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龍門グループの中核事業を担う株式会社重慶飯店は1959年、横浜中華街で創業した。中華街で初めての本格的な四川料理専門店であり、当時の中華街になかった週替わりのランチセットを考案するなど人気を集めて次第に店舗を増やし、1991年に名古屋、1995年に岡山にも進出。ローズホテル横浜の前身となる「ホリデイ・イン横浜(1981年開業)」を2003年には中華街随一のファミリー向けホテル「ローズホテル横浜」として改称するなど業容を拡大。新型コロナウイルス感染拡大時も営業を継続し雇用を維持してきた龍門グループ。今はコロナ禍以前にも増して業績が好調だ。店舗に加えてホテル経営、食品製造など煩雑化したグループ事業を整理して経営資源の最適化を行うため、2023年3月に持株会社経営に移行した。(TOP写真:コロナ禍での全店舗で営業を続けた重慶飯店本館)
2023年3月に持株会社経営に移行し事業体制を整理
「株式会社LOON MOONホールディングス」を純粋持株会社として新設。その子会社として事業会社の「龍門商事株式会社」と「株式会社重慶飯店」を位置づけた。前者は管理本部と食品事業本部を持ち、管理業務全般と販売用食品の製造、後者は店舗運営事業本部とホテル運営事業本部を持ち、重慶飯店を中心とする店舗経営とホテル運営(ローズホテル横浜とローズステイ東京芝公園(運営受託)。グループの従業員は約600人(パート、アルバイト含む)に達する。
龍門商事管理本部の川島正直総務部部長は「グループの事業が増えて、従業員を出向のまま会社間で動かすようになり人事管理も煩雑になったため、所属をきちんとさせて経営効率も改善しホールディングスの下で整理した」と持株会社化の狙いを説明する。
コロナ禍でも閉店せず重慶飯店全店舗の営業を継続。その姿勢が評価され、顧客の信頼につながり、従業員の離散を防いだ
中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染者が2020年初めには日本でも確認された。横浜中華街に対する風当たりは厳しく風評被害も重なって客足は遠のいた。緊急事態宣言もあり、多くの店舗が一時閉店を余儀なくされ、約50店が撤退したといわれる。
しかし、重慶飯店を中心とした龍門グループ各店は、緊急事態宣言中を除き、1店も閉店せず営業を継続してきた。グループ各社のトップを兼ねる李宏道代表取締役社長が「とにかく皆で盛り上げなければ」と決断。閑古鳥が鳴く中華街でいつも電気が点いている重慶飯店の存在は目立っていた。
李社長は「たとえお客様が全く来なくても、店を開けておくことに意味がある」と考え、従業員に協力を求める一方、雇用を守ると宣言。「従業員も心から協力してくれた」(李社長)ことで踏ん張ることができた。新型コロナウイルス感染症が5類となり落ち着きを取り戻してきた今、歯を食いしばって店を開け続けてきた成果が顕著に表れた。今も従業員不足に悩む中、雇用を守ってきたことが新型コロナ後の攻めの経営を可能にしている。
横浜中華街は現在、インバウンド回復の効果もあり、平日でもにぎわいを取り戻している。中秋節(9月29日)の前日、修学旅行の団体でにぎわうローズホテル横浜のロビーには直径1メートルほどの巨大な月餅が飾られます。ホテル名は横浜市の市花であり外国人と横浜の交流の象徴であるバラにちなんで李社長が命名した。
龍門グループは「お客さまは新型コロナ前より増えた」(川島部長)という。「閉めなかったことが大きいと思う。重慶飯店に行けば必ず開いているという評判が『信用』になった」(同)。新型コロナウイルス感染者数が一時的に落ち着いた2020年6月にはJR横浜駅直結の駅ビルCIAL横浜に総菜や菓子類の販売が主体の「重慶飯店GIFT&DELI」をオープン。同年7月から感染者数が急激に増えたが、外食が減った分、贈答品やテイクアウト需要の増加が追い風となり、開店早々黒字化を達成した。
ギフト好調で収益に貢献、2022年度売上高は前年度比62%の大幅増
コロナ禍の中で最も収益に貢献したのは通販事業だった。外出を控えた分、ギフト商品の需要がコロナ禍前より40~50%伸びた。「外商部隊が頑張ってくれて、百貨店向けが大幅に増えた」(同)ため、点心や総菜、菓子類の製造工場に店舗から20~30人配属して急きょ、増産に対応したという。
2022年度のグループ全体の売上高は68億7200万円(前年度比62%増)と大幅に伸びた。コロナ禍のさなかにも来店客の落ち込みをカバーするため積極的に営業攻勢をかけた成果だが、一方でICTソリューションの活用により、業務効率の見直しにも取り組んだ。攻撃と守備の両面作戦だ。
グループ各社の煩雑な業務管理を効率化するため、すでに導入していた勘定系システムや人事管理システムに加えて、外部委託していた給与計算を自前で行うことにした。経済産業省の中小企業向け「IT導入補助金」を活用して給与計算および給与明細電子化機能を導入し、2022年から本稼動。これにより外注費用を削減できた上、主要な業務管理システムがクラウドで一元管理できるようになった。
給与明細のペーパーレス化で業務効率大幅向上。営業スタッフは全員タブレット、Web会議の活用も進む
これまで給与明細は紙で配布していたため、中華街や首都圏の店舗から直接受け取りに来たり、地方拠点には発送していた。ペーパーレス化したことで、管理部門の労力に加え従業員の時間のロスも削減。「紙をなくしたことで、経費削減効果だけでなくグループ全体の時間の無駄がものすごく減った」と川島部長も効果を実感している。年末調整も社員がオンライン上で記入して申請することになり、年末恒例だった管理部門の残業も激減した。
現在、グループ管理部門にパソコン33台を設置。SI事業者にネットワーク管理・保守を一括で委託して管理業務の負担を軽減している。外商を含む営業スタッフ全員にタブレット端末を配布して、業務連絡のほか提案や見積などに活用。Web会議も可能になり営業の戦力増強にも役立っているようだ。
グループ経営体制を刷新し新たな魅力を創出、ポストコロナで採用環境の厳しさを乗り切る
これらのICTソリューションは「順調に動き出したところ」(川島部長)だが、新しい経営体制も始動し、次代に向けた新たな課題も見えてきた。2021年度の採用活動はエントリーが2,000人に達したが、2022年度は1,000人と半減、ポストコロナで飲食業界の人材不足が顕在化し人材採用は年々難しくなってきた。毎年30人前後を採用してきた龍門グループだが、「2023年度のエントリーはまだ500人。今年度は40人採りたいが秋に期待している」(川島部長)。新たな事業展開に向け増員を図りたい局面だが、採用環境は厳しさを増している。
「企業は人なり」の李社長の基本理念と「食」をベースとした様々な事業展開で可能性を広げている
コロナ禍で飲食やホテルが落ち込む中、百貨店を中心としたギフトが伸び経営を支えた。新型コロナウイルスの落ち着きとともに飲食とホテルが大きく伸びてきた。最も身近な「食」をキーにすることで、様々な展開が可能になり同社の足腰を強くしている。規模の拡大を支えるホールディングスの人事管理体制の一新も大きい。
赤字だった東京・芝の宿泊施設の運営を受託し「ローズステイ東京芝公園」としてリニューアルオープン。わずか1年で黒字へ転換させた。まさに強みの「人」と「食」、そして蓄積したホテル経営のノウハウがあったからできたことだろう。新たに手にした事業をテコにどういう展開があるのか今後も注視したい。
李社長は「企業は人なり」を基本理念としている。グループ全体で「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)を密に行いワンチームで行こう」と従業員に盛んに話している。新たなグループ経営に新たな人材も重要な要素となる。就業環境のさらなる改善やICT化でムダを削いだグループ経営体制への移行が、飲食・サービス業の新たな魅力創出につながりそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社LOON MOONホールディングス |
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本社 | 神奈川県横浜市中区山下町185番地 |
HP | http://www.jukeihanten.com/ |
電話 | 045-661-0755 |
創業 | 1959年10月(重慶飯店開業) |
従業員数 | 600人(グループ) |
事業内容 | 飲食店運営、ホテル事業、食品製造・販売 |