中小企業の働き方改革に必要な経営者と会社のマインドセットと具体策

目次

  1. 働き方改革に必要な経営者と会社のマインドセット
  2. 働き方改革①:女性活躍を推進する
  3. 働き方改革②:男性の育休取得を推進する
  4. 働き方改革③:パワーハラスメントを防止する
  5. 働き方改革④:長時間労働を是正する
  6. まとめ

2023年4月からの月60時間超の残業に対する割増賃金率の引上げが中小企業に適用されるなど、働き方改革は中小企業にとっても待ったなしです。しかし、法改正に合わせて社内規定や制度を変えるだけではその実現は難しいでしょう。

今回の記事では、中小企業の働き方改革に必要な経営者と会社のマインドセットと具体策について解説します。従業員が意欲的に能力を発揮できる職場環境を作り生産性の向上や人材確保につながる改革を実現しましょう。

働き方改革に必要な経営者と会社のマインドセット

「マインドセット」とは、これまでの経験や考え方、先入観から作られる思考パターンや行動パターンのことです。働き方改革を企業の成長につなげるために、経営者や会社に求められるマインドセットについて解説します。

働きやすい環境を整えることが優秀な人材確保につながる

従来の一律な勤務体制ではなく、多様な働き方を求める人が増えています。フレックスタイムやテレワークなど柔軟な働き方を導入することが、従業員や求職者のニーズを捉え、離職防止や人材採用につながります。

また、育児や介護などの諸事情のため、経験やスキルにふさわしい仕事に就けない優秀な人材を活用することは、人材不足に悩む中小企業にとっても有益です。

ワークライフバランスの実現への取り組みが企業の生産性を上げる

ワークライフバランスの改善により、従業員のストレス減少や、モチベーション向上などが生じれば、企業の生産性向上にもつながります。

残業を減らしてワークライフバランスを実現することは、企業の総労働時間を減らし生産力を下げるものではありません。過重な残業は、従業員の健康を害するだけでなくモチベーションを下げるため、生産性を低下させるものだという認識を持ちましょう。

業務プロセスの見直しや適正な人員配置、生産性の高いシステムや機器の導入などで企業全体の労働時間を削減し、従業員のワークライフバランスの実現に取り組みましょう。

従業員のキャリア形成の役立つ人材育成が求められている

従業員が会社に求めるのは、報酬だけではありません。終身雇用が当たり前でなくなった現在、将来のためにキャリア形成に役立つ仕事ができる、そのための教育が受けられる職場に魅力を感じる人が増えています。

そのため、これからの経営者や会社は、労働の代償として従業員に賃金を支払えばいいという感覚では、従業員をつなぎとめるのが難しくなるでしょう。

社内の幹部候補としての教育を実施し意識づけをおこなう、転職してもやっていける経験やスキルを習得させるなど、従業員のキャリア形成に役立つ人材育成が必要です。

女性がリーダーとして活躍することで組織が活性化する

社会が多様化する中、顧客が求める商品やサービスを提供し続けるには、従来とは異なる自由な発想や独創的な価値観を持った多様な人材が必要です。男性中心の組織を改め、女性従業員数とともに女性管理職を増やすことが、多様な人材を活用することになります。

経済産業省の資料では、女性役員比率の高い企業ほど利益率などの経営指標がいいと言う結果が出ています。経営者や会社は、女性に対し「サポート的役割」を求めるのではなく、リーダーとして活躍を期待する時代になりつつあります。

働き方改革①:女性活躍を推進する

女性活躍を推進するための経営者や会社の役割と具体的な対策について解説します。

参考:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」

経営者や会社の役割

女性活躍を推進するための経営者や会社の主な役割は、次の通りです。

女性が活躍できる環境を整える

女性が活躍するには、仕事と家庭との時間のバランスを取ることが重要です。特に、仕事と育児の両立が、女性が仕事をする上での大きな課題といえます。

経営者や会社は、女性が必要なときに安心して休暇を取ったり、早く帰れるような環境を整えたりすることが必要です。育児休暇や時短労働などの制度面だけでなく、休暇の取りやすい職場の雰囲気づくりも会社の役割です。

そのほかにも、女性専用の更衣室・トイレの設置や女性が使いやすい機器の導入なども重要です。

女性の採用比率や管理職に占める割合を引き上げる

経営者や会社は、女性の採用比率を高めて女性が活躍する場を提供するとともに、職場をリードする女性管理職を増やすことが求められています。

特に、女性管理職が1人もいない会社は対応が急がれます。女性従業員のロールモデルとなる管理職がいると、モチベーションが高まり管理職にチャレンジする女性も増えます。

また、女性管理職登用を目的とした教育体制の整備や人事ローテーションも必要です。

女性活躍を推進するための対策

女性活躍を推進するための具体的な対策は次の通りです。

女性活躍のための行動計画や目標を定める まずは、女性活躍のための行動計画や目標を決めましょう。具体的には、新たに設ける勤務制度や評価制度、人員の配置基準、教育訓練の内容や導入時期、次の数値目標などです。

●女性の採用比率
●管理職の女性比率
●短時間勤務やフレックスタイム制の利用率
●有給休暇の取得率

など

経営者の発信や社内研修を行い従業員の意識変革を図る

行動計画や目標は、女性従業員だけでなく男性従業員にも周知しなければなりません。ただし、社内通知をおこなうだけでは積極的にチャレンジする女性や協力する男性は少ないでしょう。

経営者が積極的に発信する、社内研修をおこなう、行動計画を推進する担当者を配置するなどして、従業員の意識変革を図ることが必要です。

女性が働きやすいように多様で柔軟な働き方を制度化する

女性が仕事と育児を両立できるように、柔軟な働き方ができるような制度の導入を検討してみましょう。具体的には、次の通りです。

●フレックスタイム制
●時短勤務
●在宅勤務やテレワーク
●育児に関する特別休暇

など

働き方改革②:男性の育休取得を推進する

男性の育休取得を推進するための経営者や会社の役割と具体的な対策について解説します。

参考:厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」

経営者や会社の役割

男性の育休取得を推進するための経営者や会社の主な役割は、次の通りです。

男性が育休を取りやすい環境を整える

女性の育児負担を緩和するために、2022年10月に産後パパ育休が新たに設けられ、さらに従来の育休も分割取得が可能になりました。

しかし、職場内に「男性は仕事優先」「育児は女性がするもの」という意識があれば、制度の利用をためらう人もいるでしょう。経営者が会社の方針として男性の育休取得を推進していることを発信するなどして該当者が育休を取りやすい環境づくりが求められます。

男性の育休取得率を上げる

経営者が発信するだけでは、長年培った企業風土は簡単に変わらないかもしれません。次に解説する男性の育休取得対策をおこなうことにより、実績を作ることも経営者や会社の重要な役割です。

男性の育休取得率を上げることで、育休取得が当たり前の雰囲気をつくりあげましょう。

男性の育休取得を推進するための対策

男性の育休取得を推進するための具体的な対策は次の通りです。

男性の育休制度や意義を社内に周知する

男性の育休制度は改正されて間もないため、知らない従業員もいるでしょう。また、どうして改正されたか理由がわからない人もいます。

制度内容を周知することは勿論ですが、女性の育児負担を下げるという社会的要請や、男性従業員のワークライフバランスの改善により職場の魅力が高まり、定着率のアップや新規採用に役立つことを伝えましょう。

育休中に仕事を代行できるように業務体制を見直す

男性が育休をためらう理由の1つは、「職場の人に迷惑をかけたくない」ことです。育休中に自分の仕事がほかの人に割り振られ、その人の負担が増すことを懸念したものです。

懸念を解消するためには、職場の同僚などの負担が大きくならないような対応が必要です。業務プロセスを改善したり、人員配置を工夫したりするなど、業務体制の見直しを図りましょう。

育休後も育児時間確保のために労働時間の短縮を図る

育休期間が終わっても、子育ての負担は続きます。共働き家庭が増える中、男性も積極的な育児参加が求められており、労働時間の短縮を図るなどの対応が必要です。

女性と同様、フレックスタイム制など柔軟な働き方を選択できるとよりいいでしょう。

働き方改革③:パワーハラスメントを防止する

パワーハラスメントを防止するための経営者や会社の役割と具体的な対策について解説します。

経営者や会社の役割

パワーハラスメントを防止するための経営者や会社の主な役割は、次の通りです。

パワーハラスメント防止に向けた対策をおこなう

2022年4月より、中小企業にはこれまで努力義務とされていた「職場におけるパワーハラスメント防止措置」が義務化されました。

職場におけるパワハラについての会社の方針を徹底するなど、パワハラを事前に防止することが、経営者や会社の役割です。

パワーハラスメントが発生したら迅速・適切に対応する

パワハラが発生した後の対応は、会社が責任をもっておこなわなければなりません。事実関係を確認して、パワハラを発生させた従業員に適正な処分をおこなうとともに、被害を受けた従業員のプライバシーを保護しなければなりません。

また、再発防止策を実施することも必要です。

パワーハラスメントを防止するための対策

パワハラを防止するための具体的な対策は次の通りです。

参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」

パワーハラスメントに関する企業の方針を明確にし、社内に周知する

「パワハラは許さない」という企業の方針を経営者が発信するなどして、従業員全員に周知しましょう。

また、職場内での活動を管理する役職者向けに研修をおこなうことも効果的です。年配者ほどパワハラに該当するかどうかの基準が緩いこともあります。昔は部下の教育と言っていた行為が、パワハラに該当するケースも考えられます。

パワーハラスメントの相談窓口を設ける

パワハラを事前に防止するとともに、発生した場合に備えてパワハラ相談窓口を設けましょう。上司からのパワハラの相談先になり、パワハラの早期発見につながります。

相談者が職場内の人に相談したことを知られたくないケースもあるため、相談者の希望に配慮できる担当者を配置することも重要です。

パワーハラスメント時の対応部署や対応手順を事前準備する

パワハラが発生したときに迅速・適切に対応できるように、あらかじめ対応部署や対応手順を準備しましょう。責任者を決めておく、対応マニュアルを策定するなどの対応が考えられます。

働き方改革④:長時間労働を是正する

長時間労働を是正するための経営者や会社の役割と具体的な対策について解説します。

参考:厚生労働省「長時間労働削減に向けた取組」

経営者や会社の役割

長時間労働を是正するための経営者や会社の主な役割は、次の通りです。

従業員の労働時間を正しく把握する

人手不足が深刻などの理由で、2020年4月から中小企業にも適用になった「時間外労働の上限規制(年720時間以内)」をクリアできていない企業もあるのではないでしょうか。

また、勤務記録上は規制をクリアしていても、サービス残業や持ち帰り残業が疑われるケースもあります。経営者や会社は、まず自社の勤務実態を正しく把握する必要があります。

労働時間の短縮を図る

上限規制をクリアできていない場合は当然ですが、規制はクリアしていても従業員のワークライフバランスを実現するために、一層の労働時間の短縮が必要な企業もあります。

「残業禁止」「残業は◯時間以内」などの掛け声だけで、具体的な業務削減策がなければ、経営者は役割を果たしているとはいえません。設定した目標を達成するための対策を実行し、従業員に無理を強いることなく労働時間の短縮を図りましょう。

長時間労働を是正するための対策

長時間労働を是正するための具体的な対策は次の通りです。

残業に対する経営者や管理者の意識改革を図る

経営者や管理者の中には、「残業した人は頑張っている」「仕事量が減らなければ残業は減らせない」と考える人もいます。このようなケースでは、経営者や管理者の残業に対する意識を変えることが優先課題です。

残業時間を一定以内に抑えることを前提に、業務プロセスを改善したり業務効率の高い機器の導入を検討したりすることが求められていることを理解しなければなりません。

勤怠管理ツールの導入などを図る

従業員の労働時間を正しく把握するために、勤怠管理ツールを導入することも有効です。タイムカードを通してからサービス残業をおこなうなどの行為を防げます。また、パソコンのログオン・オフ時間と照らし合わせて、残業隠しが行われていないかチェックできます。

業務量を適正化するために業務内容や人員配置を見直す

従業員数と成果を変えずに労働時間を減らすには、業務効率を高めて業務量を減らさなければなりません。業務プロセスの改善や業務効率の高い機器の導入などが考えられます。

業務効率の改善だけで十分な労働時間の削減ができない場合、従業員の増員や、成果を見直す(製造量を減らす、営業時間を短縮するなど)などの選択もあります。

まとめ

中小企業の働き方改革を実現し企業の成長につなげるために、経営者や会社には従来とは大きく異なるマインドセットが求められます。長年培った企業風土や独自の制度ややり方を変える必要があります。

まず、経営者や会社が意識を変革し、従業員を巻き込んで働き方改革に取り組むことが、企業の生産性向上や人材確保につながります。

中小企業の働き方改革に必要な経営者と会社のマインドセットと具体策
監修
西岡秀泰(にしおか ひでやす)
西岡社会保険労務士事務所所長。生命保険会社に25年勤務の後、西岡社会保険労務士事務所を開設。社会保険労務士のほか、FP2級資格も保有。得意分野は労働保険、社会保険、金融全般、生命保険。
中小企業の働き方改革に必要な経営者と会社のマインドセットと具体策
記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営
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