高齢者に多い、骨粗しょう症による脊椎の圧迫骨折。尻餅をついたときや椅子に座ったときなどに骨折が起こり、腰に激痛が走る。「じっとしていれば、痛くないから」といわれたりするが、本人は寝返りも打てず、ベッドで地獄の日々が続くことも少なくない。約10年前から、手術で、つぶれた骨の中に骨セメントを詰めて補強・復元する新治療法「BKP(バルーン・カイフォプラスティ:経皮的椎体形成術)」が日本でも保険適用され、普及してきたが、最近ではさらに、つぶれた骨の中にステント(金属製の筒)を挿入して広げ、そこに骨セメントを入れるという、より進歩した治療法「VBS(椎体骨ステント留置術)」も導入されている。圧迫骨折による痛みを、歳だからと諦めない時代がもう来ているという。そこで今回、国内で、これらの手術を年間数百例実施している総合東京病院 脊椎脊髄センター(脳外科)の伊藤康信センター長と北川亮副センター長に、脊椎圧迫骨折治療の最前線について聞いた。
「BKPは、1990年代後半に米国で開発された。患者はうつぶせになり、全身麻酔、エックス線の透視下で、背中側からつぶれた骨に左右から2ヵ所、小さな穴を開けて、細い管状の手術器具を差し込む。次にそれぞれ、骨の中でバルーン(風船)を膨らませて、つぶれた骨の形を元に戻した後、バルーンを抜いて、空いた空間に骨セメントを注入し、固まらせて脊椎を骨折前の形に近づける。骨セメントはすぐに固まり始め、20分ほどで固まる」と、伊藤センター長がBKPの治療方法を解説。「一方、VBSは、BKPと同じ手順で、バルーンで骨を膨らませた後に、バルーンを抜いてステントを挿入して広げ、金属製の“支柱”を作り、そこに骨セメントを注入する。いわば、コンクリートの構造をしっかりさせる鉄筋のような役割をする」と、進歩したVBSの治療方法にも言及してくれた。
これまで、脊椎圧迫骨折はギプスで固定し、ベッド上で安静を保ちながら、痛み止めや骨の成分を増やす薬を服用する「保存的治療法」が広く行われてきた。その中で、総合東京病院 脊椎脊髄センターのBKP手術数は年々増え続け、2018年以降は年間100件を超えるようになった。2021年にはステントを使うVBS手術も導入し、この年はBKPとVBSを合わせて約210件になったとのこと。現在はBKPとVBSは半々ぐらいの割合になっているという。国内では、これらの手術実施数が群を抜いて多い施設となっている。
VBSを多く手がけている北川副センター長は、「すべてのケースで、ステントを入れた方がいいというわけではなく、骨の壊れ方に応じて、BKPとVBSを使い分けて実施している。それによって、より安全に骨が復元できるようになった。ステントは直径1.5cmぐらいまで広がる。VBS手術でも40分程度で終わるので、1日に午前2人、午後2人の手術をしたこともある」と、手術は40分ほどで終わり、つぶれた骨も元通りになると教えてくれた。
「圧迫骨折が起こると、それまで経験したことのないような激痛が起きる。当院を受診する人には2種類あって、1つは自分で頑張って外来にくる人と、救急車で運ばれてくる人。救急車の方が全体の3分の1くらいとなっている。整形外科で保存的治療を受けて、自宅で安静にしていた人が、激痛に我慢できずに救急車で来院するケースが多い」と、救急車での入院にも対応していると伊藤センター長。
圧迫骨折の場合、高齢の人が多いので、BKP、VBSでは、手術だけできても、体力回復や歩行訓練のためのリハビリが必要で、ベッド数が少ない普通の医療施設では対処できない所がほとんど。通常、圧迫骨折で救急車の利用はあり得ないとされている。
総合東京病院の場合、脊椎脊髄センターは、脳卒中などを扱う脳外科の一部で、入院ベッドを優先的に確保でき、圧迫骨折手術のための救急車来院・入院の受け入れが可能になっている。またリハビリ病棟も揃っているので、手術後のリハビリにも対応できているという。
北川副センター長は、「最近は、手術を受ける患者も80代後半が多く、最高齢は99歳。100歳を超えるのも時間の問題だと思っている。独居の高齢者の人も多く、BKPやVBS手術を行えば、寝たきりにならず、再び1人で生活できる点も、この治療法の長所となっている」と、BKPやVBSの治療法が普及することで、多くの高齢者の寝たきり生活を防ぐことができると話していた。
総合東京病院 脊椎脊髄センター=https://www.tokyo-hospital.com/center/spine-spinal-cord-cnt/