のれん償却
(画像=PIXTA)

M&Aで会社を買収する際に発生することがある「のれん」は、その会社のブランドや信用力、顧客情報などの無形資産の価値を表すものだ。のれんは、日本の会計基準では、毎年減価償却していくことが義務付けられている。今回は、のれん償却の期間や仕訳方法、国際財務報告基準(IFRS)との取り扱いの違いなどを徹底的に解説していく。

目次

  1. 「のれん」とは?
  2. 減価償却とは?
  3. のれん償却とは?
  4. のれんの償却期間と償却方法
    1. のれんの償却期間
    2. のれんの償却方法
  5. のれん償却の仕訳方法
  6. 日本会計基準と国際財務報告基準(IFRS)との違い
    1. IFRSではのれんは減価償却しない
    2. のれん償却のメリット
    3. のれん非償却のメリット
    4. IFRSはのれんの処理を見直す方針
  7. のれんの償却は長期的視野をもって実施しよう
  8. 監修者紹介

「のれん」とは?

のれんの償却について解説する前に、「のれんとは何か」を確認しておこう。

のれんとは、M&Aが行われる際に発生することが多い。購入価額が、資産から負債を差し引いた会社の純資産を上回る場合、その差額が「のれん代」となる。

資産と債務が、それぞれ

・現金 1,000万円
・貸付金 500万円
・買掛金 300万円

である会社を、2,000万円で購入したとしよう。会社の純資産は、

現金 1,000万円 + 貸付金 500万円 - 買掛金 300万円

で、1,200万円だ。購入価額が2,000万円なら、差額の800万円がのれん代ということになる。

なぜ、M&Aにおいては純資産額を上回る価額で買収されることがあるのだろうか。買い手企業が、その会社が保有するブランドや信用力、顧客情報、販売ルート、従業員などを基盤として事業を行うことで一から事業を興すよりも早く収益が得られると見込んでいるからだ。

たとえば、フリーマーケット系のスタートアップが資金を調達し、1ユーザーあたり1,000円のコストをかけてユーザーの大量獲得を図るとする。集めたユーザーは、どんなに数が多くてもバランスシートには表れない。

しかし、たとえば1ユーザーあたり平均500円の売上をもたらすとすれば、将来の収益の基盤になる。したがって、このスタートアップが売却される際の価額には、ユーザー数に応じた「のれん代」が上乗せされることになるのだ。

のれんの法的根拠は、法務省令の会社計算規則にある。第11条には、

「会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる」

と書かれている。

減価償却とは?

もう1つ、のれんに大きく関係する「減価償却」についても確認しておこう。

減価償却とは、資産を購入する際に支払った代金を分割し、複数年にわたって費用計上していくことである。たとえば、工場を建設するために建設会社に10億円を支払ったとする。この10億円は、その会計年度に一括して計上することはできない。50年間など、工場が稼働を続けると見込まれる定められた期間にわたり、毎年分割して費用計上していくことになる。

会計において減価償却を行うのは、企業の業績に連続性を持たせることで、決算書を見る投資家や経営者などが、経営状態を把握しやすくするためだ。

上の例で建設会社に10億円の支払いをする際、代金は借金でまかなわれることになるだろう。借金は、完成した工場が稼働して生み出した利益を原資として、その後の何年にもわたって返済されることになる。

もし減価償却を行わなければ、工場を建設した企業は、その年に巨額の赤字を計上することになる。場合によっては、債務超過に陥ることもあるだろう。しかし実際は、この企業は経営危機に陥ったわけではない。将来の利益のために投資を行っただけだ。

そこで、適正な投資によって損益が赤字にならないよう、減価償却を行う。減価償却を行うことで費用の計上は複数年にわたって分割されることになるため、決算書は企業の業績を適正に反映したものになるのだ。

のれん償却とは?

さて、それではいよいよ、のれんの償却について見ていこう。

法務省令 会社計算規則第74条において、のれんは「無形固定資産」として会計処理を行うことが定められている。無形固定資産にはのれんの他に、特許権や商標権、ソフトウエアなどがある。

会社計算規則第81条によって、無形固定資産は減価償却を行うことが定められている。すなわち、のれんや特許権、ソフトウエアなどの無形固定資産は、会計上は機械や工場などと同じものと見なされるのだ。

のれんは、その価値が未来永劫続くものではない。前述のフリーマーケット系スタートアップ企業のケースでも、登録ユーザーが生み出す収益が永遠に続くわけではない。したがって、のれんの取得費用を機械や工場などと同じように一定期間で減価償却することは、のれんの性質を会計に反映させていることになるのだ。

のれんの償却期間と償却方法

次に、のれんの償却期間と償却方法について見ていこう。

のれんの償却期間

のれんの減価償却は、会計基準によって「20年以内のその効力がおよぶ期間にわたって行う」と定められている。20年以内であれば、会社を買収した企業が自由に決めることができるのだ。ただし、一度決めると後で変更することができないため、慎重に決める必要がある。

のれんの償却費は、販売費・一般管理費として計上していくことになる。償却期間を短くすると償却費が大きくなり、営業利益を圧迫することになりかねない。

のれんの償却期間を決める際は、「その会社を買収するために投じた費用を何年で回収できるか」を考える必要がある。10年で回収できると見込むなら、償却期間も10年とするのが一般的だ。

のれんの償却方法

のれんを減価償却は、「定額法などの合理的な方法によって行う」とされている。定額法とは、償却全期間にわたって同額を償却していく方法だ。

800万円ののれんを10年で償却するケースを考えてみよう。毎年同額になるように償却するので、1年あたりの償却額は、

800万円 / 10年 = 80万円

となる。

のれん償却の仕訳方法

のれん償却の仕訳方法を、資産と債務が

・現金 1,000万円
・貸付金 500万円
・買掛金 300万円

である会社を2,000万円で購入し、800万円ののれんが発生したケースで見ていこう。この場合の仕訳は、以下のようになる。

借方科目金額貸方科目金額
現金10,000,000買掛金3,000,000
貸付金5,000,000当座預金20,000,000
のれん8,000,000

800万円ののれんを毎年80万円ずつ、10年にわたって償却していく場合、のれん償却の仕訳は、初年度については以下のようになる。

借方科目金額貸方科目金額
のれん償却800,000のれん800,000

のれんの償却額は、損益計算書の特別損失に計上される。

ここまでは会社の純資産より購入額が上回るケースを見てきたが、何らかの理由で純資産より低い価額で会社を購入できるケースもある。その場合は、「負ののれん」が発生することになる。上記の会社を1,000万円で購入し、200万円の負ののれんが発生した場合は、以下のように貸方に「負ののれん発生益」として計上する。

借方科目金額貸方科目金額
現金10,000,000買掛金3,000,000
貸付金5,000,000当座預金10,000,000
負ののれん発生益2,000,000

この場合、損益計算書には特別利益として計上されることになる。

日本会計基準と国際財務報告基準(IFRS)との違い

のれんの償却は、実は日本の会計基準で行われるものである。日本においても適用が認められている国際財務報告基準(IFRS)では、のれんは償却しないこととなっている。ここでは、IFRSにおけるのれんの取り扱いについて見ていこう。

IFRSではのれんは減価償却しない

IFRSにおいては、「のれんは償却しない」となっている。したがって、貸借対照表に資産として計上され続けることになる。その代わり毎年「減損テスト」を行ってのれんの価値を客観的に検証し、計上されている価値と比較して著しく低下した場合は、減損処理を行うことになる。

のれんを償却する日本会計基準と、償却しないIFRSには、それぞれメリットがある。

のれん償却のメリット

のれんを償却することのメリットは、のれんの価値が未来永劫続くものではないことを決算書に反映させることができることだ。のれんの価値が著しく低下し、減損処理をしなければならなくなった場合は、一気に多額の損失が計上されることとなり、損益が予算から大きく外れることとなる。

のれんの価値が減少することを見込んで償却を行えば、減損処理を行わなければならなくなる可能性は低くなる。予算から大きく外れない、サプライズの少ない経営が実現することになる。

また事務処理に関しても、のれんを償却するほうが減損テストよりも手間がかからない。

のれん非償却のメリット

のれんを償却しないことのメリットは、のれん償却費の負担がないことだ。のれん償却費は、「販売費及び一般管理費」に計上されるため、営業利益を圧迫する。買収した会社が順調に利益を上げればいいのだが、利益がのれん償却費を下回る場合は、営業利益も利益率も悪化することになる。大型のM&Aを行う日本企業の多くがIFRSへ移行しているのは、このためだ。

ただし、買収した企業が当初の予想通りに利益を上げられない場合は、IFRSにおいては減損処理をしなければならなくなる。つまり「損失が計上される」という意味では同じなのだ。

IFRSはのれんの処理を見直す方針

ただしIFRSは2020年現在、のれんの会計処理を見直し償却を義務付けることを検討しており、2021年を目処に結論を出すことになっている。IFRSを採用している企業は、大きな影響を受けることになるだろう。

のれんの償却は長期的視野をもって実施しよう

買収する会社の無形資産を評価するためののれんは、20年以内であれば償却期間を自由に決めることができる。償却費は営業利益を圧迫することになるため、のれんの償却方法は慎重に検討すべきだ。

売り手側も、のれんについては十分に考慮しなければならない。買い手側は、「滞りなくのれんを償却できるか」を考えるからだ。M&Aにおいては、のれんが重要なファクターになることが多いので、売り手側も正しい知識を身につけることで、売却交渉を有利に進めるようにしたい。

文・THE OWNER編集部

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。
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