夫婦のうち片方が亡くなった後、残された方の配偶者は、名字をそのまま名乗り続けるか結婚前の旧姓に戻すかを自由に選ぶことができます。
また、亡くなった配偶者の親族との姻族関係をそのまま続けるか終了させるかも自由に選ぶことができます。
長年連れ添った夫婦の場合であれば、自分が亡くなるまで名字も姻族関係もそのままという方が昔も今も多くいらっしゃいます。
しかし、若い方の場合はまだ長い人生が残っているので、旧姓に戻り、姻族関係も終了させて再スタートを切りたいと考えるのも自然なことです。
また、夫婦関係次第では、配偶者が亡くなった後はもう配偶者の名字は名乗りたくなく、姻族関係も断ちきりたいと考える方も中にはいるでしょう。
この記事では、旧姓に戻すための「復氏届」と、配偶者の親族との姻族関係を終了させるための「姻族関係終了届」について解説していきます。
復氏届とは
結婚して配偶者の姓を名乗った人は、配偶者が先に亡くなっても復氏届を提出しなければそのまま配偶者の姓を名乗り続けることになります。
旧姓に戻したい場合は復氏届を提出する必要があります。
復氏届の提出は簡単です。
家庭裁判所の許可もいりませんし、配偶者の親族の同意も不要です。
役所での審査などもありません。
本人の意思で提出すれば、それで手続きは完了です。
提出期限もなく、配偶者の死亡届が提出された後であればいつでも提出することができます。
ただし、配偶者が外国人の場合は亡くなった日の翌日から3ヵ月を経過すると届出に際して家庭裁判所の許可が必要となるので注意してください。
復氏届提出後の注意点
復氏届を提出すると旧姓に戻るとともに、配偶者の戸籍から抜けることになります。
その後は結婚前の戸籍に戻るか、新たに戸籍を作るかを選ぶことができます。
ただ、配偶者の相続人という立場はそのままです。
復氏届によって影響を受けることはありません。
また、配偶者の親族との法律上の関係(姻族関係)も残ります。
そのままにしておくと、配偶者の親や兄弟姉妹の扶養義務を負うこともあります。
姻族関係も終了させたい場合は、別途「姻族関係終了届」を提出する必要があります。
復氏届や姻族関係終了届を提出すると、配偶者の親族から悪い印象を持たれる恐れもあります。
今後も配偶者の親族と良好なお付き合いを続けたい場合は、独断で届出をするよりも対話によって理解を得ながら慎重に進めるほうが良いでしょう。
また、姓が変わると運転免許証や銀行口座、クレジットカード、生命保険、不動産、車、仕事関係の書類や名刺をはじめとして、名義変更の手続きがたくさん必要になるので、あらかじめ注意しておきましょう。
復氏届の提出方法
提出先 | 届出者の本籍地または住所地の市区町村役場の担当窓口 |
必要なもの | 届出書、戸籍謄本(本籍地の役場に届け出る場合は不要)、婚姻前の戸籍謄本(婚姻前の戸籍に戻るとき)、分籍届(新たな戸籍を作るとき)、印鑑など |
提出期限 | 期限なし。死亡届の提出後はいつでも届出可能。 |
復氏届の書き方
復氏届の用紙は役場の窓口に備え置いてありますし、ホームページからダウンロードできるようになっている自治体も多くあります。
提出先の役場のホームページで確認してみましょう。
届出書はこのような書式になっています。
復氏届
引用元:https://www.city.kitami.lg.jp/docs/1623/files/312.pdf
復氏する人の氏名の欄には、復氏前の現在の氏名を記入します。
本籍、筆頭者の欄も現在の本籍と筆頭者を記入します。
復氏語の本籍について、もとの戸籍に戻るか新しい戸籍を作るかどちらかにチェックするようになっていますので、該当する方にチェックを入れます。
最後の届出人署名押印の欄にも復氏前の現在の氏名を記入して押印します。
印鑑は認め印で構いません。
子の氏を変更する場合の手続き
復氏届の提出は簡単ですが、自分が旧姓に戻っても、それだけでは子どもは配偶者の名字のままです。
また、戸籍も子どもは配偶者の戸籍に入ったままです。
子どもの名字も変更し、自分の戸籍に入れたい場合は、届出だけでは足りません。
家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出して審判を受け、許可を得る必要があります。
許可が出たら、役場へ入籍届を提出します。
それによって子どもも自分と同じ戸籍に入り、同じ名字を名乗ることができるようになります。
ただ、子の氏を変更し、戸籍を移そうとすると、ときに配偶者の親族と揉めるケースもあります。
直接の話し合いで解決できない場合は、弁護士に相談する方が良いでしょう。
子の氏の変更許可申立の方法
提出先 | 子の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立人 | 子本人(子が15歳未満の場合は法定代理人) |
申立費用 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手 |
申立は郵送で行うこともできます。
審判では子の利益を第一に尊重して審理されるので、必ずしも許可が出るとは限りません。
ただ、多くの場合は許可されており、申立の時点で子が親権者である「残された配偶者」と同居している場合や同居予定である場合は、特段の事情がない限りほとんどのケースで許可されているようです。
入籍届の提出方法
提出先 | 子の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場の担当窓口 |
提出者 | 子本人(子が15歳未満の場合は法定代理人) |
必要なもの | 届出書、子の氏の変更許可審判所謄本、子の現在の戸籍謄本、入籍先の戸籍謄本、印鑑など |
入籍届の用紙も役場の窓口に役場の窓口に備え置いてありますし、ホームページからダウンロードできるようになっている自治体も多くあります。
届出書はこのような書式になっています。
入籍届
引用元:https://www.city.kitami.lg.jp/docs/1623/files/310.pdf
入籍する人の氏名の欄には子の氏名を記入し、住所・本籍は子の現在の住所と本籍を記入します。
入籍する人の現在の本籍が、届出を行う市区町村にない場合は入籍する人の戸籍謄本が必要です。
また、入籍する戸籍が届出を行う市区町村にない場合は入籍する戸籍の戸籍謄本が必要です。
届出人署名押印の欄には、子が15歳以上の場合は子本人が、15歳未満の場合は親権者が法定代理人として署名し、押印します。
印鑑は認め印で構いません。
姻族関係終了届とは
復氏届を提出しても、それだけだと配偶者の親族との法律関係(姻族関係)はそのまま続きます。
姻族関係も終了させるためには、姻族関係終了届を提出する必要があります。
姻族関係終了届は、残された配偶者が自由に行うことができます。
家庭裁判所の許可や役場での審査、姻族の同意などは不要です。
また、この届出を行うことができるのは残された配偶者だけです。
姻族の側から姻族関係終了届を提出することはできません。
この届出を行うと配偶者の親族との姻族関係が終了しますが、配偶者の遺産を相続する権利は失わず、そのまま残ります。
なお、残された配偶者と姻族との関係が終了しても、子と亡くなった配偶者の親族との法律関係はそのまま続きます。
それを断ち切る手続きはありません。
姻族関係終了届と復氏届はセットで行わなければならないわけではありません。
何らかの理由で亡くなった配偶者の名字を名乗り続けたい場合は、復氏届を提出せずに姻族関係終了届だけを提出することもできます。
姻族関係終了届の提出方法
提出先 | 届出人の本籍地または住所地の市区町村役場の担当窓口 |
提出者 | 残された配偶者 |
必要なもの | 届出書、戸籍謄本(本籍地の役場に届け出る場合は不要)、印鑑など。 |
姻族関係終了届の用紙も役場の窓口に役場の窓口に備え置いてありますし、ホームページからダウンロードできるようになっている自治体も多くあります。
届出書はこのような書式になっています。
姻族関係終了届
引用元:https://www.city.kitami.lg.jp/docs/1623/files/324.pdf
記入するにあたって、特に難しい事項はありません。
「その他」欄はほとんどの場合、空欄で提出します。
不安であれば役所の窓口で尋ねるとよいでしょう。
まとめ
復氏届や姻族関係終了届を提出するかどうかは、年代や亡くなった配偶者と連れ添った年数や生前の夫婦関係などによって傾向が異なります。
ですが、最も大切なことは、残された配偶者が今後の人生をどのように生きるかということです。
亡くなった配偶者の家の一員として余生をまっとうするのも良いですし、そこから離れて新しく人生を再スタートするのも素晴らしいことです。
周りの人の目や配偶者の親族の気持ちなどに必要以上に振り回されることなく、悔いのない選択をしましょう。
(提供:相続サポートセンター)