M&Aの捉え方は人それぞれ。だからこそ、ディスクローズは大切
M&Aで譲渡を決断されたオーナー社長様にとって、その事実を「誰に」「どのタイミングで」開示するかは極めて重要なテーマです。
会社を取り巻く関係者は様々です。
社長の家族、株を保有している親族、役員・従業員はもちろんのこと、取引先、顧問税理士、取引金融機…
これだけの関係者に、M&Aで会社を譲渡する事実と、その「背景」にある社長の想いを「どこかのタイミングで」伝えなければなりません。
もちろん、M&Aは秘密保持で交渉が進められますし、情報漏洩リスクの観点からもM&A譲渡検討段階で本件を知る人は少ない方が望ましいといえます。
「納得できる相手先に出会えるのか?」「こちらが望む条件で合意できるのか?」―M&A検討の初期段階においてはわからないですし、様々な検討をした結果M&Aのタイミングを遅らせたり見送ったりすることもあるでしょう。
そのため、可能な限り社長1人の胸にしまって交渉にあたるのがベストです。
しかしそうはいっても、交渉が具体化するにつれて重要関係者の同意取得が必要になるので、同意をあらかじめとりつけるためにディスクローズ(開示)が必要な場合もあります。
関係者ごとに特徴を見ていきましょう。
家族・親族への開示方法は十社十色
奥様が会社の経理総務を担当していたり、ご子息が会社の役員を務めていたり、親族が社内にいるケースは多いでしょう。
会社業務への関与度や株式の所有割合によっては早い段階での開示と、M&Aへの同意が必要な場合があります。
忙しい社長に代わって、資料収集をご家族で協力し合ったケースもありました。
一方で、M&Aへの気持ちの整理がつかず、最終局面で奥様が反対するケースもありました。
社長にとって我が子の様な会社は、家族にとっても同じくらい大きな存在です。「M&A=会社がなくなる」という喪失感に見舞われて感情的に反対する場合もあります。
家族に対しては「どうしてM&Aをすることにしたのか」、その「背景」にある大義名分、“社長の想い”を共有することが重要です。
幹部社員・株主は最終局面で同意を得られることが重要
社員への開示は最終契約締結後が通常ですが、幹部社員に関しては例外の場合もあります。
幹部社員の賛同があってこそM&A後の両社の融合もスムーズに進みますし、買い手企業も幹部社員の姿勢(協力的かどうか)を重視するのは当然です。
相手先との交渉が最終段階になった段階で幹部社員に開示し、協力姿勢を得ておくことが重要です。
ただし人数は絞り込み、情報漏洩対策をしっかりとりましょう。
株主も、全ての株主から株式売却の同意を得られることが最終契約の成否に大きく関わってきます。
同意が得られない可能性がある株主については対策を事前に講じる必要があります。
M&Aを決断した社長の想いを伝えることが重要
いきなり「会社を譲渡する」と聞いて動揺しない人はいません。会社の譲渡が自分にどんな影響があるのかはすぐには想像できないので不安になりますよね。
そのため、ディスクローズにおいて重要なのは「M&Aという選択が会社にとって、社員にとって最良である」と社長自身が信じて決断した“想い”を伝えることです。
会社が成長していく未来のための決断であれば、関係者は必ず納得してくれます。
先日私が経験した話です。
M&A交渉をしていた製造業のとある会社で、専務にそのことを開示しました。
社長は、M&Aを決断するまでの想いやM&Aによる今後の会社の成長ビジョンについて、丁寧に説明をしました。
すると専務は開口一番、「よかった」と言われました。
「よかった。社長には後継ぎがいないのはわかっていたので、もしかしたら社長の代で会社を畳んでしまうのではとずっと気にかかっていました。
もし廃業となったら、私を含め社員の再就職は厳しい時代です。M&Aが、会社が存続・発展していくための社長の決断ということなら、全面的に協力させて頂きます!」
こうしてこの会社は無事にM&Aが実行され、専務は今までと変わらず働いています。
社長のM&Aにかける想いをきちんと伝えればM&Aへの理解を示してもらえることを実感しました。
幸亀 努(こうかめ・つとむ)
大手証券会社にてM&Aアドバイザリー業務に従事後、2002年日本M&Aセンター入社。大手企業から中小企業まで数百件のM&A成約に関与。SFPホールディングス(東証2部上場)の創業者が「約束のとき」というタイトルで出版した書籍の中で、担当のM&Aコンサルタントとして登場している。