効率的な採用活動を行うためには、自社が必要とする学生の特徴や採用市場について十分理解しておく必要がある。そこで、新卒採用支援サービスを提供している専門各社に、学生タイプ別の就職活動状況と企業が採用を成功させるためのポイントなどについて解説してもらった。(編集:日本人材ニュース編集部)
理系学生
ドリームキャリア
渡辺道也 理系ナビ編集長
内定を得やすいため、希望の業界や企業以外に興味の範囲が広がりにくい
理系学生の採用獲得に力を入れる企業は業界を問わず増加傾向にある一方、理系就活生の行動量は減少傾向にあります。そもそも理系学生が就職活動に割ける時間が限られていることに加え、優秀な学生は比較的容易に内定を獲得できる状況にあるからです。2024年卒就活での理系学生の平均エントリー社数は11社(前年から3.8社の減少)となっており、2026年卒もこの傾向は続くと見込まれます。
そのような状況下で、理系学生は以前より興味を持つ業界や職種の種類も減少しており、有名人気企業や志望企業以外に興味の範囲が広がりにくくなっています。知名度の高い企業でも採用職種や部門によっては就職先として認知されていないケースもあり注意が必要です。就活生には自身の適性や専門性とのマッチングなどを考慮した上で就職先を選択してもらいたいところですが、「タイパ」「コスパ」を重視する学生に視野を広げてもらうためには一層の工夫が必要といえるでしょう。
インターンシップの満足度は、社員と密に接する機会が多いかで左右される
こうした点を踏まえると、早期からの自社の認知度向上が極めて重要となっています。早期からのインターンシップ実施と広報、もっと言えば就活以前のPRも必要です。学年を問わず参加できるプログラムの実施や、大学内での情報誌設置など、早期に社名や活躍領域を認知してもらえるような、単年で費用対効果を追求するだけではない継続的な情報発信の大切さを感じています。
インターンシッププログラム内容の洗練も欠かせません。インターンなどを通じて社員と密に接する機会の多寡によって、学生の満足度や入社意欲が左右され、内定辞退も抑制できる傾向が見られます。ただし多忙な理系学生は参加時期や時間が限られるため、企業にはスケジュールで柔軟な対応が期待されます。先日も平日の昼間に就職イベントが行われていましたが、多忙な理系学生はほとんど集まらなかったそうです。授業や研究室を抜けられない理系学生の動きを理解した的確な採用企画の立案が欠かせません。
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体育会学生
アスリートプランニング
佐藤剛史 体育会支援事業部 事業部長
競技スケジュールの影響で3年生の秋冬に短期インターンシップ参加が多い
2025年卒の体育会学生の就職活動は、3年生の10〜 12月に開始する学生が最も多く、この理由は多くの競技の大会が夏から秋に集中しているため、大会後に就職活動を開始する傾向があるからです。またインターンシップへの参加に関しては、夏の時期の参加は少なく、特に秋冬に1〜 3日の短期型に参加する学生が多く、これも競技のスケジュールが影響しています。
志望業界としては商社、飲料・食品メーカー、金融が人気で、これは過去10年大きな変化がない傾向となっており、理由として同じ部活の先輩の就職先を参考にして就職活動を開始することが影響しています。内々定状況については、早期(3年生の10月以前)に就職活動を開始した体育会学生は3月時点で約3割が内々定を保持(一般学生と同等の水準)している状態です。体育会学生の就職活動に共通することとして、部活動による厳しい時間的拘束があるため、限られた時間の中で効率的に情報収集をしながら就職活動を進められるかが重要なポイントになっています。
体育会出身社員との接点を意図的に作り、職場の魅力を効果的に訴求
体育会学生を採用するために必要なこととしては、彼らの年間スケジュールを考慮し、就職活動に適した時期に合わせて選考のスケジュールを多様化することが重要です。例えば、ある上場企業は体育会学生向けに3つの異なる選考スケジュールを設け、学生が競技と就職活動の両方に集中できる環境を提供しています。これにより学生は競技シーズン外の時間を活用して選考に参加することが可能となります。
企業の魅力訴求というポイントにおいては、体育会出身の既存社員との接点を意図的に作ることで、職場の魅力を効果的に訴求しています。また、チームスポーツ経験者に対しては、自社の組織戦略をスポーツのチーム作りと比較して説明することで、企業の特色やチーム文化の強みを際立たせるアプローチも効果的です。この比較は、体育会学生に自社の組織がどのように機能しているかを直感的に理解させ、企業への興味を引き出す狙いがあります。
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地方学生
ベネッセi-キャリア
岡本信也 dodaキャンパス編集長
採用対象の学生を明確にし、社内で共通認識を持つことが重要
地方学生の就職状況について、厚労省が2023年12月に公表した就職内定状況(2024年3月大学等卒業予定者)を見ると、関東が約90%に対して他の地域は80%台(北海道・東北は77.4%)となっており、その差は年々縮まりつつあります。要因としては、コロナ禍によるオンライン施策の増加によって地方学生のハンディが軽減されたことなどが考えられます。一方で、依然多くの都市圏企業は、地方学生の獲得に苦慮している状況です。
地方学生は「都市圏ではたらきたい(はたらくことに興味関心を持つ)学生」と「地元ではたらきたい学生」とで、志向の二極化が顕著になっています。それぞれの学生に対して最適な施策やコミュニケーションは異なるため、まずは自社がどちらの学生を採用対象にするのかを明確にした上で、社内で共通認識として持つことが重要です。
不安感払拭へ保護者向けの説明会実施やパンフレットを作成する企業も増加
都市圏ではたらきたい学生を採用対象にする場合は、都市圏ではたらくことに興味関心を持つ学生が集まる場所で多くの接点をつくり、自社を知り興味を持ってもらう活動に加え、懸念点を払しょくするコミュニケーションが肝になります。一部の企業では、地元大学とのパートナーシップを築き、学生に対して合同で会社説明会や仕事体験、キャリアセンターと連携したキャリア相談機会などを提供しています。また、地方学生は都市部からの距離的なハンディも大きいため、インターンシップや選考会のオンライン化や現地選考会の実施なども有効でしょう。不安感の払しょく面では、地元を離れる子どもの就職に大きな不安を持つ保護者向けの説明会実施やパンフレットを作成する企業も増加しています。
都市圏企業と地方企業では、採用スケジュールにずれが生じることもあるため、採用計画策定時には注意が必要です。また、採用担当者やリクルーターが寄り添うことで、地方学生の心情の移り変わりを把握し続けることも大切になってくるでしょう。今後は、少子高齢化に加え、大学の統廃合も進み、地方学生のトレンドも引き続き短期間で変化していくと予想されるため、地方の採用はますます激化していくでしょう。
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外国人留学生
マイナビ
鷲﨑信広 グローバルキャリア支援部 部長
母国や待遇で上回る日本以外の海外も視野に入れる傾向が出てきている
コロナ禍が収束し、訪日外国人の増加や経済活動の活発化による慢性的な人手不足、またダイバーシティの推進やグローバル化に伴い、外国人留学生の採用ニーズが高まっています。外国人留学生においても、一時コロナ禍で減少したものの、国境往来の自由化、また政府の教育未来創造会議での2030年40万人受入計画により、今後急激に外国人留学生の増加が見込まれます。
現状、外国人留学生の就職率は、日本特有の就職活動方法や日本語レベルの壁などにより、最新データで約37%(日本学生支援機構「外国人留学生進路状況・学位授与状況調査」)に留まっています。選考の早期化により、前年より内々定(内定)を保有している率は上昇しているものの、依然国内学生の86%(マイナビ「2024年卒大学生活動実態調査 (10月中旬)」)と大きい差が広がっており、2025年卒、2026年卒もこの傾向は変わらないでしょう。ただし、日本経済の縮小や円安を背景に、外国人留学生の就職先として、日本就職のみに照準を定めておらず、母国や待遇面で上回る日本以外の海外も視野に入れる傾向が出てきています。既に全世界中で人材獲得合戦が激化していることも頭に入れておくべきでしょう。今後は国・企業が外国人留学生を受け入れるという姿勢ではなく、いかに外国人留学生に選ばれる国・企業になりうるかという姿勢や発想が必要となります。
外国人留学生を採用する理由や入社後の期待などをしっかりと明示する
そのため、採用担当者として理解しておくべき、優秀な外国人留学生の採用を行う際のポイントとしては、「ローコンテクストを意識した採用活動」があげられます。とりわけ最初に学生が会社情報を目にする求人票(求人情報)では、職種、業務内容、待遇、キャリアプランなどは当然ながら、なぜ外国人留学生を採用するのか、入社後期待することはなにか、海外との関りがあるのかをしっかりと明示する必要があります。
さらに選考中や内定オファーの場面でも改めて伝えていくことが有効的で、選考中の離脱や内定後の辞退率も抑えることができます。外国人留学生の場合は、言語も文化も価値観も異なりますので、採用成功そして入社後のミスマッチが起きないようにするためにも、しっかりと言葉にしていくことが大切といえます。
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日本人留学生
キャリタス
松本あゆみ キャリタスリサーチ
海外との取引や駐在などを目指せる仕事を志望する学生は少なくない
日本から海外の大学へ留学し、言語や文化、価値観が大きく異なる環境の中で起こるさまざまな変化や困難に対応する留学生。彼らは就職先としてどのような企業を選ぶのか、日本国内の学生との比較から見ていきます。日本国内の学生は、給与・待遇、働き方などの条件面や企業の安定性・将来性といった観点で企業選びをする傾向が高まっています。昨今の売り手市場でよりよい条件を選べる環境になってきていることに加え、不確実性の高い社会において、潰れない会社で安心して長く働いていきたいという意向を強く感じます。
留学生にとっても給与・待遇は大事ですが、それ以外にも仕事内容や成長性なども重視します。また、留学経験を活かし、いずれ海外との取引や駐在などを目指せる仕事を志望する学生は少なくありません。職場環境にグローバルスタンダードを求める人もいます。年功序列の賃金体系や人間関係、一律の人事制度などの日本的雇用慣行が強い企業よりも、フラットで多様性のある人間関係や専門性を高められるジョブ型雇用などに魅力を感じるようです。成長志向、スキルアップ志向が強いので、仕事を通じてどのようなスキルが身に付き、どのようなキャリアパスを歩めるのかも重視しています。
留学生が就職活動をしやすい時期に専用の応募ルートを設けることが重要
コロナ禍以降オンラインでの就職活動が普及しましたが、国内学生と同じルートで選考を進めるのは、時差や学業との両立など大きな負荷がかかります。留学生が就職活動をしやすい時期に専用の応募ルートを設けることは、企業にとっても優秀な人材を確保するために重要と言えるでしょう。
企業理解を深める機会が十分もてない留学生には、短期間のうちにしっかり情報提供し、魅力を訴求していくことが欠かせません。また、早期化が進む国内の就職活動同様、留学生が就職を意識する時期も早まってきています。採用HPや留学生向けの就職サイト、イベントなどを通して、留学生採用に関する情報発信を随時行うことや、留学生採用を行う時期などをあらかじめ周知しておくことの必要性が高まっていると言えるでしょう。
障がい者
リコモス
加藤直也 取締役
雇用率上昇に伴い障がい者雇用枠の求人も急激に増加
2024年4月に障がい者雇用促進法が改正され、法定雇用率が2.5%となりました。さらに2026年度中に2.7%に上昇することも発表されています。この雇用率上昇に伴い障がい者雇用枠の求人も急激に増加しており、大手企業の中には2025年新卒の障がい者採用目標を30人以上とするような会社も出てきています。
障がいを持つ新卒学生が就職活動を始める際の選択肢は大きく、①障がいをクローズして一般雇用枠でエントリーする、②障がいをオープンにして障がい者雇用枠でエントリーする、③一般雇用枠と障がい者雇用枠の両方の求人にエントリーする、の3通りがあります。四肢障がい・車椅子の方や視覚・聴覚障がいの方など周囲から見てもわかる障がいの方は最初から障がい者雇用枠でエントリーをしますが、それ以外の外から見てもわからない障がいの方は一般枠と障がい枠を見比べながら就職活動を行う傾向にあります。そのため給与水準や雇用形態など待遇が一般枠に比べて見劣りする障がい者求人を打ち出しても認知されず、応募を集めにくいのが実情です。
社内の啓蒙活動やマネジメント層への教育で採用後の離職率低減につなげる
このような状況で学生からエントリーを集めるには、一般枠と障がい者雇用枠の良い所取りができるような求人の見せ方にすることが効果的と考えれます。つまり①一般枠に近いキャリアパスの選択肢がある(総合職、一般職のどちらも)、②障がいに理解があり配慮できる職場(相談しやすい職場環境、在宅勤務制度やフレックスタイム制度・時差出勤対応など)、③障がい特性を考慮した職場配置等がアピールポイントとなります。
障がい者雇用は離職率が非常に高い市場(1年以内離職率30%以上)です。昨今は中途採用同様に新卒採用でも入社後定着の重要度は増しています。採用に成功している企業では求人活動と並行して社内での啓蒙活動やマネジメント層への教育活動も行っており、採用後の離職率低減につなげています。色々と理想像を並べましたが、最終的には「一人一人の障がいに向き合ってもらえ、長く働ける」と学生やキャリアセンター、親御様が感じられる会社が、一番求められる会社です。
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高校生
ジンジブ
森隆史 専務取締役
高卒採用を始める企業が増え、採用競争が過熱
「学校斡旋」「採用スケジュール」「1人1社制」などの高卒採用特有の仕組みは、高校生が学業本分であることや、未成年で就活する生徒を守ることを意図として続いていますが、高校生にとっては短い期間でファーストキャリアを決めるため職業理解や企業研究の時間や機会が足りずミスマッチが起きやすいとも指摘されています。
高校生が多く就くのは製造業が4割、次いで建設、外食や小売、介護など人手不足業界です。同じく人手不足かつ大卒求人には数多くあるIT業界の求人は、高卒求人の1%に満たないのが現状です。一方で昨今は、高校生に会社の未来への希望を見出し、高卒採用を始める企業が増えており、採用競争が過熱してきています。
やりがいや給料だけではなく、教育体制や受入体制が整っているかも大切
採用成功のカギの1つ目は「先生に知ってもらう」こと、2つ目は「高校生に直接知ってもらう」ことです。また「高校生への魅力付け」がより重要になってきます。「先生に知ってもらう」活動では、高校訪問や求人票の高校への発送を通じて先生と関係性を構築することが必要です。先生は、高校生の就職相談に乗り、背中を押す「キーマン」です。会社のファンになっていただければ、その年だけではなく翌年も会社の魅力を伝えてくれます。先生のニーズを捉えることも重要です。
「高校生に直接知ってもらう」活動では、授業での接点以外に、求人サイトへの掲載や就活イベントへの参加、SNSやHPでの情報発信活動などがあります。近年はスマホネイティブ世代に伝わる文章や写真や動画を作成し、直接会社の魅力を訴求する活動が広がりを見せています。高校生にとっての魅力を深掘りし、就活イベントやマンガ会社概要を制作し伝えた結果、採用成功した会社の事例もあります。「高校生への魅力付け」では、やりがいや給料だけではなく、教育体制や受入体制が整っているかも大切です。当社調査によると、採用成功度の高い企業は「キャリアアップ制度」「休日日数」「募集職種」などを変更した割合が高くなりました。他社に負けない求人条件に加え、高卒社会人が活躍できる環境を用意していくことが重要だとわかります。