一般のクレジットカードと比べて、法人カードの審査基準は厳しいのだろうか。返済能力が重視される点は同じだが、法人カードの審査では会社の業績などに加えて、経営者個人の信用度も調査される。本記事では、法人カードの審査基準や主な対策を紹介する。
目次
法人カードの審査基準は経営者と会社の信用性
一般的なクレジットカードとは違い、法人カードの審査では「経営者」と「会社」の返済能力が調査される。経営者個人の信用性に問題がなかったとしても、会社が倒産すると滞納のリスクがあるためだ。
会社の返済能力については、主に設立年数や経営状態などが審査基準となる。また、個人事業主が法人カードに申し込む場合は、「開業届をだしているか」や「事務所用の住所があるか」など、実在性(本当に事業を行っているのか)が調査される可能性もある。
実際の審査基準は発行会社によって異なるが、経営者と会社の両面から信用性が調査される点は理解しておきたい。
法人カードの審査基準3つ
法人カードの審査基準は、大きく以下の3つに分けられる。
・会社の設立年数(豊富な経営実績があるか)
・経営状況(黒字経営を続けているか)
・経営者個人の信用(信用情報に問題がないか)
具体的にどのような点が調査されるのか、各項目に分けて詳しく解説しよう。なお、実際の審査基準は法人カードによって異なるため、あくまで参考程度に留めてほしい。
1.会社の設立年数
会社の設立年数は、事業の安定性や収益性をはかる指標になる。豊富な経営実績がある企業は、安定した収益を生み出していることが多く、倒産のリスクが低いと判断できるためだ。
一方で、起業したばかりの企業は業績が不安定になりやすい。起業直後の売上は良好であっても、競合や代替品の登場、流行の移り変わりなどが要因で、業績が落ちてしまうケースは多く存在する。
設立年数の目安については、3年以上が望ましいといわれている。ただし、設立年数はあくまで審査基準のひとつであり、起業から1年以内でも法人カードを発行することは可能だ。
2.経営状況
経営状況については、「黒字経営を続けているか」がひとつの目安になる。赤字経営が続いている会社は、返済資金を生み出すことが難しくなるためだ。
どのような情報から経営状況が調査されるのか、以下では例を紹介しよう。
<経営状況の調査対象と考えられるもの>
・事業内容
・売上高などの決算情報
・財務情報
調査対象になる情報は、提出書類によって異なることが予想される。たとえば、決算書の提出が必要になる法人カードでは、売上高や純利益などを調査される可能性が高い。
一方で、決算書や財務書類の提出が不要な場合は、ほかの情報が重視されると考えられる。申し込み書類の記入内容も確認した上で、各社が重視している情報を分析してみよう。
3.経営者個人の信用情報
信用情報とは、クレジットカードの発行や融資を行う金融機関が、申込人の取引記録や返済実績を調査するための情報である。法人カードの審査では、発行会社が信用情報機関に情報開示を行う流れで、経営者個人の信用情報まで調査されるといわれている。
たとえば、過去に滞納などの金融事故を起こしている場合、法人カードの審査は不利になることが予想される。個人で発行したクレジットカードであっても、金融事故を起こした事実は信用情報に登録されるため、審査に影響する可能性が高い。
金融事故の内容にもよるが、滞納などの支払い状況に関する信用情報は、少なくとも5年間は保管される。
経営者個人の情報はどこまで審査されるのか
経営者個人については、どのような情報まで審査基準に含まれるのだろうか。ここからは、法人カードの調査対象になり得るポイントを紹介しよう。
クレジットカードの支払いに問題がないか
個人で発行したものも含めて、クレジットカードの支払いに問題がある場合は、審査面で不利になることが予想される。ここでいう問題とは、支払い遅延や滞納、債務整理をした事実などを指す。
注意したいのは、金融機関から受けた融資やローンなどの支払い状況も、個人の信用情報として登録される点だ。特に住宅や自動車、スマートフォンなどをローンで購入している場合は、過去の支払い状況を確認しておきたい。
債務超過になっていないか
法人カードの審査では、ほかのクレジットカードや融資の借入状況まで調査される可能性がある。経営者個人が債務超過になっていると、倒産や債務整理などのリスクがあるためだ。
仮にきちんと返済ができていても、借入総額によっては審査面で不利になるかもしれない。申し込み前には数年前までさかのぼって、個人での借入状況を確認しておこう。
外部から見て実在性が高いか
法人カードの発行会社は、事業の実在性をチェックする可能性もある。世の中には、事業による収益を目的にしていない企業や個人事業主も存在しているためだ。
事業の実在性を高める対策としては、以下のような方法が考えられる。
<実在性を高める対策>
・法人名義の銀行口座を開設する
・固定電話を設置する
・開業届をだす
・自宅以外の住所(オフィスなど)で事業を行う
特に個人事業主は社会的な信用が低い傾向にあるため、上記のような対策を考えておきたい。
赤字経営やブラックリスト入りでは難しい?
会社が赤字経営の場合や、経営者個人がブラックリストに登録されている場合、法人カードの審査に通過することは難しいのだろうか。ブラックリストとは、過去に起こした金融事故が信用情報に登録されている状態である。
いずれも審査面で不利になると予想されるが、場合によっては審査に通過できる可能性もある。
「経営不振」以外の理由がある場合は、赤字経営でも法人カードを持てる可能性が!
赤字経営に関しては、結論から言えば法人カードを持つことは不可能ではない。赤字経営にもさまざまな要因があるため、以下のようなケースに該当する場合は、審査に通過できる可能性がある(※確実に通過できるわけではない)。
○赤字経営でも法人カードを持てるケースの一例
・売上高自体は大きい
・節税対策のために、あえて接待費や出張費などを増やしている
・資本金が多い
つまり、赤字経営の原因を考えたときに、「税金対策」のように説明できる理由がある状況下では、赤字をそこまで悲観する必要はない。ただし、単なる経営不振が要因となる場合は、やはり審査に通過することは難しいので注意しておこう。
また、一般的な法人は資本金が多いほど資金力があるとみなされるので、特に設立から間もないケースでは「資本金の額」が重要になる点も合わせて理解しておきたい。
金融ブラックや申し込みブラックは基本的にNG!ただし、将来的には持てる可能性も
ブラックリストに入っている状態、いわゆる「金融ブラック」は、ほとんどのケースで審査に落ちてしまう。金融事故をはじめとした個人信用情報は、判断材料として特に重視されているためだ。
ただし、延滞記録や債務整理、代位弁済などの個人信用情報は、最長で5年間しか保存されない。自己破産についても、10年が経過すれば個人信用情報から削除されるので、一度ブラックリストに入っても5年~10年待てば法人カードを持てる可能性がある。
また、短期間のうちに複数のカード会社に申し込むと、多重債務を疑われて「申し込みブラック」として扱われる点にも要注意だ。申し込みブラックも基本的に審査には通過できないが、半年間申し込みをしなければその記録が削除される。
金融ブラックや申し込みブラックに該当する場合は、「その情報が消えるまで待つこと」が望ましい選択肢だろう。
法人カードの審査を通過する6つのコツ
ここからは、法人カードの審査を通過するためのコツを解説していく。実際の審査内容はカード会社によって異なるが、それでも審査にはある程度の傾向があるため、事前に対策を立てておくことは可能だ。
少しでも通過する可能性を高めるために、以下で紹介するコツはしっかりと理解しておこう。
1.申し込むタイミングを意識する
法人・個人の信用性は、申し込みを行う時期によって変わってくる。たとえば、設立してから2年目の企業や、翌年に繁忙期を迎える企業などは、申し込みのタイミングを少し遅らせたほうが審査を有利に進められるだろう。
つまり、法人カードの審査においては、「待つこと」も効果的な対策になり得る。何かしらの不安材料を抱えている経営者は、状況が改善してから申し込むことも検討してみよう。
2.固定電話を引く
携帯電話が広く普及した現代では、「固定電話回線を持っていない」という経営者も多いはずだ。特に1人で経営をしていたり、個人事業主であったりする場合は、固定電話がなくても事業をスムーズに進めやすい。
しかし、法人カードの審査においては、事業用固定電話の有無が重視されるケースが多い。たとえば、申し込み用紙の電話番号を記載する欄に、携帯電話の番号しか書けなかった場合には、それだけで信用性が下がってしまう恐れがあるのだ。
したがって、申し込みまでに時間の余裕がある経営者は、IP電話でも構わないので固定電話回線を用意しておきたい。
3.使っていないクレジットカードを解約する
クレジットカードは決済に便利であり、カードごとに異なるサービスが用意されているため、つい作り過ぎてしまう方も多いだろう。しかし、法人カードで利用できる「限度額」は、経営者個人が所有するクレジットカードをすべて合算して設定されるので、所有カードが多いほど限度額が下がり「返済リスクも高い」と判断されてしまう。
したがって、どうしても持ちたい法人カードがある場合には、使っていないクレジットカードを事前に解約することがポイントだ。複数のカードを持ち歩いている経営者は、これを機に各カードの使用状況を見直してみよう。
4.所有するクレジットカードのグレードをアップする
一般ランクのクレジットカードに比べて、高いグレードのカードは限度額が高めに設定されている。また、一般ランクより審査も厳しいので、「グレードが高いカードを持っていること」は個人の信用力につながる。
そのため、現在所有しているクレジットカードのグレードをアップすれば、審査に良い影響を与えられる可能性がある。すでに一般ランクのカードを持っている経営者は、ゴールドカードやプラチナカードにグレードアップすることを検討してみよう。
5.カード会社が直接実施するプロモーションで申し込む
駅や空港などの人の行き来が多い場所で、クレジットカードのプロモーションが実施されている光景を見たことはないだろうか。一般的なプロモーションでは、スタッフがサービスなどを積極的にアピールしており、興味を持った通行人はその場ですぐに申し込みができる。
実はこのプロモーションは、法人カードを持ちたい経営者にとって貴重なチャンスとなり得る。一概には言えないが、プロモーションでは営業担当にノルマが課されているケースが多いため、審査で優遇される可能性もゼロではないのだ。
カード会社に対してこだわりがない場合は、プロモーションを積極的に活用する方法もひとつの審査対策になるだろう。
6.多重申し込みを避ける
多重申し込みとは、一度に複数のクレジットカードやローンに申し込むことだ。明確な基準はないが、多重申し込みをすると「資金調達に困っている」といった印象を与えるため、審査面で不利になるといわれている。
クレジットカードの申し込み状況は、前述の信用情報に登録されている。そのため、地域や名称が異なる発行会社を選んでも、多重申し込みの事実は知られてしまう。
必ずしも審査に落ちるわけではないが、法人カードの申し込みは1枚ずつが望ましい。多くても2~3枚程度に留めて、新たな申し込みは審査に落ちてから検討しよう。
法人カードは発行会社の選び方も重要
前述でも触れたように、法人カードの審査基準は発行会社によって異なる。また、利用限度額やポイント還元率、提供サービスなども変わるため、法人カードは発行会社を選ぶことも重要だ。
仮に審査対策を意識する場合、どのような発行会社を選ぶとよいだろうか。
<審査対策を意識した発行会社の選び方>
・提出書類から審査の傾向を予測する
・自身に合ったグレードがあるかを確認する
・決済額(利用限度額)の範囲が適正な会社を選ぶ
審査の傾向については、決算書などの提出書類から予測できる場合がある。また、想定よりも法人カードのグレードや利用限度額が高いと、そのぶん厳しい審査が行われる可能性があるので注意したい。
また、法人カードの使い勝手や安全性にこだわりたい場合は、以下のポイントも意識する必要がある。
<使いやすい法人カードや発行会社の選び方>
・対応している店舗が多いか
・年会費が高すぎないか
・追加カードを何枚まで発行できるか
・どのような付帯サービスがあるか
・金融庁に登録しているか
金融庁に登録しているかどうかは、国の公式ウェブサイトから確認できる。候補の中に見慣れない発行会社がある場合は、申し込みの前にチェックしておこう。
参考:金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」
申し込みブラックを避けるために、審査対策は万全に
一般的なクレジットカードとは違い、法人カードでは会社の設立年数・経営状況も審査基準に含まれる。経営者個人に問題がなくても、経営面に難があれば評価は下がってしまうので、今回解説したコツやポイントはしっかりと押さえておきたい。
また、クレジットカードに申し込むかどうかは自由だが、短期間で繰り返すと「申し込みブラック」になる点には要注意だ。一度の申し込みで審査を通過できるように、事前の対策は万全にしておこう。
文・THE OWNER編集部