宮崎敦志さんは、親友の死をきっかけに納棺師の仕事に興味を持ち、大手湯灌納棺会社に7年、葬儀社に6年在籍して経験を積みました。その後、エンバーミング会社を経てフリーの納棺師となり、『みやざきメイクLaBO』を創業。とことん遺族に寄り添う姿勢で多くの人々に影響を与えている宮崎さんに、これまでの経歴や今後のビジョンについて伺いました。 |
納棺師を知ったきっかけ
納棺師は、亡くなった方の体が火葬日まで保つようにケアをする専門家です。人は亡くなると、死後変化により体が変化していきます。たとえば、目が開いたり、口が開いたり、顔色が変わったり、臭いがしたり、腐敗が進んだりします。納棺師は、このような変化を抑えて、故人が元気だった頃のような状態に近づけるケアをします。
これにより、ご遺族が悔いのないお別れをするためのサポートを行います。特に都市部では、亡くなられてから火葬されるまでの日数が長くなる傾向があり、納棺師の役割が重要になっています。
納棺師という職業を知ったのは、親友が山道での交通事故で亡くなったことがきっかけです。私が対面したとき彼は棺の中で、首から上と膝から下が包帯でぐるぐる巻かれたミイラのような状態でした。
最初は頭と足を怪我しただけと思っていましたが、実際には首から上と膝から下がないことを後で知りました。おかげでたとえ頭と足は作り物であったとしても、彼の姿を見られたことより自分の中で彼の死をちゃんと受け止め気持ちの整理ができました。
もし彼の姿を見られずに葬儀を終えていたら、今でも心にもやもやが残っていたことでしょう。彼を見られるような姿にしてくれたのが納棺師だったとあとで知りました。彼の葬儀をきっかけにその後私はこの仕事を始めました。
故人を心の中で生き続けさせることができる
私が開催しているセミナーで、「人は2度死ぬ」という話をよくします。1度目は命を落としたとき、2度目はその人を知っている人々の記憶から消えた時です。
このお話は私が実際にお仕事のご依頼を受けた奥様から直接伺った話です。学生時代からの親友を亡くしてお通夜に参列、棺の中の彼女は病気で痩せ細った顔で目や口が開き、あまりにも変わり果てた姿だったそうです。
「あの顔がトラウマで2度と彼女のことは思い出したくないの!」たくさんの素敵な思い出もあったそうですが、全て最後の顔が出てくるので、永久に思い出したくないと話されていました。
同じ奥様の話。亡くなられたのは旦那様。ご依頼を受け私がケアさせていただきました。音楽家でもある彼の葬儀に約300人ほどが参列、最近では稀に見る大きな葬儀でした。病気で痩せ細ったお顔、体でしたが、適切なケアができたので、参列者が「お父さん、いい顔をしている」「かっこいいね」「普段通りだね」とおっしゃっていたそうです。
そう言われるたびに、奥様は「うちの旦那かっこいいでしょ」と、とても嬉しかったんだと笑顔で話されていました。葬儀が終わった後も大変満足されたようです。
このようなサポートができるのが納棺師の仕事であり、これこそ私が22年間も続けている理由です。見送る側が最後に納得するような姿であれば、残された者たちも故人を心の中で生き続けられるよう昇華できるのだと思います。音楽家の奥様の心の中で、旦那様は永遠にかっこいい存在として生きていることと思います。
納棺師が行う“エンゼルケア”とは、死後程なく行うケアのことを言います。お体の変化や予想されるダメージを最小限に抑えることと、その変化によるご家族の心的ダメージを減らすことを目的としています。
エンゼルケアを行うかどうかで、お体の変化の程度は大きく異なりますので、専門家による適切なケアが重要となります。現在一部の医療業界では故人に合わないケアが行われることもあり、「適切にケアされていればこの方の体は綺麗に保てたのに」と思うこともあります。
死をポジティブに捉えると、生きている今がより輝く
これからは多死社会と言われており、火葬日まで日のびすると予想されています。ますます納棺師は必須の職種になると考えられます。まだ知らない方も多いため、納棺師の存在を広めたいと思っています。
また、死生観を学ぶことで命や生きている今を大事にしたり、人とのつながりを考えるきっかけをつくるための、小中高校生向けの死の講義を少しずつ開始しています。他にも、医療従事者向けに体を保つためのエンゼルケア講習だったり、一般向けには、終活や葬儀の知識や考え方、心構えなどをセミナーで伝えています。
このような機会を通じて、命の大切さや親のありがたみを知り、人との関わり方を考え、自殺を考えている人を止めることもできるかもしれません。就職活動にも役立つでしょうし、今後どのように生きていくかを考えることもできると思います。
また大切な人が亡くなっても死をちゃんと受け止めることにより心の中で生き続けられる。それは残されたものの幸せにつながると思います。私は「死をポジティブに捉えると、生きている今がより輝く」というテーマを掲げ、全人類が幸せな世の中を目指していきます。