株式会社フォルテを設立してスキンケアブランド『穂 mi.no.ri』を展開している三宅志穂さん。他にも研究者や大学客員教授など、さまざなま肩書きで活躍しています。ブランドを立ち上げたきっかけや今後の展望について伺いました。
化粧品会社の経営に至ったルーツ
初対面での自己紹介は、難しいものですね。よくある回答が「〇〇会社〇〇部の〇〇担当です」や「化粧品会社を経営しています」といったフレーズ。私もかつて、そのような形式で答えたことがありました。しかし、なんだかしっくりこないのです。
「何をやっている人ですか?」という質問への回答が難しい理由を探ると、まず、単一の役割や職種だけでは、自身のキャリアの多様性や深みを表現できないことが挙げられます。
たとえば、私は30歳の時に独立して化粧品会社を立ち上げたのですが、「化粧品会社を経営しています」といっても、他に数千人と同じような人がいることでしょう。私の場合、化粧品会社を立ち上げるに至ったルーツは少なくとも3つあります。
まず1つ目に、帰国子女であること。両親との海外生活では、当時はまだ健在だった日本のモノづくりの存在感や、商品のレベルの高さや便利さが人々の生活をいかに豊かにするのか実感しました。
2つ目に、幼いころから科学が好だったことが挙げられます。海外で通っていた高校や、東京大学・大学院では研究三昧の日々でした。
3つ目が、実験好きが高じて進んだ日系メーカー・外資メーカーの研究職における「より良いモノづくり」に対する葛藤です。
そんなキャリアパスのなかでたくさんの経験や出会いがあった先に「化粧品会社の経営」があり、他の人とは違う所以なのです。
化学系研究者×会社経営者×大学客員教授
私の場合、「何をやっている人ですか?」という質問への回答が難しい理由がもうひとつありました。何を名乗ったとしても、自分がそれを名乗るにふさわしい存在なのか自問自答してしまうのです。
「化粧品会社の経営」をとれば、より大きな売上と知名度で成功を収めている人がいて、「研究者」を名乗ればもっと深く詳しい専門家がいると思えるのです。
ゆとり世代より少し手前の年代、かつ受験一筋な経験もしたためか、私の中で「常に上を目指す」という価値観が邪魔をします。私の場合は、上に行かないと認められない自己肯定感の低下と、上にいくべきという欲から本来の目的や楽しさを見失ってしまう原因となり、それらを一刻も早く捨てることが課題でした。
そんな葛藤を経て、今の私は、2022年からスタートした大学での教職も加わって「化学系研究者×会社経営者×大学客員教授」という答えにしっくりときています。
なぜならこの複合的な表現を使うことで、私が科学、ビジネス、そして教育に興味を持ち、経験を積んでいることを相手に伝えられ、さらには、自分自身をユニークな一人として存在させることができるからです。
これは単なるセルフブランディングやビジョンを掲げる以上のものだと感じます。自分が選択してきた経験が、多様でありながら一貫性を創り上げていることに気付くのです。
「色々やっているんですね」「全然違う分野ですね」と言われることもありますが、自分自身の中に一貫性があり、過去の選択の点と点が線となり、さらには未来の方向性も示しているのです。
ワクワクする方向に進む
ひとつの分野に絞り込んで突き進み、高みを目指すことは素晴らしいことです。そのようにできる人はとても素敵で魅力を感じます。しかし、方向性が模索中の人であっても、自分自身の才能を活かして多様な経験を積み、いくつか掛け合わせると唯一の存在になれるキャリアもとても素敵に感じるのです。
無理に一貫性を求めるよりも、自分が得意なことや興味を持っていることを追求し、ワクワクする方向に進むこともひとつの道です。そのためには、自分の中にあるワクワクを感じるアンテナを日々磨くこと。そして、良いと思ったら一歩踏み出して徹底的に動く行動力こそが、変化の激しい時代に豊かなキャリアを築く大切なステップなのではないでしょうか。