親子間,贈与,税負担
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岸田康雄
岸田 康雄(きしだ・やすお)
国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定アナリスト)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認会計士、税理士、中小企業診断士。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と財産承継の実務に従事した。平成29年経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂小委員会」委員、日本公認会計士協会中小企業施策調査会「事業承継専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。

親から子供へ財産を移転させる相続税対策の一つとして、生前の贈与は効果的な方法である。贈与を受けると、その人に贈与税が課される。ここでは、親子間で贈与を行う場合の基本となる、暦年贈与や相続時精算課税に加えて、住宅取得等資金贈与や教育資金一括贈与の方法を確認しておきたい。また、贈与税と相続税の両方を合計したうえで、税負担の最小化を図る最適贈与の概念についても簡単に説明する。

目次

  1. 贈与税とは?どんなときにかかる?
  2. 相続税対策としての親子間の贈与 親子の暦年贈与による節税
    1. 親子間の暦年贈与とは?
    2. 暦年贈与による節税効果はどれくらいか?
    3. 親子の暦年贈与が節税にならない、要注意ポイント
    4. 贈与税を払ってでも生前に贈与した方がいい場合
  3. 相続時精算課税制度による収益力の贈与
    1. 相続時精算課税制度とは?
    2. 相続時精算課税制度のメリット
  4. 親子間で贈与税を節税する2つの方法
    1. 1,親子の住宅取得等資金贈与による節税
    2. 2,親子の教育資金一括贈与による節税
  5. 親子間の最適贈与とは?
  6. 贈与税の負担率を考慮し、効果的に節税

贈与税とは?どんなときにかかる?

贈与税は、個人から財産をもらったときに課される税金である。例えば、以下の場合は贈与を受けたとみなされて、贈与税が課される。

・他人が支払っていた生命保険、損害保険の満期保険金や生命保険金を受け取った場合
・債務の免除により利益を受けた場合
・相場よりも著しく低い価額で財産を譲り受けた場合
・対価を支払わず不動産、株券などの名義変更をした場合

ちなみに、会社など法人から財産をもらったときは、贈与税ではなく所得税が課されるので覚えておこう。

相続税対策としての親子間の贈与 親子の暦年贈与による節税

相続税の節税対策を考えたとき、まずは相続が発生するまでに相続税の対象となる資産を減らすことで相続税の金額を抑える方法をとる。資産を減らすには、親子間での暦年贈与を行うのが効果的だ。

親子間の暦年贈与とは?

贈与税は相続税に比べると税率が高いが、上手く利用すれば節税につながる。その1つが暦年贈与である。親子間の暦年贈与とは、1人あたり年間110万円までの非課税枠を利用し、資産を子や孫に移転することである。

親子間では一度にまとめて贈与するケースもあるが、複数の子や孫に小口に分けて贈与すると税負担が小さくなる。これによって、親子間の二次相続(父から母へ、母から子供へと、 2回分の相続をすること)まで視野に入れて考えたときに、トータルでの税負担の最適化が可能となる。

暦年贈与による節税効果はどれくらいか?

暦年贈与の非課税枠は毎年繰り返し利用でき、親子だけではなく、祖父母から孫など法定相続人以外にも使うことができる。親子間の暦年贈与は、生前贈与の中でもかなり効果的な相続税対策の1つとされる。

例えば、8,000万円の資産を持っている親が、3人の子供と1人の孫に、一人あたり年間110万円の贈与を10年間続けたとしよう。

110万円×4人×10年=4,400万円
8,000万円-4,400万円=3,600万円

当初持っていた資産の8,000万円から、贈与した4,400万円を差し引くと、残りは3,600万円。これであれば基礎控除(配偶者と子供3人で5,400万円)の枠内に収まるため、相続税の支払いが発生しなくなる。

親子の暦年贈与が節税にならない、要注意ポイント

暦年贈与をする際に気をつけなければならないポイントが2点ある。1点目は、毎年同じ金額の贈与を数年続けると計画的に分割した贈与であるとみなされることあるという点である。その場合、総額に対し贈与税が課せられることになる。   親から子、孫へ毎年110万円未満の贈与では贈与契約書を作成しないケースがほとんどだと思われるが、一括贈与の分割払いだとみなされないように注意したい。

もう1点は、法定相続人に対する贈与が相続とみなされる場合がある点である。被相続人が死亡する前3年以内の法定相続人に贈与した資産は、金額にかかわらず相続財産に加算される。そうなると相続税の節税効果はなくなる。

しかし、孫は法定相続人ではないため、孫への贈与は相続の3年以内であっても相続財産に加算されることはない。相続が発生しそうな状況であれば、親から子供ではなく、孫へ贈与を行うべきだろう。孫への贈与は二次相続対策としても有効である。

贈与税を払ってでも生前に贈与した方がいい場合

暦年贈与は、贈与税が課税されない非課税枠を利用した生前贈与による相続税対策であるが、贈与税を課税されても、生前贈与をした方が良い場合もある。それは、相続の対象となる財産が相続税の基礎控除の枠内で収まりきれないほど多い場合である。

一般的に贈与税は相続税よりも税率が高いが、親から子や孫(いずれも20歳以上)に対する贈与に関しては、それ以外の贈与と比べて税率が低く、特例も設けられている。相続税負担が軽減される場合があるため、積極的に活用すべきであろう。

相続時精算課税制度による収益力の贈与

相続時精算課税制度は、相続税対策と納税資金対策の両面から有利な制度である。将来的に資産価値が上がる見込みのものや、将来収益を生み出すものを生前に贈与することにより、価格上昇分や将来収益を、生前に親から子供や孫に移転することができる。

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、親の財産を子供の世代に円滑に引き継ぐための制度であり、60歳以上の親から20歳以上の子供または孫への贈与について、税金を相続時に後払いさせる制度である。

ただし、生前の贈与の際、 2,500万円までは回数にかかわらず税金が課されないが、2,500万円を超える部分については20%の税金の前払いが必要である。その贈与者が亡くなった場合に、その贈与資産の贈与時の価額と、相続財産の価額を合算して、相続税として精算する。つまり、納付した贈与税額は、相続税額から控除されることになる。

相続時精算課税制度は、親それぞれにおいて選択できる制度であり、例えば、父からの贈与については選択するけれども、母からの贈与には選択しないことも可能である。選択しない場合は、暦年贈与を適用して贈与税を支払うことができる。ただし、一度、相続時精算課税を選択したら途中で変更することはできない。

相続時精算課税制度のメリット

贈与の対象となる資産、例えば非上場株式であれば、その株価を贈与時の評価額に固定することができる。後から株価が上昇しても、税負担は変わらない。すなわち、相続時に、税金を清算するとしても、相続時ではなく贈与時の安い株価を使って計算することから、贈与した後の株価上昇が税金に影響しない。これが、相続時精算課税制度を適用する際の最も大きなメリットである。

このように相続税評価額の上昇による影響を排除できることが、この制度のメリットであるが、もう一つメリットがある。

非上場株式には配当金の支払いがあるだろうし、不動産には家賃収入がある。このように収益を生む資産を生前に親から子供へ贈与しておくことによって、将来の収益を丸ごと親から子供に移転させることができる。これは、子供や孫に相続税の納税資金を準備させる対策としても有効である。

親子間で贈与税を節税する2つの方法

資産家にとっての相続税対策は、相続財産を減らすこと、すなわち生前の贈与が基本となる。財産を減らす方法は、親から子供への贈与である。なかでも暦年贈与は相続財産を減らすだけでなく、非課税枠での贈与なら節税効果が高い。それ以外にも贈与税を節税する方法についても見ていこう。

1,親子の住宅取得等資金贈与による節税

暦年贈与が基本となるが、これ以外に節税効果の大きな方法として、住宅取得資金贈与の非課税特例がある。これは、親から子や孫に住宅資金となる現金を贈与する場合、一定の金額まで贈与税がかからない制度である。取得する住宅は、新耐震基準を満たしていれば、中古住宅であっても築年数は問われない。また、省エネ住宅および耐震住宅の場合には、非課税枠が通常の住宅の場合よりも拡大されている。

この制度は、令和2年4月1日から令和3年3月31日であれば、一般住宅で1,000万円、省エネ・耐震住宅で1,500万円まで、贈与税が非課税となる。仮に相続時精算課税制度を併用するとすれば、1,610万円の贈与も可能となるだろう。

2,親子の教育資金一括贈与による節税

令和3年3月31日までの間に、相続財産を効果的に減らす贈与の方法として、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税特例がある。これは、高齢者が保有する資産を若年世代に移転させるとともに、教育・人材育成をサポートするため、子や孫に対する教育資金の一括贈与に係る贈与税について、子・孫ごとに1,500万円までを非課税とする制度である。

この制度を適用するためには、祖父母(直系尊属、贈与者)が、子・孫(30歳未満の直系卑属、受贈者)名義の口座等を金融機関に開設し、教育資金を一括して拠出する。この資金について、子・孫ごとに1,500万円までが非課税となるのである。教育費の範囲は、学校への入学金や授業料、学校以外の塾や習い事の月謝等であり、学校以外に支払われるものについては500万円が限度となる。教育資金の使途の適格性については、金融機関が領収書等をチェックし、書類を保管することとされる。

この教育資金は、子・孫が30歳に達する日に銀行口座が終了するため、その時点で使い残しや教育資金以外の支払いに充てられた金銭があれば、贈与税が課されることになる。

親子間の最適贈与とは?

暦年贈与による相続税対策は、110万円の基礎控除の枠内に縛られる必要はない。贈与税率が相続税率を下回っている限り、贈与税を支払ってでも生前に財産を子供に移してしまうほうが、相続税と贈与税を合わせたトータルの税負担が軽くなる。

もちろん、贈与税は超過累進税率が適用されるため、短期間の集中的な贈与を行うと、高い税率が適用されてしまい、税負担が重くなる。それゆえ、受贈者1人1回当たりの金額を下げて税率を低く抑え、複数の受贈者、複数の年度に分散させて贈与するほうがよい。

それでは、暦年贈与で1年間にどれだけ贈与するのが良いだろうか。贈与財産を増やした結果、相続財産が減るにしたがって相続税率が下がる。その一方で、贈与財産を増やすことによって贈与税率が上がることになる。したがって、単純に贈与財産を増やせばよいというものではない。この点を考慮し、緻密に計算すれば、ある一定水準で税負担が最小化する最適解を得ることができる。この贈与財産の最適な金額が「最適贈与額」といわれる。

例えば、父親の財産が2億円あるため、2人の子供(配偶者なし)に対して10年間の暦年贈与で相続対策を行おうとする場合、税負担を最小化する最適贈与額は490万円となる。

【何もしなかった場合】
相続税3,340万円
【490万円の贈与を行った場合】
<贈与税額>
(490万円-基礎控除110万円)×税率15%-控除額10万円=47万円
47万円×2人×10年間=940万円
<相続税額>
2億円-490万円×2人×10年間=1億200万円
(1億200万円-基礎控除4,200万円)÷2人=3,000万円
3,000万円×税率15%-控除額50万円=400万円
400万円×2人=800万円
<合計>
1,740万円
【有利不利判定】
1,740万円 < 3,340万円
したがって、1,600万円の税負担を軽減できるため、490万円の贈与を行ったほうが有利である。

贈与税の負担率を考慮し、効果的に節税

しかしながら、一般の方々にとって最適贈与額の計算を行うことは困難であろう。そこで、大まかな目安を知るために、相続税と贈与税の負担率を比較してみてほしい。すなわち、相続税の負担率(=相続税額÷相続財産額)よりも贈与税の負担率(=贈与税額÷贈与財産額)のほうが小さくなるのであれば、生前に贈与を実行して、財産を減らしておくべきと判断するのである。

文・岸田康雄(公認会計士・税理士)

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