経営者という立場でも、社員の仕事ぶりが心配で、つい現場に口を出してしまうことがあるかもしれない。現場に関心を持つのは決して悪いことではないが、経営者が現場離れできないと、社員や会社にとってマイナスの影響が及ぶこともある。
この記事では、経営者が現場離れできない理由や経営者が現場に出ることによる影響について解説していく。経営者として現場とどうかかわるべきなのか、経営の仕事と向き合う上で大切な視点はどのようなことか、考えるヒントにしてほしい。
目次
現場に出たいと思うのは悪いことではない
現場に出るのが好きな経営者は、おそらく仕事熱心で、社員や事業、会社のことを大切に考えているだろう。現場に無関心な経営者より、現場に関心を寄せる経営者のほうが、社員と一体となって会社を盛り上げていけるのは言うまでもない。
しかし、経営者が現場に出すぎると、社員がいつまでも成長しなかったり、会社の経営面がおろそかになったりして、デメリットが生じることもある。経営者という立場にあるなら俯瞰的な視点を持ち、時には身を引くことも大切だ。
経営者が現場に出たくなる理由
続いては、現場好きの経営者がつい現場に出てしまう3つの理由を見ていこう。
純粋に事業や仕事への熱意が強い
純粋に仕事が好きで事業に熱意を持っていると、誰かに任せるのではなく自分で動きたいと感じることがある。経営者自身が仕事を楽しみたい気持ちが強すぎて、つい現場に出てしまうパターンだ。
完璧主義で社員の仕事ぶりが心配
完璧主義な経営者は、社員が仕事を問題なく遂行しているか気になり、つい口を出したり様子を見に行ったりすることがある。時には「自分がやればもっとうまくいったのに」という気持ちになることもあるかもしれない。心配するあまり、つい現場のことが頭から離れないパターンだ。
経営より現場のほうが楽しい
資金繰りや資金調達、雇用や人材育成、投資判断、税金対策など、経営者としての仕事を楽しむことができず、現場に顔を出してしまう経営者もいる。
現場に出れば、仕事を通じてやりがいを感じたり、必要とされていることを実感したりできる。しかし、資金繰りの改善や人材育成など経営者としての仕事は、一朝一夕で結果が出るわけではないため、現場好きの経営者にとってはやりがいを感じにくいことがある。
厳しい見方をすれば、経営者としての仕事から逃げているともいえる。慣れない経営業務に一人で取り組むのが嫌で、現場に関心を寄せているパターンだ。
経営者が現場に出るデメリット
続いては、経営者が現場に出ることで、社員や会社にどのような影響が及ぶかを解説していく。現場に関心を寄せるのは経営者として間違っていないが、経営者が現場に出すぎると社員や会社の成長を阻む恐れがある。とくに次の3点については深く考えるようにしたい。
社員の主体性がなくなる、優秀な社員が離職する
経営者が現場に顔を出しすぎると、社員は自分で考える前に経営者に判断を仰ぐようになる。結果として、社員の主体性がなくなり、自分で業務に必要な判断を下せなくなることがある。
また、優秀な社員の中には、裁量権のある仕事を好み、自分の担当する業務においては自ら意思決定したいと感じる人も多い。経営者が現場によく出ていると、このような社員は息苦しさを感じ、離職してしまうかもしれない。
現場に出過ぎて経営がおろそかになる
経営者が現場仕事にばかり取り組んでいると、時間がなくなり、経営にまつわる仕事がおろそかになることがある。経営が順調なときは一見うまく回っていても、不測の事態が起きたときに会社が大きく傾いてしまうリスクがある。
たとえば、資金繰りの悪化への対応遅れて事業規模を縮小せざるを得なくなったり、人材育成を怠った結果一人の社員の離職によって業務に大きな支障が出たりする、ということが考えられる。
経営者に万一のことがあると会社が存続できなくなる
経営者も人間であるから、病気で突然倒れたり、ケガをして仕事を休まざるを得なくなったりすることは当然起こりうる。
しかし、経営者が現場で率先して仕事を行い、社員が自分で判断できない状況をそのままにしていると、経営者が病気やケガで経営者が不在になったとたん、現場がストップしてしまうことになりかねない。さらには、経営者に万一のことがあった場合、会社を存続できなくなるリスクもある。
経営者が現場から離れるとき感じる不安
経営者が現場に関心を持つのは良いことだが、現場に依存しすぎると、社員や会社に悪影響が及ぶリスクがある。しかしそうはいっても、現場を離れることに強い抵抗感を覚える経営者も多い。抵抗感の影には、次のような不安が隠されていることがある。
利益が下がるのではないか
まず、経営者が現場に出て利益に大きく貢献している状況では、自分が現場を離れることで利益が減ることが心配になるかもしれない。確かに、仕事の能力が高い経営者が現場を離れることで、利益が一時的に減る可能性は十分にある。
しかし、社員の能力を高め、自分と同じように高い成果を上げられるよう教育することこそ、本来の経営者の仕事といえる。自分1人では10の結果しか出せなくても、自分と同じように結果を出せる人間を10人育て上げれば、100の結果を出せる可能性がある。
経営者1人の力に頼っていては、事業規模を拡大するにも限界がある。人材を育て、仕事を任せることで、事業拡大の可能性は無限に広がっていく。
尊敬されなくなるのではないか
現場を離れることで社員から必要とされなくなり、尊敬されなくなるのではないかという不安を感じる経営者もいる。
しかし、経営者の本分は経営であり、現場仕事ではない。現場で尊敬されるポジションは、むしろ優秀な社員に譲るべきともいえる。
現場を離れても、社員や事業のことを誰よりも考え、他の社員にはできない経営の仕事に真摯に取り組んでいれば、おのずと社員からは尊敬される存在になれるはずだ。
また、人に対する洞察力や、世の中の先を見通す力など、経営者だからこそ必要な能力を身につければ、仕事の成果によるものではなく、人間としての尊敬を集められるようになるだろう。
現場や社員のことが分からなくなるのではないか
現場の仕事をしていないと、現場や社員のことが分からなくなるのではないかという不安を抱く経営者もいる。現場感覚を失うことで、現場を改善したり事業の方向性を決めたりする際に、何が正しくて何が間違っているかを判断しにくくなると考え、現場を離れられないことがある。
確かに現場を知ることは大切だが、現場を知る方法は現場仕事を経営者が担う以外にもたくさんある。たとえば、信頼できる社員を管理職として育成し現場の状況を報告させたり、契約数や売上といった数値をもとに現場を分析したりする方法だ。
経営者が自ら現場で仕事をしていると、仕事に忙殺され、経営の仕事にじっくり取り組めない。現場に出る以外の現場を知る方法を探り、現場を把握する仕組みを作っていくことも、経営者としての重要な仕事だ。
経営者として心がけたい3つのこと
なかなか現場を離れられないと感じている経営者は、まずは次の3つのことを心がけてみるといいだろう。