会社売却」のこと。買い手が株式を買収することで、売り手企業を子会社化する形が一般的。
・合併複数の企業が解体し、1つの会社になること。
・分割新たに設立した会社や既存の会社に、売り手側の会社を分割させる手法。経営統合やグループ内再編など、組織再編の方法として用いられる。

本記事では割愛するが、M&Aは手法によってメリット・デメリットが大きく異なるため、直面しているケースによっては会社売却が適さないこともある。会社・事業を手放すことを検討している経営者は、その点を理解したうえで今後の計画を立てることが重要だ。

会社を売却する5つの手法

では、話を「会社売却(買収)」に戻して解説を進めていこう。

実は本記事で解説している会社売却についても、その手法はひとつではない。以下で簡単にまとめた通り、細かく見れば会社売却にも6つの手法が存在している。

会社売却の手法概要
【1】株式譲渡売り手が譲渡した株式を、買い手が買収するだけの比較的シンプルな手法。
【2】第三者割当増資特定の第三者に対して、新株を引き受ける権利を付与する手法。売り手側のオーナーには既存の株式が残るため、創業者利潤は発生しない。
【3】株式交換売り手側の株式を買い手側に取得させ、その対価を買い手側の株式で支払う手法。
【4】株式移転新しく設立した会社に対して、売り手企業の株式を移転させること。
【5】事業譲渡会社ではなく事業の全て、もしくは一部を譲渡する手法。

「事業の選択と集中」を目的にしている場合など、会社ではなく特定の事業を売却したいケースでは、「事業譲渡」が主な選択肢となる。その一方で、会社を売却する選択肢としては【1】~【4】があるが、創業者利潤や後継者不足の解決などを目的としている場合は、【1】の「株式譲渡」を選ぶことが一般的だ。

目的を達成できればどの方法を選んでも問題はないが、手法によっては新株発行や会社設立などの手間が生じる点には注意しておきたい。

売れる会社と売れない会社の違いとは?売れる会社にするためのポイント

会社売却を決めたからといって、全ての企業に買い手がつくわけではない。では、売れる会社と売れない会社には、具体的にどのような違いがあるのだろうか?

買い手が買収を決断する理由はさまざまだが、特に以下で挙げる状況に該当する売り手企業は、現時点で買い手をスムーズに見つけることは難しいだろう。

〇買い手が見つからない主な理由
・営業キャッシュフローがマイナスになっている
・売上を生み出すための仕組みがない
・経営者や特定の人物に依存しすぎている
・取引先や顧客が限定されている など

仮に上記のケースに該当する場合であっても、会社売却を諦める必要はない。以下で解説する「売れる会社にするためのポイント」を理解し、必要な準備にしっかりと取り組めば、買い手が現れる可能性もぐっと高まるはずだ。

1.事業を分社化し、営業キャッシュフローがプラスの事業のみを売却する

営業キャッシュフローがマイナスの場合、当面の間はプラスにするための努力が必要になる。しかし、資金や人材が限られた中小企業では、努力をしたからといって経営が改善するとは限らないだろう。

そこで選択肢のひとつとして考えたいのが、プラスの事業とマイナスの事業に「分社化」する方法だ。営業キャッシュフローがマイナスの会社はそのまま経営を続けることになるが、プラスの会社には興味を示す買い手が現れるかもしれない。

特に「一部でもいいから会社売却をしたい」「段階的にフェードアウトしたい」と考えている経営者にとって、分社化する方法はぜひ考えておきたい選択肢だろう。

2.属人性を排除するための期間を設ける

事業のキーマンが限定されていたり、ワンマン経営の状態が長く続いていたりなど、会社売却において属人性の強い企業は価値が上がりにくい。会社売却をきっかけにキーマンが退社すると、事業がスムーズに進まなくなってしまうためだ。

したがって、これまで特定人物への依存度が高かった企業は、属人性を排除した仕組みや組織を作り出す必要がある。具体的な方法としては、日々のルーチンワークの見直しやマニュアルの作成などが挙げられるだろう。

人材が限られた中小企業は特に属人的になりやすいため、これらの対策に取り組む期間をしっかりと設けて、事業の属人性を少しずつ排除しておきたい。

3.資産や資料の洗い出しを行い、自社に最適な専門家を選ぶ

ほとんどの会社売却は、買い手・売り手の信用関係のうえで成り立っている。特に買い手企業からすれば、わざわざ資金を支払ってまで信用力の低い企業を買収しないはずだ。

そこで意識しておきたいポイントが、「資産・資料の洗い出し」に力を入れること。資産や資料を細かく整理し、経営の透明性を高めることが信用力につながっていく。

また、資産・資料を洗い出して明確な状況がわかったら、次は専門家選びにも力を入れていきたい。仲介会社やアドバイザリー会社の選び方によって、会社売却の成否や売却金額は大きく変わってくるため、相談先は慎重に選ぶことが重要だ。

サービス内容や料金だけではなく、実績や得意分野などにも目を向けながら、自社に最適な専門家を選ぶようにしよう。

最後にチェック!会社を売却するまでの基本的な流れ

会社売却をスムーズに進めるには、全体の流れを事前に理解しておくことも重要だ。必要な準備を見落とさないためにも、売却するまでの基本的な流れを以下で簡単に確認しておこう。

会社を売却するまでの流れ概要
【1】専門家への相談自社の状況を整理したうえで、仲介会社やアドバイザリーに相談をする。
【2】仲介に関する契約の締結秘密保持契約やアドバイザリー契約を締結する。
【3】各種資料の提出専門家に対して、必要な資料を提出する工程。この資料をもとに、企業価値評価や企業概要書の作成が行われる。
【4】ノンネーム登録事業概要や会社規模など、買い手側に簡易的な情報を伝えるための「ノンネームシート」を作成する。
【5】トップ面談興味を示した買い手企業と売り手企業の経営者が、お互いの条件面を確認するためのトップ面談を実施する。
【6】基本合意基本的な条件面に問題がなければ、買い手と売り手の間で基本合意を結ぶ。
【7】デューデリジェンス売り手企業の経営や事業に関して、専門的な調査・分析(デューデリジェンス)を実施する。
【8】最終合意・クロージングデューデリジェンス後に問題がなければ、最終契約を締結する。

上記を見てわかる通り、一般的な会社売却ではさまざまな工程が必要になる。書類作成や調査なども実施されるため、【1】~【8】までに1年以上の期間がかかるケースも珍しくはない。

興味を示す買い手が見つからなければ、さらに長い期間が必要になると考えられるため、特に売り手側の企業は早めに行動を始めることが重要だ。売却時の希望条件などをまとめたうえで、いち早く自社に最適な専門家を探すところから取り組んでいこう。

計画・準備に時間をかけ過ぎず、すばやく専門家に相談を

会社売却にはさまざまなメリットがあるものの、興味を示す買い手を見つけることは簡単ではない。特に赤字経営などの問題を抱えている企業は、買い手候補が全く見つからない状況に陥ることがあるので、会社売却に向けた計画は慎重に立てることが重要だ。

ただし、計画・準備に時間をかけすぎると、売却したいタイミングに間に合わなくなる恐れがある。計画の立案に関しては、仲介会社などの専門家も力になってくれるため、自社の状況を整理したら専門家選びの工程にすばやく移ることを意識しておこう。

文・THE OWNER編集部

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。
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