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産経ニュース エディトリアルチーム
高品質で味の良い和牛肉の卸売・直営店として地元で知られる株式会社横浜野本は、ICTの本格活用で販路拡大と業務効率化に本腰を入れる。(TOP写真:横浜野本の直販和牛肉は割安感と味の良さで人気だ)
黒毛和牛は味の良い雌牛だけ。取引先は300社に拡大
黒毛和牛を中心とした食肉卸売・小売業を営む横浜野本は、野本和美代表取締役が1967年に興した個人経営の食肉仲卸がルーツだ。1974年には野本畜産を創業し、徐々に取引先を拡大。1976年には有限会社野本畜産として法人化した。本社は横浜市港北区(現本社は横浜市都筑区)に置き、有名スーパーや大手小売チェーンにも卸すようになって取扱量も増えてきた。2013年には現社名に変更。現在、取引先は300社ほどある。
野本代表取締役の長男、野本輝一専務取締役は「母が『美味しい牛肉を日常的に食べてもらいたい』という気持ちで始めた事業で、今もそれは変わっていない」と創業以来の経営方針を説明する。その言葉通り、同社が扱っている和牛は柔らかく味が良いとされる雌牛だけ。営業部の三浦敏博さんは「雌牛は目利きが難しく歩留まりが良くないが、品質がぶれずに味が良い」と雄牛との違いを強調する。
取扱量は設立当初の3倍の月100頭以上。ブランド牛20種扱う
同社の卸売業は本社と、関連会社で東京中央食肉卸売市場仲卸の株式会社野本(東京都港区)の2社体制。卸売で扱うのは牛肉だけで、その主力がブランド牛などの和牛だ。設立当初の3倍となる月約100頭を扱っている。
ブランド牛は宮崎牛、佐賀牛、仙台牛など10~20種ほど。「飼育場所や飼育方法、生産期間などで味も変わるのでブランドにはこだわらない」(三浦さん)方針だが、その分目利きの腕がものをいう。近年は雌牛を多く取り扱う業者が増えて取引価格が上がってきたが、雌牛1本で事業を伸ばしてきた経験が強みとなっている。
BSE問題や牛肉偽装で業界の信頼性が損なわれる。食肉業界専用の販売・在庫管理システムにより食肉のトレーサビリティを確保
順調に業績を伸ばしてきた横浜野本だが、2000年代に入って牛海綿状脳症(BSE)問題が発生し、牛肉が売れず経営に打撃となった。国内でも2001年9月に千葉県で確認されて以来、各地で発生。食肉卸売業界で牛肉偽装事件が相次ぎ、業界の信頼性が揺らいだ。同時に食肉流通のトレーサビリティ(追跡可能性)管理が重要視されるようになった。
横浜野本は同2001年3月に始めた食肉小売で豚肉や鶏肉の仕入を強化する一方、和牛枝肉の個体識別を徹底するため、食肉業界専用の販売・在庫管理システムをいち早く導入した。仕入情報を一元管理してトレーサビリティを実現。人為的なミスをカバーできるようにすることで、牛肉の安全性を確立した。
翌2002年には本社工場でHACCP(危害要因分析重要管理点)を取得。食品加工工程の上流から下流まで衛生管理を徹底し、事故が起きた際にその原因をすぐ解明する手法を導入した。これらの措置に積極的に取り組んだことで、顧客の信頼をつなぎ留めることができた。
小売を本格化し店舗には行列も。しかし取引先との競争回避もあり拡大は難しい
卸売業の強みを生かした直販店舗は牛肉ファンの高い評価を得ている。品質の良さと割安感で地元のほか首都圏各地からやってくる買物客も多く、週末や年末年始などは行列ができるほどだ。現在は本社と横浜市青葉区のショッピングモール、あざみ野ガーデンズ店の2ヶ所で黒毛和牛を中心に豚肉や鶏肉も販売しており、メンチカツやトンカツなどの総菜も人気商品となっている。
卸売を本業としながら小売店を構えて直販するのは、取引先との競合を避けたり価格競争の波にさらされるなど簡単ではない。それに加えて「商品も売り方も独特なので、物件があればすぐ開店できるというわけではない」(三浦さん)ため、店舗拡大には慎重な姿勢だ。店舗展開に代わって、力を入れているのが2022年秋に始めた「オンラインストア」だ。「土台作りを進めてきたところで、まだ取扱商品は少ない」(同)。オンラインストアの画面には黒毛和牛のさまざまな部位の商品約10種が並び、注文は月20~30件程度ある。
オンラインストアは機能拡張して総売上の30~40%を目指す
店舗で購入した顧客が贈答品用としてオンラインストアの商品を利用し、それを食べた人から改めてオンラインストアで注文がくるようなケースも多いという。関西方面など利用者の地域も広がっており、リピーターも増えている。今後は取扱商品を増やす一方、「顧客のニーズを吸い上げながら、大手ではできないようなきめ細かな個別サービスも提供できるようにしていく」(三浦さん)考えだ。野本専務は「ゆくゆくは売上の3~4割は稼ぎたい」とオンラインストアの成長に大きな期待を寄せている。
オンラインストアのベースになっているのは2021年にリニューアルしたホームページだ。統合業務システムの機能の一部を活用してオンラインストアの支払機能などを充実したほか、自社でメールマガジン配信も始めた。
勤怠管理システム導入で残業半減。ワークライフバランス改善にも貢献
販売管理、顧客管理、勤怠管理など多様なアプリケーションとの連携が可能な統合業務システムだが、導入した当初の目的は、外注していたメルマガの配信を自社で行うことだった。「生ものを扱っているため、タイムリーな情報をダイレクトに発信したかった」(三浦さん)からだ。まずは自前の配信システムを構築し、顧客へのタイムリーな情報提供を実現した。
勤怠管理は従来、タイムカードの時間をパソコンに入力していたが、社員が50人を超える規模になった頃に煩雑さを軽減するため、勤怠管理システムをバージョンアップ。100人近い社員の勤怠状況をタイムリーに把握できるようになった結果、残業の多い部署とそうでない部署の業務負荷のバラつきが一目瞭然で分かるようになった。
残業が多いから減らせと指示するだけではなかなか改善できないものだが、同社は勤怠管理システムによって残業時間を可視化し、業務を細分化して振り分けることで業務量の平準化を進め、残業時間の激減という予想外の成果を得た。「小さな会社で部署の壁が低いから可能だった。残業時間は全体で50%は減った」(三浦さん)。ワークライフバランスの改善にもつながる大きな成果が得られた。
営業部では、オンラインショップの機能拡充による売上貢献度を伸ばすのに加え、統合業務システムの機能をさらに使いこなして、業務効率化の可能性を探る方針。さらに販売管理や顧客管理など業務全体の有機的な統合を進め、「美味しい和牛肉を届ける」ために一段の飛躍を目指している。
企業概要
会社名 | 株式会社横浜野本 |
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本社 | 神奈川県横浜市都筑区折本町340-1 |
HP | https://www.yokohama-nomoto.com |
電話 | 045-478-5051 |
設立 | 1976年11月 |
従業員数 | 80人 |
事業内容 | 食肉加工・卸売、小売等 |