小早川宗護(こばやかわそうご)さんは、抹茶をはじめとする茶の世界に長年携わっており、現在では『茶人CHABITO』の代表を務めています。茶会や抹茶製品のプロデュースにも力を注いでおり、国内外の富裕層から絶大な支持を受けています。世界でただ1人のプロ茶道家として活躍する小早川さんに、茶道の魅力や今後の展望を伺いました。
物心ついた時にはお茶が身近にあった
母親が茶道を嗜んでいたため、私も幼い頃からお茶に親しんでいました。親によれば、2歳でお茶を飲み、4歳で初めて点てたそうです。物心つく前から生活のどこかにお茶があったのでしょう。13歳で許状を取りましたが、その時はまだ茶道と真面目に向き合ってはいませんでした。母がやっているのに付き合っているだけという感覚ですね。
最初の就職はホームセンターでしたが、怪我の影響もあって退職。その後、オーストラリアへ1年間留学しました。日本に帰国してからは仕事を転々として、さまざまな仕事をしました。営業や接客の仕事を通じて、私自身がもてなしを好む性格であることに気づきました。接客業に必要なのは、おもてなしの心と営業のロジックだと思います。
それから私は接客教育の事業で独立しました。その頃はマナー講師という存在が世の中に増え、そうすると内容がどんどん陳腐化し、受講料の相場も下がっていきます。特に男性マナー講師の需要が減少し、2013年にはこの事業の限界を感じました。
茶道に真剣に取り組んだのは30歳を過ぎてからです。せっかくお茶の世界にいるならちゃんと茶道を研究しようと思い、大学院に通い始めました。2年間、経営学を勉強しながら、お茶の歴史やマネジメントについて学びました。
ある時、自著の出版記念として茶会を開催したところ、大好評だったんです。この茶会は炭手前から始まり、懐石料理、茶菓子、2つの茶席を含む約4時間のフルサービス「茶事」で、接客教育のセミナーも行いました。
この成功体験から、フルサービスの茶会を提供したら喜ばれるのではないかと考えました。茶道家が自助努力で収入を得られるようなビジネスモデルの構築にもつながると思い、本格的な茶会ビジネスを始めました。
茶道に自分の人生を賭ける
私は世界で唯一のプロの茶道家です。ここでいう”プロ”とは、お金をいただいて経営的視点で行うということです。茶道の世界ではプロとかアマチュアという分類はなく、自分で名乗ったら茶道家です。しかし、文化人がお金をいただいて活動することに対して、日本では嫉まれる傾向があるんですよね。
私は茶道文化をお金儲けの道具にしたいのではなく、本当にいいものがわかる世界中のラグジュアリー層に知ってほしいという思いがあります。そういった海外のエグゼクティブの方々は約1000万円の予算で日本に来て、1週間の滞在で250万円くらいしか使っていないようです。ほとんどが日本でお金を使い切らずに帰国するのだと聞いています。
日本人には「安いほうが良い」という考えが根強いですが、海外ではこのような発想は少ないです。彼らは高額でも自分が納得できるサービスを求めています。現在、日本の伝統文化である茶道は、価値を十分に伝えずに安っぽいやり方で紹介しているのが現状です。
私が主催する茶会は、1組のお客様のために抜群なロケーションで、亭主が目の前でたてた至極の一服と徹底したサービスを提供しています。このような高品質な体験は珍しく、世界的に茶道は低く評価されている傾向にあります。日本人でも海外の方でも、多くの方は簡易的な茶道体験しか受けられていないと感じています。
茶人として有名な千利休は一服一服のお茶を命がけで淹れていました。多くの人が趣味として茶道を楽しんでいますが、生活を賭けて取り組む人は稀です。私は自分の人生を賭けるという覚悟を持って、最高級の茶会を提供しています。茶道文化の本質である『茶禅一味』という考え方を守って、次世代に引き継いでいけるんです。
シャーロック・ホームズにインスパイアされた高級ティーサロン
2022年5月、神戸に高級ティーサロンを開業しました。私はシャーロック・ホームズの世界観に魅せられ、その雰囲気を事務所に取り入れたく、アンティーク家具を集めて事務所を飾りました。事務所に訪れるお客様へのお茶のサービスが好評で、知人から店舗での提供を勧められたことが始まりです。
英国風アンティークのスタイルでお茶を提供するこのサロンは、ハイカラ発祥の地である神戸の異人館通りならではの空間です。サロンは私のセンスを示すショールームのような場所で、和洋どちらでもセンスを発揮できることを知っていただけると幸いです。
意外にも、来店する客層は20代の学生や若いOLが約40%を占めています。全体的には日本人が多いですが、数十万円もする高級茶器で紅茶を楽しむことや、本格的な抹茶の道具を用いたサービスは、海外のお客様にも好評です。
現在力を入れているのは「茶婚式」という新しい形式の結婚式サービスです。2023年6月に初めて実施したのですが、茶の儀式を通じた結婚式を提供しています。このサービスのように、茶会の新しい可能性を広げていけたらと思います。
※ティーサロンは昨年末で一旦閉店し、現在は芦屋での完全会員制プライベートサロンに移転する予定で準備を進めております。再開業予定は3月半ばを見込んでおります。