合弁会社とは、複数の企業が共同出資し、特定の事業(合弁事業)を行うために設立する会社のことだ。合弁会社にすることで、それぞれの企業が持つノウハウや技術を活かせるだけでなく、事業を展開する上で生じるリスクを分散することもできる。
合弁会社は複数企業の協力の上に成り立つ会社形態であり、円滑に事業を進めるには、公平な運営体制の構築が求められる。多くの場合、合弁会社の意思決定権、またそれによって生じる利益は各企業の出資比率によって決まる。そこで重要になるの、出資比率の設定だ。
この記事では、合弁会社の出資比率について詳しく解説する。
目次
出資比率とは?
合弁会社の出資比率とは、合弁会社を設立する際に各企業が出資する割合のことだ。
日本の会社法では「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」という4つの法人形態があり、合弁会社設立の際はいずれかを選択することになる。出資者が有限責任のみを負う「株式会社」か「合同会社」が選ばれるケースがほとんどだ。
株式会社として設立する合弁会社の場合、株式の持分比率が出資比率となる。合同会社として設立する場合は、出資額に関わらず出資者全員が有限責任社員となるため、出資比率はほとんど問題にならない。
合弁会社の出資比率と権限について
前述のとおり、合弁会社を「合同会社」として設立している場合は、出資比率や権限が問題になることは少ない。問題になるのは、「株式会社」として設立している場合だ。
株式会社では、会社の意思決定は株主総会で協議され、出資者である株主の権限はその保有株式数で決まる。つまり、複数の企業で設立した合弁会社が株式会社であれば、出資比率が大きいほど意思決定権が強くなる。また、合弁会社が生み出す利益についても出資比率によって配分される。
このように、株式会社として合弁会社を設立する際は、出資比率と権限が直接的に関係するため、会社の意思決定や利益配分を巡って対立が生じることがある。
なぜ出資比率50:50ではだめなのか
合弁会社の設立において、出資比率の設定は極めて重要であり、慎重に協議する必要がある。
合弁会社では複数企業が協力して事業を進めるため、相互の意見が取り入れられるような公平な運営体制のもとに会社の意思決定を行う必要がある。
そのため、合弁会社が株式会社の場合は、意思決定や利益配分を巡るトラブルを避ける目的で出資比率を同等に設定することがある。
たとえば、2020年1月7日に新たに設立された、トヨタ自動車とパナソニックの合弁会社「プライムライフテクノロジーズ株式会社」における2社の出資比率は同じだ。
出資比率50:50であれば、権限が同じなので双方にメリットがあるように思える。しかし、これによってその後の会社経営が円滑に進まなくなる可能性があるのだ。
合弁会社への出資比率を50:50にしてしまうと、会社の意思決定には常に両社の合意が必要になる。つまり、意見が割れた際に意思決定ができなくなってしまうのだ。これでは、機動的な経営を行うことが難しくなってしまう。
そのような事態を避けつつ公平な運営体制を維持するために、49:51のような出資比率に設定したり、メイン企業が多めに出資したりするケースがある。
そうなると、出資比率が低いほうには、意見を言えなくなるのではという懸念が生じる。たしかに、株式の過半数を有するメイン企業の決議権のみで株主総会の決議を行うこともできるため、出資比率が低いほうの企業の意見も反映できるようにしておくことは重要だ。
具体的な方策としては、取締役に少数株主の意見を反映する者を選任する旨や、一定の重要事項に関しては事前承認を必要とする旨を合弁契約に含めることなどが挙げられる。
また、種類株式の発行する方法もある。種類株式とは、2種類以上の異なる内容が定められている株式のことで、拒否権付株式などがある。
拒否権付株式とは、決議された議案を否決できる権利が付与された株式のことだ。株主総会である事案が決議されたとしても、その後の拒否権付株式を持つ企業が開く株主総会で否決されれば、その議案は通らない。
これらの方策によって、出資比率の高い株主を尊重しながら、出資比率の低い株主の意見も反映できる。
そもそも、出資は設立時にだけ行うものではなく、経営を続けながら増資することもある。その場合、設立時の出資比率が変わることになる。増資を行う場合は出資比率を維持するため、増資の割合は当初の出資割合に応じる旨を合弁契約に含める必要があるだろう。
合弁会社の事例3選 ビックロ、グリーンモンスター、プライムライフテクノロジーズ
複数企業が共同出資して新事業に取り組む合弁会社は、さまざまな業種間で行われるようになっている。合弁会社では参加企業それぞれのリスクが出資範囲に抑えられることや自社で保有していないインフラを利用することができるなどのメリットも大きい。
ここでは、複数企業が共同して立ち上げた合弁会社の事例を3つ取り上げる。
事例1.ビックカメラとユニクロ
複数企業が重なる顧客層を狙って設立した合弁会社の例が、ビックカメラとユニクロによる「ビックロ」だ。2012年9月27日に新宿東口にオープンしたビックロは、ビックカメラとユニクロが都心の同じ建物内に店舗を設け、それぞれのメリットを活かしたビジネスを行っている。
ビックロの店舗は新宿駅東口から徒歩数分の好立地にあり、集客力は高い。一方で好立地に出店すると投資額も大きくなるわけだが、ビックカメラとユニクロの共同出資によって、コスト面で両社のリスクを抑えている。
ビックロが出店した場所は、元はビックカメラが所有権を持つ物件だったが、家電量販店としてのビックカメラの集客力だけではなく、より広い層を取り込むためにユニクロとの合弁会社が設立され、ビックロの出店に至ったのだ。
家電量販店と衣料品販売店という違いはあるが、両社の顧客層は重なるところもあり、特に日本を訪れる外国人観光客に人気が高い。ビックカメラとユニクロの店舗は階ごとに分かれているが、ユニクロフロアで商品を映し出す大型テレビに、ビックカメラでの販売価格が表示されるなど、各階でお互いの商品をアピールする工夫がなされている。
事例2.LINEとサイバーエージェント
競合関係にもなり得る会社同士が、共通の目的を持つことで合弁会社を設立する事例もある。その一例が、LINEとサイバーエージェントによって設立された合弁会社グリーンモンスターだ。
コミュニケーションツールとして日本国内に広く普及しているLINEは、LINE株式会社が展開するサービスだ。LINEのサービスは多岐にわたり、キャッシュレス決済のLINE PayやLINEニュースなどがある。一方のサイバーエージェントは、アメーバブログやAbema TVなどインターネットメディア事業を幅広く展開しており、2009年5月からはゲーム事業にも本格参入した。
両社とも、主にインターネットインフラを利用するサービスを提供しており、ゲーム事業ではお互いが競合相手にもなり得る関係だった。
LINEは「LINE POP」や「ディズニーツムツム」などのカジュアルゲームでヒット作を生み出していたが、RPGやシミュレーションゲームなどのミッドコアゲームでは振るわなかった。そのため、国内外向けゲーム事業の強化を目的として2014年11月4日に合弁会社が設立されたのである。
LINEとサイバーエージェントは、どちらもインターネットを利用した事業を展開していたが、そのターゲットや利用者層は異なり、お互いが強みとする販売プラットフォームを活かすために合弁会社を設立した好例と言えるだろう。
LINE株式会社は海外展開も積極的に行っており、海外展開の主軸を担うLINE Plus株式会社はスペインやタイ、台湾などでも事業を行っている。世界的に利用者が増加しているオンラインゲームを背景に、LINEとサイバーエージェントの合弁会社が誕生したとも考えられる。
事例3.パナソニックとトヨタ
トヨタ自動車とパナソニックは、50:50の出資比率で2020年1月に合弁会社「プライムライフテクノロジーズ株式会社」を設立した。
トヨタ自動車とパナソニックが合弁会社を設立した目的は、住宅業界のシェア占有率を高めることだと考えられている。合弁会社の設立によって、そのシェアは国内住宅業界トップクラスとなり、今後他企業からの出資も検討されているようだ。
通信テクノロジーの発達によって自動運転など自動車の利用価値が高まる中、トヨタ自動車の持つ世界トップレベルの技術は、自動車にとどまらず、街づくり全体に活かされることが予想される。
若者の自動車離れや人口減少など、それぞれの業界が抱える問題があり、両社が協力して合弁会社を設立することで、経営の安定を目指していると考えられる。
このように異業種の企業同士が共通の目的を見出し、新たなビジネスチャンスを生み出すことができるのが、合弁会社の魅力と言えるだろう。
国際競争を勝ち抜くためには?
3つの事例から見えてくることは、すでにそれぞれが成熟した市場を形成しているように見える場合でも、常にビジネスチャンスを探し続けることの重要性である。これは、通信技術が発達し、ビジネスが高度化・高速化する時代にあって、国際競争を勝ち抜くために欠かせない視点である。
合弁会社の設立においては、両社がともに成長するという目的も重要であり、企業間の協力体制が不可欠と言えるだろう。
合弁会社設立の目的を常に意識する
この記事では、合弁会社の仕組みや、株式会社として合弁会社を設立した場合に重要となる出資比率について見てきた。
合弁会社は、それぞれの持つ強みを活かしてデメリットを最小化し、メリットを最大化する目的のもとに設立される。その本来の目的を達成するためには、設立後の企業運営や利益配分に大きな影響を与える出資比率について、注意深く検討することが重要なのだ。
文・THE OWNER編集部