De Capital CEO 吉田知洋
(画像=De Capital CEO 吉田知洋)

日本では未だ稀有な存在だが、近年、資本市場における新興の投資勢力として急速に台頭しているファミリーオフィス(※)は、もはやその影響力を無視することができない存在になりつつある。

PEファンド等での豊富な経験を生かし、2023年に自らの資金と複数の超富裕層の資金を扱うマルチファミリーオフィス『De Capital』を設立した吉田知洋氏は、多数の企業から投資・協業の引き合いを受けながら、日本のみならず、グローバルに投資を行っている。

ファミリーオフィスは、多くの投資家にとってはヴェールに包まれた存在だが、どのような考え方や戦略に基づき投資を行っているのか。そして『De Capital』はどのような未来を見据えているのか。吉田氏に話を聞いた。

(※)金融資産100億円以上の超富裕層を対象とする資産管理・運用会社

――最初にこれまでの経歴をご紹介ください。

PEファンドや自己勘定投資のように、金融を核とする総合格闘技のような仕事に一貫して従事して参りました。独立する前は、『マーキュリアインベストメント(オルタナティブ投資ファンド運用会社)』や、『En Fund(タイ最大手のコングロマリットであるCP Group傘下の投資ファンド)』等のPEファンドで、多様な資産クラスに対する投資を行って参りました。 2023年に独立して、『De Capital』を設立し、今に至ります。元々、海外のファミリーオフィスとの接点が多かったことから、現在の事業に挑む上でも、投資家としての矜持の在り方を含め、大きな影響を受けています。

――「ファミリーオフィス」と「VC(ベンチャーキャピタル)」の違い、及びDe Capitalの特徴を教えてください。

色々な説明の仕方があるとは思いますが、「①投資対象と②ファンドの投資家属性の2点により、そもそも投資スタイルが異なる存在」という整理が分かりやすいかと思います。

VCは、“主に機関投資家の資金を扱い、スタートアップ企業のみを投資対象とするファンド”を指します。

一方、“超富裕層の方々の資金をお預かりし、国内外・資産クラスを問わず柔軟に投資と事業を行う組織”がファミリーオフィスです。

「純粋なVCやPEではなく、ヘッジファンドでもないが、地域や各資産クラスを横断して投資を行う存在」という表現がイメージを掴みやすいかもしれません。

なお、ファミリーオフィスが機関投資家としてVC等のファンドに出資するケースもありますが、De Capitalの場合は、自らがファンド運用を行う形でスタートアップ企業等に出資させていただいています。かつ、その他の資産クラスに対する投資・事業も行う点が最大の特徴です。

アドバイザリー業ではなく、かつ他人資本に加えて自らの資金も運用しているからこそ、より厳格な規律で投資を行いますし、常に結果を問われます。

もちろん、どの立場が良い悪いの話ではなく、投資先企業の価値向上、ひいては社会の発展に貢献すべく日々尽力している点において、皆同じ価値観を持っていると思います。

――日本における投資先企業として、著名スタートアップ企業である『NOT A HOTEL』やメルカリの出資先として話題を呼んだ『IVA』などに投資されていると思いますが、投資判断のポイントはどこにあるのでしょうか。

身も蓋も無い話になるかもしれませんが、資産運用は、そもそも複雑系を相手にする事業です。つまり、一眼で捉えられない複雑性があるため、特定の要素のみで投資判断を行うことが極めて難しい、“科学とアートが交差する場”が事業領域になります。

このような事業環境下で、資産運用事業者として、運に左右されることなく結果を出し続ける必要があります。

それゆえ、①魅力的な投資/事業機会に対するアクセス、②時機を得た適切な投資判断、③リスク量に応じた適切なポジション構築の3点が揃うことで、初めてスタートラインに立つことができる事業だと考えています。

②の投資判断について、スタートアップ企業の場合は、出会うタイミングにもよって難易度が全く異なりますが、「この会社は将来、偉大な企業になる」と誰もが感じざるを得ないような企業は、一定の経験値と嗅覚を有する投資家であれば、判断に迷うことはないと思います。

これらを前提に質問に立ち戻ると、投資家にとって魅力的なスタートアップ企業は、そもそも資金調達に困ることがないため、問うべきは「何を見て投資するか」ではなく、「判断に迷わないほど魅力的な企業にアクセスし続ける仕組みを如何にして築くか」、そして「そのような会社にとって、投資家として受け入れていただけるために、どのような価値を発揮すべきか」だと思います。

特にレーターステージの投資では、VCに限らず、国内外のPEファンドや政府系ファンドと競合することもあるため、純粋な資金力では全く勝負になりません。

だからこそ、「スタートアップ企業にとって、相応の意味がある投資家」になる必要があります。そのため、「De Capitalとして、如何に独自の価値を提供できるか」を発想の起点にしています。

――投資家が選ぶのではなく、企業から選ばれる投資家になる必要があるのですね。具体的な投資先をもとに、投資に至った経緯を教えていただけますでしょうか。

脱炭素領域で世界的に著名な『Persefoni AI(以下、パーセフォニ社)』という米国の気候テック企業があるのですが、こちらの出資経緯は、De Capitalの特徴が生きた好例です。

元々は、パーセフォニ社のアジア展開という文脈の中で、De Capitalが日本進出の支援を行っていたのが始まりでした。その際に短期間で相応の貢献をすることができた結果、世界トップクラスのPEファンドも出資している同社に対して、アジア勢の投資家としてDe Capitalが出資参画する機会をいただいた経緯があります。

もちろん、投資後により貢献をしていくことが大前提ですが、本件のように、純粋な金融投資家というよりは、戦略投資家としての位置付けでご縁をいただくケースが多いです。

――De Capitalとして注目しているトレンドや投資領域はございますか。

常に意識しているのは、短期的なトレンドではなく、少なくとも私が生きている時間軸を超えて発生し続け、かつトレンドの加速と進化が期待しうるメガトレンドです。

ファミリーオフィスは、あくまで資産運用業を行う事業会社です。それゆえ、「投資を通じて、時間の経過とともに企業価値を積み上げること」を自らに課している存在です。

この点、投資リターンを上げ続けるためには、短期トレンドに左右されず、持続的なメガトレンドに順張りする必要があります。そのためには、AIや気候変動のように漠然としたテーマ設定ではなく、独自の投資テーゼを見出し、磨くことが有効だと考えています。

――『De Capital』の今後の展望についてお聞かせください。

日本ではまだ浸透していない概念になりますが、現在の事業をより進化すべく、「デジタルファミリーオフィス®」という事業コンセプトで、新たな仕掛けをしていきたいと考えています。

近年、「世界中の富の総量」が急速に膨らんだ結果、これらの富を引き寄せる対象となる「魅力的な投資機会(富の源泉)」の希少性は高まる一方です。

資産運用の世界においては、もはや上場株式等の伝統的な資産クラスのみでは資産保全を行うことが困難になっており、「オルタナティブ資産」が無視できない資産クラスとして急速に台頭しています。

この点、「オルタナティブ資産」は、これまでは一部の超富裕層のみがアクセス可能な領域でした。しかし、近年、テクノロジーの進化に伴い、“オルタナティブ投資の民主化”という文脈で、魅力的な投資機会がよりマスに広がる大きな流れが生じています。

実際に米国では、「デジタルファミリーオフィス」の事業コンセプトで、創業段階で9,000万ドル(約133億円)の調達に成功したスタートアップ企業も出現しています。

今まさに、従来は不可能だったことが、複数のテクノロジーが重なり合うことで実現可能になる、非常に面白い時期が訪れていると感じます。De Capitalならではの切り口で、新しいウェルスマネジメントの在り方に挑戦することで、日本の投資家の方々に貢献していけたら嬉しいです。

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