遺族基礎年金の要件を満たさないため受給できない場合でも、一定の金銭をもらえる制度として「寡婦年金」と「死亡一時金」の制度があります。
それぞれの受給要件や請求方法をみていきましょう。
最長5年間受給できる寡婦年金とは
寡婦年金とは、夫が国民年金に加入していたのに老齢年金を受け取らずして亡くなり、妻も遺族基礎年金の受給要件を満たさない場合に、高齢の妻の生活補償や夫が納めてきた保険料が掛け捨てにならないように支給されるものです。
寡婦年金の受給要件を満たす場合、妻は最長で60歳から65歳になるまでの5年間、年金を受給することができます。
寡婦年金の受給要件
寡婦年金を受給するためには、亡くなった夫と残された妻の双方が以下の要件を満たす必要があります。
亡くなった夫に関する要件 | 次の3つの要件を全て満たす必要があります。 ①国民年金の第1号被保険者として保険料を納付した期間(免除期間を含む)が10年以上あること(平成29年7月31日以前に夫がなくなった場合は25年以上) ②老齢基礎年金を受給したことがないこと ③障害基礎年金の受給権者であったことがないこと |
残された妻に関する要件 | 次の2つの要件をいずれも満たす必要があります。 ①亡くなった夫と10年以上、婚姻関係を継続していたこと ②65歳未満であること |
受給対象者 | 亡くなった方の妻のみ |
受給期間 | 60歳~65歳になるまで |
なお、寡婦年金は自動的にもらえるものではなく、請求手続をしないと受給できません。
請求権は夫が亡くなった日の翌日から5年間で消滅時効にかかるので、受給する場合は忘れずに請求することが必要です。
また、以下の場合は寡婦年金を受給することができないので、注意が必要です。
・夫が障害基礎年金を受給したことがあるか、受給権者であった場合
・妻が自身の老齢基礎年金を繰り上げ受給している場合
寡婦年金の受給額
寡婦年金としてもらえる金額は、夫の老齢基礎年金額の4分の3です。
ただし、夫の老齢基礎年金額は第1号被保険者であった期間だけで計算されます。
老齢基礎年金額は満額で780,100円なので、寡婦年金額は最大で年間585,075円となります(平成31年4月現在)。
寡婦年金の請求方法
寡婦年金の請求は、「年金請求書(国民年金寡婦年金)」という書類を提出することにより行います。
請求先や必要書類などは以下のとおりです。
請求先 | 亡くなった方の最後の住所地を管轄する市町村役場の窓口、または最寄りの年金事務所等 |
必要書類等 | ・年金手帳 ・戸籍謄本(亡くなった方との続柄が載っているもの) ・世帯全員の住民票の写し(生計維持関係確認のため) ・亡くなった方の住民票の除票(世帯全員の住民票に含まれている場合は不要) ・請求者の収入が確認できる書類(所得証明書、課税(非課税)証明書、源泉徴収票など) ・年金証書(公的年金から年金を受けているとき) ・受取先金融機関口座の通帳等・印鑑(認印可) |
事情によって他にも書類が必要となる場合があるので、窓口でご確認ください。
一度にまとまったお金を受け取れる死亡一時金とは
死亡一時金も、亡くなった方が老齢基礎年金を受け取らずに亡くなった場合に、納めていた保険料が掛け捨てにならないように支給されるものですが、寡婦年金と異なり、妻以外の方が受給できる場合もあります。
年金のように継続的に支給されるものではなく、まとまった金額が一度に支給されます。
死亡一時金の受給要件
死亡一時金の受給対象者には、亡くなった方と生計を同じくしていたことの他に細かい要件はありませんが、優先順位が定められているのでご注意ください。
亡くなった方についての要件 | 次の2つの要件をいずれも満たしている必要があります。 ①国民年金の第1号被保険者として保険料を納付した期間が3年以上あること ②老齢基礎年金と障害基礎年金のどちらも受給したことがないこと |
受給対象者 | 亡くなった方と生計を同じくしていた遺族で、優先順位は次のとおりです。 ①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹 |
なお、死亡一時金の請求権にも消滅時効があります。
時効期間は亡くなった日の翌日から2年間です。
また、亡くなった方が老齢基礎年金、障害基礎年金のいずれかを受給していた場合は死亡一時金を受給することはできません。
遺族基礎年金を受給することができる方がいる場合も死亡一時金は支給されません。
死亡一時金の受給額
死亡一時金の受給額は、亡くなった方の保険料納付済期間に応じて以下のとおり定められています。
保険料納付月数 | 受給額 |
36月以上180月未満 | 120,000円 |
180月以上240月未満 | 145,000円 |
240月以上300月未満 | 170,000円 |
300月以上360月未満 | 220,000円 |
360月以上420月未満 | 270,000円 |
420月以上 | 320,000円 |
なお、亡くなった方が付加年金を3年以上納付した場合は、8,500円が上記の受給額に加算されます。
死亡一時金の請求方法
死亡一時金の請求は、「国民年金死亡一時金支給決定決議書・決定伺」という書類を提出することにより行います。
請求先や必要書類などは以下のとおりです。
請求先 亡くなった方の最後の住所地を管轄する市町村役場の窓口、または最寄りの年金事務所等
必要書類等 ・年金手帳・戸籍謄本(亡くなった方との続柄が載っているもの)・世帯全員の住民票の写し(生計維持関係確認のため)・亡くなった方の住民票の除票(世帯全員の住民票に含まれている場合は不要)・受取先金融機関口座の通帳等・印鑑(認印可)
事情によって他にも書類が必要となる場合があるので、窓口でご確認ください。
寡婦年金と死亡一時金はどちらを選ぶのがお得?
寡婦年金と死亡一時金は両方を受給することはできず、どちらかを選ばなければなりません。
一般的には、寡婦年金を選んだ方が受取総額は多く、有利になります。
寡婦年金は最大で585,075円の5年分、合計2,925,375円まで受け取れる可能性があります。
それに対して、死亡一時金は最大でも328,500円です。
確率的にいうと、多くの方は寡婦年金を選ぶ方が有利だといえますが、なかにはそうではないケースもあります。
・亡くなった方の国民年金加入期間や保険料の納付状況によって老齢基礎年金が減額される場合
・夫が亡くなったときに妻の年齢が65歳に近く、寡婦年金の受給期間が短い場合
・妻が自身の老齢基礎年金を繰り上げ受給したい場合
このような場合には、死亡一時金の方が高額になる場合もあります。
ご自分のケースで寡婦年金、死亡一時金の受給額がいくらになるかをシミュレーションして比較検討することが大切です。
また、受取総額ではなく、まとまったお金がすぐに必要なために死亡一時金を選ぶ方もいます。
ご自分の状況に応じて、よく考えて選択しましょう。
まとめ
寡婦年金と死亡一時金のどちらを選ぶにせよ、受給するためには請求手続が必要です。
死亡一時金は時効期間が2年と短いですし、寡婦年金も妻が65歳になってしまうと請求できなくなってしまいます。
どちらも大切な方が亡くなった後、故人が納めていた保険料によってもらえる制度ですから、忘れずに請求しましょう。
(提供:相続サポートセンター)