仲琴舞貴(なかことぶき)さんは、IoTのコミュニケーションサービスを開発するスタートアップに参画後、2016年にプロジェクト立ち上げのリサーチのためにネパールへ渡航。そこで現地に雇用を生み出すために事業スタートを決意し、現地法人Bipana Inc.を設立しました。2019年に株式会社SANCHAIを日本で立ち上げ、ピーナッツバターの販売を開始。日本とネパールの架け橋になっている仲さんに、事業立ち上げの経緯や、今後のビジョンについて伺いました。
事業スタートのきっかけは現地の雇用創出
IT系のスタートアップのプロジェクトとして、ネパールのコタンに行ったのが最初の一歩でした。現地の学業支援に対する寄付の仕組みを考えているうちに、そもそも寄付が要らない仕組みづくりをすべきではと思うようになりました。
そこで着目したのが、現地のピーナッツでした。ピーナッツを作っているものの生かされていない現実を知り、これをお金に変えることで経済的な基盤を作れないかと考えたのがスタートでした。
しかし、事業の立ち上げは日本では想像できないことばかりで、そもそもの当たり前を変えるところから着手しました。現地へ向かうのに安全な道がないことに加え、電気や水などのインフラも整っていない状況であったりと、トラブルや困難の連続です。
危険な状況に対面する度に、いつ何が起こるか分からないことのほうがよりリアルな世界だと感じ、面白く感じました。そのなかでネパールでは日本の常識で考えるのではなく、ありのままに受け入れて進めることが大切だと気付きました。
特に、現地でピーナッツ農業に関して調べるために1軒1軒の農家にインタビューを行った際、ある農家のおじさんの一言がこの事業をスタートする引き金になりました。
彼らにとっては貧しさよりも、仕事や働く場所がないことで遠方に移り住まなければならず、家族がバラバラになってしまうことが1番辛いことであり、必要なのはお金ではなく仕事でした。
お金がない現実を嘆いている人は少ないように思います。それよりも仕事や学ぶ場が近隣になく、遠くに通わなければならないので家族が離れ離れになる寂しさを感じていると聞きました。
実際にネパールの方と触れ合うなかで、現地の人の今ある生活を守ることが重要だと感じました。そして、生活を続けるためには現地で仕事を創出することだと自然と結論づけました。
こうして、彼らのコタンでの生活を守るために工場をつくり、働く場所を提供するという壮大な事業が走り始めました。当時の上司に事業を立ち上げたい旨を相談したところ、「価値を生み出せるならやってみよう」と承認してくれました。経費などの予測も十分に立てられないところから、場所を決めて工場を立ち上げ、2017年12月についに工場がオープンしました。
無添加で品種未改良で濃厚なコタンのローカルピーナッツ
ネパールでピーナッツバターの需要があったというよりも、そこにピーナッツがあったからピーナッツバターを製造することを決めました。コタンで「ローカルピーナッツ」と呼ばれている小粒のピーナッツは、品種改良がされていない在来種であることが特徴です。
実際、品種改良をしたものと食べ比べるとまったく違う味とわかるくらい特徴があります。ローカルピーナッツはものすごく濃厚で、成分を分析したところ、タンパク質が市場に出回っているものよりも約1.3倍ほど多く含まれていました。
また、原料は無添加なうえ、製造のほとんどの工程を手作業で行っています。手作業で行ったのは「人を少しでも多く雇用するため」だったのですが、手作業でやることでフレッシュさが保たれて、おいしいピーナッツバターが出来上がるのです。
ピーナッツバターの食べ方には色々ありますが、そのまま食べることが一番オススメです。私自身の実体験ですが、これまでに食べたどのピーナッツバターよりも濃厚な味わいが堪能できます。また、豊富なタンパク質と身体に良いオイルがたくさん含まれているので、健康食品としても見直されています。
自分が幸せになることから、幸せを作る側に回ることへ
「現地の人たちの幸せを守る」という目的でスタートしましたが、大前提として持つ必要があるのが、日本とネパールでは働き方に関する概念がまったく異なることです。価値観を押し付けないようにすることが大事で、日本の当たり前が当たり前ではないというところからがスタートです。
採用にあたっては。ネパールでの最低賃金や1日の勤務時間など、現地の情報を徹底的に調査しました。私たちの目的は、現地で「雇用を生み出すこと」です。たとえば勤務時間を少し短めに設定して、雇用できる人数を増やしています。そうすることで、より多くの人に労働のチャンスを提供しています。
事業を継続させていくためには、経営的にシビアな観点が必要です。より多くの収入を得ていくためにも、「一緒に事業を拡大させていこう」と、従業員の方には初めから説明しています。
工場での勤務はあくまで手段であり、本命は幸せを維持することです。「働くことができて私の人生が変わった」と言っていただけるので、価値を創り上げた実感があります。幸せになる人たちをみて、自分自身が幸せであると感じています。自分が幸せであることに留めるのではなく、支える側の幸せを生み出す仕組みをつくっていきたいと思います。