人が亡くなると葬儀等を行い、その後に亡くなった人の遺産を分ける必要があります。
相続とは、故人が持っていた債権や債務等を無限に引き継ぐことを言います。
ここでは、最初に相続人と法定相続分について解説し、その後に法定相続分が修正される場合について紹介していきます。
また、遺言があった結果、ご自身の相続分が思ったよりも少ないというような場合に、自分の相続分を守ることはできるのでしょうか?後半は遺留分侵害額請求について紹介します。
相続人と法定相続分について
相続人と法定相続分について
人が亡くなると相続が発生します。
それでは、相続人は誰で、その持分はどれ位あるのかについて見ていきましょう。
民法では相続人と相続分は以下のように決まっています。
<相続権の順位>
常に相続人配偶者
第1順位子
子がいない場合
第2順位直系尊属
子と直系尊属がいない場合
第3順位兄弟姉妹
<相続分>
◼︎配偶者と子1/2と1/2
◼︎配偶者と直系尊属2/3と1/3
◼︎配偶者と兄弟姉妹3/4と1/4
以下、相続権と相続分について補足説明を行います。
◼︎①配偶者について
「配偶者」は婚姻届の出ている方に限られます。
婚姻届の出ていない、いわゆる内縁関係の配偶者は、ここでいう法律上の相続人には該当しません。
もし、内縁関係の配偶者に遺産を遺したいというのであれば、遺言を書く必要があります。
相続人がいない場合は相続財産管理人を選んで、家庭裁判所の審判を経て財産を取得する方法もありますが、最低でも13ヵ月はかかりますし、相続財産管理人に支払う費用も発生しますので、遺言で遺贈する方が妥当でしょう。
◼︎②子について
「子」は実の子だけでなく養子も含みます。
なお、相続税の申告で養子が認められるのは実子がいない場合は2人まで、実子がいる場合は1人までですが、民法の定める「子」には養子の人数制限はありません。
また、婚姻関係にない相手との子、いわゆる非嫡出子の法定相続分については、2013年の最高裁判決で従来の規定が違憲とされ、嫡出子と同じ法定相続分に基づく相続権があります。
そして、子が数人いる場合は、法定相続分1/2を分ける形になります。
例えば子どもが3人いる場合は各1/6の相続権があることになります。
◼︎③直系尊属
直系尊属に相続権が発生するのは子や孫が居ない場合です。
父と母だけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんがいる場合、相続権は誰にあるのでしょうか?
この場合、被相続人本人から近い人に相続権があります。
父と母がおじいちゃんやおばあちゃんよりも近い関係にありますから、父と母に相続権が発生します。
◼︎④兄弟姉妹
被相続人に子や孫、直系尊属が居ない場合に兄弟姉妹に相続権が発生します。
それでは兄弟姉妹で片親が共通のいわゆる半血の兄弟姉妹の相続権はどうなるのでしょうか?
この場合、両親が同じ兄弟姉妹の半分になります。
例えば兄弟姉妹が3人いて1人の母親が違う場合、1/4を分け合う形になりますので、2/20、2/20、1/20という形になります。
法定相続分が修正される場合①
ここまで法定相続人は誰で、その持分はどうなるのかについて見てきました。
ところが、個々具体的なケースでこのとおりにはならない場合があります。
以下では、法定相続分が修正されるパターンについて見ていきます。
◼︎①代襲相続
代襲相続とはどのようなことでしょうか?
例えば、子が被相続人の親より先に死亡していて孫がいるような場合に、子に代わって孫が相続するような場合です。
もし孫も死亡していたらひ孫が相続することになります。
この代襲相続は兄弟姉妹にも認められていて、被相続人より先に兄弟姉妹が死亡しているような場合は甥姪にも相続権があります。
ところが、子の場合と違い代襲相続権は甥姪までであり、甥姪が先に死亡しているような場合は、その子には相続権は認められません。
◼︎②欠格
例えば、被相続人が相続人に殺害された、被相続人の遺言を偽造していた場合はどうでしょうか? このような反社会的な行為を行う相続人にまで相続権を与えるのは不当としか言いようがありません。
そこで、法律は一定の反社会的な行為をした相続人には相続権を与えないことにしています。
これを相続欠格と言います。
ただ注意したいのは、相続権がないのはこのような行為をした相続人だけであって、もしその相続人の下に子がいるような場合は、その子に代襲相続権が発生します。
◼︎③廃除
先ほど、相続欠格について述べました。
これは法律上、定められている事項であって、これ以外にも被相続人を虐待していた、侮辱をしているような場合にまで相続権を認めるのは妥当ではありません。
このような場合は、被相続人が家庭裁判所に申し立てをして、そのような虐待等をする相続人の相続権を廃除する手続があります。
先の欠格と違うのは、欠格の場合は民法で定められた一定の行為をすると当然に相続する資格を失いますが、廃除の場合は一定の行為があっても当然に相続権を失うのではなく、家庭裁判所に申し立てをして認められて初めて相続権が無くなるという結論になります。
なお、この廃除は実際のところハードルはかなり高く、なかなか認められるものではありません。
相続人の一人と被相続人はよく口げんかをしていたといったような事情だけでは認められないでしょう。
- ポイント 法定相続が修正される場合として代襲相続・相続欠格・廃除という制度がある。
法定相続分が修正される場合②
2では法定相続分が修正されるパターンについて見てきました。
ここでは、他に法定相続分が修正される場合について見ていきます。
◼︎①遺産分割
法定相続人の法定相続分が修正される最もポピュラーなケースです。
複数の相続人が集まって協議し、遺産の中で、この不動産を長男が、預金を妻が、というように分けていき、最後に相続人全員の署名と実印の押印が必要となります。
この遺産分割協議書は必ず相続人全員で行う必要があり、たとえ一人でも欠けていたら無効になります。
◼︎②遺言
被相続人が生前に「この不動産を○○に相続させる」「この壺を○○に遺贈する」というような文面の書類を遺していた場合、故人の意思を尊重してその通りに遺産が継承されていきます。
法定相続や遺産分割は相続権のある人を前提としていましたが、遺言で財産を譲り渡す相手方は相続人である必要はありません。
とはいえ、この遺言は厳格に様式が定められており、その範囲を逸脱した形式のものは無効となります。
相続法が改正されて遺産目録にあたる部分はワープロ打ちも認められるようになりましたが、依然としてビデオ等での遺言は認められていません。
遺言があり被相続人が死亡すると、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での検認手続が必要になります。
また自筆証書の遺言、公正証書の遺言であるとを問わず遺言がある場合は通常、遺言執行者が就任して遺言の内容を実現していくことになります。
- ポイント 法定相続が修正される場合には、遺産分割や遺言がある。
戸籍の見方
これまで相続の概要について見てきました。
相続が発生した場合にモノを言うのは戸籍等になりますが、どのような戸籍が必要でどこをチェックすればいいのでしょうか?その点について説明します。
まず、被相続人が亡くなった場合は戸籍謄本が必要になります。
そうすると大抵は最近の横書きの戸籍謄本をイメージする方が大半でしょう。
しかし、相続の現場ではその戸籍だけでは足りないのです。
戸籍は法律が改正されたり、本籍地を変えたりする度に新しい戸籍が作られていきます。
ですので、今お持ちの戸籍謄本だけで出生から死亡までの戸籍をカバーすることは通常ありえません。
人によりますが、大抵は3種類から5種類位にまたがることが多いです。
本籍地のある市役所で戸籍を取り、そこから法律改正前の戸籍(通常縦書きの場合が多いです)、婚姻前の戸籍、転籍する前の戸籍などを取得していきます。
このとき、戸籍・除籍・原戸籍など戸籍謄本の種類も多様になりますが、市役所に「相続に使うので、○○の出生から死亡までの戸籍、各1通ずつお願いします」といえば大抵の担当者は事情を汲んで集めてくれるので、除籍や原戸籍の違いにそれほど神経をつかう必要はないでしょう。
ただ、抄本か謄本かと問われた場合は必ず謄本で取得して下さい。
抄本はその人だけの記載しかありません。
相続で被相続人の戸籍を取るのに抄本ですと、相続人が誰なのか把握できません。
これでは意味がないのです。
また、遠方の市役所に本籍地がある場合はどうするのでしょうか?わざわざ行くのも大変ですので、この場合は郵送で請求します。
市役所によっては戸籍請求の用紙をインターネットに掲載しているところがありますので、それをダウンロードして記載するのもいいでしょう。
そして、手数料分の小為替と身分証明書(運転免許証)のコピー等を同封して請求するのです。
使用目的は「相続」と必ず書いて下さい。
戸籍や住民票はプライバシーに直結する書類です。
使用目的も曖昧な請求に市役所は応じてくれませんので注意が必要です。
なお、戸籍等の手数料について以下に列挙します。
戸籍:450円
除籍:750円
原戸籍:750円
住民票・戸籍付票:自治体により異なります。確認して下さい。
こうやって集めていった書類をつなぎ合わせて、過不足がなければ被相続人の書類が揃ったということになります。
- ポイント 被相続人の出生から死亡までの戸籍がいる。戸籍・除籍・原戸籍とタイトルにこだわらず、「出生から死亡までの戸籍が欲しい」と市役所の担当者に伝えよう。
その際、使用目的は相続との一言を忘れずに。
その他の注意点
ここまで、相続人や相続権、戸籍等について見てきました。
ここで注意したいことを述べておきます。
不動産で何十年も登記をしてなかった、名義変更するために戸籍や相続人について知りたいという方もいるでしょう。
まずは被相続人の亡くなった年を確認して下さい。
もし、昭和55年12月31日以前に無くなった方の不動産の名義変更をする場合は、現行の相続分とは違います。
旧法が適用されて配偶者の相続分や兄弟姉妹の代襲相続において違いがあります。
また、被相続人が韓国籍の方のような場合は大韓民国の民法が適用されます。
誰が被相続人でいつ亡くなったのか、その時点で適用法律や用意する書類が変わってきますので、その点に留意して下さい。
- ポイント 古い相続では、改正前の相続分が適用される。国籍が違えば適用される相続法も変わる。
遺留分とは
遺留分を解説する前に一つの事例を見ます。
被相続人が亡くなり、遺言が遺されていました。
内容は「Aに500万、Bに300万遺贈する」という内容でした。
被相続人には1,000万円の遺産がありましたが、死亡する前に200万円が生前に贈与されていました。
相続人であるCとD(いずれも子)には相続すべき遺産が一切ないという結論になります。
CとDとしてはこのような状態を認めざるを得ないのでしょうか?
テレビドラマや相続を扱う番組でよく耳にする言葉に「遺言」と「遺留分」があります。
遺留分とはこのような場合に認められるものです。
つまり被相続人の生前贈与や遺贈があって相続人の相続分が十分確保されていないような場合に、その権利を守るために設けられた制度です。
では計算方法について見ていきます。
①計算方法
遺留分の算定となる財産の計算方法
被相続人の相続開始時の遺産+贈与した財産-債務
遺留分
・直系尊属のみ1/3
・配偶者と子1/2
※兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分行使の基礎となる財産の計算方法は上記の通りです。
ここで計算して出てきた数値に自身の遺留分を掛け合わせます。
遺留分は自身の法定相続分に1/3又は1/2の遺留分を掛け合わせたものです。
②行使方法
遺留分が出ましたら、それをどう行使していくのかを検討します。
この遺留分は必ずしも裁判上で請求していく必要はありません。
内容証明等で請求することもできるのです。
ただ、行使するには順序があります。
まず遺贈等から侵害額を請求していかなければなりません。
複数の遺贈がある場合は、評価の割合に応じて遺留分の回復請求を行います。
そして、遺贈等だけでは自身の権利が回復できないのであれば直近の贈与から過去の贈与に遡る形で生前贈与に対して回復請求を行っていきます。
もし、先ほどの例でAやBの手元にお金がない場合はどうなるのでしょうか?この場合、CやDがそのリスクを背負うことになります。
つまり請求できないということです。
③遺留分の放棄
さて、この遺留分は被相続人が死亡する前に放棄することが認められています。
ただ、口頭や書面で放棄をするだけでは足りず、家庭裁判所の許可が必要になります。
この許可はあまり例を見受けませんが、ハードルは高いものと思われます。
さて生前に遺留分を放棄しても、自身の遺留分侵害請求ができないだけであって通常の相続はできます。
要は被相続人が遺言や生前贈与等で遺留分権利者の遺留分を侵害するようなことをしていなければ、たとえ遺留分を放棄していたとしても通常の相続権はあるのです。
また、混同しやすいところですが、この放棄は相続放棄とは違います。
相続放棄は被相続人の一切の権利義務を放棄するもので、被相続人の死後にのみ認められるものです。
被相続人の権利義務一切を生前に放棄したいといっても、現行法の下では厳しいのが実情です。
④相続法の改正
さて、相続法が2019年に大きく改正されました。
その改正ポイントの一つが遺留分です。
従来は遺留分の減殺請求がされると共有になる場合がありました。
たとえば不動産が遺贈されて遺留分を侵害されているので、その侵害額請求を行って権利を回復したのはいいものの、侵害した者と侵害された者とが共有する、そんな状態が起こりえたのです。
ご存じのとおり不動産は処分しにくいものです。
しかも共有ですと、全員で共同して行わなければならないため、そのような不動産を処分するのは現実的には限りなく不可能と言わざるを得ないでしょう。
そこで、改正法では遺留分の請求方法は金銭請求になりました。
従来はモノの回復でしたが、改正後は金銭請求にと置き換えられたのです。
その他の変更点としては、遺留分を侵害している生前贈与がある場合で贈与を受けた人が親族の場合は、期間の制限が判例上ありませんでしたが、改正法では10年までと定められています。
また、その贈与の態様も婚姻や養子縁組、生計の資本という形の贈与に限定されました。
他にも、遺産分割が行われて遺留分権者が遺産を取得した場合とのバランスや遺留分を侵害している者が債務を負担している場合の規律等が設けられています。
- ポイント 遺留分の請求方法は裁判上の請求でなくてもよい。法改正で金銭請求に変わった。
さいごに
これまで、前半では相続人や相続分、相続分が変容を受ける場合について、後半では遺留分について計算方法や行使の仕方、改正ポイントについて見てきました。
個々の事情によっては適用される規定が変わり、または用意する書類が変わる場合があります。
被相続人はいつ亡くなったのか、そして自身の相続分あるいは遺留分がどれだけあるのか、相続法の改正でどこが変わったのか、その点を押さえて争いの予防や円滑な相続の手続に寄与できれば幸いです。
(提供:相続サポートセンター)