※本稿は寄稿者の個人的見解に基づく原文を掲載したものであり、THE OWNERの見解を示すものではありません。

異文化コミュ力を上げたくば、ダンスを学べ
(画像=異文化コミュ力を上げたくば、ダンスを学べ)

私は1995年からアメリカ・ニューヨークに在住しており、2004年に起業して戦略コンサルタント、異文化コミュニケ―ション戦略家、そしてプロフェッショナルスピーカーとして活動しています。プロフェッショナルスピーカーとは、自分の専門分野について基調講演などを行う仕事で、純ジャパながら、アメリカで、英語で、多様な人々に向けて講演をしています。 起業した年と同じ年から始めているのが、競技ラテンダンスです。もともと小さいころからバレエなどやってきたのですが、アメリカに来てからであった社交ダンスに魅了され、チャチャ・サンバ・ルンバ・パソドブレ・ジャイブ、という5種目で競う競技ラテンのプロアマ選手としても活動しています。 プロフェッショナルスピーカーとして活動する中で、異文化コミュニケーションを効果的に行う「3つのA」について必ずお話しするのですが、この3つのAは、実は競技ラテンダンスから学んだことからインスピレーションを得ています。

競技ラテンは、社交ダンスと同様、リーダーとフォロワーから成る、パートナーシップダンスです。リーダーは明確に方向性と次の動きを示し、フォロワーはそれを自分なりに消化してすぐに行動としてアウトプットしなければいけません。リーダーの明確な指示と、フォロワーの自主的な動きがなければ、パーフェクトなダンスは成り立ちません。 ビジネスでは私はリーダーですが、競技ラテンダンスでは、私はフォロワーです。両方の立場に立つことで、両者のバランスも理解できる。リーダーシップのありかた、フォロワーシップの在り方、立場の違う両者間のコミュニケーションの取り方、それらをダンスから学んでいるんです。

ダンスと異文化コミュニケーションの共通点についてお話しする前に、まずは、異文化で渡り合っていけるリーダーに必要なスキルについてお話ししましょう。

異文化で渡り合うための必要スキルとは

私は日本で育った英語ネイティブではない、純ジャパの日本人です。現在アメリカでプロフェッショナルスピーカーとして、英語と日本語で基調講演活動をしたり、グローバル企業の経営層に向けて、異文化コミュニケーションの研修を行ったりしています。

「異文化」と聞いた途端、「あ、英語でのコミュニケーションか」、あるいは、「自社はドメなビジネスだから関係ない」、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、日本人同士でも、立場やバックグラウンドが異なれば価値観も大きく異なり、意思疎通が簡単ではないケースも多々あります。ましてや異文化の人々と意思疎通を図ることはそう簡単ではありません。

「同じ人間なんだから根っこは一緒」と思うかもしれませんが、グローバルビジネスに携わっていると、根っこは意外と一緒ではないのだな、と思わされることも少なくありません。文化の違いは、価値観の違い、コミュニケーションや考え方の違いなどに大きく影響します。 文化には色々な定義がありますが、「あるグループに属する人々が暗黙のうちに共有したり習得している考え方、感じ方、価値観などのこと」であると言えるでしょう。

文化はいうならば氷山にたとえられます。つまり、見えている部分はほんの一部で、そのほとんどは水面下に隠れているのです。

日本は「察しの文化(高コンテクスト文化)」

日本は、氷山の見えている部分(発せられた言葉や目に見える表情、しぐさ、行動など)が非常に少なく、水面下の部分(隠れている価値観や暗黙の了解など)が非常に多く、ほんの少し発せられた言葉や表情、行動などから多くを察することが常識だとされる「察しの文化」だと言われます。

異文化理論ではこれを「高コンテクスト文化」と呼びます。

英語圏は「言葉の文化(低コンテクスト文化)」

英語でももちろん、「Read between the lines(行間を読む)」という表現はあるのですが、それでも欧米は比較的、見えている部分が多く、水面下の部分が少ない氷山の形をしており、それは、見えている言動に頼ったコミュニケーション方法を取る、いわば「言葉の文化」と言われます。

異文化理論ではこれを「低コンテクスト文化」と呼びます。

日本人が世界に出た際、大きな壁としてぶつかるのが、この、高コンテクスト・低コンテクストの違いです。日本は世界の中でも最もコンテクスト度合いが高い文化です。ということはつまり、他のどの国の文化で渡り合おうとしても、コンテクストの壁にぶち当たる、ということです。

もちろん、直接的な表現を好む欧米でも、礼儀や相手への尊重の念はもちろんありますので、頭ごなしに「No」と言えば良い、ということではありません。論理的に、かつ、極力含みのない表現を使って、「No」であること、そして「なぜNoなのか」を明確に伝える、ということが大事です。

一方で、言語コミュニケーションよりも非言語コミュニケーションの度合いが非常に大きい日本人にとって、低コンテクストな言語コミュニケーションの習得は訓練が必要です。非言語に長けている、という日本型コミュニケーション(高コンテクスト)を活かしていくことはできないのだろうか。それを考え続けたところ、答えは意外なところにありました。

ダンスに明け暮れた留学時代

私が初めて「異文化」を経験したのは大学3年生の時でした。早稲田大学の交換留学制度で、アメリカの中西部、セントルイスの大学に1年間交換留学生として派遣されました。

英語には自信がありました。中学一年生の時から毎日欠かさずNHKのラジオ英語番組を聞き続け、当時盛んだった「駅前留学」も経験していました。ところが留学初日から文化の違いに圧倒され、すっかり自信を失ってしまいました。

生の英語に慣れていなかったことも大きな原因の一つでしたが、何よりも違ったのは、コミュニケーション手法はもちろんのこと、その裏にあるもの…一言で言うならば、「在り方」でした。自分の意見をしっかり持っているというのはもちろんのこと、周りに同調、忖度することなく、相手が教授であろうと仲良しの友人であろうと、「違い」をしっかり相手にぶつけ、自分の言葉でメッセージを発信し、自分自身を表現するということ。「違い」をぶつけられた相手も、当たり前のように、時には楽しんでいるかのように自分の意見を投げ返す。自分自身のプレゼンスを惜しみなく出す「在り方」です。日本とは違う文化だな、と感じました。

とはいえ、すぐにはそのような「在り方」を身に着けることはできません。私自身が臆することなく表現できる言語は一つだけでした。

ダンスです。

私は3歳からバレエ、中学・高校時代は創作ダンス、大学ではミュージカルの部活でダンスの振り付けを担当したりしていました。

生の英語や異文化にまだまだなじめきれず、友達もまだできず、部屋にこもり毎晩のようにひとり泣いていた留学2週間目のこと、ダンスパフォーマンスのオーディションのポスターを見つけました。この先1年間続く留学生活に光が見えた瞬間でした。

オーディションに合格してからは毎週ダンスのリハーサルに参加。私が踊るとチームメイトは目を輝かせて私に話しかけてくれました。

「今の動きどうやるの?」 「そのポーズかっこいい!教えて!」

ダンスはまさに私のコミュニケーションツールとなりました。

でもその時は、ダンスが、私が編み出した異文化コミュニケーションの3つのAに発展していくとは思ってもいませんでした。

起業と育児の両輪を支えた競技ラテンダンス

留学後も私はダンスを続け、大学を卒業しニューヨークに渡ってからは、競技ラテンダンスに熱中していきました。年に5回ほどの試合に出場すべく、体作りも日々行っていました。私は2004年に戦略コンサルティングの会社を起業したのですが、起業家というのは365日間四六時中自分のビジネスのことを考えるものです。企業経営者も同様でしょう。起業家や経営者はともすると孤独な職業です。健全な経営には、経営者自身の良好な精神状態、器の大きさ、そして、豊かなマインドが大きく影響します。更に2011年に出産後、二つ目のビジネスを立ち上げ、2つのビジネス、とビジネスの両輪のバランスを保たなければいけませんでした。ビジネスでもない、育児でもない、自分のためだけの「何か」が必要でした。私にとっての「何か」こそが競技ラテンでした。

異文化間ビジネスでも効果的なコミュニケーションを実現する3つのAとは

競技ラテンは、社交ダンスの中の競技向けラテンダンスのことですが、映画「Shall Weダンス?」の竹中直人さん役がやっていたダンス、あるいは、テレビ番組では、一昔前はウリナリ芸能人社交ダンス、最近では金スマ社交ダンス企画、というと分かりやすいでしょうか。リーダー(通常男性)とフォロワー(通常女性)がペアになり、チャチャ、サンバ、ルンバ、パソドブレ、ジャイブ、という5種目を踊ります。

競技ラテンはペアダンスですから、パートナー同士のコミュニケーションが不可欠です。コミュニケーション、といっても、ダンスですから言葉は使いません。非言語のコミュニケーションがすべてです。

競技ラテンの特徴のひとつに、振り付けは各ペアで決まったものを練習してきますが、踊る曲は自分では選べず、試合でかかった曲で踊らなければならない、ということがあります。同時に12組前後が同じフロアで踊りますから、ぶつかりそうになることもありますし、12組の中で埋もれないように、自分たちならではの世界観を見せていかなければいけません。そのためには、フロアクラフト、といって、いかにフロアをうまく使いながら、自分たちの踊りを「魅せる」か、というスキルも大切になってきます。フロアクラフトのスキルは主にリーダーに必要ですが、フォロワーは、予測しないフロアクラフトの動き(つまり踊る方向性やポーズをとる向きなど)を瞬時に読み取り、適応させ、一心同体となって動いていくスキルが必要です。また、その時かかった曲でいきなり踊るわけですから、踊り始めの動きのタイミングも二人で目を合わせ、空気を読みながらぴったりと合わせないといけません。

つまり、

  1. 相手の非言語メッセージを読み取り、
  2. 相手がいつ、どんな動きで、どんな方向で進もうとしているのか分析し、
  3. 相手の動きと一体となるように自分の動きを適応させる

という、非常に繊細かつ瞬時の判断を要する「非言語コミュニケーション能力」が不可欠なのです。

更に、リーダーは、明確にディレクションを示す能力、そしてフォロワーはただそれについていくだけではなく、チームとしての表現を最大化するよう自ら工夫して動く力、も要します。

私は社交ダンスで競技ラテンの試合出場を通して、ダンスそのものよりも、リーダーシップ、フォロワーシップ、チームとして互いにシナジーを出しながら共通した世界観を作り上げていく力、そして何より、チームとして、言語だけでなく非言語も最大限活用したうえで息の合ったコミュニケーションをとる方法、を学びました。

これこそが、異文化で渡り合っていくために必要なコミュニケーションなのだ、と気づき、私は「異文化コミュニケーション3つのA」 を編み出したのです。

1つ目のA:Acknowledge(認知)「相手と自分は違うと認識すること」

ダンスで言うならば、相手との距離感、背丈の違い、立ち位置、相手が取ろうとしている動きをまず認知する、ということに相当します。

異文化で言うならば、「人間根っこは同じだから」と自分の「常識」が相手にも通用すると思いこまず、相手と自分は違うのだ、とまずしっかり認識する、ということです。「氷山の一角」という表現がありますが、異文化コミュニケーションはまさに氷山のように、見えている部分(発せられた言葉やボディーランゲージ)は単なる氷山の一角で、どんな「常識」や「暗黙の了解」、「共通の価値観」が潜んだうえでなぜそういう言動になったのか、は隠れています。

私たちはつい、「Aさんは同期で同じ営業課の人間だし、私が言わんとすることはわかってくれるだろう」という考え方をしてしまいがちです。でも、相手と共有している「文化」の範囲が大きかったとしても、考え方や価値観が完全に一致する人間は存在しません。家族間だって同じことが言えます。

文化が異なる人同士だと、情報共有の仕方、部下へのフィードバックの仕方、指示の出し方、信頼関係、チームワークのとり方、交渉の仕方、発言の仕方、コンフリクト発生時、問題解決方法…などなど、あらゆる場面でコミュニケーションの違いが生まれてきます。「相手はこうだろう」と仮定・前提・推定をしてしまうと、そこにコミュニケーションの齟齬が発生してしまいます。

ですから、効果的な「異文化間コミュニケーション」の第一歩は、「Acknowledge」、つまり、相手は自分と違うのだ、と認識することです。

2つ目のA:Analyze(分析)「自分と相手のコミュニケーション方法の違いを分析する」

Acknowledge(認識)したら、次は、相手との違いが、どこにあり、どれくらい大きいものなのか、分析するのが2つ目のステップです。

ダンスで言うなら、相手が提示したほんのわずかなサイン、たとえば、動き出す直前の息遣いや、ターンする前の手の誘導など、を読み取り、これはどんなサインが送られているのか、瞬時に分析し、理解する、ということです。

異文化で言うなら、直面した「違い」の原因はどこなのか、相手のコミュニケーションの傾向と自分の傾向はどのように異なり、相手が意図していることは自分が考えていたこととどう違いそうなのか、分析する、というプロセスです。

これにはツールが必要になります。私はプロフェッショナルスピーカーとして登壇する基調講演や、企業研修などで、異文化理論に基づいたツールを使い、これを体系的に分析する演習を行っていきます。

3つ目のA:Adapt(適応)「相手に合わせて適応する」

相手との距離感が見えてきたら、最後に行うのは、「Adapt」、つまり、「適応」です。

ダンスで言うなら、相手からもらったサインを「右ターン」だと分析したら、即時に右ターンをする、ぶつかりそうだから方向を変えようとしている、と分析したら、相手が向かう方向に自分の動きを修正する、などです。

異文化で言うなら、ステップ2のAnalyze(分析)で分析した内容に合わせ、相手に寄り添う形で自分のコミュニケーションを適応させていきます。もちろん、分析が外れることもあるでしょう。そしたらすぐにまた修正し、適応させる。そんな即興性が必要です。コミュニケ―ションは、トライアル&エラーの繰り返しで精度が上がってきます。

異文化コミュニケーションは即興パフォーマンス

ダンスは言わずもがな、パフォーマンスですが、異文化コミュニケーションも実は、即興パフォーマンスなのです。

ダンスでは、立場の違う相手を認識(Acknowledge)し、相手から投げられたサインを分析(Analyze)し、即座に適応(Adapt)させながら、同時にチームとして共通の世界観を作り上げ、ストーリーを表現し、観客を引き込んでいきます。異文化コミュニケーションでも、相手の価値観を認識(Acknowledge)し、相手と自分のコミュニケーションの違いを分析(Analyze)し、自分のコミュニケーションを適応(Adapt)させながら、チームのモチベーションとエンゲージメントを高め、相乗効果を生み出し、自発的に行動してもらいながらチームの生産性を最大化していくこと、が必要です。

社交ダンスを通して、あなたのグローバルリーダーとしての殻を破り、異文化コミュニケーション適応術を高めてみませんか?

信元夏代(のぶもと なつよ)
信元夏代(のぶもと なつよ)
ニューヨークを拠点とする事業戦略コンサルタント、プロフェッショナルスピーカー、グローバルプレゼンコーチ。早稲田大学商学部を卒業後ニューヨークに渡り、伊藤忠インターナショナルの鉄鋼、紙パルプを経てニューヨーク大学でMBA取得。マッキンゼーでコンサルティングの経験を積み、起業。国際スピーチコンテストではニューヨークの強豪を勝ち抜いて地区大会5連覇、TEDxTalkへの登壇などを経てプロスピーカーに。全米で異文化コミュニケーションの基調講演登壇をしている。2021年6月には全米プロスピーカー協会ニューヨーク支部初のアジア人理事に就任。戦略コンサルならではの分析力と現役プロスピーカーならではの実践力で、企業トップから起業家まで、文化や言葉の壁を越えて相手を動かすプレゼンを指導している。

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